<63>
「よ~し、風太。作るぞ~」
「つくる?」
「ああ、ジャッコランタンを作るんだ」
「じゃこ?おさかなさん?」
「違う違う、そのじゃこじゃない。ジャッコランタン、Jack-o'-lanternって言ってカボチャの提灯のことだよ」
「かぼちゃのちょうちん・・・」
魚じゃないのか、とちょっと肩を落としている風太が可愛くて、恭介の顔に笑みが浮かぶ。
もうすぐハロウィーン。
今年は頑張ってジャッコランタンを作るつもりだ。
作り方は、すでにネットで調査済み。
ついでにパンプキンパイも作ろうと、材料ともども張り切って揃えている。
「かぼちゃ・・・おおきいね」
コテンと小首を傾げる風太は、目の前に置かれた大小のかぼちゃを不思議そうに見つめている。
ひとつはいわゆる普通の、八百屋やスーパーなどでよく見かけるカボチャで、パンプキンパイ用に購入したもの。
もう一つはかなり大きくて、普通のかぼちゃのゆうに三倍はあるだろうか。
本当はもっと大きいものを探していたのだが、これしか見つからなかったのだ。
巨大なジャッコランタンを作って風太を喜ばせたい、その一心で買い求めた洋風のカボチャは食用ではないらしく、最初からジャッコランタンにするために用意されたものらしい。
西洋、特に北米でポピュラーなこのお祭りは、日本で言うところのお盆のようなもので、死者の霊を弔うという主旨のものだが、日本では単なるコスプレイベントと化してしまっている感がある。
「まあ、一応風太のコスプレ衣装も用意してんだけどな」
風太には可愛い小悪魔の衣装を用意している。
なかなか可愛いデザインのものがなくて、やっと見つけたと思っても女性用だったりしてガッカリしたものだ。
だがようやくマイナーなネットショップで、子供向けの可愛い衣装を見つけた時は、思わずガッツポーズをしてしまった。
この衣装を着た風太を早く見たい。
だがその前にまず、ジャッコランタンだ。
大きなカボチャの中身をくり抜き、あの不気味な顔を彫ればできあがり。
だが、そううまくいくだろうか。
いくらネットで作り方を確認したとはいえ、実際に作ってみるのは初めてなのだ・・・
「ま、とりあえずやってみるしかねえよな」
「うん?」
「なんでもない。ほれ、危ないからちょっと離れてろよ」
「きょうすけ、かぼちゃたべる?」
「いや、こっちのやつは不味くて食えねえ。中身をくり抜くんだ」
「まずいの?」
「ああ。もう一個のちっさいほうは美味しいからな、こっちを後で食べような」
「うんっ!ふうた、かぼちゃたべるぅ」
野菜はほとんど食べない風太だが、大小のカボチャに興味をそそられたようだ。
色合いもオレンジで可愛らしいというのもあるのかもしれない。
恭介が四苦八苦しながらカボチャをくり抜いていく様を、大きな目をさらに大きく見開いて眺めている。
「ふを~~~」
「か・・・ってーな、これ。“み”をくり抜くだけで疲れちまいそうだ」
「すごいね、かぼちゃさんおおきいね」
「ああ、大きい方がインパクトあるだろ?」
「いんぱくと?」
「ジャッコランタンができたら、縁側に飾ろうな」
「うんっ」
おそらく、ジャッコランタンがどういうものかはわかってはいないのだろうが、何となく楽しそうな雰囲気に風太もウキウキしている。
和風の平屋の縁側にジャッコランタンなんて、ミスマッチもいいところだがそんなのは気にしない。
とにかく風太が楽しめれば、なんだっていいのだ。
数時間かけて中身をくり抜いた恭介は、すでに秋の冷たい風に晒されながらも額に汗をかいていた。
ここで休んだら二度と動きたくなくなるような気がして、一気に作業を進める。
次はあの、不気味な顔を彫るのだ。
ここからは慎重にやらなくてはいけない。
失敗すると間抜けな顔になってしまう。
ネットから見つけた画像を見ながら、丁寧に顔を作っていく。
「ふを~~~!!」
「自分で言うのもなんだが、なかなか器用だろ?」
「おかお!きょうすけ、おかおなの!」
「ああ、ジャックの顔だよ」
「じゃっく?おとこのこ?」
「そうだな、ジャックだから男だな」
「ふをっ」
「もうすぐできあがるぞ」
中をくり抜くのにはやたらと時間がかかったが、顔を彫るのは案外すぐにできた。
元よりウェブデザインを得意とする恭介だ。
色んな意味で、器用なのだろう。
ただのオレンジ色の大きな球体だったそれは、はっきりと人の顔になっている。
不気味な笑みを浮かべるカボチャのジャックをちゃぶ台に乗せると、風太が嬉しそうに小躍りする。
「すごいね~きょうすけ、すごいね!おかおができたね」
「ああ、これを後で縁側に飾ろうな」
「あとで?」
「ああ、これからパンプキンパイを作るぞ」
「ぱんぷきん・・・」
「パイだ。ケーキみたいなやつだよ」
「ケーキ!!」
喜びにぴょんぴょん跳ねる風太を連れて台所に移動する。
パイを作るのも初めてだが、スポンジケーキやチーズケーキは何度か作ったことがあるので、なんとかなるだろう。
パイ生地は冷凍のパイシートを使うし、そう難しくはないはずだ。
レシピを見ながらさくさくと作業を進める恭介の手元を、風太が相変わらずキラキラした瞳で見つめている。
手伝いたがることが多い風太だが、今回は見るだけに徹する気らしい。
「あとは焼くだけだ」
「やく?」
「ああ、ケーキやクッキーと同じで、オーブンで焼かないとパイにはならないんだよ」
「ふーん」
「さあ、焼いている間、着替えような」
「きがえるの?」
「そう。ハロウィーンだからな」
「はろうぃん・・・」
いまいち意味がわかっていない風太を寝室に連れて行く。
この日のためにネットで購入しておいたコスプレ衣装を取り出すと、それを見た風太が興奮気味に声をあげた。
「きょうすけ、これなに?」
「これは悪魔だよ」
「あくま?」
「そう、小悪魔だな」
「こあくま・・・」
「ほれ、これに着替えてごらん」
黒いシャツに黒いタイツ、そして黒いマントにはオレンジのジャッコランタンのイラストが、ワンポイントついている。
タイツの上には黒いキュロット、そして頭には二つの角が付いた帽子をかぶる。
可愛い小悪魔のできあがりだ。
最初は、猫耳を生かしたコスプレにしようかと思ったが、せっかくだしいつもと趣の違うものにしてみたのだが大正解だった。
白いイメージの強い風太が全身黒を纏うと、なんともいえない魅力がある。
ふだんあまり黒を着せることはないのだが、案外似合うではないか。
冬用に黒いコートを買ってもいいかもしれない。
「すごい可愛いぞ、風太」
「かわいい?」
「ああ、本当に可愛い。最高だ」
「ふをっ」
そう言って風太を抱き上げる。
一瞬驚いた顔をした風太だったが、すぐに「きゃっきゃ」と嬉しそうな声をあげた。
トリックオアトリート。
お菓子をくれるか、そうでないなら悪さをするぞ、という意味のお決まりのハロウィーンのセリフだが、可愛い風太にこんなこと言われたら思わず「トリック」と答えてしまいそうだ。
風太にならいくらでもいたずらされたい・・・なんて考えたところで思わず首を振る。
「何考えてんだ、俺・・・」
「きょうすけ?」
「ん?」
「どうしたの?」
「あ、いや。なんでもないよ。風太は可愛いなぁと思っていただけさ」
「きょうすけも」
「え?」
「きょうすけもおきがえしないの?」
「俺が?」
いや、俺はいいんだよ、俺がコスプレしたところで誰も喜びやしないんだから、と言いそうになって口をつぐむ。
風太のつぶらな瞳を見ていると、なんだか自分が邪心に塗れているような気がするからだ。
「そ、そろそろパイが焼き上がる頃だな、様子を見てくるか」
「ふをっ?!」
「ほれ、甘い匂いがしてるぞ~」
「ぱいっ!ふうた、ぱいたべる~」
本来の趣旨とは全く違ったハロウィーンになってしまったが、かまいやしないだろう。
風太が楽しければそれでいい。
そしてそんな楽しそうな風太を見ているだけで、自分も幸せな気分になる恭介なのだった。




