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「ほ~れ風太、こっちだっ」

「んなぁ~~~ん!」

「すごいぞ、風太!すげぇジャンプ力だ」

「んにゃっ」

「もういっちょ!」


恭介が手にしているのはワイヤーのついた猫じゃらしだ。

その先にはネズミのおもちゃが付いている。

それを夢中になって追いかける風太は、いつもの猫耳少年の姿ではない。

本来の猫の姿に戻り、居間を所狭しと飛び回っている。


「ほらほら風太、こっちだ!」


たまたま猫グッズ店で見つけたこのおもちゃは、店長一押しということで思わず買ってしまったのだが、買って正解だった。

どんな飽きっぽい猫ちゃんもまっしぐら、というキャッチコピーに「本当かな」と一瞬思わないではなかったが、そんなに高いものではないしと気づけば手にしてレジに持って行っていた。

海外製らしく、袋には英語で何やら説明が書いてあった。

よく読んでみると、なんと一見ただのタワシのようにに見えるネズミの人形は、実は牡鹿の毛でできている。

尻尾も革製という凝りようだ。

これは、猫が反応するはずである。


風太も先ほどから夢中になってこのネズミを追っている。

軽く振るだけでしなるワイヤーは、先端に付いたネズミが本当に生きているかのような動きをするため、ついつい追いかけてしまうのだろう。

野生の本能というか、ハンター心をそそるに違いない。

風太の瞳はらんらんと輝き、ちょっと息が荒くなっている。

口を半開きにしてハァハァ言っているのは、このおもちゃがどれだけ優秀かを物語っているわけだが、そろそろちょっと休憩したほうがいいかもしれない。


「風太、ちょっと休もうか」


猫にしてはすでにかなり大きな風太の体を抱き上げ、縁側に座ると膝の上に乗せる。

おとなしく座ったままの風太は、うっとりとした表情で恭介に身を預けてきた。

なんという愛らしさだろう。

人間の風太が可愛いのはもちろんだが、こうして猫の姿を取っているのもまたたまらなくいとおしい。


白というよりはクリーム色に近い長い被毛は、光の当たり具合によって金色にも見える。

長い尻尾は30センチ以上あるだろうか。

ゆっくりと撫でると、まるでビロードのような手触りだ。

耳の付け根から首筋にかけて、優しく撫でてやる。

そうされるのが、風太は大好きなのだ。


「んなぁ~~~ん」

「そうかそうか、気持ちいいか」

「にゃあ~」

「風太はここ撫でられるのが好きだよな」

「にゃっ」


目を細めて仰向けになると、ごろ~んと両前脚を放り出す。

まるで万歳でもするような格好に、思わず「ぷっ」と笑い声が漏れる。

昔、たれぱんだというのが一世を風靡したが、これはたれぱんだならぬ“たれねこ”だな。

ここまで安心しきって身を任せてくれるのは、風太が自分に対して絶大なる信頼を寄せているからに違いない。

そのことが、恭介をこの上なく幸せな気分にさせてくれる。


風太は不思議な力を持っている。

子猫だった風太を拾ったのはもう3、4年前のこと。

その子猫がある日突然、人の姿に変身した。

それ以来、こうして時々猫の姿に戻ったり、猫耳少年の姿になったり、完全な人間(少年)の姿になったりできるようになった。

一度だけ、青年の姿になったこともある。

昨日は十五夜だったため、月の力を借りることでこうして猫の姿に戻ったままなのだが、いつもは数時間で猫耳少年の姿に戻ってしまうのだ。

なんでも、満月や新月の時は特別な力を授かるらしく、自由自在に姿を変えられるのだそうだ。


そのあたりの事情は、恭介にもよくはわからない。

風太もうまく説明できないのか、「おつきさまがまんまるになると、ふうたすごいんだよ」としか言わない。

それ以上追及しても、可愛く小首をかしげるだけだ。

なのでもう、あまり深く考えないことにしている。


「風太、気持ちいいか?」

「にゃあ~ん」


首の付け根をちょっと荒っぽく撫でてやると、風太がものすごく喜ぶのだ。

猫の年齢で3、4歳と言うともう、立派な大人である。

メインクーンという種らしい風太は、体調は1メートルはあるだろうか。

体重も、ちゃんと測ったことがないからわからないが、7キロくらいはありそうだ。

いや、もっとあるかもしれない。

一般的な日本の猫の、2倍くらいの大きさだ。

家猫でこんなに大きな種がいることに驚いた恭介だが、ネットで調べてみると最近人気のブリードらしい。

大型だが性格が柔和で買いやすいのだそうだ。


うっとりと撫でられていた風太が、目を開ける。

猫目石という名の宝石があるが、風太の場合はそれとは少し違う。

薄い金色に、緑が混ざったような色合いなのだ。

どちらかというと、緑のほうが強いだろうか。

ガラス球のような、宝石のようなまん丸の瞳。

鼻先はピンクで、耳の中や肉球と同じ色だ。


「風太は可愛いな」

「んにゃっ」

「腹、減らねえか?」

「にゃにゃ~ん」

「そうか、減ったか」


台所に向かうと風太が後をついてくる。

尻尾をぴんと立てて優雅に歩くさまは、まるで往年のハリウッド女優マリリン・モンローを思わせる。


「風太はオスなんだけどな」


猫は不思議な生き物だ。

オスでもメスでも、どこか女性的なのだ。

犬がどちらかというとオスメス関係なく男性的なのと、対照的だと言えよう。


「ほら風太、おまえの好きなマグロだよ」


今夜のおかずにと買っておいたマグロの刺身を少しだけ、風太のおやつにしてやることにした。

ハムハムと美味しそうに頬張る姿も、愛おしい。

マグロに夢中になっている風太の耳や頭を、やさしく撫でる。

嫌がるそぶりも見せずマグロに集中する風太。

猫ってこんなにも人懐こい生き物なのだろうか。


「風太、それ食ったら、お昼寝しようか」

「・・・・・・」

「なんだ、刺身に夢中で返事するのも面倒ってか」

「んなっ」

「落ち着いて食べろよ、誰も取りやしないんだから」

「んんー」

「夜は刺身と、そうだな、から揚げでもするか」


冷蔵庫に冷やした白ワインがある。

あとはサラダでもささっと作って、ご飯を炊いて。

風太は白米も好きだからな。


「うまいか、風太」


顔を上げた風太がペロリと赤い舌を出す。

いかにも満足したという顔をしながら、左手で器用に顔を洗い始めた。


「そろそろ行楽シーズンだし、またどこか出かけような」


出かける、という言葉に反応した風太は目を輝かせる。

秋といえばハイキングや梨狩り、ぶどう狩りなんかもできるし、もっと寒くなれば紅葉を見に行ってもいいだろう。

いろんなところに連れて行ってやりたい。


そんな恭介の思いを知ってか知らずしてか、風太がにゃ~んと一声鳴くと恭介の膝にすり寄ってきた。


可愛い可愛い風太、ずっと一緒にいしょうな。


大きな体を抱き上げると、頬ずりする恭介だった。





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