<61>
「風太、手は洗ったか?」
「うん!」
「じゃあ、まずはこねるぞ」
「こねる?」
「そう、この白い粉とこっちのを混ぜて、ひたすらこねこねするんだ」
「こねこね・・・」
「できるか?」
「うーーー」
「俺が先にやるから、風太は俺と同じようにすればいい」
「うんっ」
二人が作ろうとしているのは、月見団子である。
そう、今夜は中秋の名月なのだ。
月の不思議な力は、風太にさらなる妖力を与えるようで、本来の猫の姿はもちろん、人の姿、それも青年の姿になることができる。
もちろん、月の力を借りなくても、その気になればどんな姿にもなれるようなのだが、やはり普段それをやると体力を消耗するようで、ぐったりとしてしまう。
満月や新月の時、風太は猫の姿に戻って恭介と一緒によく遊ぶ。
だが、青年の姿には過去一度しかなったことがない。
もう一度見てみたいとひそかに思っていることは、風太には悟られないようにしている。
以前、大人の姿にはなれないのかと聞いた時、風太が何か誤解して泣き出してしまったからだ。
あれ以来、二人の間でこの話題はタブーとなってしまった。
「んしょっ・・・んしょ・・・」
団子の生地を、小さな手で一生懸命にこねている。
ちょっと粉っぽかったものも、時間をかけてこねているうちに段々と馴染んでいく。
恭介の大きな手で揉むより、風太の小さな手でこまかくこねたほうが、ダマが早くなくなっていくようにも見える。
やはり猫は手先が器用なのかもしれない。
「もうちょっとかな。ダマもなくなってきたし」
「だま?」
「ああ、このブツッとしたやつあるだろ。これがダマだ。全部潰してなめらかにするんだ」
「うん。だま、つぶすの」
「そうそう、つぶしてくれ」
「たのしいね」
「そうか?」
「うん。きょうすけは?」
「風太が楽しんでくれればそれだけで俺も楽しいよ」
「へへっ」
こうして二人で一緒に何かするのは、恭介にとっても楽しいひとときだ。
いつまでもこの時間が続けばいいとさえ思う。
「よし、もういいぞ風太。あとはこれを小さくちぎって丸めるんだ」
「ちいさくちぎる・・・」
「そう。こんな感じに」
馴染んだ生地を、ピンポン玉くらいのサイズにしてちぎる。
くるくると手で丸めると、白い団子のできあがりだ。
恭介が器用に2、3個団子を作ると、風太の真ん丸の目がさらに見開く。
「ふを~~~~~っっ」
目の前にちょこんと並ぶ小さな団子を、きらきらした瞳で見つめる。
それが可愛くて、恭介は得意げにさらに2つ、3つと団子を作った。
「ほれ、風太もやってみろ」
「うん」
「これと同じくらいの大きさにちぎるんだぞ」
「うんっ」
えいっ、と生地を引っ張っるとブチッとちぎれる。
それを風太が丸めていく。
恭介の団子を手本にしながら、見よう見まねで作っていく。
「お、うまいじゃないか」
「うまい?ふうた、すごい?」
「ああ、すごいぞ。大したもんだ」
「いいこ?」
「風太は良い子だよ」
「へへっ」
二人しかいないというのに、結構な量を作ってしまった。
食べることが目的というよりむしろ二人で団子作りをすることが目的だったから、いたしかたがない。
風太も楽しんでいたし、この辺でやめておこうとは言い出しにくかったため、いつまでも作り続けてしまったのだ。
だがまあ、余ったら余ったで常田にでもおすそ分けすればいい話だ。
やつが甘いもの好きかどうかはわからないが、家族や病院のスタッフなんかも大勢いる。
中には甘党もいるだろう。
「じゃあ、これからはちょっと危ないから風太は見ていなさい」
「あぶない?」
「ああ、お湯を使うからな」
「は~い」
あとは丸めた団子の生地を、熱湯に入れるだけ。
月見団子のできあがりだ。
ぐつぐつ煮立った湯に、団子を入れて行く。
その様子を風太が興味津々で見つめる。
何にでも興味を抱くのは、幼いからかそれとも猫だからか。
「もうすぐできるぞ」
「ふをっ」
引き上げた団子は白くつやつやしていて、美味しそうだ。
しばらく覚ましておけば、夜のお月見にちょうどいい塩梅になるだろう。
「まんまるおだんご、かわいいね」
「うん?」
「しろくてまんまるなの」
「ああ、団子だからな」
「おだんごはまるいの?」
「そうだな、丸くない団子って見たことねえな」
「さんかくのおだんごは?」
「三角の団子かぁ・・・あったらおもしろいかもな」
「おみみなの」
「は?」
「おみみ、さんかくなの」
「三角の耳って・・・ああ、猫の耳か!」
「ふうたのおみみ。さんかくなの」
「そうだな、風太の耳は三角だ」
そう微笑んだ瞬間、ポンッと音を立てるように風太の頭から三角の白い耳が飛び出す。
もう見慣れた光景ではあるが、何度見ても不思議だなぁと思う。
そっと触ると、耳の尖がった部分についている“房”が、ピルピルッと震える。
白い耳の内側は、うっすらピンク色でこれがまた可愛らしい。
本当に、見れば見るほどきれいな三角形だ。
猫の耳って、こんなにも三角だっただろうか。
「風太、今夜は中秋の名月だぞ」
「ちゅーしゅー?」
「そう、真ん丸お月様が見られるぞ」
「おつきさま!まんまるっ」
「ああ、真ん丸お月様見ながら、真ん丸の団子を食べような」
「おだんご、ふうたつくったの!おだんご」
「風太が作った団子はきっと美味いぞ」
「ふをっっ」
「楽しみだな」
ニコニコ笑顔を向けてくる風太の頭をくしゃくしゃと撫でる。
そうするだけで、ほんのりと幸せが胸を満たしていく。
今夜は久しぶりに熱燗でもつけるか。
朝夕それなりに冷え込むようになったし、団子と一緒にやるのも一興かもしれない。
「ま~るい ま~るい まんまるいぃ~~~」
ご機嫌にお月さまの歌を歌う風太を見やる。
夜が待ち遠しい恭介であった。




