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「きょうすけ、ふうた、いらないの」

「いやっ・・・そうじゃなくてだな」

「ちっちゃいふうた、いやなの。おっきくないとだめなの」

「違う違う、そうじゃないんだよ」

「ふっ・・・ふえっ・・・」

「風太、泣くな」

「え~~~ん」


大粒の涙を流して泣く風太を、思わず抱きしめる。

何をどう誤解したのか、風太は自分が小さいと恭介に嫌われると思い込んだらしい。

ヒックヒックとひきつけを起こしたかのように泣く風太が愛おしくて、その小さな体を優しく包み込む。

ゆっくりと頭を撫でているとたまらない気持になってくる。

無意識にその白い額に口付ける。

瞬間、風太がビクンと体を震わせた。

涙で濡れた頬をそっと撫でると、噛んで含めるように言い聞かせる。


「ごめんな、風太。俺の言い方がまずかった」

「ふっ・・・ううっ・・・」

「俺は風太が大好きだよ。小さかろうが大きかろうが関係ない。風太が風太でいればそれでいいんだ。こうして俺のそばにずっといてくれたら、それだけで幸せなんだよ」

「きょうすけ、しあわせ・・・?」

「ああ、幸せだ。俺は風太さえいれば幸せなんだ」

「ふうたも」

「ん?」

「ふうたもきょうすけのそば、ずっといる」

「ああ、ずっといてくれ」

「ちっちゃいふうた、すき?」

「もちろんだ。言ったろ?ちっさくてもおっきくても関係ないって」

「でもぉ・・・」

「なんだ?」


赤い唇をぷぅと膨らますと俯いてしまう。

何やら不満があるのだろうか。


「どうした風太。言いたいことがあるなら言ってくれ」


おずおずと見上げてくる風太の長い睫毛が揺れている。

泣いたばかりだからか、心なしか目元が赤い。

幼い表情の中にどこかドキッとするような色香があって、一瞬胸の鼓動が弾む。


「きょうすけ、おっきいふうたがみたいっていった」

「それは・・・」

「おっきいふうたのほうがいいの?」


不安に揺れる風太の大きな瞳に吸い込まれそうになる。

確かにあの夜、一度だけ青年の姿になった風太は、北欧の貴公子のように美しかった。

あの姿をもう一度見てみたいという願望が、風太には伝わってしまったのかもしれない。

ここは変にごまかさないほうがいいだろう。

小さかろうが大きかろうが、どちらも風太であることに変わりはないのだし。


「どっちも風太だろ?こうやって俺の胸の中にすっぽり入っちまう風太も、あの夜のようにスラリと長身の風太も、どちらもおまえじゃないか。違うか?」

「ううーー」

「おまえは自由自在に姿かたちを変えられるんだろう?」

「じゆーじざい・・・」

「ああ、えっと、つまり、いつでも好きな時に、猫の姿に戻ったりできるってことさ。今はこうして耳と尻尾が出てるけど、引っ込めようと思えば引っ込められるだろ?」

「うん、ひっこめられるよ」


言うや否や、「えいっ」と可愛い掛け声を一言発した風太の頭から、猫耳が一瞬で消える。

同時に尻尾もなくなっていた。

何度見ても見事だと思う。

これぞ妖し(あやかし)の面目躍如という感じだ。


「すごいなぁ、風太は」

「ふうた、すごい?」

「ああ、すごいよ。いつ見ても感心するよ」

「へへ・・・」


頭を撫でてやると、風太がくすぐったそうに笑う。

ご機嫌が少し直ってきたか。


「おまえ、たまに猫の姿になって縁側で昼寝してる時があるじゃないか」

「んっとね、おひるねきもちいいよ」

「ああ、いつも気持ちよさそうに寝てるな」

「きょうすけもいっしょにおひるねする?」

「そうだな。だけど昼間はちょっと暑すぎないか?」

「う~ん・・・」


縁側で日向ぼっこするのはいいが、盛夏にそれをやると紫外線にやられてしまう。

猫の姿の時は毛皮で守られているからいいが、人間の姿の時はマメに日焼け止めを塗らなくては。

風太の白い肌を守るために、いつも気を付けている恭介だ。


「猫の姿になったり、こうして人間になったり、風太はいつでも変身できるわけだろ」

「うん」

「だから、ちょっと思ったんだよ。一度だけ大人の姿になった時があったなぁ、って。でも大人になったのって、あの夜だけだったなって。それってどうしてなのかなと思ったんだよ」

「どうして・・・?」

「ああ。あれ一回だけだっただろう?それが不思議だなって思っただけだよ」

「んっとね、おっきくなるの、がんばらないといけないの」

「頑張らないといけない?」

「うん」


拙い言葉で一生懸命風太が説明したところによると、成人の姿になるには特別な妖力が必要なのだそうだ。

あの夜は確か新月だったか満月だったかで、しかも月のパワーがいつもより大きかったようなのだ。

何らかの条件がそろわないと、気軽に大きくなることは難しいらしい。


「そっかぁ~。いつでも簡単に大きくなれるわけじゃないんだな」

「うん」

「わかった、ありがとな風太。これでスッキリしたよ」

「すっきり?」

「ああ。なんであれから一度も大きくならないのかなぁって思ってたから」

「おおきくなったふうた、みたい?」

「え?」

「ふうた、がんばるよ」

「頑張るっておまえ・・・」

「きょうすけがみたいなら、ふうたがんばっておおきくなるよ」


そう言う風太の目は真剣だ。

いや、別に大きくなってほしいというわけではないのだが。

小さい風太だって天使のように可愛いらしいし、別にこのままでもいいのだが・・・だが、もう一度あの色っぽい美青年姿の風太を見てみたい気もする。

心の中で激しく葛藤する恭介であった。





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