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「げんこつやまの~ たぬきさん~ 

おっぱいのんで ねんねして~

だっこして おんぶして ま~たあした~」


天高く響き渡るボーイソプラノ。

ごきげんな声で歌う風太は今日も元気いっぱいだ。

げんこつ山の狸の歌は、ここ最近の風太のお気に入りである。

もちろん、踊り付きだ。


歌や踊りが大好きな風太のために、恭介は童謡集を買ってきた。

DVDでは若い女性と子供たちが一緒に歌い、踊っている。

それを見よう見まねで踊る風太は、なかなか勘が良い。

踊る風太の横には、巨大なぬいぐるみが並んでいる。

シロクマにパンダ、そしてペンギンにイルカ。

全て、先日南紀白浜の動物園に行った際に、買って帰ったものだ。

野生動物を間近で見て大興奮だった風太。

帰ってきてからも、現地で撮った動画を恭介と一緒に見ては、興奮の雄叫びをあげている。


ぬいぐるみたちに囲まれた風太は幸せそうだ。

風太が幸せであれば、恭介も幸せだ。

こうして穏やかな日々がずっと続けばいいと、心から願う。

目の前の風太は飽きもせずに延々と、げんこつ山を歌っている。

腰をふりふり、そのたびに長い尻尾も揺れる。

家の中にいる時は、猫耳と尻尾は出しっぱなしのことが多い。

その方が楽だからなのだろう。

恭介としても、猫耳&尻尾の風太は凶悪なまでに可愛いので、あえてそのままにさせている。


「風太、スイカ食べないか」

「すいか?」

「ああ、喉渇いたろ。今日も暑いしな」

「ふうた、すいかたべる~」

「じゃあ切ってくるから、ちょっと待ってろ」

「はぁ~~~い」


猫は夏の暑さが苦手なものだが、風太もやはり夏場は体調を崩しやすい。

以前、庭で夢中になって遊んでいるうちに脱水症状を起こして倒れ込んでしまったことがあり、それ以来こまめに水分補給をさせ、自分がいないときは外には出さないよう気を付けている。

それでも動物の本能なのだろう。

天気の良い日などは、どうしても外に出たがるのだ。

庭にやってくる小鳥や蝶々など、あらゆるものが風太を誘惑する。

狩猟本能をかきたてられるのか、じっとそれらを見つめる風太の瞳はランランと輝く。

まるで宝石のように美しいと、いつも恭介は感嘆のため息をもらすのだ。


「ほれ、風太。スイカ切ってきたぞ」

「ふをっ」

「手を洗ってきなさい」

「はぁい」


トコトコと洗面所に駆けて行く風太を見やる。

見た目はせいぜい小学校高学年くらいの風太。

言動はもっと幼い。

だが、ここ1年くらいでかなり色んなことを覚え、成長している。

食事の前には手を洗う、外からかえってきた時はうがい手洗いをする。

出した玩具は遊び終えたら片付ける。

ご飯の後は、茶碗を台所の流しに持っていく。

朝起きたら布団をたたむ。

使ったタオルは干しておく。

そういう日常の習慣的なことを、言われなくてもだいぶできるようになってきた。


喋り方が相変わらず拙いのは、年齢的なものというよりは猫だからだろうか。

本来猫である風太が一生懸命人間の言葉を話しているのだ。

流暢に話せというのは、土台無理な話なのかもしれない。

体の成長は、どうやら止まってしまったようである。

これ以上大きくなる様子がないのだ。

たまに猫の姿に戻っている時は間違いなく成猫の大きさで、本来大型猫であるメインクーンらしくかなり大きい。

中型犬と同じくらいはあるのではないだろうか。

一度体重を測ってみようと思うのだが、いつも忘れてしまう。

そういえば、満月の夜だったか、風太が青年の姿になったこともあった。

あれっきり二度と見ていないのだが、今も大人の姿になろうと思えばなれるのだろうか。


「きょうすけ、おててあらったよ」

「おう。じゃあ食おうか」

「うんっ」


三角形に切ったスイカにかぶりつく。

シャリシャリと良い音を立てて食べる風太の赤い口が、スイカの水分で濡れている。


「うまいか、風太」

「ふをっ」

「落ち着いて食べろよ」

「ん・・・」


スイカを夢中で頬張る風太が可愛い。

思わず頬が緩んでしまう。


「きょうすけ、たべないの?」

「ん?ああ。いや、食べるよ。ちょっと見惚れてただけさ」

「みとれて・・・?」

「いや、なんでもない」

「ふーん・・・?」


小首を傾げる風太。

ふわふわの耳がピクピク動いているのは、何か興味のある対象に神経を集中させているから。

それはきっと、恭介の微妙な感情の起伏に対してだろう。

動物的な直感が、そうさせているに違いない。

猫とは鋭くて賢い生き物なのだ。


「あのさ、風太」

「ん?」

「前に一度、大人の姿に変身したことあったろ」

「おとな?」

「ああ。お月さまが真ん丸だった夜だ。おまえ、おっきくなっただろ。覚えてるか?」

「うん、おぼえてる」

「あれって、あの時だけなのか」

「あのときだけって?」

「つまり、その・・・あれだ。いつでもあの状態になろうと思えばなれるのか?」

「・・・・・・?」


風太は返事をせず、小首を傾げているだけだ。

恭介の質問の意味がわからないのかもしれない。

難しい言葉ではなく、風太にもわかるように噛み砕いて説明しなくては。


「えっとな、またあんな風に、大人の姿になろうと思えばなれるのか?」

「きょうすけ、おっきいふうたがいいの?」

「え?」

「ちっさいふうたはきらい?」

「い、いやっ・・・」

「ふうた、いらない?」

「や、そうじゃない。そうじゃないよ」


風太の大きな瞳がうるうると潤み始める。

今にも泣きだしそうだ。

しまった、と思ったが遅かった。




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