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<5>

早朝に目覚めた風太は、ツリーの下に置かれた大きなプレゼントの包みを見つけて大騒ぎだ。

白い巨大な袋には赤いリボンがかけられてある。

まるで大きな巾着袋のようなそれを指さし、風太がぴょんぴょん跳ねる。


「ぷれぜんと?ふうたのぷれぜんと?」

「ああ、きっとサンタからのプレゼントだな」

「サンタさん、きた?」

「来たんじゃないか、昨夜寝てる間に」

「ふおぉぉぉ・・・」


大きな目をまん丸にして感動の雄叫びを上げる風太を、これ以上ないくらい愛しそうに恭介は見つめた。

目の前の巨大な袋は、風太の胸くらいまでの高さがある。

感動のあまり動けなくなっている風太の頭を、くしゃくしゃと撫でてやる。


「ほれ、どうした風太。サンタクロースからのプレゼント、開けてみろ」

「いいの?」

「もちろんだ。おまえへのプレゼントなんだから」

「きょうすけは?」

「ん?」

「きょうすけのぷれぜんと、ないよ?」


大きな瞳を揺らしながらこちらを見つめる風太は、少しだけ不安そうだ。

プレゼントの袋が一つしかないことが、気がかりらしい。

自分だけプレゼントをもらっていいのかと聞いてくる愛しい仔猫を、思わずそっと抱きしめる。


「あのな、サンタクロースは子供にしかプレゼントをくれないんだよ」


噛んで含むように、ゆっくりと説明してやる。

風太の白い尻尾がゆらゆら揺れているのは、一生懸命聞こうとしているからだろう。


「こども・・・?」

「そう、子供だけだ」

「じゃあ、きょうすけは?」

「俺はもう大人だからな、プレゼントはなしだ」

「そうなの?」

「大人になると欲しいもんは自分で手に入れる。だからサンタは来なくなるんだよ」

「ふうん・・・」

「だからほれ、袋を開けてみろ」

「うん」


納得したのかしないのか、恭介に促されて風太が袋のリボンに手を掛ける。

中を見ると、大きなクマのぬいぐるみが入っていた。


「わぁ~、くまさんだ~!」


茶色い大きなテディベアを抱きしめた風太が、嬉しそうに飛び回っている。

ぬいぐるみの柔らかな毛に頬ずりしながら、風太は何度も「サンタさんありがとう」と繰り返した。

これほどまでに喜んでもらえて、サンタも本望だろう。

もちろん、サンタとは恭介以外の何者でもないのだが。


小柄な風太とそう変わらない身長の熊を見つけたのは、実は一昨日のことだった。

風太を連れて買い物に出かけたあの日、輸入家具などを扱うお洒落な店のウィンドーに、熊や鹿などのぬいぐるみが飾られてあった。

ぬいぐるみが気になるのか、風太はウィンドーの前に立ち止まったままなかなか動こうとしない。

「くまさん・・・かわいい・・・」と呟く風太の横顔を見た瞬間、恭介の心は決まった。

翌日、仕事の打ち合わせがあると嘘をついて家を出た。

風太は利口な猫で、恭介の言いつけをしっかり守って留守番ができるのだ。

誰か人が訪ねてきても決して出ないこと。

電話は恭介が持たせた携帯電話にのみ、出ること。

その際必ず、着信が恭介からであることを確認すること。

風太はひらがなとカタカナは読めるようになったので、簡単なメールのやりとりもできる。

そうやって一人で留守番ができる利口な風太を残し、恭介は例の店に出向いて熊のぬいぐるみを購入した。

大きなぬいぐるみを包んだプレゼント袋を抱えて家の近くまでタクシーで戻り、風太にばれないように裏木戸からこっそり入って物置小屋にプレゼントを隠した。

そして昨夜、早く寝ないとサンタさん来ないぞと風太を早々に寝かしつけた後、そうっと物置小屋からプレゼントを移動させたのだ。


「よかったな、風太。嬉しいか?」

「うん、うれしい!ふうた、うれしいよ!」

「そうかそうか」


まだぴょんぴょん飛び跳ねている風太を落ち着かせる。

熊に抱きついて離れようとしない風太に、とりあえずパジャマを着替えて顔を洗うように言うと、興奮冷めやらぬといった表情のまま洗面所にとことこと走って行った。

風太が顔を洗っている間に、朝食の準備をする。

今朝のメニューは昨日の残りのチキンとサラダ、そしてスープだ。

クリスマスということで、恭介は少しだけシャンパンを飲むことにする。

朝からシャンパンだなんて贅沢かと思ったが、年に一度くらいかまわないだろう。


お気に入りの生成りのセーターを着た風太が、目を輝かせながら食卓に着く。

チキンは風太の好物なのだ。

昨日はあらかじめ注文しておいたローストチキンを二人で食べたが、さすがに丸焼き一羽は二人では食べきれず翌日に持ち越すこととなった。


「ふうた、ちきん好き」

「ああ、美味いな」

「おいしいね」

「たくさん食べろよ」

「くまさんも食べる?」

「いや、熊は食べないよ。ぬいぐるみだからな」

「そうなの?」


ほっておくとフォークを熊に向けかねない風太に、ぬいぐるみは飯は食わないのだと言って聞かせる。

元々猫なだけに、風太は人間とは少し違う発想をすることがある。

だがそんなところもミステリアスで好ましいと、恭介は思うのだった。


「風太、飯を食ったら何がしたい?」

「んっとね・・・きょうすけは?」

「俺か?」

「きょうすけ、おしごとは?」

「ああ、今日は休みだ」

「おやすみ?」

「クリスマスだからな」

「クリスマスはおやすみなの?」

「そう、たまにはいいだろ。今日は一日休みだ。だからおまえに付き合うぞ。何して遊ぶ?」

「きょうすけ、いっしょにあそぶ?」

「ああ、一緒だ」

「いっしょ・・・」


一緒と聞いて目を細める風太の頬を、そっと撫でる。

くすぐったそうに笑う風太が愛おしい。

今日一日、どうやって過ごそうか。

シャンパンを飲みつつ、そんなことをつらつら考える恭介だった。





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