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パンダを前にして風太が大きな目をさらに大きく見開いている。

その一挙手一投足に反応しては、感動の雄叫びを上げたりぴょんぴょん飛び跳ねたり。

気だるげに横になりながら笹の葉を食べ続けるパンダよりも、風太の方がよほど可愛いと思ってしまう恭介だ。

そもそもパンダってそんなに騒ぐほど可愛いものか?

あの白黒の絶妙な柄がなければ、ただの熊と変わらないのではないか。

タレ目に見えるのも目の周りの黒い模様のせいであって、実際の目は小さいし案外つり目だと思う。

もちろん、横で「可愛い」を連発している風太に、そんな無粋なことを言うつもりはないが。


食い入るようにパンタを見つめている風太を、ビデオカメラで撮影する。

本当はパンダと風太のツーショットを撮りたいところだが、これだけギャラリーが多いとそういうわけにもいかない。

周りを見ると小さな子供を連れた家族がたくさんいて、やはり同じように動画を撮っている。

みな考えることは一緒なのだろう。


「風太、そろそろ移動しよう」

「いどう?」

「ああ、もうパンダは十分見ただろう」

「でもぉ・・・」

「そろそろ昼飯にしよう」

「ごはん?」

「ああ、ちょっと早めに行こう。どのみち待つことになるだろうから」

「んん?」


こういう場所は食い物系の店はどこも混むと相場が決まっている。

だがそれを風太に説明したところで、理解するのは無理だろう。

パンダの前を離れようとしない風太の手をそっと引っ張りながら、優しく耳元でささやく。


「早く行かないと、ごはんなくなっちゃうぞ」

「ふをっ?!」

「パンダの形をしたごはんとか、あるらしいぞ~」


風太の目がランランと輝く。

さくらんぼの唇がパクパクと動いている。


「お子さまランチ、ライスがパンダの形になってるんだぞ。他にもパンダのカレーとか、色々あるぞ~。早く行かなきゃなくなっちゃうかもしれないぞ~」

「い・・・いくっ。ふうた、ごはんたべる~~~」

「そうこなくっちゃ!」


今にも駆け出しそうな風太の手をしっかり握りしめ、レストランに急ぐ。

頭の中はもうパンダランチのことでいっぱいなのだろう、恭介の手をぐいぐい引っ張りながら小走りになっている。

それにしても、今日も暑い。

この広い園内を歩いて移動するだけで、結構な運動になりそうだ。

日頃パソコンの前で過ごすことの多い恭介にとっては、こういう機会でもない限りなかなか体を動かすことがない。


「やっぱジムにでも通うか」

「じむ?」

「いや、なんでもないよ。ほれ、レストランに着いたぞ」

「パンダ!」


予想通りレストランは混んでいる。

入り口で順番待ちのリストに名前を書き、椅子に座る。

最低15分くらいは待たされそうだ。

その間に風太が飽きてしまわなければいいのだが。


「きょうすけ、ごはんまだぁ?」

「もうちょっとだ」

「うう~~~」

「なんだ、腹が減ったのか」

「ふうた、おなかぺこぺこ」

「そうだな、今日は朝からよく動いてるしな」

「ごはんたべたいの」

「もうちょっとだけ我慢しろ、そうだ、飴舐めるか」

「あめ!」

「ほれ、口を開けろ」


空腹を紛らわすために飴を舐めさせる。

風太の好きなイチゴドロップだ。

ビー玉サイズの飴を口に含むと、ぷくっとほっぺが膨らんでいる。

それがまた愛らしい。

飴を舐めているからか、風太はまたご機嫌になったようだ。

椅子に座りながら両足を動かし、嬉々としてパンダの話をし始めた。


「パンダちゃんかわいいの」

「ああ、かわいかったな」

「みるくのんでたの」

「小さい時はみんなミルクを飲むんだ」

「きょうすけも?」

「ああ。俺も赤ん坊の時は飲んでたさ。覚えてないけど。おまえだって小さい時はミルク飲んでたんだぞ」

「ふうたも?」

「覚えてないだろうが、うちに来た時のおまえはまだこんなに小さくて・・・結構寒い日だったんだ。で、俺がタオルであっためて、猫用のミルクを買いに行って・・・おまえはすぐにミルクを飲んで元気になってそれからすくすく大きくなっていった・・・」


数年前のあの日。

ホワイトデーに風太はやってきた。

会社の帰り道、アパートに向かう途中に捨てられていた風太を拾った。

段ボール箱の中でみゃあみゃあ鳴いている、小さな白い仔猫。

誰かにもらってもらおうと道の往来に捨てて行ったのかもしれない。

こんなに可愛い仔猫を捨てるなんて許せないと思ったが、今となってはそいつに感謝する思いだ。

おかげで風太と出会えた。

こんなに可愛くて愛しい存在に、出会えたのだから。


風太と出会って恭介の人生は変わった。

これは運命だと思う。

今までこれほどまでに誰かを愛おしい、大切にしたいと思ったことは一度だってないからだ。

もはや風太のいない人生なんて考えられない。

家族よりも風太が大事だ。

風太のためだったらなんだってする。


「上坂さん、2名様、お待たせいたしました」


店員の声で思考が遮られる。

どうやら席が空いたようだ。

風太お待ちかねの、パンダランチはもうすぐだ。




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