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「すご~~~いっっ」


合図に合わせて天高くジャンプするイルカの群れに、風太が感嘆の声を上げる。

風太だけではない、周りにいる観客たちの歓声が場内に響き渡っている。

それほどまでに、イルカたちのチームワークは抜群だった。


弧を描くような美しいフォルムはテレビで見ていても見事だと思うが、こうして実際に間近で見るとなんと美しい生き物だろうかと思う。

海の生き物の中で突出してイルカが人気があるのが、よくわかるというものだ。

様々な芸をするイルカたちの姿に感心しながらも、隣で目を輝かせている風太の横顔を眺める。

こんなに喜んでくれるなんて、遠いところまでやって来たかいがあった。

最初は都内の動物園でいいかと思ったりもしたのだが、こうして二人で旅をするのもまた、一興である。


「いるかさん、すごいね」

「ああ、イルカは利口な動物だからな」

「りこう?」

「賢いんだよ、イルカは」

「いるかさん、おりこうさんなの」

「ああ」


実のところ、哺乳類の中では犬猫より知能が高いと言われるイルカである。

そう考えると、猫の風太より利口だということか。

ちょっと複雑な気分になる恭介だ。


ひとしきりイルカショーを楽しんだ後は、いよいよお待ちかねのパンダを見に行くことにする。

だがその前に風太が行きたがったのは、土産物屋だった。

ペンギンやシロクマ、パンダなどのぬいぐるみやグッズを売っており、可愛い物好きな子供や女性にはたまらないラインナップとなっている。

恭介は気にも留めていなかったが、風太はエントランス付近で目敏くショップの存在に気付いていたらしい。

シロクマのぬいぐるみを触っては、可愛いを連発する風太。

可愛いのはおまえのほうだよ、と心の中で呟いていると、背後から「あの子可愛いね」という声が聞こえてくる。

ぬいぐるみを前にぴょんぴょん飛び跳ねている風太を見た、女性客たちの声だ。

風太を連れ歩くと必ず注目を浴びるのだが、そのたびにどこか誇らしい気分になる。

この動物園にいるどの生き物よりも、風太の方が愛らしい。

そう言ってやりたい気分になるのだ。


「風太、買い物は後だ」


シロクマに抱きついて離れない風太を引き剥がす。

それが気に入らなかったのか、風太が唇を尖らせてこちらを見上げてきた。


「あと?」

「ああ。今買うと荷物になるだろ」

「でもお・・・」

「これからパンダを見て、昼飯食ったらサファリツアーに参加するんだから、荷物が多いと邪魔になるぞ」

「ううーーー」

「帰りに買ってやるから、な?」

「かえりにかう?」

「ああ、帰りにまとめて買おう」

「ほんとに?」

「本当だ」

「じゃあ、やくそく・・・」


そう言うと、小指を差し出してくる風太が愛おしい。

「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんの~ますっ」と高らかに響き渡るボーイソプラノ。

周りの目もあって少し恥ずかしいが、風太が可愛いのでよしとしよう。

とりあえずこれでまた、荷物が増えるな。

シロクマのぬいぐるみとパンダのぬいぐるみは、確実にお買い上げコースだろうなぁ・・・これは。


風太の小さな手を引きながら、パンダ舎へと向かう。

この動物園は、中国本土以外で双子のパンダを生育することに成功した、初めての施設として有名だ。

現在7頭のパンダが飼育されていて、これも中国以外では最大規模である。

恭介たちのお目当ては年末に生まれた双子の姉妹パンダなのだが、まだ赤ちゃんと言っていいサイズの双子パンダを一目見ようと、全国からパンダファンが詰め寄せているため混雑極まりない。

中でもハイライトは、パンダのミルクタイムだ。

飼育員がパンダにミルクをやるだけなのだが、その愛らしい姿を観客は無料で見ることができるというもの。


「おっ、いたぞ。風太見えるか、双子の赤ちゃんパンダだ」

「ふを~~~」

「まるでぬいぐるみだな」

「かわいい・・・ぱんだちゃん、かわいいっ」

「ああ、本当に嘘みたいに可愛いな」


そう言いながらも心の中では、風太の方が何万倍も可愛いけどな、と思う恭介だ。

もちろん口にはしなかったが。

パンダはころころしていて、飼育員によく懐いている。

さすがに8カ月ともなるとそれなりに体重もあるのかして、抱き上げる飼育員もちょっと重そうだ。

パンダの愛らしい仕草に、観客が黄色い声を上げている。

確かにこれは、たまらない可愛さだ。


もっとゆっくり見ていたいところだが、人が多いせいか係員が少しずつ移動するようにと声を掛けてくる。

風太は動きたくなさそうだったが、いたしかたがない。

先に見た方は順に後ろの方にお譲りください、という係員の声に従い、恭介は風太を抱き上げる。

こうすれば後ろに下がってもまだパンダを見ることができる。

有料のコースならバックヤードに入って餌をやったりできるのだが、諸々のリスクを考えると諦めざるを得ない。


「風太、おっきいパンダもいるぞ、ほれ」


赤ちゃんパンダの可愛さには及ばないが、大人のパンダも愛くるしいことに変わりはない。

呑気に笹を食べている姿は、なんとも愛嬌がある。


「ぱんださん、はっぱたべてるの」

「ああ、あれがパンダのご飯なんだよ」

「ごはん?はっぱが?」

「あれは笹って言うんだ」

「ささ・・・」

「パンダはあれしか食わないんだよ。他の葉っぱじゃだめなんだ」

「そうなの?」

「ああ。グルメなんだろうな」

「ふを・・・」


あんなにデカい体をしているのに、あんな葉っぱだけで腹いっぱいになるなんて信じられない、とでも言いたそうな顔で風太が食い入るように見ている。

そういや熊は雑食のはずだ。

シロクマなんかはアザラシを食うと言う話だが、パンダはなぜ笹が主食なのだろう。

パンダのレクチャーなんかもあるのだが、それもやはり優良コースで時間が決まっているため、今回は見送った。

難しい話を30分も聞くのは、風太には無理だからだ。

それより、色んな動物を見て回った方が楽しいだろう。

この先風太がもっと色んなことを学んで、成長した時にまた来ればいい。


成長した時・・・


風太が成長する日は、やってくるのだろうか。

ついつい忘れそうになるが、風太は妖しの者なのだ。

人間とは違う。

それが具体的に何を意味し、どういう未来を語っているのか、恭介にもわからないのだが。

嬉しそうな風太の笑顔を見ながら、少しだけ複雑な思いが去来するのだった。




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