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「ふぅ~っ、ふぅ~っっ」
小さな唇を尖らせながら、一生懸命たこ焼きを吹いている風太である。
たこ焼きは熱いので気を付けろと恭介に言われたからか、そこまでしなくても・・・というくらいに、フーフー吹いている。
その姿がいじらしくて、恭介はやに下がりながら見つめていた。
「うまいか風太」
「うんっ」
やはり熱いからか少しずつしか食べられないせいで、たこ焼き一つ食べ終わるのにかなりの時間がかかっている。
多少小腹が空いていたので恭介も2個ほど食べたが、表面はそうでもなくても中のとろっとした部分が熱いのがたこ焼きだ。
風太にしてみればどうしても恐々かまざるを得ないのだろう。
「まあ、猫は猫舌と相場は決まってるだろうしな」
「ん?」
「いや、なんでもないよ。ゆっくり食べなさい」
「うん」
もぐもぐとおいしそうにたこ焼きを頬張る風太に、やはり通り過ぎる人たちの視線が向けられる。
どうしても目立つのはいたし方のないこととはいえ、心配になってしまう恭介だ。
「風太、他に見たいものはないか」
「うん?」
「せっかく来たんだ。たこ焼きだけ食べて帰るっつうのもなんだろ?」
「う~ん・・・」
「いろいろあるぞ。ヨーヨー釣りとか、ゲームとか」
「ヨーヨー?」
「そうだ。風船を釣るんだ。行ってみるか?」
「うんっ!」
ヨーヨーに気持ちが行っているからか、はふはふと大慌てで食べる風太が可愛らしい。
喉を詰まらせるのではないかと冷や冷やしながら見ていたが、どうやら大丈夫そうだ。
それでも念のため先ほど買ったお茶を飲ませることにする。
「よし、ヨーヨーのとこに行くとするか」
手を繋ぎ人混みをかき分けヨーヨーのコーナーに行くと、カップルやら家族連れやらで結構な混み具合だ。
5歳くらいの幼児が紙縒りを手に、四苦八苦しながら黄色い風船を釣ろうとしている。
この紙縒りがなかなか曲者で、いいところでブチンと切れてしまうのだ。
コツというかタイミングがあるのだろうが、一度や二度では上手くいかないようになっていて、まあそうでなければ商売にはならないのだろうが、風太がいなければ絶対にやろうとは思わないに違いない。
あと少しというところで紙縒りが切れ、黄色い風船がポチャンと水の中に落ちる。
あーーー!という子供の残念そうな声にかぶさるようにして、風太が「あっ」と声を上げる。
その目は爛々と輝いていて、すでにヨーヨー釣りに夢中になっていることが伺い知れる。
「風太もやりたいか?」
「やりたいっ。ふうたもやるっ」
「そうか。すいません、この子にもやらせてやってもらっていいですか?」
的屋の店主は三十半ばくらいだろうか、気の良さそうな男で「あいよ」と陽気な掛け声とともに紙縒りを渡してくる。
小銭を渡し紙縒りを受け取ると、風太にやり方を説明する。
説明を聞くその目は真剣そのものだ。
風太が狙いを定めたのは、赤い風船のようだ。
真っ赤に小さく白や黄色の線が入っている。
慎重に慎重に、風太が紙縒りで釣り上げようとする。
「おっ、引っかかった!」
どこからともなく誰かが言う。
いつの間にか恭介たちの周りには人だかりができていて、風太がヨーヨー釣りをするのを固唾をのんで見守っているのだ。
頑張って、とか、行けるぞ、とかいった声もかかっている。
ゆっくりと持ち上げようとする風太に、恭介もアドバイスをする。
「よし、いいぞ風太。そのままゆ~っくり持ち上げるんだ。そうそう、イイ感じ・・・」
釣れたかと思った瞬間、プチッと紙縒りが切れて風船がボチャンと落ちる。
「ああーーーーー」
風太の落胆の声が響く。
周りに集まっていた人たちからも同様に、あーという声が上がり、なんとなくその場に一体感が生まれる。
何も言わずとも店主が新しい紙縒りを差し出してくる。
これはもう、せめて一個は釣れるまでやるしかないな。
「そうしょげるな風太。まだ一回目じゃないか」
「うう・・・」
釣れなかったことがよほど悔しいのだろう、唇をツンと尖らせて俯いている風太の柔らかな髪をやさしく梳いてやる。
「ほれ、もっかいやってみろ。な?」
「うん・・・」
二度目もあと少しというところで紙縒りが切れる。
だが三度目、赤い風船を持ち上げた風太は見事手中に収めることができた。
「ふをーーーーー!!!」
歓喜の雄叫びを上げた瞬間、思わず周りから拍手が起きる。
どうも、と熱狂している人たちに頭を下げつつ、興奮する風太に「よくやったな」と声をかけてやる。
「きょうすけみて!ふうた、とったの。あかいふうせん、とったの!」
「ああ、すごいな」
「ふうた、うれしい~」
「よかったな。俺も嬉しいよ」
「へへっ」
風船をゲットして満足げな風太を連れて、駄菓子屋を冷かしたり、射的のところで遊んだりして2時間ほど楽しい時間を過ごした。
そろそろ疲れが出る頃だろうと、風太をおぶってやる。
風船を手にニコニコ顔の風太は満足そうだ。
「風太、楽しかったか」
「うん!」
「また行こうな、祭り」
「うん、また行くの!」
明るい風太の笑顔に癒される恭介だった。




