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真夏の太陽がぎらぎらと照りつける。

梅雨が明けて、東京は夏真っ盛りとなった。

自宅でPCに向かう仕事をしている恭介には、ちょっとばかり眩しすぎる陽の光に思わず目がくらみそうだ。

今日は近所の夏祭りに風太を連れてきている。

日曜ということもあって、広場は家族連れですごい混雑だ。


「風太、俺の手を放すなよ」

「うんっ」

「迷子になったら大変だからな」


小さな手をしっかりと握ると、風太が嬉しそうに握り返してくる。

それだけで恭介の心はほんわり温かくなるのだ。


この日のために買った浴衣と甚平姿の二人は、夏祭り会場で注目の的だ。

長身でイケメンの恭介がシックな濃紺の浴衣を着ているだけで、なんともいなせで若い女はおろか中高年の女性やお年寄りまでが、うっとりと見惚れている。

またその美男子が手を引いているのが、絵本から抜け出してきたかのような外国人の美少年で、水色地に白や薄桃色の小花が散った甚平がなんとも愛らしく、男女問わず多くの人の口から感嘆の言葉が漏れる。

まるで自分が褒められたかのように、誇らしい気分になる恭介である。


この日のために、探しに探してゲットした甚平なのだ。

可愛い風太は何を着ても似合うのだが、せっかくなんだからこれ以上ないというくらいに似合うものを思い、ネットショップはもちろんのことデパートの子供服売り場を練り歩いた。

風太の少女のような可憐な愛らしい風貌には、柔らかな色合いが合うだろうという恭介の見立ては間違っていなかった。

プラチナブロンドの髪と水色は相性がいい。

己のセンスの良さを、つい自画自賛してしまうほどだ。


「あっ!」

「どうした、風太」


風太がくんくんとその小さな鼻を動かしている。

どうやら食べ物の匂いが気になるらしい。

祭りの露店の中には、たこ焼きや焼きそばなどの屋台もある。

先ほどからどこからともなく漂ってくる甘い香りは、綿菓子だろうか。

子供の頃よく行った縁日の思い出がよみがえってくる。

大して美味くもない屋台の食べ物を、あれほど欲しいと思ったのはいったいなぜだろう。


風太がぐいぐいと恭介の手を引っ張る。

どうやら食べ物屋のほうへと誘導しようとしているらしい。

苦笑いしながらも、風太のしたいようにさせてやる。

引っ張られるままに辿り着いた先は、たこ焼き屋だった。


「なんだ風太、たこ焼きが食べたいのか」

「たこ・・・?」

「たこじゃなくてたこ焼きだ」

「たこさん、ちがうの?」

「あ、いや、違わないか。たこが入ってることには変わりないからな」

「たこさん・・・まあるいの」

「ああ、あれはたこじゃなくて粉を固めたものだ」

「こな?」

「お好み焼き、わかるだろ」

「おこのみ!ふうた、おこのみすき」

「ああ、あのお好みと同じ粉を固めたものを丸い形にしたのがたこ焼きだ。あの丸い中にたこが入ってるんだよ」

「ふを~・・・」


口をまん丸にした風太が、感心したように声を上げる。

クルクルと器用にたこ焼きを焼いていく若い衆をじっと見つめる風太の周りに、いつしか人だかりができていく。


「かわいいね」

「外人?ハーフ?」

「甚平が似合ってる」

「たこ焼きが珍しいのかな」

「ジルベールみたい」


褒め言葉が嬉しい恭介ではあるが、あまりに目立ちすぎるのも少々居心地が悪い。

猫耳と尻尾を隠す術を身に付けた風太は、こうして恭介とお出かけすることができるようになったわけだが、安心はできない。

気を抜くと猫耳がぴょこんと出てしまうこともあるからだ。


「風太、たこ焼き買ってやるからな」

「いいの?」

「ああ、食べたいんだろ」

「わぁ~っ」

「すいません、たこ焼き1つください。8個入りのやつ」

「へい、まいどっ」

「たこやきっ、たこやきっ」


興奮した風太が「たこやき」の歌を歌いながらクルクル回る。

「たこ~たこ~」と、よくわからない自作の歌(?)を口ずさみながら、クネクネと踊る様子はどこかユーモラスで、それでいて破壊的なまでの愛らしさがあり、若い女性が悲鳴にも似た声を上げた。

あちこちで「きゃ~可愛い!」「見て見てあの子、チョー可愛いんだけど!」なんていう黄色い声が上がっている。

写メや動画を撮っている者もいる。


まずいな・・・


やはり、目立ちすぎる。

屋台の前には板でできた長椅子があり、そこに座って食べられるようになっているが、一刻も早くこの場から立ち去った方がよさそうだ。

このままだと誰かに声でもかけられかねない。

チャキチャキとたこ焼きを焼いてはプラスチックの舟盛に移していく若い衆に、待ちきれないとばかりに小銭を渡す。


「600円でよかったっけ」

「へい、お待ち!」

「ありがと」


奪い取るようにたこ焼きの袋を受け取ると、まだピョンピョンと踊っている風太の手を掴む。


「風太、行くぞ」

「ん?」

「ほれ、向こう行って食べよう」

「むこう?」

「そうだ、ここは人が多いからな」

「うん・・・」


人ごみをかき分け、早足で歩く。

ストライドの大きい恭介の後を、風太が小走りになりながらついていく。


「きょおすけ、まって」

「もう少しだ。あそこの木のところまで行こう」

「きょおすけっっ」


悲鳴にも似た声に振り返ると、風太の白い足が剥き出しになっている。

その数メートル後ろに、脱げた雪駄が一つ、転がっていた。

どうやら急ぎ足で歩いたために、雪駄が片方脱げてしまったようだ。


「す、すまん、風太っ」


慌てて雪駄を手に取ると、そのまま風太を抱き上げる。


「ふをっっ?」


軽々と風太を抱きながら、人混みから少し離れた木のあるあたりまで急いだ。

まさに風を切って走るとはこのことだ。

一刻も早く人だかりから解放されたかった。

恭介に抱かれた状態の風太は、嬉しそうにきゃっきゃとはしゃいでいる。

ようやく広場の端っこまで来たところで、やれやれとベンチに向かう。

腰掛けようと風太を下ろそうとするが、風太がしがみついてくる。


「風太、どうした?」

「だっこ」

「え?」

「ふうた、だっこすき」

「風太・・・」


グリグリと胸に頭を埋めてくる風太が愛おしい。

こんな風に甘えてこられて、どうして突き放せよう。

炎天下、ベンチに座ることも忘れて風太を抱っこし続ける恭介だった。




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