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「おにいちゃんたちもかみさまにおねがいしたの?」
それは唐突な、けれども確信を持った問いかけだった。
大きな目をきらきらさせながら目の前の長身の金髪に話しかける風太を、恭介はどうしていいかわからずオロオロしながら見守るしかなかった。
今まで風太がこんなふうに見知らぬ人間に気安く声を掛けたことなど、一度もなかったからだ。
金髪の男は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに「ああ・・・」と納得したように微笑んだ。
「僕たちは違うよ。神様にはお願いしていない」
「ちがうの?」
「うん、違うの」
「ちがう・・・ふうたとちがうの・・・」
しょんぼりしてしまった風太に、金髪は優しく話しかける。
そっと頭を撫でながら、心の底から慈しむように。
「ごめんね、一緒じゃなくて」
「ふうた、かみさまにおねがいしたの。だからきょうすけといっしょにいるの」
「そっか。そちらのお兄さんは恭介さんって言うんだね」
「うん」
「風太君の大切な人なんだ」
「うん」
「僕にもね、大事な人がいるんだよ」
「そっちのおにいさん?」
「そう」
「おい、子供にんな話すんなよ」
風太と金髪の会話に割って入るように、黒髪の色男が言う。
ちょっとつっけんどんな物言いだが、けして怒っているわけではなさそうだ。
というより、ちょっと顔を赤らめているところを見ると照れ隠しなのかもしれない。
二人の間に流れる空気感からして、どうやら同性同士のカップルらしい。
幼い風太がそのことを一瞬で理解したのが驚きだが、動物的な勘というやつだろうか。
「ふうたね、きょうすけとずっといっしょなの」
「よかったね。僕たちもね、ずっと一緒なんだよ」
「これからねずみさんにあいにいくの」
「ミッキーだね。それはよかったね」
「おにいさんもいく?」
いきなり現れた美形二人と何やら心が通じ合ったのか、風太は楽しそうに話を続けている。
恭介だけが蚊帳の外のようで、なんだかおもしろくない。
どうしたものかと逡巡していると、金髪がその眩しいばかりの笑顔をこちらに向けてきた。
「風太君、可愛いですね」
「え、あ、いや・・・まあ」
「彼はあなたのことを全身全霊で想っていますよ」
「え?」
「言葉は拙いかもしれないけど、ちゃんとあなたのことを想っています」
「あの・・・あなた方はいったい・・・?」
まるで風太の正体を知っているかのような物言いに、恭介は眉をひそめた。
人間離れした美貌を持つ二人の男。
まさか、風太の仲間なのか?
だが、二人とも猫耳はついていない。
ひょっとしたら何らかの方法で猫耳のない完全な人間になることができるのかもしれない。
いやだが、しかし・・・
恭介の警戒心が伝わったのか、金髪がフッと破顔する。
「驚かせちゃったかな。僕たちはまあ、なんていうんだろ。風太君とは事情は違うけど、この世界において異端であるという意味では同じです」
「異端・・・」
「風太君のようなパターンはめったにないんだけど、僕も長く生きてきて久しぶりに出会ったよ」
「あの、あなたは風太の何をご存じなんですか?」
これ以上会話を続けるのは危険だ。
そう思うのに、この男が自分の知らない何かを知っているかもしれないという好奇心に抗うことができない。
「ここじゃなんだし・・・よかったらどこか休憩できるところでゆっくり話しませんか?」
金髪の誘いに応じてしまったのは風太に関する情報を少しでも得たいという思いもあるが、純粋に目の前の男の持つオーラに圧倒されたというのもあったからだった。
とりあえず4人で園内のカフェに入る。
まだ時間が早いからかそれほど混んでおらず、ほとんど待たずに店内に入ることができた。
オープンテラスにあるテーブルに着いた一同は飲み物だけをオーダーしたが、風太にはスイーツも追加した。
「あの、それであなた方は・・・」
「ああ、自己紹介がまだだったね。僕はルカと言います。でもってこちらの目付きの悪いのが日下」
「目付きが悪くて悪かったな」
「あはは、別にけなしてるわけじゃないよ。この人、職業柄ちょっと強面だけど気にしないでくださいね」
「俺は上坂恭介と言います。で、こっちは風太」
「こんにちわ!」
「こんにちは。ちゃんと挨拶できて偉いね」
「ふうた、いいこなの。ちゃんとこんにちわするの」
「うんうん、本当にいい子」
にこにこ笑う目の前の金髪・・・ルカはその美貌だけで周りの注目を集めてしまう。
現に先ほどから他の客がチラチラとこちらを見ている。
なんだか落ち着かない恭介だったが、とりあえず話に集中することにした。
「それであの・・・さっきからずっと風太と話してるのを聞いてたんですが・・・なんていうか、あなたたちは風太の何を知っているんですか?俺たちに会ったのは今日が初めてですよね?」
まだ警戒心を解けずに探り探り話をしてくる恭介を安心させるかのように、ルカが爽やかに微笑む。
「もちろん、お会いしたのは今日が初めて。だけどまあ、なんていうか・・・風太君も僕たちと同じこちら側の存在だから、すぐにシンパシー感じちゃったんだよ」
「こちら側・・・」
「この世にはまだまだ人知を超えた存在がある。あなたもそのことをよくわかってるはず。違いますか?」
「それは・・・」
どうやら金髪の男、ルカは人間ではないらしい。
けれども風太とまるっきり同じというわけでもないらしい。
もっと色々聞いてみたいが、突然現れたこの二人を完全に信用していいものか躊躇われる。
「風太君は、人間になりたいんだよね」
ルカの一言が、恭介の胸に突き刺さった。




