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<22>

てるてる坊主のおかげもあってか、朝から清々しいまでの晴天だ。

縁側に座り天を仰ぐ恭介の顔に、晴れ晴れとした笑みが浮かぶ。


「絶好の花見日和だな、うん」


満足そうに頷くと、そろそろ弁当の支度でもしようかと腰を上げる。

今日はこれから弁当を持って、風太と近所の公園に花見に行くのだ。

川沿いにある公園には見事な桜並木があり、ここ数年は人気花見スポットとして注目を集めている。

週末ともなれば遠方からも人が集まってくるため、とてもではないがゆっくり花見どころではない。

だが、今日は平日だ。

こういうのを、フリーランスの醍醐味と言うのだろう。

会社員があくせく働いている平日の昼間に、のんびりと桜を堪能することができる。

もっとも、人さまが休んでいる時に限って休みなしで働かなくてはいけないというのも、フリーランスの宿命だったりするのだが。

だからこそせめてこういう時くらいは、思い切り楽しまなくてはと思う恭介だ。


昨日から風太のテンションはかなり高い。

今日の花見が楽しみでなかなか寝付けず、昨日は夜中まで大騒ぎだった。

まあ、猫は元来夜行性だというのもあるが、いつもは素直に11時ごろには布団に入る聞き分けの良い子なのに、昨夜に限っては興奮状態でいつまでも床に就こうとしなかった。

そのせいか、今朝は一応目を覚ましたものの、すぐにまた二度寝態勢に入ってしまった。

出かけるまでにはまだ時間があるし、恭介が弁当を作っている間は寝かせておけばいいかとそのままにしている。

風太に関してはどうしても甘くなってしまうのは、致し方のないことだろう。


「それに、風太の寝顔はチョー癒されるからなぁ」


あどけない表情でスースー寝息を立てて眠る仔猫の姿は、見ているだけで心がほっこりするのだ。

お餅のようにぷっくらした頬に口付けると、すべすべの肌がまるで恭介の唇に吸い付いてくるようだ。

愛しくてたまらなくなり、抱きしめて頭をグリグリしたい衝動に駆られるが、グッとこらえる。

風太の安眠を妨害したくはない。

しばし可愛い寝顔を見つめていた恭介だったが、そっと起こさないように襖を閉めると台所へ向かう。


六畳ほどある台所は、テーブルを置けばダイニングとしても使えるという昔ながらの間取りだ。

風太と二人暮らしなので大きなテーブルは必要ない。

調理の際に便利なように、小さめのテーブルを置いている。

今はその上に、弁当のおかずとなるべき鶏肉やプチトマト、卵といったものが所狭しと置かれている。


「まずは唐揚げからだな。風太は鳥が好きだからな、たくさん揚げるか」


炊飯器はもうセットしてある。

あと30分もすればピカピカでほかほかの米が炊き上がるだろう。

お握りの具は鮭とおかかで決まりだ。

どれも風太の大好物である。


鼻歌を歌いながら唐揚げの下ごしらえをしていると、背後で襖が開く音がする。

どうやら風太が目覚めたらしい。

小一時間ほど前までは眠そうにしていたが、待ちきれなくなって眼が冴えてきたのかもしれない。


「風太~、起きたのかぁ~」


振り返らずに声をかける。

鳥肉をボウルに入れ、タレに染み込ませる作業に集中している恭介の背後に、ぬっと誰かが立つ気配がする。

思わず振り返ると、そこには青年の姿の風太がニコニコ笑いながら立っていた。


「ふっ、風太っ?!」

「鳥、おいしそう♪」

「おまえ、どうしたんだ・・・その格好・・・」

「ん?」


まだ生の状態でタレに漬けこんである鶏肉を摘まもうとする風太の白い指先を、ぱちんとはたく。

いくら元は猫とはいえ、人間の姿のこの状態で生肉はないだろう。

ぺちんとはたかれた指を舐めながら、風太は台所内をキョロキョロと見回した。


「お魚は?」

「なに?」

「お魚。風太、お魚食べたいの」

「ああ、それならお握りの中にシャケを入れるぞ・・・って、そうじゃなくてっ!」

「どうしたの、恭介」

「おまえなんで大きくなってんだ?」

「だって今日、お花見」

「そ・・・もしかして、花見に行くのにその姿になったのか?」

「うんっ」


満面の笑みを浮かべる青年風太に、恭介は返す言葉が思いつかない。

確かに人の姿になってもいいとは言ったが、大きくなれとは言っていない。

子供の姿でも十分目立つと言うのに、これはまずい。

今の風太は、完全に白人青年である。

プラチナブロンドに近い銀糸のような髪が、腰あたりまである。

陶器のように透けた白い肌、長い睫毛。

スーパーモデルも顔負けなくらいの、美しい肢体。

目立たないわけがない。


「風太、なんで大きくなったんだよ・・・」


はぁ~っと、大きなため息を吐く恭介に、風太の顔色が曇る。


「恭介、いや?」

「え?」

「風太が大きくなったらいやなの?」

「やっ、そっ・・・そうじゃなくてっ」

「だったらどうしてそんな顔するの?」

「そ、それはだな、つまり・・・」

「恭介、風太のこと嫌いになった」

「何言ってんだよ!」


大きな瞳が涙で滲む。

ヤバい、泣かせてしまった。

大慌てで風太の細い肩を抱き寄せる。


「嫌いになんかなるわけないだろうっ。バカなこと言うんじゃないっ」

「だって・・・」

「俺にとっておまえは、この世で一番大切な存在だって、こないだ言っただろう?」

「たいせつ・・・」

「そう、大切だ」


風太の顔を覗き込む。

180センチ近い恭介より、5センチくらい低いだろうか。

長い睫毛がうるうると揺れていて、それが何とも言えず色っぽい。

白い頬は紅潮し、プルンとしたさくらんぼのような唇が何か言いたげに少しだけ開いている。


それは無意識の行動だった。

吸い寄せられるように、その紅い唇に自分の唇を重ね合わせる。

風太の長い睫毛が恭介の瞼に当たる。

柔らかくて、けれどもちゃんと弾力もある風太の唇。

思った通り甘くて、しばしその心地良さに酔う。

何度も啄むように口付けながら、角度を変えていく。

風太は嫌がっている様子はない。

そもそも、こないだは風太の方からキスをせがんできたのだ。


「風太・・・」


細い腰を引き寄せ、開いた唇の隙間から舌を差し入れると、風太の体がビクンと跳ねた。

赤い舌を絡め取り吸い付こうとした瞬間、バンッと肩を突き飛ばされる。


「イテッ・・・」


目の前の風太は顔を真っ赤にして震えている。

恭介の唾液で濡れた唇をパクパクと動かし、何か言いたげにしているが言葉が出てこない。

後悔の波が激しく押し寄せてきた。

恭介の突然の行動に、風太は明らかに驚いてしまっている。

キスの意味は知っている風太だが、互いの舌を絡ませ唾液を交換するような激しいキスは、さすがに許容範囲を越えていたらしい。


「まいったな・・・」





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