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<10>

元旦早々、風邪をひいて寝込んでしまった恭介だったが、若さと体力のおかげか比較的すぐに回復した。

恭介が寝込んでいる間ずっと不安げに瞳を揺らしていた風太も、ようやく安心したらしい。

いつもの元気を取り戻し、寒さも厭わず庭遊びをする日々が続いた。

どうやら雪国出身の猫らしい風太は、東京の冬など寒いうちに入らないらしい。

毎日元気よく飛び回り、嬉しそうに尻尾をピンと立てて遊ぶ様子は、見ているだけで恭介の心を癒した。

そうして、1月は穏やかに過ぎて行ったのだ。

いや、過ぎて行くかに思われた。


それは突然訪れた。

1月も下旬に差し掛かるころ。

風太が体の不調を訴えてきたのだ。

正確には不調ではなく、違和感と言った方がいいかもしれない。

体がだるい、なんか変な感じがする、と拙い言葉で訴えてくる。


「風太、どう変なんだ?どこか痛いのか?」

「う~ん・・・」

「具体的にどう変なのか言ってくれないか?頭が痛いとか?」

「ううん、あたまはいたくないよ」

「じゃあ、腹が痛い?」

「ううん、いたくない」

「吐き気はどうだ?胸がムカムカするとか。ゲェ~ってしそうな感じか?」

「ゲェ~はないよ」


恭介の質問に小首を傾げながら懸命に考える風太は、確かにいつもと違ってどこか元気がない。

気だるそうに瞳を潤ませ、頬もいつもより紅潮しているように見える。

念のために体温計で熱を測ってみたが、異常は見られない。


「熱はないようだしなぁ・・・」

「なんか変なの」

「変って、どういう風に?」

「ふうた、わかんない」


そう言うと、プイと顔を反らしてそのままコタツの中にもぐりこむ。

小さな体を丸くして横になった風太を、恭介はこれ以上ないというくらいに不安な思いで見つめる。

風邪の引きはじめだろうか。

だったら暖かくして安静にしていれば治るだろうが、どうもそれだけではないような気がする。

本当なら今すぐにでも医者に連れて行きたいところだが、猫耳と尻尾のついた風太を他人に見せるなどというリスクは冒したくない。


人間で言うと、風太の年齢は10歳から12歳といったところか。

仔猫の状態で拾った時、連れて行った獣医には大体生後3週間くらいだろうと言われた。

手に乗せると壊れてしまいそうなくらい小さくて、震えながらミュウミュウと鳴いていた仔猫。

ちゃんと育つが心配したものだったが、そんな恭介の心配をよそにミルクをたくさん飲んですくすく成長した。

会社から帰ってくると、その四足でトコトコと軽快に玄関先まで飛んで出迎えてくれる。

可愛くて愛しくて、仕事が終わると飲みにも行かず真っ直ぐに帰った。

毎日がこれ以上ないというくらいに充実していた。

あれから既に3年近くが経過しているわけだが、本来ならとっくに成猫となっているはずの風太も、こうして半獣人状態の今ではそういった常識的な年齢は当てはまらないだろう。


小さな寝息が聞こえてくる。

どうやら風太は疲れたのか、そのままコタツの中で寝入ってしまったらしい。

風邪を引いては大変と、恭介は寝室から毛布を取ってきて風太に掛けてやる。

長い睫毛が白い頬に影を落としている。

風太の容貌は明らかに日本人ではないが、かといって丸っきり白人というわけでもない。

何とも形容しがたいエキゾティックな顔立ちをしているのだ。

きっと混血なのだろうと思う。

いや、最近ではミックスと言うのだったか。

日本猫と洋猫、おそらくノルウェイジャンかメインクーンのミックスなのではないかと思う。

だから人間の姿も、ハーフっぽいのだろう。


しばらく寝顔を見つめていた恭介だったが、風太の白い頬にチュッと口づけして、その柔らかな髪とふわふわの猫耳をそっと撫でると、そのまま静かに居間を後にした。

書斎に移動しPCを立ち上げ、ネットで検索をかける。

もちろん、風太の体調の異変について調べるためだ。

実を言うと以前も何度か、風太のような半獣人について調べてみたことがある。

「猫耳」で検索をかけると、そのまんま猫耳グッズが出てきたり、猫耳を付けた若い女やそういう女のいる店などがズラッと出てきて、得たい情報に辿り着くことはできなかった。


検索の仕方がまずかったのかもしれない。

今回は、ちょっとパターンを変えて調べてみることにする。

とにかく、このまま風太の体調の変化を見過ごすわけにはいかない。

なぜだかわからないが、これは普通の状態ではない気がするのだ。

ひょっとすると、子供特有の何らかの病気かもしれない。

この際、猫であることは忘れて、まずは人間の子供として情報を集めてみることにする。

色々思案した末、小学校高学年くらいの子供がかかりやすい疾患や、体調の変化などについて調べてみる。

すると、ネットサーフィンしているうちに、ある言葉が恭介の目に留まった。


「第二次性徴・・・」


第二次性徴とは、子供が思春期に入り大人の体へと移行する際に現れる変化である。

第二次性徴が始まる時期は、おおむね男性は12~14歳頃、女性は10~14歳頃からが多い、という一文に恭介は反応した。

12歳から14歳。

どう見ても風太は14歳には見えない。

辛うじて12歳という感じだが、まだまだ思春期に差し掛かっているような兆候は見られない。

顔立ちも仕草も言動も、何もかもが幼いし性的な物への関心などもない。

毎日風太を風呂に入れているので、風太の体のことなら隅々までわかっているつもりだ。

いわゆる陰毛もまだ生えていないし、陰茎も幼いままだ。

今回の風太の異変が、第二次性徴と関係しているとは思い難い。

第一、自分のことを振り返って比較してみると、やはりこれは違うだろうという結論に至らざるを得ない。


「やっぱ違うよなぁ・・・あの様子じゃ精通が来そうな気配なんてまるでないしな・・・」


結局期待したような情報は何一つ得られず、頭を抱えながら居間に戻ると、さっきまでコタツで寝ていたはずの風太の姿がない。


「風太・・・?」


どうしたのだろう。

トイレにでもいったのだろうか。

何となく胸騒ぎがする。

慌ててトイレに確認に行くと、そこに風太の姿はなかった。


「風太っ・・・風太、どこだっ?!」


まさか、誘拐なんてことはないよな?


そう思ったとたん、心臓が早鐘を打ち始める。

全身の毛孔が開いて、腋の下から嫌な汗が流れてくるのがわかる。

誘拐・・・まさか、そんなことはありえない・・・


玄関の鍵はちゃんと締めてある。

だが、この家は平屋だ。

マンションみたいにセキュリティーがあるわけでも、オートロックなわけでもない。

庭の方から塀を越えて入ろうと思えば、大の大人であれば簡単に入ってこれる。

もしも、風太のことをどこかで見かけて前々から目を付けていて、隙を狙って攫おうと企んでいる奴がいたとしたら?

あんなに可愛い風太なのだ、外を歩いているだけでも目立つ。

知らないうちに誰かに後をつけられていたりしたら?

庭遊びをしている時の風太を、どこからか見ている奴がいたとしたら?


脂汗が額を流れ落ちる。

どうしていいかわからず、とりあえず家じゅうを探してみようと思いもう一度居間に戻ったその時。


「みゃう~・・・」


衝撃のあまり、恭介は息が止まるかと思った。

こたつ布団の中からひょいと顔を出したのは、白とシルバーの混ざった毛足の長い優美な猫だった。






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