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拾った仔猫がある日突然人間の姿に!

ケモ耳風太と恭介の、ほのぼのな日常です。

ショタ風味なので苦手な方はご注意を。

12月にもなると、朝夕はかなり冷え込む。

冷たくなった指先を「はぁ~」と息で温めると、恭介は軽く両目を瞬かせた。

寝起きのため瞼が半分閉じてた状態ではあるが、スッとした鼻筋といい形の良い唇といい、彼がなかなかの容姿であることを物語っている。

額に張り付いた前髪は少し長めで、それを鬱陶しそうに片手でかき上げる。

隣で静かに寝息を立てている仔猫を起こさないように細心の注意を払いながら、ゆっくりと身を起こす。

掛け布団の上に拡げてある袢纏を羽織り、枕元に置いてあった毛糸の靴下を履く。

柱時計の針は、8時を少し過ぎたところを指している。


もぞもぞと布団から出ると、一瞬仔猫が身じろいだ。

「ん・・・」と鼻にかかった声を漏らしはしたが、まだ起きる気配はない。

以前は早朝5時に目が覚めて動き回ったりしていたが、最近はすっかりお寝坊になった愛しい仔猫の寝顔を覗き込んだ恭介は、思わず口の端が上がってしまう。


「さて、朝飯の支度でもするか」


襖を開けると広い居間に繋がるこの平屋に越してきたのは、今年の春だ。

これまで5年間務めた会社を辞め、フリーランスになった恭介は都心の便利なこの地に住まいを移した。

それもこれも全て、愛しい仔猫のためだ。

以前のマンションはペットが禁止だった。

この木造の平屋は確かに作りは古いが、広くて庭もあるうえに家賃も安い。

猫の風太と一緒に暮らすには最適なのだ。


居間のエアコンのスイッチを入れる。

ついでに炬燵も入れて、準備完了だ。

これでいつ風太が起きてきても大丈夫。

寒さが苦手な風太のために、暖房代がかかるのは仕方がないと思っている。

これからの季節、ますます暖房は欠かせなくなるだろう。

だが、そんなことはちっとも気にならなかった。


いよいよ待ちに待った冬がやってくるのだ。

これまで冬なんて寒いだけで良いことなどひとつもないと思っていた。

友人や同僚たちがこぞってやれスキーだのスノボだのに行くのを横目で見ながら、わざわざ寒いところに金を出して出かけるなんて何が楽しいんだろうと、冷めた目で見ていた。

そんなかつての自分が嘘みたいに、厚いコートを身にまとうこの季節を楽しみにしている。

冬は、周りの目を気にすることなく風太と出かけられるからだ。


「よし・・・味噌汁完成っ・・・と」


味噌汁と焼き魚は、風太の好物だ。

ほぼ毎日魚を食べたがる風太のために、朝は純日本食となった。

朝なんてコーヒーかエナジーゼリーで済ませていたのが、遥か昔のことのように思えてくる。

この1年ほどで恭介は、すっかり料理上手になっていた。

焼き魚の香ばしい臭いが台所から洩れてくると、起こさなくてもいつの間にかやってくるのが風太の日常だ。

今日もトコトコと軽快な足音を立てて、台所に飛んでくる。


「きょうすけ、ごはん!」

「ああ、準備できたぞ」

「お魚?」

「そうだ、おまえの好きな焼き魚だ」

「わ~い♪」


嬉しそうに目を細める風太の頭には、モコモコとした白っぽい獣耳が付いている。

興奮しているのか、耳がピクピクと小刻みに動く。

背丈は恭介の腰を少し超えたあたり。

185センチはあろうかという恭介から見るとずいぶん小さいが、体格はちょうど人間の10歳から12歳くらいだろうか。

一見普通の少年のようだがはたして、風太には人間にはあり得ないものが付いていた。

猫耳のほかにお尻に生えた、もふもふとした長い尻尾。

どちらも同じ、白っぽい毛がふさふさと生えている。

髪の毛はほぼ金髪に近い茶色で、肌の色は透き通るように白い。

大きな瞳、頬に影を落とすほど長い睫毛。

小さな鼻にピンク色の唇。

どれをとっても少女のような顔立ちの風太はそれでも、一応“雄”である。


風太との出会いは、3年近く前。

同僚の女性に振られたばかりで落ち込んでいた恭介は、たまたま仕事の帰り道に白い仔猫を拾った。

仔猫は洋猫の血が入っているのか、少し毛足が長くてふわふわとしていた。

風太と名付けたその仔との生活は、予想以上に楽しいものだった。

愛らしさに日々癒され、失恋の痛手から立ち直った頃、奇跡が起きたのだ。

目の前の仔猫が、ある日突然少年の姿に変わっていた。

ただし、猫耳と尻尾を残して。


当時はまだ今より幼く小学校低学年くらいに見えた風太だったが、あれから少し成長したように思える。

身長も若干伸びたし、手足の骨格もしっかりしてきたようだ。

それでも仕草や物言いは相変わらず幼くて、庇護欲をかきたてられる。

風太のために仕事も変わり、住まいも変えた。

この半年がむしゃらに動いたおかげで、大口のクライアントもついて今はウェブデザイナーとしての仕事も順調だ。

二人でこの借家で暮らしていくのに、何の不自由もない。


ただ一つ困ったことは、風太の見た目である。

ハーフの子供のような顔立ちの風太は、ただでさえ目立つ。

おまけに猫耳と尻尾があるせいで、薄着を余儀なくされる夏場は外に出にくい。

せっかく良い季節なのに、外に連れて行ってやれないのは気の毒だが仕方がない。

下手に連れ回して、近所で噂にでもなったら大変だからだ。


だがそれも、寒くなったこれからの時期は気にしなくても済む。

猫耳は帽子で隠せるし、尻尾もゆったり目のセーターを着るかコートを羽織れば隠せるからだ。

冬はようやく二人で、あちこち出かけられる。

まずは買い物に、クリスマスの準備、美味しいものを食べて、遊園地に行って、それから・・・それから・・・

風太と過ごすこれからの日々を想像しただけで、いつの間にか笑みがもれてしまう恭介だ。


「きょうすけ、食べないの?」

「ん?あ、ああ、食べるよ」

「どうしたの?なに考えてるの?」


コテンと小首を傾げて見上げてくる姿は、殺人的な可愛さだ。

この世に風太以上に愛らしい子供なんていないのではないかとさえ、思ってしまう。

親ばかと言われようと、風太より可愛い仔猫も子供もいないと断言できる恭介である。


大根おろしを魚にまぶして醤油をかけると、白いご飯と一緒に頬張る。

ワカメと葱だけのシンプルな味噌汁を、ズゾゾとかっ込む。


やはり日本人は米だよな。

一汁一菜とは、昔の人はよく言ったものだ。

こういう健康的な食事こそが、現代人に必要なものなんだ。


うんうんと一人頷くと、目の前の仔猫の柔らかな髪をくしゃくしゃと撫でてやる。


「そろそろ寒くなってきたから、一緒に色んな所へ出掛けられるなと思ってたんだよ」

「お出かけ?!」


風太の白い頬が、薔薇色に色づく。

パァ~ッと瞳を輝かせたその顔は、期待で満ち溢れているようだ。

これまでずっと我慢していたのだ、当然と言えば当然だ。

庭から外には絶対に出てはいけないときつく言ってあるのだが、それでも風太は塀の向こうをいつも物欲しげに見つめていたのだ。


「そうだ、お出かけだ。風太の行きたいところに連れてってやるぞ」

「ホント?ふうた、うれしい」

「そうか、そりゃよかった」

「きょうすけとお出かけ、うれしいの」

「俺も風太と一緒に出かけられて嬉しいよ。今日はこれから昼過ぎまで仕事だが、午後は空いてるから散歩にでも出るか」

「おさんぽ!」

「一緒に散歩しような」

「うん!!」


元気よく魚を頬張る風太を、恭介はこれ以上ないというくらいに愛おしそうな目で見つめるのだった。


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