第2話「エデンの南」
2014年7月13日
東京都千代田区日比谷
日比谷公園
「……」
もう少しで日付が変わるという時間に、公園の一角にあるベンチに座る男がしきりに腕時計に眼をやる。武田宏司。現在の内閣総理大臣である。ベンチに座る男がしきりに腕時計に眼をやる。武田宏司。現在の内閣総理大臣である。
2010年5月、後に「ブラック・ウィーク」と呼ばれる世界同時攻撃で、東京は壊滅的な打撃を受けた。中でも日本政府の建物が集中する千代田区は特に被害が大きく、国会議事堂、各省庁の建物、そして旧自衛隊の市ヶ谷基地が破壊された。終戦から3年近く経過したが傷跡は大きく残り、現在も復興の途中である。そんな千代田区内にある日比谷公園の一角で、深夜であるにも関わらず、武田はたった1人でベンチに座っていた。
総理大臣であれば、外に出る際は必ずSPが護衛に就く。それはプライベートであろうと例外ではない。だが彼は現在、SPはおろか秘書すら傍らに置いていなかった。秘書や大臣の目を欺いて無断に外出し、よもや散歩というわけでもないだろうが。
「そろそろ時間だが、彼はまだ来てないのか……」
「どーも、総理」
「うわっ!……」
背後からの男の声に、武田は驚きの声を上げた。
男は木の陰に隠れ、その姿を見ることはできないが、武田は向こうにいる人物が誰なのかわかっていた。
「おっと、こっち向くなよ。そのまま前を見て」
「全く、君はいつもいきなり登場するな。私も今年で65だ。驚かされるのは心臓によくない」
「ここで倒れられちゃ困る。ちゃんと検診受けとけよ。で、話って?」
「すまない、何せ緊急なもので……ハンク・東條。君を呼んだのは他でもない」
武田は持っていた1枚の写真を男―――「ハンク・東條」の偽名を名乗る純に手渡した。
「……チャン・イェンシャン。表の顔は大手コンピュータメーカーのCEOだが、その正体は香港マフィアのボス。武器、女、ドラッグ。ポルノに殺人ビデオ。売れるモンは何でも売って手広く稼いでるって噂だ」
「よく知っているな。今回のターゲットはそいつだ」
「……こいつが死んだら、香港は大パニックになるぜ?『世界的に有名なコンピューターメーカーのCEO、暗殺される』なんて新聞に載っちまう。こんなことが起きたら……」
「世論のことは君は考えなくていい。イエスかノーかだけ言ってくれればいいんだ」
「ったく、俺は日本政府お抱えのスナイパーじゃないんだぜ?そんなことより、なんでいきなり消すことにしたんだ?そこを聞かなきゃ動けない」
武田は一呼吸置き、ベンチに置いていた缶コーヒーを一口飲んでから続けた。
「半年ほど前、新型のドラッグが日本に大量に密輸された。それが都内を中心に若者の間で流通している。マスコミは謎の薬物などと報じているが……」
「……『エデン』か。確かチャンの組織が開発したドラッグで、注射器も吸引機も必要としない錠剤タイプ。こいつを酒と一緒に飲むと、文字通り天にも昇った気分になれるとかなんとか」
「知っているのか!?」
「おいおい、俺の情報網を忘れたのか?アメリカ大統領の朝食のメニューまで俺は知ってんだぜ?もちろんあんたのも。今日のメニューは……」
「そ、そうだったな。依頼内容はチャンの暗殺と、国内の『エデン』製造工場の破壊だ。跡形もなく、な。やつは今、工場視察のためにこっちへ来ている。今月一杯は日本にいるらしい」
「わかった。口座に入金が確認され次第、仕事に入る」
「ありがとう。明日の朝一番で振り込もう。ちなみに場所は沖縄だ。工場の詳細な地図と見取り図はここに」
「確かに受け取った。……砂糖工場?」
「そう、表向きは砂糖の加工工場だが、裏ではエデンを製造している。もちろん製造工場はそこだけではないだろうが、とりあえず国内の拠点を叩けば、この国での流通は止められるし、組織のトップが死ねば空中分解とまでは行かなくとも、しばらくこの国に手出しはできんだろう」
「そう言えば先月おたくの放蕩息子が事故で死んだらしいが、それが理由か」
「……すべて、お見通しと言うわけか」
「そりゃそうだろう?日本で問題になってるとはいえ、一国のトップが依頼するような内容じゃない。警視庁辺りが依頼する内容だ。表向きは速度超過でトンネルに激突ってことになってるが、なるほど。エデンを飲ってたってわけか」
「ああ。あの悪魔のクスリが、息子を殺したんだ。しかも進んで飲んだわけじゃない。チャンの手の者に騙されて飲まされたんだ」
「それで、何か要求はあったのか?幹部の釈放とか、総理を辞任しろとか」
「いや、そのようなものは来ていない。だから不思議に思って調査させた。そこでわかったのが、息子が死んだのはただの偶然だったということだ。あいつは人の前では、妻の旧姓を名乗っていたからな。これは総理大臣としての依頼ではなく、1人の父親の、ごく個人的な復讐の依頼だ」
「……わかった。頼みがあるんだけど、陸自の輸送機で沖縄まで運んでくれないか?銃を持って飛行機に乗るのも毎回大変なんだ。チャーター機はアシがつくし」
「わかった。用意させよう」
「助かる」
「……本当は君のような若者に、こんなことは頼みたくはない。だが……」
武田は思わず振り向くが、既にそこに純の姿は既になかった。
「……相変わらず人の話を最後まで聞かないな」
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7月15日
沖縄県那覇市
陸上自衛軍那覇駐屯地
「ひぇ~、暑っちぃ……」
東京から自宅へ戻った純は装備を整え、そのまま新幹線で東京経由で福岡まで行き、そこから乗り換えて長崎の佐世保へ。佐世保の陸上自衛軍相浦駐屯地へ赴き、そこから輸送機で那覇駐屯地へ降り付いた。
純は駐屯地の正門を出るとサングラスをかけ、国道を走るタクシーを止めて乗り込んだ。
「那覇空港まで」
(さて、レンタカー借りて工場の「視察」に行くか)
空港に着くと、その足で空港前のレンタカー店舗でSUVを借り、純は那覇市街へ車を走らせた。
純がカーナビに搭載されたテレビでお昼のバラエティ番組を聴いていると、突然ニュース速報が字幕で画面上に入った。
『今朝未明、福岡県北九州市で身元不明の女性の遺体が発見される。警察の発表では、殺害されたのは昨夜1時過ぎ。遺体の傍には1枚の映像ディスクが発見され、福岡県警は『ムービーメイカー』による犯行と断定して捜査を進める方針。『ムービーメイカー』による被害者はこれで……』
「……またか」
純はそう呟いた
ムービーメイカー。2013年の9月に北海道で22歳のOLが殺害されたのを皮切りに、わずか1年足らずで27人もの人間を殺害した殺人鬼である。
どの被害者も見るも無惨な方法で殺され、死体の傍らに殺害の一部始終を記録したディスクを置いていくことから「ムービーメイカー」の異名が付いた。
(犯人の目的は一体何だ?個人を狙うこともあれば、家で団欒中の家族を皆殺しにすることもある。愉快犯……なんだろうな。単独なのか複数犯なのかすらわからないんじゃ警察もお手上げだな……。せっかく戦争が終わって平和になったってのに、物騒なことだ)
純の車は那覇市街を通り、郊外の工業団地へ到着した。
この団地は食料品を加工する工場が多く並び、その1軒がエデンの製造工場の隠れ蓑だというのが、武田が人を使って調査を行った結果である。
(もらった情報じゃこの辺のはずだけど……っと、あれか)
純は車を道路脇に止め、1件の工場を手の平サイズの携帯望遠鏡で覗いた。
工場から男が数人出てきて、横付けされたトラックから麻袋を持って再び工場へ戻って行く。更にその周囲を、数人の男が行ったり来たりしている。一見すれば工場の職員のようだったが、純はここが「エデン」を製造している工場だとすぐにわかった。
(うまく偽装しているようだが、俺から見ればお粗末なもんだ。ここが日本だからって、油断してないか?)
純がそう確信した理由は3つ。
1つ目は視界内の人間全員が日本人ではなく、大陸系の人間だということ。今のご時世珍しい光景ではないが、それにしたって、運送屋のトラック運転手までもがそうなのは偶然にしては出来すぎている。
2つ目は行ったり来たりしている男たち。脇の下が膨らんでいるのはどういうことか。これはショルダーホルスターに銃を隠しているということ。その証拠に、ジャケットの隙間からチラリと銃が見えた。あれは旧ユーゴスラビア製トカレフのM57。装弾数を増やすために、オリジナルのソ連製トカレフよりグリップが長くなっているのが特徴的である。
そして最後の3つ目。ターゲットであるチャン・イェンシャン本人が、自室であろう2階の部屋の窓から顔を出したということ。恐らくエデンの原料が注文どおり入ったのか確認でもしているのだろう。
(ターゲット確認……ん?あの窓……それにカーテン……)
純は双眼鏡をポケットにしまい、車のエンジンをかけた。
(決行は今夜だな)
純は市街へ戻るとネットカフェで夜まで時間を潰した。
7月16日
AM01:09
ネットカフェを後にした純は車へ戻り、昼に偵察した工業団地へ向かう。30分ほどで工業団地の入り口まで到着し、純は人目の付かないところへ車を停める。
「さっさと仕事終わらせて帰ろう。明日学校だし」
後部座席へ移り、そこに置いていた大型のアタッシュケースから金属パーツを取り出して組み立てる。
YHIファルシオンⅡ。矢島重工が開発した対物ライフルであり、使用する12.7ミリ弾の有効射程は2000メートルを誇る。
純は分解された状態で収納されていたファルシオンⅡを、ものの10秒ほどで組み立て、弾丸を入れたマガジンを装填した。
「状況開始」
突然、ポケットに入っていたスマートフォンが震えた。純はポケットからスマホを出し、画面を見た。そこには「着信 稲葉結維」と表示されている。純はライフルを置き、スマホの画面に指を滑らせる。
「もしもし?」
『あ、純くん。あたし』
「どうした?電話かけてくるなんて珍しいじゃん?」
『それより今何処にいるの?家の電気、着いてないけど』
「え?ああ、親戚の家に遊びに来てた」
『そうなんだ……』
純と結維の家は隣同士。いわゆる幼馴染である。純が8歳のとき、中東から来日してから小学校、中学校と同じクラス。高校は所属する学科が1クラスしかないため、3年間同じ。もはや腐れ縁である。
「で、どうした。何かあったのか?」
『うん。あのさ、8月20日に花火大会あるでしょ?一緒に行かない?』
「いいけど、2人で?」
『だってみんなカレシと行くって言うし、一緒に行って邪魔するわけにもいかないでしょ?』
「あらま、毎日のようにコクられてる十商のアイドルがカレシいないの?」
『モテる女も結構ツラいんだよ?』
「自分で言うな。……あー、その日なら日本にいるし、暇だから家にいるな。花火って19時からだったよな?迎えに行くよ」
『ありがと。夏休み忙しいって言ってたのに、ゴメンね』
「大丈夫、大丈夫。それに10年来の付き合いの友達の頼みじゃ、断るわけにはいかないだろ?」
『……そうだね。帰って来るのはいつなの?』
「19日の朝イチ。空港に到着するのは7時過ぎくらいだな」
『じゃあアタシ迎えに行く。で、その後付き合ってよ、色々買い物したいし』
「俺は荷物持ちですか?」
『そんなところかな?あ、これから朱美たちと約束あるから、そろそろ切るね』
「ほいよ。それじゃ19日に」
純は電話を切り、スマートフォンをポケットにしまう。
「……ふぅ。さてと、始めますか」
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十条市
結維の自宅
「じゃあアタシ迎えに行く。で、その後付き合ってよ、色々買い物したいし」
『俺は荷物持ちですか?』
「そんなところかな?あ、これから朱美たちと約束あるから、そろそろ切るね」
『ほいよ。それじゃ19日に』
電話の切れたスマートフォンを、結維は耳に当てたまま呟いた。
「……バカ。あれだけアピールしてんのに何で気付かないのよ?やっぱり幼馴染としてしか見てくれないのかな」
結維は机にスマートフォンを置くと、写真立てを手に取った。
写真には空港のロビーで撮ったのであろう。結維と、松葉杖を突いた軍服姿の純が写っている。日付は「2012.12.30」と表示されていた。
その日は第3次世界大戦が終結して1ヶ月、純が帰国した日だった。
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「……やっぱり窓は全部防弾。カーテンも最新の対赤外線素材でできたシロモノ。自分が命を狙われてるってことをよくわかってるじゃないか」
純はエデンが製造されている工場から1キロ程離れた廃工場の屋根の上にいた。
深夜の工業地帯というのは驚くほど人気がない。まるでゴーストタウンに迷い込んだかのような静けさだった。聞こえるのは虫の鳴き声だけ。
(とりあえず、今回の仕事は工場の視察に来ている張引章の暗殺。どこにいる……)
純はファルシオンⅡに搭載したスコープを覗いた。事前にスコープの調整は済ませてある。
(……アイツか)
純は昼に見かけた張引章の身体特徴を思い出し、カーテンの向こうにいる張を発見した。
純がファルシオンⅡのボルトを引くと、独特の金属音と共に、初弾が薬室に装填される。弾丸は徹甲炸裂焼夷弾。目標を貫通後、弾頭先端の焼夷剤に着火。次いで内部の爆薬が爆発し、更に第二の焼夷剤に火がついて周囲に高温の火を撒き散らす。50口径弾の威力も相まって、防弾ガラスなど紙のように穴を開け、更にカーテンを燃やして無力化することができる代物である。
「北北西の風、0.5メートル。気温30度、湿度81パーセント……」
スマートフォンのアプリで気象条件を調べ、スコープの十字線を調整するノブを回して微調整。
狙撃はただスコープを除いてトリガーを引けばいいというものではない。気温、湿度、風、様々なものが影響する。それらを考慮して微調整を行う必要がある。更に1キロ以上の長距離狙撃の場合はコリオリの力も考慮する必要がある。
地球は約24時間に1回転している。時速に換算して約1700キロ、いわゆる自転である。そのため発射された銃弾は着弾時に僅かに逸れる。着弾までの1秒と少しの間に地球が自転しているためである。これがコリオリの力。
気象条件やコリオリの力などを考慮し、狙撃を行う。その為狙撃兵には頭の回転スピードなども求められ、訓練期間も長いため、他の兵科より金も時間もかかる。
だが純には経験がある。中東アルラマザにいた頃はモシン・ナガンを持って狩りに出ていたし、第3次世界大戦では「ナイトメア」と呼ばれ恐れられる伝説のスナイパーであった。それらの条件を考慮することなど造作もない。
純は再びファルシオンⅡを構え、狙いを定めた。息を吐き出し、止める。
「……」
純が絞るようにトリガーを引くと、サプレッサーを装着したファルシオンⅡからこもったような発射音と共に弾丸が放たれた。
「ブツの生産ラインは順調だ。今回の生産分も、予定通り回せる。……ああ、それでは」
チャン・イェンシャンは電話をデスクに投げると、足元に眼をやる。机の下には下着姿の女が蹲り、張の陰部を口に含んでいた。
「いいぞ、それが欲しければ、もっと奉仕するんだ」
次の瞬間、防弾仕様の窓ガラスが砕け散り、同時に対赤外線カーテンが燃え上がった。
「きゃあッ!」
ガラスの砕ける音に女が驚き、着る物も持たずに部屋から逃げ出した。
「何だ!?」
チャンは引き出しから暗視望遠鏡を取り出し、割れた窓から外を見た。その先には、銃を構えた人影が小さくもはっきりと映っていた。
「ヒッ!」
チャンはデスクの裏に隠れ、ホルスターからハンドガンを抜く。
「クソ!どこの馬鹿が殺し屋なんぞ雇ったんだ!?」
ハンドガンのスライドを引きながら、張が1人ごちる。
―――いや待て。大抵の殺し屋は、報復を恐れて自分を殺そうなんて思わないはず。それだけの財力とコネ、それに力を有している。となるとあの窓の向こうにいるのは1人しかいない。
ヤツだ!『サンド・ラビット』とか呼ばれているスナイパー。ヤツに狙われて生き延びたものはいないと言われている。だがこの机に隠れていれば、ヤツとて見えない標的は撃て……待て。確かヤツに殺された標的は皆、無残な死を遂げていたという。まるで大口径のライフルで撃たれたかのような―――
次の瞬間、放たれた12.7ミリ弾が木製デスクを木っ端微塵に粉砕し、同時にチャンの頭部に着弾した。
12.7ミリ弾は強力な弾丸であり、先の大戦ではアメリカ軍の兵士がこの弾丸を使用するバレットM82で、1.5キロ先の敵を両断したとされている。それだけ強力な弾丸なのである。
チャンの頭部に着弾した12.7ミリ弾は頭部を貫通するだけでなく、頭部そのものを破壊した。
「……標的殺害」
純はファルシオンⅡをその場に置き、バッグからH&K社製のSMG、MP5KA4を取り出し、屋根から飛び降り、工場へ走った。
工場の入り口へ到着すると、純はドアをノックした。
『誰だ!?』
男が扉の覗き窓を開けると、純は待っていたかのように覗き窓にMP5KA4を向けた。
『ひぃッ!』
覗き窓が閉められるが、純は迷うことなくMP5KA4のトリガーを引いた。放たれた9ミリ弾が覗き窓の鉄板を貫通し、男の眼球を潰し、脳を貫いた。
純は扉を蹴破り、工場へ突入する。
「何だ今の音は!?」
「銃声だ!武器を持って来い!」
「おい誰か!!ボスに報告しろ!」
その後、工場の中は凄まじい光景になった。
銃声、怒号、悲鳴、そして沈黙。数分後、工場内で生きているのは純ただ1人だった。
「ここが倉庫か」
純は血や空薬莢の落ちる工場を慎重に進み、工場の一番奥にある鉄製の扉を開け、中に入った。中には薬物の入った布袋が所狭しと並んでいる。
「これだけのエデン、末端価格で10億円は下らないな」
純はショルダーバッグから粘土のようなものを取り出し、次々と麻袋にくっ付けていく。その粘土には金属の棒が刺さっていた。
純は工場から出てファルシオンⅡを置いた廃工場の屋根に戻ると、ポケットからリモコンを取り出し、スイッチを押した。リモコンから送られた電気信号が金属の棒、起爆装置を作動させ、工場に仕掛けられた高性能爆薬が産声を上げるかのように爆発した。
「状況終了。警察が来る前に撤収しないと」
燃えあがる工場を背に、純はファルシオンⅡとMP5KA4をライフルケースに片付けると、何事もなかったかのようにその場を後にした。
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同時刻
日本国内
某所
「ん……」
女性は目を覚ました。自分がどこにいるのか、何時なのかさえわからない。わかっているのは、目の前が真っ暗で、恐らく椅子に座っているであろうということだけ。
「ここは……え?」
女性は立ち上がろうとしたが、手足をロープで椅子に固定され、動くことができなかった。
「何?ここは何処なの!?誰かいないの!?」
女性が叫ぶが、返事はない。代わりに、目の前が急に明るくなった。女性は眩しさのあまり目を閉じるが、少しずつ目を開け周囲を確認した。見慣れない部屋。工具やダンボールが置いてあり、打ちっぱなしのコンクリートの壁に窓はひとつもない。ここはビルか、あるいは地下室であろうか。女性がそんなことを考えていると、急に男が姿を現し、女性の目の前にある椅子に座った。男はレインコートを羽織り、顔には目出し帽、そして目にはサングラス。だがそのサングラスにはカメラが付いていた。
「よく眠れたかな?えーっと……まぁ名前はどうでもいいか」
「アンタ誰?どうしてこんなことするの?」
男はその問いに答えず立ち上がると、バッグから何かの機械を取り出し、それを女性の顔に装着した。女性の視界が再び遮られる。
「え?何これ?」
「こういうものさ」
機械はコードが繋がっており、その先はパソコンのUSBに接続されている。そして男がパソコンを操作すると、女性の視界が再び戻った。だがその視界の先には、下着姿の女性が椅子に手足を拘束されてる。それは自分自身の姿であった。
「私のサングラスに付けたカメラの映像。つまり今君は、私の視界で物が見えているはずだ。面白いだろう?」
「そんなことどうでもいい!家に帰して!!どうしてこんなことするの?」
「何。ちょっとした恐怖を、みんなに味わってもらおうと思って」
男が鼻歌交じりにバッグを漁る。そして出てきた物を見て女性は恐怖した。刃渡り30センチはあるであろうサバイバルナイフ。その瞬間、男が何者なのか、そして自分がこれから何をされるのかを女性は知ってしまった。
「やめて!誰か助けて!!誰か!!」
「無駄だよ。この地下室は防音設計だ。それに、この家の住人はもう先に逝ったからね」
男が再びパソコンを操作すると、女性の視界の右上に「REC」の赤文字が表示される。
「いや……やめて。お願い。お金ならあげる。なんでもするから。お願い……」
女性の顔は涙と鼻水でグシャグシャにしながら懇願するが、男はそれに答えずナイフを振り上げる。
「やめt……」
男は躊躇うことなく振り下ろした。
「イヤァァァァーーーーーーーー!!!!!」
お読み頂き、ありがとうございます!
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