第17話「Rustung Jager-装甲猟兵-」
約1年半振りに投稿。遅くなりました。
ベルライヒの首都ですが、ドイツに同名の都市があったので、名称を変更しました。
2014年9月17日
ベルライヒ公国
アイントメーヘン郊外のサービスエリア
純の使用する、AACハニーバジャー。名前の由来は、アフリカや中央アジアに生息するイタチ科の動物ラーテル–––和名ミツアナグマ–––の英名である。雑食で、特に好物はハチミツ。世界一怖いもの知らずな動物として、ギネス・ワールドレコーズに認定されている。その性格は荒く、自分より大型の動物にも勇敢に立ち向かう。背中には柔軟かつ硬質な、ゴムのような皮の装甲を持つため、ライオンの牙や鉤爪でも、ラーテルに傷を負わせることは難しく、また、コブラなどの毒蛇が持つ強い神経毒にも耐性があるため、毒を受けても一時的に動けなくなるだけで、数時間後には何事もなかったかのように起き上がり、活動を再開する。このように分厚い皮膚と毒への耐性で、様々な攻撃を跳ね返すラーテルにあやかり、南アフリカ軍には「ラーテル」の名を冠した歩兵戦闘車があるし、恐らくAACも、この動物のタフさや勇敢さにあやかって、ハニーバジャーと名付けたのだろう。ちなみに結構愛くるしい顔をしている(筆者目線)。
本銃はM16やM4をモデルに開発された特殊部隊向けのアサルトライフルであり、その特徴は、銃身のほぼ全体を覆うほどの大型サプレッサーと、使用する専用弾薬、7.62ミリ口径の亜音速弾「.300AACブラックアウト」。この二つの組み合わせにより、驚くほど銃声が小さいのだ。
純がハニーバジャーを構え、取り付けたホログラフィックサイトを覗いてトリガーを引くと、サプレッサーの効果でこもったような銃声と共に弾丸が発射された。弾は吸い込まれるようにバンの荷台に飛んで行き、ミニガンの射手の頭部を貫き、脳漿を破壊する。同時にミニガンの掃射が止んだ。
「ガンナーダウン!」
次いで純は車の陰から走り出し、ハニーバジャーを指切りによるバースト射撃をしながら別の車の陰に隠れる。そこには頭を抱えてしゃがみ込む女性が、銃声が響くたびに悲鳴を上げていた。
「落ち着いて。俺が囮になるから……って、あんたは……」
そこにいた女性、いや少女は、今朝純に襲いかかり、返り討ちにあった。若者の1人だった。ここにいるということは、純のアドバイスどおり、彼氏と共にアイントメーヘンへ向かう途中だったのだろうか。
「おい!彼氏はどうした⁉︎」
「わかんない!コーヒー買ってくるって行ったきり……キャア!」
盾にしている車に着弾。その金属音で、少女は悲鳴を上げながら再び頭を抱える。純は舌打ちしながら身を乗り出して応戦。車から車へと隠れながら近付き、目の前に現れた敵の顎をストックで打ち砕き、素早くPx4に持ち替え、CARシステムのハイポジションで胸に2発、構え直してウィーバースタンスで頭に1発叩き込む。
CARシステムとは至近距離での射撃に特化した構えであり、ハイやエクステンデッドなど、複数の構え方がある。純が構えたハイポジションは、ハンドガンを胸の前で構えるため、ホルスターから銃を抜き、素早く撃つことが出来る。また、敵から見ると射手は横を向いているため、被弾面積が少なくなるというメリットもある。
そうして目の前の敵を始末し、再びハニーバジャーに持ち替える。
「合図したらあのバス停まで全速力で走るんだ。妊婦にはしんどいかもしれないけど、絶対に立ち止まったり、振り返るんじゃないぞ。いいな?」
純がそう言うと、少女は震えながらも首を縦に振る。
「よし」
純は尻のポケットからマガジンを抜き取り、ハニーバジャーに装填されているマガジンと交換。すかさず立ち上がり、こちらにライフルを向けていた男を倒す。
「行け‼︎」
少女が転びそうになりながら走り出すと同時に、純は少女と反対側、自分たちの乗っていた車へと戻る。倒すのが目的ではなく、自らが囮になるのが目的なので、銃声の小さいハニーバジャーからPx4に持ち替え、適当に撃ちながら走る。
「ただいまっと」
「この状況で女を助けるたぁガッツがあるな。日本ではこういうのなんて言うんだっけ?『フラグが立った』?」
駐日アメリカ大使館で仕事をするようになってから、日本のアニメにハマりつつあるジャガーノートであった。
「バカ言ってないで、今の内に装填しておけ。まだ10人もいるんだぞ」
銃声。ジャガーノートがKSGのトリガーを引き、敵を倒す。
「これであと9人。援護しろ」
純が援護射撃をしている間に、ジャガーノートは弾の入ったバッグを引きずり出し、中から12ゲージシェルを取り出してKSGに装填。リロードに手間のかかるポンプアクションショットガンの中でも、とりわけ手間のかかるKSGに素早く弾を込めるあたり、流石はCIAのエージェントといったところか。その間に純は1人、また1人と倒していく。
「完了!」
言うと同時にジャガーノートは立ち上がり、移動しようと陰から飛び出してきた敵に1発。12ゲージ散弾をもろに受け、敵は吹き飛ばされた。ジャガーノートがフォアエンドをスライドさせて次弾を装填すると、排莢口から排出された12ゲージシェルが、硝煙を吐きながら地面に落下する。
「弾切れ!」
純はそう言いながら、弾の切れたハニーバジャーをトランクに投げ入れ、Px4で応戦。最後の1人を無力化した。
「クリア!」
「ふぅ。何だってんだ、いったい。しかもこいつら、ベルライヒ人じゃないだろ」
「それはこいつに聞けばわかるだろ」
純は最後に無力化した男にPx4を向けながら答える。最後の1人は銃ごと手を吹き飛ばしただけで、殺してはいなかった。勿論尋問するためである。
「答えろ。誰に雇われた」
「フンッ……俺たちは、誰にも雇われていない。『サンド・ラビットに復讐する』。その為に手を組んだだけだ。金を出し合い、武器や情報を仕入れた。もっとも、一番金がかかったのは、お前の顔写真だがな。知ってるか?お前の顔が写った写真は、たとえピンボケだろうが、メルセデスのSクラス数台分の価値があるんだ。……そこでくたばってるジイさんは、お前に息子を殺されたそうだ。俺は、弟を殺された。俺たちはお前への復讐を計画するために、ロンドンに集まった。その日に、あの首相暗殺未遂のニュースだ。神に感謝したよ。俺たちが集まったその日に、お前がロンドンに来ていたことをな」
「(こいつら……首相暗殺未遂とは関係ないのか)……あの夜襲って来たのはお前たちか」
「ああ。俺たちだって裏の人間だ。独自のネットワークがあるから、一度捕捉してしまえば、見つけるのは難しくない。お前がアイレンベルクを探していると聞いて、飛んで来たんだ。……これからもお前が仕事をこなせば、それだけ俺たちのような人間が出てくるだろう。そしていつか誰かが、お前を殺すだろう。自分で手を下せないのは少々心残りではあるが、あの世で見届けさせてもらおう。俺ごと撃て」
男が無線機のヘッドセットに呟いた直後、けたたましい銃声と共に、男の上半身が吹き飛んだ。
「なっ……!」
純が驚きつつも銃声の方にPx4を向けると、トラックの荷台から3メートルを超える巨体が姿を現した。
「おいおい、マジかよ……」
大戦中、ヨーロッパやアフリカ、中東で恐れられた、ベルライヒ公国の科学の結晶。パワードスーツ、装甲猟兵。その手には専用装備の20ミリライフルが握られているが、チャージングハンドルをガチャガチャといじっている。弾詰まりでも起こしたのだろうか。
「車出せ車!ありゃやべぇ!」
純が叫びながら車へ走る。ジャガーノートも慌てて車へ乗り込み、数回セルを回してエンジンをスタートさせる。純はトランクからファルシオンⅡの入ったガンケースを持ち出し、後部座席に飛び込んだ。
「Go!Go!Go!Go!」
純が促すと、タイヤから白煙を上げながら後進する。駐車スペースから出て、シフトレバーをドライブに入れた次の瞬間、助手席に何かが突き刺さった。それは装甲猟兵が持っていた、20ミリライフルであった。ジャムって使えなくなったので、悪足掻きで投げたのだ。
ジャガーノートが突き刺さったライフルをみて唖然としていると、突然の銃声で我に我に返る。純がサンルーフから身を乗り出し、ジャガーノートが乗り込む際に後部座席に投げたKSGで牽制射を加えていた。だが、重装甲の相手にショットガンが通用するはずもなく、命中弾は全て弾かれた。
「何やってんだ!早く出せ!」
ハッとして、ジャガーノートはハンドルを切りながらアクセルを底が抜けるほど踏み付ける。
車がサービスエリアから逃げていくのを、装甲猟兵にパイロットは追わずに眺めていた。
見逃す気はない。サンド・ラビットに殺された、親友の無念を晴らさなければならない。
トラックの荷台に据え付けられたミニガンをトライポッドから引き抜き、ミニガンと給弾ベルトで繋がった弾薬箱と駆動用のバッテリーボックスを、肩のハードポイントに無理矢理取り付ける。そしてパイロットは装甲猟兵を歩行モードから高速機動モードへ切り替え、2人を追った。
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「撒いたのか⁉︎」
ジャガーノートは後ろでファルシオンⅡを組み立てる純に尋ねる。
「いや。前にアレのスペック表を見たことがあるが、『高機動モード』ってのがあるらしい。最高速は整地で100キロ。追っかけてくるだろうな」
「あの図体で100キロ⁉︎追いつかれたらこんなボロ車、あっという間に追いつかれるな。防弾装甲入れたせいで、スピード出ないし。装甲は?どの程度の強度なんだ?」
「12.7ミリなら、装甲をヘコませることは出来るらしい。戦うには、対戦車装備が必要らしい」
「クソ!俺たちの手持ちで一番威力があるのはファルシオンⅡだぜ?こんなことなら、アイレンベルクからRPGでも買えばよかった」
「いや、ヘコますことが出来れば十分だ」
組み立て終えたファルシオンⅡ–––高速で移動する敵を相手にするので、スコープは取り付けていない–––にマガジンを装填、チャージングハンドルを引いて初弾を装填する。
サンルーフから身を乗り出し、ファルシオンⅡのバイポッドを立てて構える。その視線の先には、膝を軽く曲げて移動する装甲猟兵の姿が。どうやら足の裏にホイールか何かが装備されており、それで走行しているようだ。
「おいでなすった。距離2000……ッ⁉︎アイツミニガン持ってるぞ!回避!回避‼︎」
ジャガーノートが車体を右に移動させる。その一瞬後で、今まで車が走っていた位置に、ミニガンから発射された7.62ミリ弾が着弾する。
「そのままジグザグに走り続けろ!窓が無いんだ、喰らったら終わりだぞ‼︎」
「了解!」
純たちの車がフェイントを入れつつ、ジグザグにそうこうしているのに対し、装甲猟兵はミニガンを撃ちながら、真っ直ぐこちらに向かって来る。徐々に距離が縮まる。しかし、突然攻撃が止んだ。銃身が熱を帯びすぎた。オーバーヒートだ。
「慌ててトリガーコントロールを怠るからそうなるんだ……!」
純はサンルーフから身を乗り出し、ファルシオンⅡのトリガーに指をかけ、照準を合わせる。
だがパイロットも素人ではない。この兵器の生体認証を持ち、この兵器を駆って大戦を生き抜いた1人である。
純がトリガーを引くタイミングを見抜き、機体を横に移動させた。
だが相手が悪かった。
確かに彼は、あの地獄を生き抜いた1人である。だが相手は「ナイトメア」と呼ばれた伝説のスナイパー。トリガーを引くタイミングで避けることなど、純にはお見通しだった。いや寧ろ、装甲猟兵が横移動するためのブラフだった。
僅かな挙動を見抜き、純はファルシオンⅡの銃口をほんの少し、右にずらした。そしてトリガーを引く。大音響と共に12.7ミリ弾が発射され、その弾丸はミニガンのバッテリーボックスを破壊した。立て続けにもう1発。次弾は装甲猟兵の右脚に命中。高速移動していた装甲猟兵はバランスを崩し、横転。数十メートル転がってから動きを止めた。
いくら装甲が頑丈でも、あれだけ転がれば中のパイロットには地獄であろう。運が良くて脳震盪で気絶。悪ければ意識が朦朧とし、吐瀉物で中は大変なことになっているだろう。
「止まれ止まれ!」
純がルーフを叩きながら叫ぶと、ジャガーノートがブレーキを踏み、タイヤから白煙を上げながら急停車。止まると同時に純はサンルーフから飛び降り、ファルシオンⅡを構えながら装甲猟兵に近付く。後続車が次々とやって来るが、目の前の光景に誰もが驚き、車線変更して逃げて行く。
純が装甲猟兵まで5メートルの位置まで近付いた。仰向けに倒れる装甲猟兵は微動だにしないが、純は警戒を解かない。
(あれだけ転げ回ったんだ。パイロットは気絶しているか、それとも……)
銃口で、倒れている装甲猟兵を小突こうと、純はゆっくりと近付く。その時であった。
突然装甲猟兵が起き上がった。純は咄嗟に後ずさり、ファルシオンⅡを構え直して発射。弾は頭部に命中し、大きなヘコみを作った。更にトリガーを引き、5発程頭部に叩き込むと、装甲猟兵は再び倒れ、今度こそ動かなくなった。
(脅かしやがって。もう動くんじゃねぇぞ……)
「おい!サービスエリアに到着した警察が、騒ぎを聞きつけてこっちに向かってる!早いとこズラかるぞ!」
警察無線を傍受したジャガーノートが車内から叫ぶ。ちっと舌打ちしてからファルシオンⅡのセーフティを入れ、純が急いで戻ると、ジャガーノートは車を急発進させ、その場を後にした。
「東條、アイツはどうなった?殺ったのか?」
「いや。でもあれだけ派手に転んで、尚且つ頭に何発かくれてやったんだ。意識があったとしても、俺たちを追うのは無理だろう。それよりケガは?」
「奇跡的に、かすり傷一つ無い。だが車は別だ。コイツでこれ以上移動するのは危険だ」
「確かに。窓は一枚も無いし、サービスエリアのカメラにバッチリ映ってるだろうしな。替えの車はあるのか?」
「ここから少し行ったところに、CIAのセーフハウスがあったはず。そこで替えよう」
「おいおい、いいのかよ。部外者の俺にバラして」
「緊急事態だ、仕方ないさ。だがお前に知られる以上、もう使えないがな」
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警察やレスキュー隊が続々とサービスエリアに到着する中、純に助けられた少女は、戦闘で破壊された駐車場を彷徨っていた。
周囲では、レスキュー隊員が撃たれて負傷した人たちの治療を行い、助からなかった人たちが遺体袋に収容されて運ばれて行く。
「……」
少女に中で、辛い記憶が蘇る。彼女の母と幼い弟は、連合軍の空爆の犠牲となり、父親も戦場に駆り出され、名前も知らない地で戦死した。途方に暮れて街を彷徨っていた時に、手を差し伸べてくれたのが彼、お腹の子の父親になる男だった。人を殺したことはないが、生きて行くために、悪いこともやった。だが人生に絶望していた時に、彼は希望を与えてくれた。彼無しでは生きていけない–––
(……!考えちゃダメ。あの中に彼はいない。今頃私を探してるはず……)
死体袋から目を逸らし、少女は彼が最後にいたであろうフードコートに入る。そこでは施設の一部を利用して、負傷者の治療を行なっていたり、怪我のなかった人たちは休んでいるか、駆けつけたマスコミからインタビューを受けていた。
「後にしろよ!車に残してきたガールフレンドを捜しに行くんだ!」
マスコミから向けられたマイクをどけながら、叫んでいたのは彼だった。怪我一つしていない彼の姿を見て、少女は大粒の涙を流しながら彼の名を叫ぶ。彼も少女に気付くと駆け寄り、お腹に負担をかけないよう気を使いつつ、抱き締める。この様子はカメラに収められ、その日のニュースで「奇跡の再会」と大々的に報じられた。
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