第16話「ワールド・レコード」
「"やれ"と言われたことを、可能な限り実行したまでだ」
フィンランド国防陸軍兵長"白い死神"シモ・ヘイヘ
2014年9月17日
ベルライヒ公国
工業都市・アイゼンバルト
純がこの街で調査を始めて2時間が経とうとしていたが、収穫は無し。マフィアについて街の誰に聞いても、「知ってるがよそ者には教えない」というあからさまな態度を取っていた。だがこれでいい。こうやって聞き込みを続けていれば、必ずマフィアの耳に「よそ者が探りを入れている」という情報が入る。そうすれば向こうから見つけてくれる。
「ヨォ兄チャン」
純がコンビニで飲み物を買おうとドリンクコーナーを物色していると、後ろから片言の英語で声をかけられた。振り向くと、そこには5人ほどの若者がヘラヘラと笑いながら立っていた。「ボクたちはチンピラです」といった風貌の男が4人と、「金さえ払えばなんでもするよ」といった風貌の女が1人。全員、純とほぼ同い年、といったところか。
「『ファミーリエ』ニツイて聞イテ回ッテルッテのハ兄チャンカい?」
純は冷蔵庫から取り出した缶コーヒーを戻し、首を振って若者に「外で話そう」と促す。3人が先に外へ出て、純の後ろに2人が立ってコンビニを出る。
「デ、ドウなンダイ?中国人ノ兄チャン。アンタガそウナノカ?」
「俺は中国人じゃねぇよ。確かに、俺はその『ファミーリエ』とやらを探してる」
純が訛りのない、ほとんど純粋なドイツ語を話したことに若者たちは一瞬驚いたようだが、言葉が通じたことで、彼らも英語をやめた。
ちなみに純がドイツ語を使いこなせるのは中東にいた幼少時代、父の戦友のドイツ人傭兵や、母の同僚にドイツ人がいたためだ。彼らから学んだのである。
「まぁ日本人だろうと韓国人だろうと、どうでもいいさ。何が目的だい?」
「働き口を探していたんだ。戦災から復興中のこの国には、チャンスが転がってるって聞いたんでな」
「そうか。実は俺たち、『ファミーリエ』の下で雑用みたいなことをしてるんだよ。アンタ面白そうだから、俺たちから紹介してやってもいいぜ?」
「それは都合がいい。探す手間が省けて助かる。案内してくれ」
「いいぜ。こっちだ、着いて来な」
若者たちが純を促す。そして歩くときはやはり純を囲んでだ。
(いいカモが見つかった。見た目からして金を持ってそうだし、裏に連れて行って脅してやれば金を出すだろ。無けりゃボコってウサ晴らしだ。にしても、バカな野郎だ)
(……とか思ってんだろうなぁ。はぁ、誘き出したいのはマフィアであってゴロツキじゃないんだがな。ま、これくらいのリスクは想定内だ。さっさと片付けよう)
純が若者たちについて人気の無い路地裏へ着くと、突然後ろから突き飛ばされた。無抵抗を装い、純はその場に転ぶ。
「な、何をする!?(棒読み)」
「黙れ」
男の1人が純に馬乗りになり、ナイフを首筋に当てる。
「財布を出して服を脱げ。そのスーツも高そうだ。もらってやるよ」
「バカな野郎だ。マジで『ファミーリエ』に会えると思ってたのか!?」
若者たちの下卑た笑いの中、純はまた一つ溜息を吐いて、ポツリと日本語で呟いた。「後悔先に立たず」と。
「ぐぇっ!」
純に馬乗りになっていた男が突然呻き、股間を押さえて倒れこんだ。純が膝で金的を蹴り上げたのだ。男が蹲る側で、純は静かに立ち上がり、スーツについた埃を払ってからニヤリと笑った。
「バカな奴らだ。マジで金を奪えると思ってたのか?」
「や、野郎ッ!」
純の背後の男がナイフを抜いて純に迫る。だが純はナイフが刺さる直前に左に避け、左腕でナイフを持つ男の右手を抑え、男に背を向ける形で振り返り、その勢いを利用し、右の肘を男の延髄に食らわす。手を離すと同時に、次いで襲い掛かってきた男の腹に右ストレートを1発。腹を押さえて膝を着いた男に近付き、髪を掴んで顔を上げさせ、鼻っ面に膝を叩き込む。そして素早く後ろを振り向きながらジャケットの裾を払い、ホルスターからPx4を抜き、片手で構える。目の前には、4人目の男が今まさにジーンズに差したリボルバーを抜こうとしていたところだった。
「オイオイオイオイ、銃はダメだろう。死にたくなきゃ手を離せ」
純の睨みに怯え、4人目は銃から手を離し、恐る恐る両手を挙げた。Px4を構えたまま4人目に近付き、ジーンズから銃を抜いて再び離れる。ちらと視線を左に移すと、女は腰が抜けたのか、座り込んだまま震えていた。よく見ると、お腹が少し膨らんでいる。
「太ってる……ってわけじゃないな。妊娠してるのか。父親は?転がってる誰かか?それともお前か?」
純が4人目に尋ねると、彼は首が取れるんじゃないかと思うくらいの勢いで、首を縦に振った。
「お前か。ったく、女まで巻き込むな。お腹の子供に何かあったらどうするんだ?」
純はPx4のセーフティをオンにしてホルスターに戻す。そして内ポケットからマネークリップに挟んだ紙幣を取り出し、数枚残して男の上着のポケットに押し込む。
「この銃を買い取る代金と、お腹の子への先行投資だ。マネークリップもブランド物だから、売ればそこそこの金になる。こんなバカな真似は辞めて、アイントメーヘンにでも行って真面目に働け。彼女とお腹の子供を守るのは、お前の役目だ」
純は手を挙げ続ける4人目の肩をポンと叩くと、リボルバーを分解し、弾の入ったシリンダーだけを外し、残りはゴミ箱に捨ててその場を後にした。
「結婚……するか?」
女は無言で首を縦に振る。ホールドアップをしたままの、あまりにも情けないプロポーズだった。
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1時間後
純が指定したドトールへ入ると、店には既にジャガーノートが来ていた。純を確認するや、手を挙げて純を呼ぶ。
「よぉ。こっちだ」
純は購入したホットコーヒーを片手に、ジャガーノートが座っていたテーブル席の対面に座る。
「で、東條。収穫は?」
「聞き込みでは無し。誰に聞いても『知らない』の一点張り。中にはどこかで話を聞いたのか、騙して金を取ろうとするバカもいた。そっちは?」
「こっちもだな。で、聞き込み『では』ってことは、別のことでは収穫あったのか?多分俺と一緒だと思うが」
「……入り口から数えて2番目のテーブルに座ってる3人。あの内1人は俺の後を尾けていた。ってことはあとの2人は、アンタを尾けてたんだろ?」
「当たりだ。ってことは……」
「ああ。多分釣り上げた。後は向こうが……」
純が言いかけたその時である。純たちが目星を付けた3人の男の1人が、スプーンでカップを3回叩く。その音が店内に響き渡ると、店員はバックヤードへ引っ込み、他の客たちは飲みかけのコーヒーをそのままに、店を後にした。残っているのは純とジャガーノート、そして3人の男だけ。その雰囲気に似合わない店内のスピーカーから聞こえる、店内放送の陽気なラテンミュージックの「ホイヤー!!」という掛け声に、純は少し吹き出した。
「お前たちか。我々を探っているのは」
男たちが2人に近付くと、純は振り返り、笑顔で「そうだ」と返す。その時男たちが一瞬、ほんの一瞬驚いた表情をしたのを、純は見逃さなかった。恐らく自分の顔を見て驚いたのだろう。それもそうだ。ついこの前取引をしたばかりの相手が、また姿を現したのだから。
「やっとそっちから見つけてくれたか。えらく手間取ったぜ」
「……ボスがお前たちと会ってもいいと言っている。着いて来い」
素直に従う純とジャガーノート。車に乗せられ、10分ほどで着いたのは高層ビルだった。社名は「アイレンベルク貿易」。ビルに入り、エレベーターで最上階へ。エレベーターを降りると、廊下を歩いて社長室まで行き、そこでボディチェックを受ける。当然、2人の銃は没収された。男の1人がドアをノックして開き、中へ入ると、高級そうなスーツに身を包み、書類に目を通す中年男性がいた。
「社長。例の2人組を連れて来ました」
「ん。ご苦労さん。後はいいから3人だけにしてくれ」
「い、いや、しかし……」
「大丈夫。彼らは私を殺しに来たんじゃない。君たちは外の見張りを頼むよ」
「……わかりました」
部下の男が渋々出て行くと、中年男性は書類に目を通しながら、2人に座るよう促した。だが2人はそれを断り、ジャガーノートは社長室に飾られた美術品を見て回り、純は壁を背に立った状態。
「失礼なのは重々承知しているが、仕事が立て込んでおりましてね。この状態でお話を聞かせて頂きますよ。ロンドンのニュースは見ましたよ、サンド・ラビット。ここへ来たと言うことは、追加注文ですかな?それと、単独行動を好むあなたと同行した、あちらの方も紹介して頂けますか?」
「……なるほど。あいつがここで俺の名を騙ったということは、やっぱりあいつはただのソックリさんじゃなく、俺に化けていたんだな、んで、この前来た俺が偽者だったとは、あなたは見抜けなかったようだな」
「……何?」
純の言葉に、書類にペンを走らせる中年男性の手が止まった。そしてその言葉も、どこか威圧感のあるものに変わる。
「考えても見ろよ。一度ここに来てるなら、こんな接触の仕方はしない。事前にアポ取るさ。確かにベルライヒ製の弾は品質が良いことで有名だ。けどそれ故にアシが付きやすい。それに、今のベルライヒは武器、弾薬の輸出入は条約で禁止されているから、手に入れるのはかなりリスキーだ。国連や米軍の厳しい監視の目をすり抜けて流通するんだからな。そんなリスクを犯してまで、お宅から弾を買おうとは思わない。そしてロンドンで騒ぎを起こしたのは俺の偽者だ。初めまして、『ファミーリエ』のボスさん。俺が本物のサンド・ラビット、ハンク・東條だ。連れは……聞かないほうがいい。今回の件で某国が寄越した人間、とだけ理解して欲しい」
「……成る程。それがもし本当なら、こちらも挨拶をしなければ。改めて初めまして、ミスタ・ハンク・東條。私はアイレンベルク貿易のCEO、ユルゲン・アイレンベルクです。まぁそれは表向きの顔で、裏ではあまり人様に言えない商売もしております。本日の用件は……聞くだけ野暮、ですな」
「俺の偽者が使用した5.56ミリのカートリッジを追って、ここまで来た。情報が欲しい。勿論タダとは言わない。謝礼は用意している」
「成る程、成る程。話はわかりました。ですが……それはベルライヒ王朝初期の貴重な品だ。手を触れるのはご遠慮願いたい」
アイレンベルクはペンをテーブルに置き、顔を上げてジャガーノートを見る。視線の先では、ジャガーノートが古い壷を手に取って眺めていた。アイレンベルクに指摘され、ジャガーノートは慌てて壷を元に戻す。純が視線で「余計なことをするな」と訴えると、ジャガーノートは「スマン」といった感じで苦笑い。
「ですが、今日初めて会った人間にそんなことを言われて、あなたは信じますか?私は信用しない。そこで、簡単なゲームをしませんか?あなたが本物のサンド・ラビットだと、証明できるゲームです」
「……まさかとは思うが、証明する為に誰かを狙撃で暗殺しろ、なんて言わないよな?それなら俺は帰らせてもらう」
「狙撃は正解ですが、人は死にません。これから部下を使いに出して、街のどこかにマン・ターゲットを設置させます。それをこのビルの屋上から撃ってください。勿論安全には十分配慮します。いかがです?」
「……それでいいのか?そんな条件で」
「しかし。あなたはあの『ナイトメア』と呼ばれた日本の狙撃兵にも匹敵し、不可能を可能にすると言われる、伝説のスナイパーだ。それ相応の条件は付けさせて頂く」
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30分後
アイレンベルク貿易ビル 屋上
高さ156メートル。36階建ての高層ビルであるアイレンベルク社の屋上で、純は購入したばかりのファルシオンⅡを組み立てていた。
「おい東條。二つ返事でOK出してたけど、本当にできるのか?」
「はっきり言って、自信なし。買ったばかりの銃に、狙撃には最悪のコンディション。そして目標までの距離。多分99パーセント外す」
「おいおい……」
「ったく、何が『簡単なゲーム』だよ……」
アイレンベルクが純に課した条件。それは「世界記録の更新」であった。
現在、この世界での狙撃の最長記録は戦時中、2011年のアフガニスタン南部、ヘルマンドでの戦いで記録された、ドイツ兵による狙撃。使用銃器はフランスPGMプレシジョン社製アンチマテリアルライフル、ヘカートⅡ。記録は2816メートル。アイレンベルクの部下は、それを超える2827メートル地点にある、アイレンベルク貿易所有の物流倉庫の屋上にマン・ターゲットを設置した。
「しかし遠いですなぁ。スコープで見ても、的が点にしか見えない」
そう言うのは純の横で、スポッティング・スコープを覗くアイレンベルク。その後ろには、銃を持った護衛たちが待機している。
「さて、あなたに渡す弾は5発。5発中、1発でも当てることが出来れば、あなたが本物だと信用しましょう。いつでも始めて頂いて構いません」
先のアフガニスタンで記録された世界記録。これは気候などの条件が味方してくれたお陰と言ってもいい。空気の薄い高地だったので弾丸の空気抵抗が少なかったため、射程距離が伸びたのだ。だがここは平地。しかも港湾都市でもあるので海が近く、海風が激しい。そんな不可能に近い条件で、世界記録を塗り替えろというのだ。
「やるしかないだろ。可能性はゼロじゃない。たった1パーセントでも可能性があれば、俺には充分だ」
純は組み立てたファルシオンⅡに、12.7ミリ弾が装填されたマガジンを差し込み、伏せ撃ちの状態に移行し、ボルトを引いて初弾装填。
「風速8メートル。気温……」
「観測は必要ない。気温、湿度、高度、風速。合致した」
スコープのノブを少しクリックし、修正。セーフティを解除し、トリガーに指をかける。僅かな深呼吸の後で呼吸を止め、静かにトリガーを引き絞る。
発射。
銃声、というにはあまりにも大きな爆音がビルの屋上に響く。弾丸は音速を超えて飛翔し、数秒後、マン・ターゲットの左50センチほどのところに着弾。屋根に大穴を開けた。
「……惜しいが、外しましたな。あと4発」
「いや、次で決める」
「はッ!?お前何言って……」
「集中したいから黙ってくれ」
そう言われて口を閉じるジャガーノート。そしてアイレンベルクから借りた双眼鏡で的を見る。
純はスコープのノブを調整し、覗く。そして全神経を狙撃という行為に集中させた。恐らく仕事のときでもここまで集中していない。何故なら周囲に敵がいないか警戒しているからだ。それほどこの狙撃には神経を使う必要があるということだ。レティクルを点にしか見えないマン・ターゲットに合わせて深呼吸をし、トリガーを引く。
再び銃声。次の1発はマン・ターゲットに命中し、粉々に粉砕した。
「……」
「……スゲぇ」
呆気なく達成された、記録には残らないであろう世界新記録に、純以外の人間は唖然とした。
純が2発目で決めると宣言し、実行できた理由。それはファルシオンⅡを構えた時のフィーリングである。前使っていたファルシオンⅡよりしっくり来るし、手に馴染む気がした。構えた時の一体感が前の物よりも感じられた。
(ふむ。このファルシオン、前のより相性がいいな)
調達してくれた武器商人に感謝しつつ、ファルシオンⅡから弾とマガジンを抜き、素早く分解してケースに片付けた。
「さて。これで約束は守ってくれるんだろうな?ミスタ・アイレンベルク」
「……これは信用せざるを得ませんな。ここまでのものを見せられては……東欧です」
「東欧?」
「はい。東欧のベラルーシ。私から商品を買う際に、『ベラルーシでも仕事をするから、その分も買う』と言っていました。奴が私から買った物は5.56ミリNATOを300発、コルトM733、それと7.62ミリNATOを1000発と、エアハルト社のFG-6です」
「エアハルトFG-6……ベルライヒ陸軍の降下猟兵用に開発されたアサルトライフルか」
「だな。そんなことより、奴の次の目的地がわかったんだ。奴が動き出す前に、見つけ出す」
「すまない、ミスタ・東條。知らなかったとは言え、私が奴に銃を売ったことで、結果として君に迷惑をかける結果になってしまった」
「いや、あんたは仕事をしただけだ。騙されたあんただって被害者なんだ。偽者を見つけて、あんたを騙した分もオシオキしてやるから。にしても……」
「……何です?」
「いや、最初会ったときから思ってたんだが、あなたはあんまりマフィアっぽくないなと思って……」
「マフィア……ね……」
アイレンベルクは懐のシガーケースからタバコを1本取り出し、火を点けて一息。
「私はね、ミスタ・東條。自分がマフィアだと思ったことは一度もないんですよ。ま、やってることは犯罪ですが。だがそれも、この国を1日でも早く復興させたいからなんですよ。世界に戦争を勝手に仕掛けて、勝手に負けた国の人間が言うのも変な話ですがね。でも、それでもやっぱりここは私の生まれた国なんです。私の育った土地なんです。この街の人たちに笑顔が戻るなら、自分が悪事に手を染めることも厭わない。そう思い、私は賛同してくれる仲間を集め、裏で武器商人を生業にすることを決めました。あなたはどうなんです?どうしてこの仕事を?」
「………………」
アイレンベルクの質問に、純が答えることはなかった。
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4時間後
フリーウェイ
アイントメーヘン郊外のサービスエリア
「ほらよ、コーラ買ってきた」
アイレンベルク貿易を後にし、アイントメーヘンへ向かう道中のサービスエリアで休憩中の純。ジャガーノートが、コーヒーの入った紙コップと瓶入りコーラを持ち、車に戻ってきた。助手席に乗り込み、コーラを純に渡してからタバコに火を点ける。
「おお、悪りぃ。しかし、奴はベラルーシで何をする気だ?あそこに何がある?」
車のドアを開け、バックドア金具に王冠を引っ掛けて瓶を開けながら、純は呟く。
ベラルーシ共和国。日本人にはあまり馴染みの無い国であるが、東欧に位置する共和制国家であり、東にロシア、西にポーランド、南にウクライナ、北西にリトアニア、ラトビアと国境を接する、旧ソ連から独立した国である。首都はミンスク。ジャガイモの消費量世界一。また、美女が多いことでも知られ、モデルになるためには国家資格が必要なほどである。
「さあな。また政治家でも狙うんじゃないか?」
「勘弁してくれよ。指名手配で追われるのはもう勘弁だ」
「まぁ頑張れや。パリまでは着いて行ってやるよ」
「パリまで?別の仕事でも入ったか?」
「まぁそんなところだ。東京に戻って来いって、さっき課長から連絡が来た」
「あっち行ったりこっち行ったり、大変だな……なぁ。今停まった2トントラック。やけに荷台が沈んでないか?2時の方向」
純が視線で促すと、その先にはファンシーなミツバチのイラストが描かれたトラックが停まっていた。純とジャガーノートの乗る車との距離はおよそ50メートル。
「あのハチミツ坊やのトラックか?確かに……超過貨物だな。ハチミツを詰めすぎたんだろう」
「にしたって、あんなに荷台が沈むか?で、今考えたんだが、もし俺が何らかの理由でこの車を襲い、中の人間を始末するなら、あそこに車を停める。着かず離れずのいい場所だ。それなりの人数と重火器積めば、重くなるだろ?ついでに言うと、フリーウェイに乗ってから、ずっと後ろを走ってたんだ。警戒するに越したことは無い」
「なるほどねぇ……」
そう言うと、純とジャガーノート顔を見合って一斉に車から降りる。そして伏せながら後方のトランクへ移動する。
「急げ急げ急げ。奴らすぐに気付くぞ」
純はトランクを開いて一番最初に目に付いたAACのPDW、ハニーバジャーにマガジンを装填し、ジャガーノートはケルテック社のポンプアクション式ショットガン、KSGに弾を込める。
純がちらりとトランクの端から顔を出すと、トラックから降りた男が荷台を開け放っていた。荷台の中から、三脚に搭載されたM134「ミニガン」が顔を覗かせた。
「やっべッ!ミニガンだ!」
純が叫ぶと同時に2人はその場に伏せる。その直後に銃声。
M134「ミニガン」は、アメリカで開発された6本の銃身を持つガトリングガンである。恐ろしいのはその連射速度であり、最大で毎秒100発の7.62ミリ弾を発射する。被弾すれば、痛みを感じる前に死んでいるという意味で、無痛銃とも呼ばれる。
サバ部の部員、神谷が持っていたミニガンはこれをモデルアップしたものだ。勿論、前述の通り、実銃は個人携行は不可能だ。
凄まじい速度で連射される7.62ミリ弾が、周囲の車や通行人を紙のように千切り飛ばす。発射音も「ズドドド」ではなく、「ヴォォォォォ」と、低音で唸る肉食獣のようだ。だが流石はCIAの用意した車。車体にへこみは入るがそれ以外は無傷だった。だが窓はそうはいかず、いくら防弾ガラスでも、無数の弾丸に耐え切れずに破られてしまった。
サービスエリアが阿鼻叫喚の地獄と化す。射線上にいた何人かが犠牲になり、車も数台爆発する。それが銃撃によるものだと気付いた人々が逃げていく。そして純とジャガーノートがミニガンに釘付けにされている間に、トラックから武装した男が数人、荷台から降りて展開する。
「このままじゃ犠牲者が増えるだけだ!俺がガンナーを撃つから、アンタは援護を!」
「了解!」
純がハニーバジャーのボルトを引き、ジャガーノートがKSGのフォアエンドをスライドさせてそれぞれ初弾を装填すると、お互い目を合わせて頷き合う。
「3カウントで行くぞ!3、2、1!」
ジャガーノートが車の影から身を乗り出し、KSGを撃ってミニガンを引き付ける。その隙に、純は反対側からハニーバジャーを突き出し、トリガーを引いた。
お読み頂き、ありがとうございます!
感想、ご意見、ご指摘大歓迎でございます!
また、16話投稿に合わせて人物紹介を更新致します。




