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Rising Sun  作者: UZI
第4章「クリプティッド」
16/22

第13話「デス・ワーム」

2014年8月22日

モンゴル

ウヌムゴビ県

ゴビ砂漠のオアシス


「オルゴイ・コルコイ?」


 純は連れて来られたオアシスの一番大きな家で水と食べ物を譲ってもらい、たらふく食って飲んだ後でこのオアシスの長と、先程純を保護してくれた男たちに巨大ミミズに遭遇してから今までのことを話した。だが「自分は暗殺者で、仕事を終えて砂漠越えしていた」なんてことを馬鹿正直に言うわけもなく、そこら辺はごまかした。彼らも「この男は何かワケアリなのだろう」と思ったが、それ以上は追求しなかった。そして純が「あの化け物はなんなのだ」と聞いたところ、上の名前が出てきたのだ。


「そうだ。これは我らの言葉で『腸の虫』という意味だ。見た目が腸に似ているだろう?『アレ』は毎年この時期に現れ、砂漠のあらゆる生き物を襲い、捕食する。光の弾を飛ばして相手の動きを封じ、毒液で溶かす。外国の調査団も数百年前から何度も来ているが、例外なく全滅させられた。我々はこのオアシスで暮らし、この時期になると女や子供を都会に避難させ、『アレ』の狩場に入り、襲われた旅の者を助けていた。『アレ』に見入られ、命を落としたものは大勢いる。確か海外では『モンゴリアン・デス・ワーム』などと呼ばれているらしい」

「大層な名前だな(中二病かよ)……で、一体どうすれば倒せる?俺の持っている銃では歯が立たない。対抗できる銃も溶かされた」

「……悪いことは言わない。止めておけ。『アレ』に挑んで帰ってきた者は1人もいない。不思議なことに、『アレ』はこのオアシスには近付かない。だから我々は、人助け以外ではこのオアシスから出ることはない。あと1ヶ月もすれば『アレ』は砂から出てこなくなる。それまでここで待つのだ」

「1ヶ月!?悪いが俺はここでそんなに足止めを食うわけにはいかない。帰らなきゃいけないんだ。アンタたちに迷惑はかけない。銃を譲ってくれ」


来週には新学期が始まるし、仕事の依頼も立て込んでいる。何より結維を守らなければならない。こんなところで1ヶ月も過ごせるわけがなかった。長は最初渋っていたが、純の意志が強いとわかると、長は男に銃を渡すよう言った。男は武器庫からライフルを1挺持って来ると、弾薬と予備のマガジン―――ではなく弾薬クリップと共に純に渡した。


「また随分な骨董品を……」


 そう言いながら純が受け取ったライフルはM1ガーランド。第2次世界大戦でアメリカ軍が制式採用していたライフルで、発射方式はセミオート。


 当時、世界の軍隊の主力ライフルはいずれもボルトアクションのライフルであった。だがアメリカだけは唯一、全軍にこのM1ガーランドを配備することができた。これは技術やコスト、弾薬の供給が理由である。当時の技術で自動装填式のライフルを造ることは高い製造技術を必要とし、製造コストもボルトアクションライフルより増大する。そして、銃を自動化するということは、その分弾薬の消費も増えてしまう。本国で大量生産された弾丸を、少しでも早く前線へ運ぶ必要があった。それらの条件を全て満たしていたのは世界で唯一、アメリカだけであった。ドイツやソ連も生産はしていたが、ソ連はまとまった量が生産されたが、設計が未熟でボルトアクションライフルから更新されるに至らず、ドイツは製造工場が空爆されるなど、まとまった量が供給できなかった。これは、当時はまだ同製品間での「規格」という概念が確立されていなかったためである。例えば複数の職人が同じ銃を同時に完成させた場合、職人が部品のサイズを微調整せざるを得なかった。今日(こんにち)では当たり前となっている「規格」の概念がなかったためである。なのでその銃を戦場に持って行き、壊れてしまってもパーツに互換性がないので修理できないという事態が起きていた。これを世界で最初に解消したのがアメリカであった。ネジの1本1本、バネの一つ一つを規格化することで互換性を持たせることで現地での修理を可能にし、同時に生産性も向上させた。

 M1ガーランドとは「持てる国」「資本主義の合理性」「大量生産大国」「銃器大国」という「アメリカ合衆国」そのものを体現したような銃だったのだ。


 純は渡されたM1ガーランドを受け取って確認する。年数はかなり経っているが、よく手入れされており、使用に問題はなさそうだ。


「砂漠を越えるには馬も必要だろう。1頭連れて行くがいい」

「……感謝する」


純はガーランドと弾薬を受け取ると、ポケットからマネークリップに挟んだ100ドル札の束を取り出し、数枚だけポケットに戻して残り全てをテーブルに置き、家を出た。無人のオアシス村を進み、水場でキャンティーンに水を満たす。



(……とは言ったものの……)


水を入れ終えた純はM1ガーランドのボルトを後退させ、開いたレシーバー上部から30-06スプリングフィールド弾が8発装填されたクリップを押し込んだ。するとバネ仕掛けで後退させたボルトが戻り、弾が装填されるはずなのだが、ボルトは後退したままだった。仕方なく右手でボルトハンドルを下から上に向けて叩くと、ボルトは前進し、弾が装填された。


(あんな得体の知れない化け物、どうやって倒せばいいんだ?電撃で遠、中距離、毒と捕食で近距離攻撃。アウトレンジから狙撃しようにも、ヤツは砂の中……ちょっと待て。あいつ確か、目がなかったよな?ならどうやって得物を捕捉する?)


「待て、旅の者」


馬に乗ろうとしていた純が振り向くと、純を助けた男たちが家から出てきた。純を助けたとき同様、いや、それ以上に武装している。


「あんたたち、まさかとは思うが付いて来る気か?」

「ああ。俺たちもあの化け物には散々苦しめられてきた。お前がアレを退治してくれると言うなら、力になろう」


純は男たちに目を向ける。手にしているのは初期型の56式やFN社のFALなど、所謂第1世代のアサルトライフルだった。1人だけ、リーダー格の男がベルライヒの最新鋭ライフル、StG-5を持っていた。それに各国の手榴弾やダイナマイト、グレネードランチャーなど。


(何処で手に入れたんだ?ベルライヒ製の銃なんて、裏じゃそうお目にかかれるものじゃないぜ?ってかそっちを俺によこせよ)


「……付いて来るのはおたくらの勝手だが、命の保障はできないぜ?」

「我々、元より死は覚悟の上だ。この砂漠に平穏が訪れるのなら、喜んで命を差し出そう」



2時間後

 純はリーダー格の男に、「この辺りで一番大きな岩場まで案内してくれ」と頼み、移動した。徒歩で、である。


 というのも、出発しようと馬小屋へ行ったところ、馬たちが暴れだし、手に負えなかったのである。「こんなことは初めてだ」と誰かが言った。本能的に危険を察知したのであろうか。とにかく馬での移動は諦め、徒歩で向かった。


やってきたのは岩場と言うよりは遺跡であった。すっかり風化してしまっているので、いつ頃のものなのか、どの文明のものなのかは判別できないが、辛うじて建造物として使用されていたであろう石や岩がそこかしこに点在していた。もっとも、判別できるほど残っていたとしても、純にそんな知識はないのだが。


「旅の者、ここで腸虫を迎え撃つのか?」

「ああ。アイツには『目』がなかった。ってことはとんでもなく耳がいいか、蝙蝠みたいに電波で得物を捉えてるってことだ。地中に潜ると電波は弱くなって使えないだろうから、恐らく前者だと思う。だからここから少し離れた所で派手に騒いでアイツを誘き寄せ、姿を現したところをこの岩の上から狙い撃てばいい」


もちろん、この作戦が成功する保障などどこにもない。この広大な砂漠で、デス・ワームはこちらを補足してくれるのか?上手くこちらの策に乗ってくれるのか?いやそもそも、もうこちらの動きはあいつに補足されていて、こちらが油断するのを砂の中で待っているのではないだろうか?考えればキリがないし、今はこの方法しかない。


 純はオアシスの住民から分けてもらったダイナマイトを持って岩から降りた。そして300メートルほど離れた場所でダイナマイトに火を点け、思い切り投げた。と同時に、遺跡に向かって全力疾走する。


 数秒後、純が岩に飛び乗るとほぼ同時にダイナマイトが炸裂し、大音響と共に砂が舞う。風で砂が飛んできたので、首のシュマグを上げて口と鼻を覆う。


(来やがれ、ツラ見せろ。出て来い、ガーランドが待ってるぜ)


純は岩の上で伏せ、M1ガーランドのトリガーガードに取り付けられたセーフティを解除し、デス・ワームが現れるであろうダイナマイトの爆心地に照準を合わせる。


1分……2分……3分……時間は過ぎていくが、デス・ワームは姿を見せない。焼けるような外気にじわじわと体力を奪われていくが、純は辛抱強く待った。


 ―――13分経過。五感と神経を研ぎ澄まし、レーダーの如く周囲を警戒していた純が突然起き上がり、M1ガーランドを後方へ向けて叫んだ。


「くそ!後ろだッ!!」


純以外の全員がその声で後ろを振り返る。純から一番離れた所にいた男が悲鳴を上げる間もなく、デス・ワームに丸呑みにされた。一瞬の静寂の後、純がガーランドを発砲したのを皮切りに、男たちもデス・ワームに銃を向けてトリガーを引く。数発は命中した手ごたえが合った。だがデス・ワームはお構いなしに砂を撒き散らし、地中に潜る。


(しくった……完全にしくった!あんなにギリギリまで気配を感じられないなんて、なんて化け物だ……!)


 中東で幼いころから狩に勤しんでいた純は気配を、特に殺気を察知することに関しては常人より優れていたし、自分でもそうだという自負があった。本気になれば1キロ先から狙われていても察知できるという自信があった。それ故だろうか、彼は世の中には上がいるということを失念していたのだ。さらに灼熱の砂漠に長時間いることで、知らず知らずの内に集中力が低下していた。言ってみれば純は油断していたのだ。その結果、1人が死んだ。


 悔やむのは後だ―――純は自分にそう言い聞かせ、弾切れになったガーランドに新しいクリップを装填する。


「そっちは足場が狭くて危険だ!こっちへ来い!飛び移れ!」


男の1人が叫んだ。すると小さい岩場にいた男が頷き、岩場の端まで移動した。


「よせ!振動でアイツに気付かr……!」


純が叫ぶが遅かった。男が飛び上がった瞬間、待っていたとばかりにデス・ワームが地中から顔を出し、下半身を飲み込み、腹部に噛み付いた。


「がッ……!」


デス・ワームは撃たれまいとすぐさま地中に潜るが、噛み付かれた男の上半身は砂から出たまま。


「野郎……下半身だけ食いちぎって、俺たちに見せ付けてるつもりか……」

「いや、もしかしたら噛み付いたままで、俺たちの様子を探っているのかもしれない」


「う……くそ……」


デス・ワームに噛み付かれた男は虫の息だが、辛うじて生きていた。だが砂に潜った下半身を動かそうとすると激痛が走る。ヤツはまだ自分を咥えたまま離していない、男はそう理解した。


「虫め……楽しんでいるのか……?ただでは……死なんぞ」


男が最後の力を振り絞り、ベストの破砕手榴弾(フラグ・グレネード)のピンを抜いた。同時に安全レバーが飛んでいく。


「クソ虫……め……お前……も……道……連れ……」


男が全てを言う前に事切れた。だが約5秒後に手榴弾は炸裂し、他の手榴弾やダイナマイトに誘爆する。そうすればいくら地中のデス・ワームでも生きてはいられない―――はずだった。


 再度デス・ワームが地中から姿を現し、首を振る。そして首を振り切ると同時に顎に力を入れ、咥えていた男の身体を食いちぎった。男の上半身が宙を舞い、ボトリと音を立てて岩に落ちる。そこは遺跡の中で一番大きな岩で、その上には男が3人、周囲を警戒していた。


「え?」


手榴弾が炸裂。岩場の3人は即死。純とリーダー格の男も衝撃波で吹き飛ばされた。



ブラックアウト――――――



---------------------------------------------------------------------------


 どれくらい気を失っていたのか?数秒?数分?純は顔を上げた。

 衝撃波の影響で体中痛いし、これまた衝撃波の影響で「キーン」という音が頭に響き、周囲の音が殆ど聞こえない。


―――生きている―――。そう理解した純は起き上がり、武器を探す。


(ガーランド……バレルがひしゃげてる。Stg-5……バラバラだ。ブルーパー……ストックが折れてる)


純は迷わずブルーパー、M79グレネードランチャーを拾う。ご丁寧に40ミリグレネードも2発、近くに落ちていた。これも拾う。


ブルーパーを持って立ち上がり、フラつきながらロックを外して銃身を折る。


 M79は単発式のグレネードランチャーである。銃身とストックが蝶番で接続されていて、ロックを外して銃身を折り、銃身後部から弾を装填する。単純な構造のため、メンテナンスが容易なため、採用している国は多く、開発国のアメリカ軍も一部はまだ現役である。


 純は装填された40ミリグレネード弾を取り出して確認。撃てることを確認して弾を銃身に戻し、ブルーパーの銃身を元に戻す。拾った2発の弾はポケットに入れ、ブルーパーを左手に持ち替え、右手でレッグホルスターのコルトパイソンを抜いた。


(虫野郎は何処行ったんだ?爆発にビビって隠れたか?)


「うぅ……」


咄嗟に呻き声のした方へパイソンを向ける。岩の向こうから聞こえたようだ。純はパイソンを構えたまま、足を引きずって移動する。


「やぁ旅の者……無事だったか」


いたのはリーダー格の男だった。外傷は見当たらないが、どこか内臓でも痛めたのか、口からは僅かであるが血を流している。


「あんたもな。お互い、ボロボロだが」


純はパイソンをホルスターに戻し、リーダーの肩を抱えて持ち上げた。


「フッ……どうやら生き残ったのは我々2人だけのようだ。だが俺は動けそうにない……。旅の者、お前だけでも逃げるんだ。俺が……ヤツを引きつける」

「喋るな、アンタも相当やられてるんだ」


純はリーダーに肩を貸しながら移動し、周囲を見渡す。

 爆発に巻き込まれた3人の男の血や肉片、焼け焦げた臭いで地獄のような有様だった。瞬間、純の脳裏に過去に体験した地獄がフラッシュバックする。


 銃声、爆音、怒号、悲鳴。友軍と敵軍の血で真っ赤に染まる海岸。爆音で目を覚まし、起こそうと肩を揺すったら、爆風と破片で顔が判別できないほどグシャグシャになっていた小隊の仲間。IED(路肩爆弾)から自分を守るために爆発に巻き込まれ、下半身が吹き飛ばされ、上半身だけの姿で家族に宛てた遺書を託す小隊長。スコープの先に映るのは、自分の命を狙うためだけにベルライヒから派遣された女スナイパー―――


 純は頭を振ってフラッシュバックを打ち消した。こんなものを見るのは、脳が生きるのを諦めた証拠だ。

 冗談じゃない。結維が待ってるんだ、俺が守らなきゃ、誰があいつを守るって言うんだ―――


 ブルーパーを地面に捨てるように置き、リーダーを岩に上げる。


「アンタはそこにいろ。じっとしていればアイツに気付かれないだろう」

「よせ……1人じゃ無理だ。逃げるんだ」

「アンタわかってないな、俺の銃が壊されたんだ。あのミミズ野郎は俺が殺す」


純は右手にパイソンを、左手にブルーパーをそれぞれ持ち、リーダーがいるのとは別の岩に乗る。先程3人がミンチになった、一番大きな岩の上だ。灼熱の太陽で大量に撒き散らされた血は既に乾き、肉片は腐敗臭を放ち始めていた。純はそんなことはお構いなしに岩の上にしゃがみ、そしてパイソンに装填された6発を適当な場所に撃ち、回転式弾倉(シリンダー)内の弾がなくなるとすぐにリロードする。銃声でデス・ワームを誘い、出てきたところを仕留める。要するにさっきと同じ作戦である。ただ最初と違うのは、遠いところに出てきたデス・ワームを集中砲火で倒すのではなく、自分の目の前に誘き寄せ、必殺の一撃を叩き込むということ。


 そして更に、この戦闘で純は気付いた。あの化け物はこれまで虎の子の電撃も毒液も使っていない。そんなに頻繁には使えないということか?それとも、出し惜しみをして狩りを楽しんでいるのか?


(そんなことはどうでもいい。電気も毒も使ってこないなら、目の前に出てきたところに40ミリを叩き込むだけだ。さっさと出て来い……)


突如、足元でゴゴゴという音と共に地鳴り。


(このタイミングで地震?……いや、おいおい待てよ、まさか……)


 次の瞬間、純は宙を舞っていた。

 純の予想通り、デス・ワームは接近戦を選んだ。だがそれは純の目の前に現れるのではなく真下、つまり純の乗っている岩を地中から頭突きで砕いたのだ。飛ばされる純と、地中から飛び出た勢いで同じく宙を舞うデス・ワーム。距離およそ5メートル。


「くっ!」


空中で姿勢を変え、パイソンをデス・ワームに向けて撃つ。全弾命中。357マグナムは身体にめり込むがデス・ワームは動じない。


(浅い!)


ならばと純は左手のブルーパーを構え、右手はパイソンを持ったまま、腕で銃身を支えてトリガーを引く。


カチン―――


「……は?」


1人と1匹がほぼ同時に砂地に墜落。純はすぐに体勢を立て直し、ブルーパーを折って40ミリグレネードを取り出す。


 装填されていた弾は不発弾だった。それもそのはず、ブルーパーも弾も、大陸製のコピー品だったのだ。その証拠に、銃の至る所に漢字が―――


(また中国製かッ!?)


ポケットから次のグレネード弾を取り出し装填。右手にスナップを利かせて銃身を元に戻す。そして狙ってトリガーを引く。


カチン―――


「いッ!?」


またも不発弾。ブルーパーを折って弾を取り出し、ポケットを探る。だがそこに弾はなかった。落下の衝撃で落としたのだろうか。


 そして次の瞬間、鎌首上げたデス・ワームが頭を振り下ろす。純は咄嗟に横に飛び、デス・ワームの一撃を避けた。


 万策尽きた。357マグナムは効果なし。ブルーパーも弾切れ。だが純に諦めるという選択肢はなかった。右手のパイソンをナイフに持ち替え、ブルーパーは握り直して棍棒のようにし、デス・ワームと対峙する。その時であった。


 足元でポスンと落下音。顔をデス・ワームに向けたまま、目だけ地面向けると、そこには無くしたはずの40ミリグレネード弾が。はっと気付いて後ろを振り向くと、視線の先には親指を立ててニヤリと笑うリーダーの姿。純は右手のナイフを手から離し、噛み付いてきたデス・ワームを伏せて避けつつグレネード弾を拾う。そのまま横へ転がり、デス・ワームと距離を取ってからブルーパーに装填。そして構える。


「狩りのシーズンは、終わりだ」


トリガーを引く。発射された40ミリグレネード弾は、今まさに純を食らおうとしていたデス・ワームの口に進入。喉を突き破り、頭蓋骨へ到達し、そこで信管が作動。ボンッ!という音と共にデス・ワームの頭が内部から爆発した。絶命したデス・ワームから力が抜け、純に向かって倒れるが、横に飛んで避ける。ドシンと重い音を立ててデス・ワームが倒れ、砂が舞い上がる。


「……ターゲット死亡確認(タンゴ・ダウン)……だよな?」


純は硝煙を吐くブルーパーモドキにちらと目をやってから投げ捨てた。そしてホルスターからパイソンを抜いてリロード。首から上を失い、噴水のように血を噴出してはいるが、世の中には首を失っても活動を続けるような生物もいる。純はパイソンを構えながら恐る恐るデス・ワームに近付き、2、3回蹴る。


(硬てぇな。大型ダンプのタイヤみてぇだ。これ筋肉か?まぁじゃなきゃこの図体で、あれだけ動くことなんてできないよな―――ってか、死んでるよな?さすがに)


「やったな、旅の者」


リーダーが純にキャンティーンを差し出す。純はそれを受け取り、口に含む。だが人から渡された物を馬鹿正直に飲む純ではない。口の中の砂を出すためにうがいをするだけに留め、キャンティーンをリーダーに返した。


「死んだのか?」

「多分な。けど念のために燃やしたほうがいいだろう。燃料、あるかい?」

「ああ、一応野営用に持ってきた」


純はリーダーから野営時の照明やコンロで使うホワイトガソリンの4リットル缶を受け取るとデス・ワームに全てかけ、ライターで火を着けた。あっという間に燃料に引火し、盛大に燃え上がるデス・ワームの身体。燃え尽きるのを見届けたかったが、焼ける臭いが酷いため、純はリーダーに肩を貸してオアシスへ戻ることにした。


「……すまなかった」


歩みを進めながら純が口を開く。


「俺のせいで、あんたの仲間を死なせちまった」

「我々は、元より死を覚悟してここへ来た。相打ち覚悟でな。だがお前のお陰でオウゴイ・コルコイを倒すことが出来た。そして2人も生き残った。我々の勝利だ」

「……彼らの名前を教えてくれ。命を賭して一緒に戦った彼らのことを、胸に刻むために」


夕日に向かって歩くリーダーと純。その足元、地下深くでは……


新たな生命が誕生し、蠢いていた―――

お読み頂き、ありがとうございます!

感想、ご意見、ご指摘大歓迎でございます!

また、13話投稿に合わせて銃器解説を更新致します。

次回より新章突入です。

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