★第4話 考察
書き始めたのは早かったのに、投稿が遅れちゃなんの意味もないでしょう! 誰だこんなことしているのは!?
……私のことです。ホントすみません。
人気の無い森の中。地元に住んでいる人間でも、危険性よりも、特に何も無いからと近寄らないそこに、あたかも銀河のようにも見える空間の歪みが現れる。
その歪みを引き裂き、内部から現れた少年少女――吼太、ありす、リームの三人は、僅かに息を切らしながらその場に着地する。
「ここは……ピクニックしていた場所の近くか」
「そんなに離れてはなさそうだね。これならすぐに戻れそう」
辺りを確認しながらありすが言う。
「じゃあ早くセンちゃん達と合流しないと!」
「分かってる。分かってるんだが……」
吼太がガクガクと震えながら、悔しそうに歯を食いしばる。
リームのように、人間と似て非なる肉体を持つわけでも、ありすのように、能力故の強靭な肉体を持つわけでも無い。いかに吼太が転生者といえど、その身体は正真正銘の10歳児なのだ。強力な敵との戦い、戦いのダメージで、精神より先に、肉体の限界が来ていた。
ありすが吼太の傍に寄り、回復魔法をかけ始める。
「ありがとな……チッ、情けねぇ」
「仕方ないよ。それより、アイツら……強かったね」
リームが消沈した様子で言う。
「あぁ、エクスドリルタイフーンを受けてもピンピンしてやがった」
少し楽になったらしい吼太が、苦々しく言う。自分の持つ技の中でも、決して弱くはない一撃が、あまり意味を為さなかったことに、悔しさを感じているのだろう。
「センちゃん達と合流してさ……そしたら、勝てるよね?」
リームのその言葉は、問い掛けではなく願望だった。
それだけの実力を見せ付けられたのだから。
「……何にしろ、世界を滅ぼすとか言っている連中だ。マトモなレベルで済むとは思えねぇ。止めるしかない」
回復し、身体の調子を確認する吼太。しばし身体を動かし、大丈夫だと判断したようだ。
「ありがとな、ありす。おかげで助かった」
「うん。……とにかく、まずはセンちゃん達と合流しよう」
ありすの言葉に、頷く吼太とリーム。三人は、先程までいた丘に向かい、走りはじめた。
「全く、お主らと来たら。ようやく戻る気になりおったかと思えば……弛んでおるぞ!」
買ってきたジュースを両手いっぱいに抱えたナツハが、道を進みながら言う。買い終わったジュースをようやく持って戻っている最中のナツハ達だったが、いまいちその足取りは芳しくないようだ。
「もうかえっちゃったかもー? だからわたしたちもかえろー」
「結局ビール瓶で頭を割れなかった。残念」
「しかし、帰ってくるのも遅れてしまったからのぅ。帰った、ではないにしろ、心配して儂らを捜しているかもしれんのう」
「仕方ないな。なら、今度は私たちが待てばいい話だ」
「いや、お主らがあっちこっちで寄り道をするから遅れたのではないか!! それを棚に上げて……」
至って呑気なセン達を見兼ねて、ナツハが叱り付けるが、一同にしてみれば、ある意味いつも通りのそれは、彼女らなりのリラックスした雰囲気だった。
「……おや?」
そこで、センがあることに気づく。
「セン、どうしたの?」
「見てみろカンナ。ここから先の空間に、空間断絶の魔法が行使されている」
センが目の前の道を指差しながら言う。傍目からはただの道にしか見えないそれは、しかし精霊であるセンたちには全く違って見えていた。
「ぐにゃぐにゃだー」
面倒臭がりなキサラが、めずらしくしっかりと目の前を見据えながら言う。単純な視覚ではなく、空間の正常性に注視して見たその先の空間は、何やら通常では起こり得ないような、歪んだ状態になっていた。
「術式からすると……恐らくトゥードの空間断絶魔法じゃな。これだけ大規模かつ精密で、それでありながら術式の秘匿性の高さと消費魔力の節約を全て成立させるなど、あやつ以外に出来る芸当ではないしの」
ミナが歪んだ空間に手を翳しながら言う。
空間断絶魔法は、特定の空間を切り取り、隔離する魔法だ。内部の影響を外に漏らさないようにすると同時に、外部からの余計な存在の侵入を防ぐ効果がある。もし断絶された空間に侵入しようとしても、その場所を通り過ぎた場所に出てしまうのだ。
ただし、下手な魔法使いの発動した空間断絶魔法であれば、一部の勘の鋭い人間には気づかれてしまう危険性がある。センが気づいたのも、その能力"始まりと終わりを操る能力"故に、センが魔法の発動に対して人一倍敏感であるからだ。
「しかし、変だの。いかにセンといえども、トゥードが本気で張った空間断絶魔法ならば、気づかなくとも不思議ではない。それがセンだけでなく、妾たちまで気づける、というのは何かおかしいと思うのだが」
ナツハが拾った小石を、歪んだ空間に向けて投げ入れる。小石は放物線を描いて飛んだ後、"空中で跳ね返り"、着地する。恐らく、跳ね返った場所に木が生えているのだろう。空間が歪んでいるため本来の道が見えていないということなのだが、空間断絶が上手く出来ているならば、小石は見えている景色の通りに落ちるはずなのだ。
これだけの簡単な手法で見破ることが可能になっている、というのには、二つ理由が考えられる。
一つは、この空間断絶魔法が、実はトゥードの発動したものではない、というもの。吼太は魔法自体が使えなく、リームはここまで大規模な魔法は出来ない。ありすはそもそも空間断絶が使えない。万が一使えたとしても、ありすの魔法は精密さに欠けるため、今張られている空間断絶はありすの物ではないと分かる。つまり、この場合はこの空間断絶がセン達の知らない第三者によるものだということになる。
もう一つは、小石一つの動向に対応できないほどに、魔力のほとんどを別の何か――例えば、戦い――に気を取られているか。トゥードや吼太が戦う相手といえば、吼太やありすと同じ転生者か、魔法使い。空間断絶魔法はその名の通り魔法使いしか使えないので、やはり第三者の存在が予想される。
と、そこでセン達の近くの茂みがガサリと鳴った。警戒を強めるセン達だったが、間もなくその警戒は解かれる。
「……敵かと思ってヒヤヒヤしたぞ、父上」
「悪ぃな、驚かせちまって……」
茂みから現れた人物――吼太たちは、若干疲れた顔をしながら、それでも知り合いであるセンたちに出会えたことに、表情を緩ませた。
「――成る程、話は分かった」
事情を聞いたセンが、腕を組む。その表情は苦々しい。
「ならすぐに助けに!」
吼太が逸る気持ちを抑えきれないように言う。
トゥードは強い。特に、体術に関しては無類の強さを誇る。だが、精霊であるが故に魔力の最大量に劣る彼女は、魔法使いとの戦いでは不利になりやすい。ましてや、現在は数の差すらあるのだ。吼太が心配に思うのも尤もだろう。
だが、センは冷静だった。トゥードの状況は理解していたが、そこではない"違う部分"にも目を向けていた。
「その前に、トゥードから渡された宝石を見せてもらえないか? 奴らがそれほどに欲しがるものだ。最早ただの宝石と考えるのは不自然だろう。トゥードも、それほど早くやられるはずもないからな。情報を集め、可能ならこの場で対処してしまうのも手だ」
「……確かに、結局どんな宝石か分からないままだもんね」
リームもセンに同調する。
「でも! ……わかったよ。ここで言い争っちまったら、それこそ時間の無駄だ。だが、あまり時間はかけんなよ」
「感謝する、父上」
吼太が、ユビキタスサークルから取り出した赤い宝石をセンに手渡す。宝石を受け取ったセンは、しばし宝石を眺める。
「どうだ?」
「随分と年代物だな。なかなか高く売れそうだ」
「…………真面目にやれよ」
「我は至って真面目だ。エネルギーは感じるが、それぐらいしか分からんのだよ。お前たちはどうだ?」
センがミナたちに宝石を見せるが、これといった発見はないらしく、首を振るばかりだ。
だが、そこで意外な人物が口を開いた。
「そのほーせき、ちょっとずつだけどよわくなってるよー?」
今にも眠りだしてしまいそうな、まどろんだ声で、他の誰もが気づかなかった宝石の異変を指摘したのは、キサラだった。
「弱くなってる? 強くなってるじゃなくてか?」
宝石を渡される前、トゥードが「宝石の反応が強まっている」という意味の発言をしていたことを踏まえ、質問する吼太。
キサラは、やはり意見を変えない。
「まちがいないよー。それいがいはしらなーい。……ぐぅ」
「こら寝るなぁ!?」
眠気が限界に達したらしく、その場に崩れ落ちるように寝はじめるキサラ。ナツハがその身体を揺するが、呑気に寝息を立てるばかりで、それ以上の反応を返そうとはしなかった。
「反応は強くなっているが、弱くなっている?」
ありすがキサラの言葉を踏まえ、宝石の状態を口にする。
「どういうことなんだ? 強くなっていながら、同時に弱くなってるって、矛盾してんだろ」
意味が分からないと吼太が頭を掻きむしる。
しかし、リームは何やら思うところがあるのか、神妙な顔付きで、自身の考えを口にした。
「もしかして……"弱くなっていることを誰かに伝えようとしている"とか?」
「伝えようと……」
ありすが宝石を見る。ありすには、強くなっているようにも弱くなっているようにも見えないが、信用できる二人の言葉だからと、さらに注視する。
だが、やはり宝石はこれといった反応を示さない。
「伝える、か……まるで、意思でもみたいな話だな? とはいえ、これ以上はまた後だ。早くトゥードを助けに行くぞ」
吼太が宝石をユビキタスサークルに仕舞うと共に、内部からエクスドリルを取り出しながら言う。
そして、エクスドリルで次元を掘り抜こうと――――
「待った、父上」
「今度はなんだよセン!?」
二度も呼び止められたからか、流石に苛立ちを隠せないらしい吼太。だが、今度のセンはどちらかと言えば、呆れたような表情をしていた。
「空間断絶魔法が解除されている。術式を見る限り、供給源が無くなり解除されたのではないらしい。トゥードが自分で解除したのだろう」
「……おい、それってまさか……」
それの意味するところを理解し、苦笑いを浮かべる吼太。
「敵を倒したか、撃退したか、或いは無事に離脱出来たか。いずれにせよ、我等が救援に向かう必要はなくなったようだ」
「……アイツ強すぎだろ。あの二人、逃げるのにも苦労する強さだったはずだぞ?」
気が抜けた声で言う吼太。しかし、すぐに気を引き締め、気持ちを立て直す。
「ま、まぁ無事ならいい。それより、ならトゥードと合流したいとこだな。手分けして捜したいとこだが……敵がまだうろついてる可能性が高い。三つにチームを分けるぞ」
吼太の言葉に頷き、賛同するリーム達。
「まず、オレ、リームで1チーム。カンナ、キサラ、あとキサラの世話役でナツハの三人で1チーム。ありす、セン、ミナの三人で1チーム。こんなとこか」
「一応、チーム分けの基準を聞いていいかの?」
ミナが吼太に、この編成にした理由を聞く。
「オレとリームが一緒なのは言うまでもないかもしれないが、合体のためだ。ナツハとキサラはセットと考えて、ありすとカンナを離したのは回復役をそれぞれに入れたかった。あと、ありすは遠距離型だから、魔法を反射出来るセンやミナと組ませたかったっていうのもあるな」
「……って待て! 妾の仲間がカンナとキサラ!? 確かに能力で分ければそうなるかもなのだが……それでは妾の負担が大きすぎないか!?」
カンナとキサラの面倒を見ることが半ば強制的に決まってしまったことに、異議を唱えるナツハ。
「そんなことはないぞ。……きっと」
「大丈夫じゃ、ナツハならできるじゃろうて。……多分」
センとミナが、普段よりも感情豊かに――豊かすぎて不自然なほど――笑顔を浮かべながら言うが、やはりナツハは納得しない。
「何故自信なさげな言い方しかしないのだ!? 父君もなにか――」
そう、振り向いた時に一瞬の時間を使ったのが仇になった。
「――って、もういない!?」
慌てて振り返れば、先程まで話していたはずのセンとミナすらいなくなっていた。
そんなナツハの肩に手をかける二人。
「ドンマイ、ナツハ」
「あとはよろしくー」
「……だっ……誰のせいだと思っておるのだぁぁぁ!!!」
カンナとキサラの暖かな……かどうかはイマイチ分からない応援を受けたナツハは、ただただ己の受難に叫ぶしかなかった。
閉まらないですが、これがこっちの基本。というか、こんな序盤からシリアス一辺倒にしてもねぇ?
早く物語の交差部分に突入したいですねぇ。え? お前が遅筆なのが悪いんだろうって? 返す言葉もありません……。