★プロローグ
遥けき太古の時代、一族は彼の地に降り立つ。
一族は彼の地を拓き、そこに自らが土地を作った。
いつか、一族の作りし土地は国となり、数多の人間が訪れ、繁栄を極めた。
花は踊り、鳥は歌い、人々は楽園の平和を謳歌した。
しかし、その繁栄はつかの間のものでしかなかった。
"大いなる災厄"、"終焉の意思"、"災い運びし者"。邪神とでも呼ぶべき存在が現れたのだ。
繁栄を極めた世界は、一夜にして無に帰した。
この世界に現れた邪神は、それでも尚、暴虐の限りを尽くし、彼等の営みを脅かした。
一族は嘆いた。自分達の築き上げてきたものが壊されるのを。
一族は憎んだ。全てを破壊した終焉の意思を。
一族は怒った。自分達を脅かす邪神に抵抗しなかった自分を。
土地を作った者として、国を建てた者として、一族は戦う決意を固めた。
しかし邪神は、一族を嘲笑うかのように、全てを蹂躙した。一族には、邪神を倒すことは叶わなかった。
一族は考えた。自分達では邪神を倒すことは出来ない。ならば、何をすればいいか。
一族は思いついた。戦って勝てぬのならば、追い出すこと叶わぬなら、彼の地の、"果ての地"に封印してしまえばよい、と。
一族は、その全てを以って、邪神に立ち向かった。勝つためではなく、封じ込めるため。
間もなく邪神は、果ての地に封印され、世界には静寂が戻った。
それは、あらゆる生命が消えた、死の静寂だった。
ここにはもう暮らせない。やがて一族は、自らの子孫に封印の要を、と秘石に封印の鍵を托し、数多無数の世界へと散らばっていった――――――
「……くだらないわ」
数年掛けて解読した古文書。それを読み終えた少女がふと呟く。
少女は腰掛けていた岩から立ち上がり、そして目の前にそびえ立つ巨大な扉を見上げる。
人などの力では開けられないことが一目でわかる巨大な扉。それは、堅牢な鎖によってがんじがらめに封じられ、固く閉ざされていた。鎖は時折吹く風に、ギシリギシリと鳴き声を上げる。
「間もなく……もう、すぐ。後少し」
少女は歌うように呟き、扉に背を向ける。
気づけば、少女が向いた先には、四人の人間が立っていた。
年齢も体格も性別も様々な四人。敢えて彼等に共通点を求めるなら。
それは、少女と同じ、世界を見ていないような、そんな虚ろな瞳だろう。
「……見つけたようだな」
一際身長の高い男が言うと少女は頷き、何かを取り出す。それは、何か文字の書かれた紙であった。
「こことは違う、二つの世界に、か。成る程のう」
「ならさっさと取りに行こう」
「すぐに取れる場所にあるなら、この娘はもう取ってきているわ。そうしていないということは、そう出来ない理由がある」
女性が言うと、少女は頷いて、今度はその口で喋り出す。
「間もなく、もうすぐ。私たちの悲願が叶う。でもそれには、足らない。貴方たちには、取って来てほしい」
少女が言う言葉は抽象的だったが、言わんとしたことは理解したようだ。彼等は無言で、その場から立ち去っていく。
少女は再び、自身の後方にある扉に目を向ける。
「……間もなく、もうすぐ。だから、待っていて」
錆びてボロボロの鎖が、またギシリと音を立て、その身を散らせていた。