~剣士 ジョフェーレ・キャンサー~
~剣士 ジョフェーレ・キャンサー~
扉を開けると、四角い部屋に出た。正面に木製の扉がひとつあるだけの簡単な部屋。ここは玄関なのだろう。
ここがアイツの城か……。女の子のいい匂いがしやがるぜ……。
よく見ると、扉の前に何か黒いものが落ちている。少し動いた。どうやら生きているみたいだ。
近寄って確認してみると、それは猫だった。
「なんだ、猫か……。どうしたんだ、お前? 迷い込んできちまったのか?」
猫を拾い上げ、声をかけたとき、少年のような声が聞こえた。
『いや、迷い込んだのではない。我はストロウン様に仕えているから、ここにいるのだ』
音源は俺の腕の中の猫だった。
「ね、猫がしゃべったぁああああ!!?」
「うっさいわね! アンタは、いちいちリアクションがオーバーなのよ!」
耳をふさいでいるウィッチェに怒鳴られる。
「きっと、魔法かなんかかけてんのよ。それよりアンタ! ソイツが魔王の使いだっていうんなら、早く離れた方がいいんじゃないの!?」
『別に君たちに危害は加えんよ。今日に限ってはな』
「どういうつもりだ……?」
『なぁに、ストロウン様からの命令だ。そうでなければ、我は今すぐ君たちを八つ裂きにしている』
「ストロウンが命令したの…? 私たちに手を出すな、って……?」
『あぁ、そうだ。君たちはストロウン様に見込まれたんだ。ストロウン様が直々に君たちを倒し、召使にするのだそうだ』
「言ってくれやがるぜストロウンのヤツめ……」
「ねぇ、そのストロウンには、どこへ行けば会えるのかしら?」
『あぁ、ストロウン様は、二階の一番奥の部屋でお待ちだ。わかったらさっさと行け』
「言われなくてもそうするぜ!」
扉を開け放ち駆け出す。待ってろよストロウン! おれたちはゼッテェてめぇの召使なんかにはならねえからな!
開けた扉はひとりでに閉まった。
『………クックック。これが罠とも知らずにまんまと信用しおったわ』
いくつかの部屋を駆け抜け、広い部屋にでた。この部屋には、おれ達が入ってきた扉のほかに3つの出入り口がある。右側には上の階へと続く階段。左側には下の階へと続く階段。そして正面にはスライド式の扉がある。
「くそっ! どれに行けばいいんだ!?」
「おそらく、右側の階段で上の階へ上がるべきだと思うわ。さっきの猫の情報が確かなら、魔王は二階にいるはずよ」
「いや、さっきの猫が嘘をついていた可能性も否定できない! ここは手分けしよう!」
「たしかに一理あるわね……」
「だろ? だからウィッチェは、猫の言ったとおり、右側の階段を上がってくれ。おれは正面の扉の中を調べる」
「わかったわ。アンタも十分気をつけなさいよ。正面の扉の中は何があるか……ん?」
ウィッチェが何かに気付いた! マズイ!!
「アンタここ女子更衣室って書いてあんじゃない!! なに自分の欲望満たしに行こうとしてんのよアンタは!!!」
泣く泣く更衣室を諦めたおれたちは、二階へとたどりついた。
「あのー、ウィッチェさん? そろそろおれの髪引っ張って歩くのやめてくれません?」
「はぁ? 放したらアンタ何しだすかわかんないじゃない!」
「いや、もう更衣室は諦めるからさ、そろそろ手を放……おい! 何かいるぞ!!」
ウィッチェがおれの髪を放し、身構える。
が、視線の先にいたのは、ただの白い猫だった。
「なんだ、ただの猫かよ……。脅かすんじゃねぇよまったく」
すると、少女のような声が聞こえてきた。
『ごめんなさい。脅かすつもりは無かったの』
音源は目の前の白い猫だった。
「ね、猫がしゃべったぁああああ!!?」
「うっさい! アンタ何回驚けば気が済むのよ! さっきので慣れなさいよ!!」
いや、だって……ねぇ? 猫がしゃべったら誰だってビックリするよね?
「アナタも魔王の使いなんでしょ? アナタはここで何を命令されたの?」
『わたしはただの確認役です。あなたたちがここまで来られるのかを見張っておけと命ぜられました』
「どういうこと? ただ普通に歩いてきただけよ? 迷うわけないじゃない」
『いえ、実は、下の階の女子更衣室には、トラップがしかけてあったのです』
「………………………………………」
おれは何も見えないぞ。ウィッチェからのジトッとした視線なんておれは見えないぞ。
『あなたたちは本当に優秀な方々なのですね。“俺なら絶対ひっかかる!”とストロウン様が自信たっぷりに仕掛けたトラップにひっかからないだなんて』
「なんか……、ストロウンも相当アホなのかもしれないわね………」
頭痛でもするのか、ウィッチェが頭を抑えてため息をつく。
「まぁ、あの程度の見え透いたトラップなんかじゃ、おれたちは倒せねぇって事だ! ストロウンに伝えておけ」
『はい。承りました』
「へぇー。ジョフェーレ、アンタよくそんな事が言えるわね。さっきまで女子更衣室に行こうと必死だったのに」
…………………俺は何も聞こえないぞ。ウィッチェの小言なんて聞こえないぞ。
「それはともかく、ストロウンの部屋へは、どうやって行けばいいんだ?」
『はい。わたしの後ろの扉からこの部屋を出て、二つめの部屋で、左の扉に進んでください。すると廊下に出ます。あとは、突き当りの部屋までまっすぐです』
「おっけ! ありがとな! よし! じゃあ行くか!!」
おれたちは、白猫に言われたとおりの扉を使い、部屋を出た。
『こちら、白猫。ただいま、二人の生存を確認しました。二人は現在、予定通りの道順ですすんでおります』
≪了解した。お前の目に、あいつら二人はどう映った?≫
『はい。とても息のあった二人だと感じました。茶犬も、ストロウンさんも、くれぐれもご注意ください』
奥へ奥へと廊下を進むと、これまでで一番大きな部屋に出た。
正面には大きな両開きの扉。そして、その両脇には悪魔をかたどった石造が二体、にらみを利かせている。
「さぁ、いよいよ次の部屋だな」
「そうね。次の部屋でストロウンが待っているのね……」
扉に向かって、二人で歩き出した。すると、扉の前に何かがあることに気付く。
よく見ると、それは一匹の茶色い犬だった。
俺たちが扉のすぐ目の前に来た時、青年のような声が聞こえた。
『よくぞここまで来たな』
音源は足元の犬だった。
「あ、犬がしゃべった」
『いやテンション低いよ!? なんで猫の時はあんだけ驚いたのに、オレんときはその程度なんだよ!? もっと驚けよ!!!』
「まぁ、3度目は飽きるわよね」
「つーかお前犬じゃん。猫じゃないじゃん。そりゃあ“あー、犬がしゃべったなー”くらいしか思わねぇよ?」
『なんで!? なんで「犬はしゃべって当然」みたいな態度なんだよ!?』
「犬がしゃべっても……ねぇ?」
『“……ねぇ?”じゃねぇよ! なんなんだよお前! お前はアレか!? 猫派なのか!?』
「それには答えられねぇぜ……」
『なんでだよ!? 犬派か猫派かくらいさっさと答えろよ!』
「いや、それはできねぇ……。正直な答えは時として人を傷つけるんだ」
『もうその言葉が傷つけてんじゃねぇかぁあああ!!』
「ねぇ、ジョフェーレ。この犬さっきから鬱陶しいから、答えるだけ答えてあげなさいよ」
『そ、そうだぜ……。ペットを飼うとしたら、お前は犬派なのか猫派なのか、それだけでも聞かせやがれ』
「そこまで言うならしかたねぇ。答えてやんよ」
『では、もう一度問おう。お前はどっち派なんだ……?』
「アルパカ派だ」
『どっちかで言えぇぇえええ!!!』
「私はアルパカよりもリャマ派ね」
『せめて家で飼えるヤツにしろぉおおおお!!!』
「なんだ、おれたちの答えがそんなに不満か…?」
『ま、まぁ良い。参考までにアルパカのどこが好きなのか教えてもらおうか』
「どこって言われてもな……」
「ねぇ、そういえばアルパカとリャマって何が違うの?」
「え? 一緒じゃん? 首長いし」
『もうお前ら二度とアルパカを語るな! 二度とリャマを語るなぁ!!』
「なぁ、おれたち、もう行っていいか?」
「早くこの先に行きたいんだけど」
『もう…いいっすわ……。どうぞ先に進んじゃってください』
茶色い犬は疲れきった様子で、ぐったりとその場に伏せている。
まぁ、犬の事はもういい。先へ進もう。この先には、ストロウンがいるのだ。
「行こうか、ウィッチェ」
「そうね。行きましょう」
右側の扉をおれが持ち、左側の扉にウィッチェが手をかける。
おれたちは、一度目を合わせ、無言でうなずくと、一気に扉を開け放った。




