~勇者 ビマイン・ラブニファ~
~勇者 ビマイン・ラブニファ~
魔王の城にたどり着いた私たちは潜入作戦をたててからそれぞれの持ち場へと向かった。私とジョフェーレさんは草むらの陰へ隠れ、ウィッチェさんは魔王の噂を聞きつけて訪れた女性を装って城へ足をすすめた。ウィッチェさんが城の門を叩く。さびれた音がして扉があいたかと思うとフードをかぶった女性が現れた。魔王が侍らしている女性のうちの一人なのだろう。その女性にウィッチェさんが何かを言った。きっと「魔王様に会いたいから城の中に入れてほしい」とでも言っているのだろう。ここで怪しまれたら作戦は失敗に終わる。私は二人の女性が話しているのをかたずをのんで見守った。すると、一言二言会話をした後、フードの女性が頷いてウィッチェさんを城の中に招き入れた。よし!!作戦第一段階成功!!私は草むらに隠れたままガッツポーズをした。その時、突然風が吹いた。そして女がかぶっていたフードが風ではらわれた。そのフードの下から覗かせた女の顔は・・・パッチリとした二重の瞳に目に入らないのかと聞きたくなってしまうような長い
睫毛、そして薄くルージュをひいた形のいい唇にうっすらと茶色の入った髪をポニーテイルにしばっている。そう・・・美しい。フードで顔を隠していたのが勿体ないほどだ。そんなことを思いながら私は一つの最悪な可能性に思い当たってしまった。私たちの旅の仲間の中には無類の女好きがいた・・・。もし、今その女好きがこの美しい女性を見て興奮して立ち上がったら・・・すべての作戦が台無しになる・・・・。いや、まさかあの女好きでアホな剣士でもいくらなんでもこんな大事な場面で興奮したりなどしないだろう。そうだ・・・私たちは仲間じゃないか・・・。仲間を信じれないなんて私はなんて愚かなのだ・・・。少しでも仲間を疑ってしまった自分を戒め、心を落ち着かせる。と・・・
ガサッ!!草むらをかき分けるような音がした。そっと顔をあげると反対側の草むらから剣士・ジョフェーレが立ち上がっていた・・・。
・・・・・・・・・・・このバカがああああぁぁぁ!!!なんてことをしやがるんだ!なんで私が思い当たってしまった可能性を実現させるんだ!!そこは裏切ってくれよ!!
・・・・などと叫んでしまっては人の事は言えなくなってしまうので、心のなかで叫ぶだけにしておく。いや・・しかしまだ相手には気づかれていない・・・。頼む・・・正気に戻ってくれ! 今ならまだ間に合う! しかし・・・私の願いは届かなかったようで・・・
「サ…サラさん・・・!!」
呆然とジョフェーレさんはそう呟いた・・・。その声に反応してフードをかぶっていた美しい女性がジョフェーレさんの方を向いた・・。
「え・・・。ジョフェーレ君・・・? っていうかどうして私ここに・・・?」
そう不思議そうに呟く女性・・・・サラさん。え・・・っていうか、この二人知り合い?
呆然としたまま見つめ合う二人・・・・。その横ではウィッチェさんが作戦を台無しにしたジョフェーレさんに掴み掛っている。どうすんだ・・・この状況・・・。と絶望に浸っている私にさらに追い打ちをかけるかのような声が響いた。
「・・・それは俺の魔力のせいだ。」
なんともいえないくらい甘い声が響き渡った。その甘い声の持ち主は城の中から不敵な笑みを浮かべて出てきた。うっとりしてしまうような声によく似合う典型的な甘いマスク。さぞかし女性にモテるであろうその男・・・・そう・・この男こそが私たちの敵・・・魔王ストロウン・ガーナ!
憎き相手と向かい合った魔女ウィッチェと剣士ジョフェーレが攻撃を始めた。魔女ウィッチェが呪文を唱え火花を散らす。それを魔王ストロウンが避け、その動きを読んでいた剣士ジョフェーレがすかさず短刀で斬りかかった。しかし、魔王ストロウンは呪文を唱えて短刀を止めた。それに対して本命のレイピアで斬りかかる剣士ジョフェーレ。そしてそれをサポートする魔女ウィッチェ。普段は噛み合わず仲の悪い二人だが、戦闘になると素晴らしいチームワークをみせてくれた。これは・・私が今出ていくと邪魔にしかならないのではないか・・・・。ならばこの草むらから網を観察し、奴の弱点を見つけよう。そして、城の中から女性たちを助け出そう。そう心の中で固く決心をして顔をあげる。すると、私が顔をあげた瞬間には、すでに魔王ストロウンは消えてしまっていた。悔しそうに顔を歪めるジョフェーレさんとウィッチェさん。2人はサラさんを交えて新たな作戦を練り直し始めた。
「『あの方は城の中だと強くなります。』か・・。厄介ね。」
感覚のリンクを通してウィッチェさんの考えていることが私に通じてくる。
「サラさん・・・無事でよかった・・・。やっぱかわいいな・・。」
ジョフェーレさんの心の声も通じてくる。あの女好きはこんな時まで女性のことを考えているのか・・・。あいつは・・・。呆れながらジョフェーレさんの隣にいるサラさんを見ると、サラさんはキラキラした瞳でジョフェーレさんのことを見つめている・・・。
・・・・・・何なんだ!!このラブコメ的な展開は!! 今この状況でラブコメ要素なんか全くいらん!!というか!私だけ仲間外れになってるじゃないか!私は勇者なのに・・どうしてこんな草むらの陰に隠れたままでいなければいけないのだ!! 自分で出ていかなかっただけだということは棚に上げて、冷たい仲間たちに不満を持つ。私の心の叫びは、感覚リンクをしているからジョフェーレさんとウィッチェさんに届いているはずなのだが、ギャーギャー言い合っている二人には全く届いていないようだった。自ら立ち上がり、反対側にいる彼らのもとへ足をすすめようとした。しかし・・
「キヒ・・・。キヒヒ・・・。」
気味の悪い声が私の背後から聞こえてきた。恐る恐る振り向くと、
「カワイイ、オンナノコ。オレのモノ。カワイイ。」
ディマンがいた・・・。しかも数体などではなく数十体のディマンが!!やつらは私めがけて飛び込んでくる。
「・・・・・。またお前らかあぁぁぁ!!!!!!しつこいわああぁぁ!!」
腰に掛けていた短刀を取り出して斬りかかる。もう二度と私の胸は触らせない!!私は怒りのままに剣を振り、確実に相手を仕留めた。数十分後、私に襲いかかってきたディマインを全て駆除することに成功した。軽く息を切らしながらウィッチェさんとジョフェーレさんの事を思い出し、彼らの方を向く。どうですか!感覚を通して私の活躍を感じてくれてましたか!! そんな思いをのせながら。しかし彼らは・・・・サラさんにお礼を言って二人で城の中へ入っていってしまった・・・・。
・・・え? ちょっと待って・・・。私は置いてきぼり・・? というか、あの二人・・・完全に私のこと忘れてませんか・・・・?