~魔女 ウィッチェ・ウェスト~
~魔女 ウィッチェ・ウェスト~
ついに姿を現した魔王・ストロウン。
私のスイーツ友達を奪っていった元凶。
今ここで、とっちめてやる…! ゼッタイ逃がさないんだから……!!
私はストロウンに察知されないように小さく火の呪文を唱える!
細かい火花が地面を這い、ストロウンの目の前で爆ぜる!
しかし、ストロウンは横に跳んでそれをかわす!
その動きを読んでいたジョフェーレが、左手の短刀で切りかかる!
ストロウンは呪文を唱え、短刀の動きを止める!
その瞬間、ジョフェーレは身を捻り、本命のレイピアを右手一本で振るう!
ストロウンは一瞬目を見開いた。しかし、後ろに倒れこむようにしてレイピアを避ける!
私は呪文で地面を大きく隆起させ、倒れこんだストロウンを打ち上げる!
空中に投げ出されたストロウンにジョフェーレが再び切りかかる!
ストロウンは、腰のナイフを引き抜き、ジョフェーレの剣を受け止める姿勢を取る!
同時に、私は呪文でストロウンのナイフを叩き落す!
ジョフェーレの剣が届く寸前、ストロウンは突風を起こす!
突風に飛ばされる形で、ストロウンはジョフェーレの攻撃を避けた!
「草むらでは、少し分が悪いかも、しれんな……」
「来いよ、ストロウン! まさか逃げるつもりじゃねぇだろうな!!」
ジョフェーレが挑発をかける。
「ふっ…、悪いが俺はそのような安い挑発に乗りはしない」
言うや否や、ストロウンは呪文を唱え、土を巻き上げる。
土ぼこりが晴れた頃には、すでにストロウンの姿はなくなっていた。きっと城の中へ逃げ込んだのだろう。
「チッ……! 逃がしたか……!!」
ジョフェーレが悔しそうに舌打ちする。
「まぁ、そう焦らないで一回作戦を練り直した方がいいんじゃない?」
「それもそうだな」
私たちはその場に腰を下ろした。
「サラさん、だったかしら? 何か、ストロウンの情報を提供していただけないかしら?」
「そうですね……。あの方が、とても強いのは疑いようのない事実ですね」
「けど、さっきの調子だと、おれたちでも勝てそうじゃないか?」
「いえ、城の中だとあの人のパワーは格段にアップします」
「そうなのか?」
サラさんは、ひとつ頷くと、かつて恋人を寝取られた青年が魔王・ストロウンを倒しに来たが惨敗してしまったという話をしてくれた。
「魔術、というのでしょうか…? 私は詳しくないのですが、あの人は城の内部に“結界”というものを張っている、というのを耳にした事があります」
「そうね、確かにこの城からは、そういった類の力を感じるわ」
「私が知っているのはコレぐらいです……。ごめんなさい、お役に立てなくて………」
「そんな事ありませんよ。サラさんのお陰で、とっても貴重な情報を得る事ができました」
「そうだぜ! それに何より、ここでサラさんに会えたことで、おれのモチベーションはMAXだぜ!」
「アンタってそんなんしか言えないのね……」
ホントに呆れるわ。呆れるけど、不思議と悪くは思わなかった。
その後、サラさんの情報を基に、作戦を練ること数分、一向に状況を打開する策は見つからずにいた。
「じゃあ、こういうのはどうだ?」
ジョフェーレが思いついた策を説明する。
内容は、まずジョフェーレが一人で城に入り、魔王と戦っている間に、私が変身魔法でストロウンに扮して中の女性たちを外に連れ出す。その後、折を見てジョフェーレが脱出、そして私が全魔力を投じて城ごと消し炭にする、というものだった。
「いや、その作戦は厳しいかもしれないわ。そもそも、ストロウンが城の中に罠を張っている可能性があるから、迂闊に城に立ち入ること事態、避けた方がいいのかもしれないわね」
「そうだよ! たった一人で城に立ち入るのは、危険すぎるよ! だから、あの方が城の外に出てくるのを待とうよ、ジョフェーレくん!!」
サラさんがジョフェーレの案に猛反対。
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ。あーもーわかんねぇ!!」
外に出るのを待つ――確かにそれが一番確実ね。わざわざ危険を冒して城に入っていく必要なんてないわね……。
城から出る理由、まっさきに思いつくのは食料調達ね……。
「ねぇ、サラさん。城の中に水や食べるものはあるのかしら?」
「はい。たくさんあります。少なく見積もっても、三ヶ月は持つと思います」
「ストロウンはこんな時のために食料確保をしていたというわけね……」
「いえ、そうではなくて、城の中ではたくさんの女性が、それぞれあの方に手料理を毎日振舞っているんです。その日課が、多くの食材を用意している理由だと思います」
―――手料理だと!? 女の子が毎日!? 女の子の手料理が毎日!? 手料理の女の子が毎日!!? 毎日の女の子が手料理!!?? 羨まし過ぎる……。ストロウンの奴め…、許せねぇぜ………。
「あのさ、ジョフェーレ……。アンタの頭の中ってホントにそれしか無いわけ…?」
「なんだお前!? おれの考えてる事が分かるのか!??」
「アンタ、今、私の呪文で私とアンタの思考がリンクしてること覚えてる?」
「なっ! すっかり忘れてた……」
そこへ、申し訳なさそうにサラさんが口を挟む。
「あの~、たしかに食料はたくさんありますが、その殆どがお菓子なので、あの方が城から出てくる可能性がないとは言い切れませんよ……?」
―――お菓子!? “手料理”ってお菓子の事も言ってたの!? なにそれ!? お菓子よ、お菓子! 甘いのよ!! 毎日が甘いお菓子なの!!? お菓子が毎日甘いのよ!!?? そんなの羨まし過ぎる…! 許せない……!!
「あのさぁ、ウィッチェ? お前の思考もだだ漏れだぞ…?」
う、うるさいわよ……。
「…コホン。悪いんだけど、サラさん。どうやら私たちは城に入っていかない訳にはいかなくなったみたいだわ」
「あぁ、俺たちの身を心配してくれてるサラさんには悪いが、俺たちは行かなきゃならねぇんだ」
「そんな…! どうして……?」
「大丈夫。ゼッタイ帰ってくるからさ。だからサラさんはココで待っててくれ」
涙目になっているサラさんの頭をポンと撫で、心配させまいと笑顔をつくるジョフェーレ。
ふふっ。ちょっとカッコいいじゃない。アンタってキメルとこは、ちゃんとキメル事ができる男なのね。ちょっと見直したわ。
「サラさん。僕が魔王と倒して無事に帰ってきたら、ぜひ、また貴女の淹れるコーヒーを飲ませてくださいよ?」
―――キマッタ! 今の俺、最高にカッコよくね!?
思考がだだもれである。ちょっと見直したのを返して欲しい。損した気分だ。
「アンタねぇ、一ついい事教えてあげるわよ」
「なんだ、ウィッチェ?」
「アンタの台詞、完全に死亡フラグよ」
「なっ!? なんて事を言いやがんだ! カッコよかったのが台無しじゃねぇか!!」
損した気分にさせた事への仕返しよ。
でも、まぁ……台無しではないと思うけどね。きっとこの鈍感女たらし野郎(バカ剣士)は、頬を染めたサラさんの、そのはにかみに気付いてないんでしょうね。
さっきはカッとして、女が寄り付かなくなる呪文かけちゃったけど、あの呪文って、恋してる人には効果が無いのよね……。
あとで、そっと呪文を解いてあげよう、そう思った。
―――なによ、サラさんにばっかり優しくしちゃって、私の心配もしてくれたっていいじゃない……。私だって、こんなにアンタの事が好きなのに………。
なんかジョフェーレの声で変なナレーションが入った……。
「アンタねぇ!! 人の頭の中に勝手なナレーション入れてんじゃないわよ! 気持ち悪いったらないわ」
「そんな怒らなくたっていいじゃん! 思考がリンクするなんて、めったにない機会だぜ? そりゃ遊びたくもなるだろ!!」
私の頭に変なナレーション流したバカは、なんか逆切れしてた。
うん。そうね…。
呪文解くのヤーメタ☆