~剣士 ジョフェーレ・キャンサー~
~剣士 ジョフェーレ・キャンサー~
そうして、お世辞にも仲がいいとは言えない3人で魔王・ストロウンの住む城へ向かう。城へ向かう道中、ディマンが大量に襲いかかってきたがあっという間に全滅した。まあ、この国で唯一の魔女と、この国で一番の剣士、そしてこの国で最も有能とされる勇者・・この3人がタッグを組んだらあんなカスみたいな魔物を倒すことなんて赤子の手を捻るよりも簡単なことだが。ちなみに、余談だがディマンのほとんどが勇者・ビマインを女と間違えて襲いかかっていった。一体だけ魔女ウィッチェの方へ襲いかかったのだが・・その時のウィッチェといったら、自分の方に魔物が来たのが嬉しかったのか、笑顔で魔物を倒していた。次々とディマインを倒し、着々と城の方へ進む。だんだんと近づいてきたその城はあまりにも目立たない城だった。しかし、城の中でハーレムを作っているのだというのだから、目立たないほうが好都合なのだろう。というか・・・ハーレムだなんて俺の・・・いや、全男子国民の夢だ!それをこの魔王は簡単にやり遂げやがって・・・
「許せねえ・・・」
突然、地の底から這いあがってきたような声をだした俺に隣にいたウィッチェが肩をビクッと振るわせてこっちを見てきた。
「ちょっと・・・あんたついに頭いかれちゃったの? 急にそんな恐ろしい声出すんじゃないわよ!」
「うるさい・・。しょうがないだろ、ストロウンとかいう奴が気にくわないんだから」
「やれやれ・・・モテない男の嫉妬かしら~? 余裕の無い男は嫌ね~」
ちゃかすようなウィッチェの言い方に無性に腹が立った俺は鼻で笑って言い返す。
「・・・女装した奴に負けてる女がよく言うよ。女として終わっちゃってるじゃねーか。」
「な・・・! 失礼な! 私のところにだってあのクズみたいな魔物寄って来たわよ!!」
「一体だけな。あとは全部ビマインさんの方に行ったけどな。あの一体だけ神経がトチ狂ってるんじゃねーの?」
「違うわよ! あの一体以外の神経がトチ狂ってるの! じゃないと何で女装男に寄ってくのかわからないわよ!」
「それは、私の女子力が高いから・・・」
「「お前は男だろうがあぁぁぁ!!!!」」
自分の性別をすっかり忘れているのではないかと思われる勇者ビマインの言葉に俺とウィッチェは思わず同時にツッコむ。なんかこんな時だけこいつとは気が合うな・・・。
俺とウィッチェ両方に怒鳴られた勇者ビマインは背中を丸め耳をふさいで俺たちの渾身のツッコミを流し、コホンと咳払いをすると口をひらいた。
「まあ、それはともかく・・・くだらない話をしていたら魔王の城まで10メートルというところまで着いてしまいました。とりあえず、これからどうするか作戦をたてましょう。お2人は何か提案はありますか?」
そう言って俺とウィッチェの顔を見る。
「そうね・・・女の私ならあの城へ行っても入れてもらえるだろうから、私が先に城へ行って中の様子を探るっていうのはどうかしら? で、あなたたちの方には私と心の声で通信できるような魔法をかけていくからそれで会話をするの。で、中の状況に応じて2人で新たに作戦を練って中に来てちょうだい。」
「なるほど・・・・。それが一番安全かもしれないですね。ジョフェーレさん、この作戦でよろしいですか?」
ウィッチェの言葉に頷いていたビマインさんが俺に確認をとる。
「ああ。俺もそれでいいと思う。ただ・・・女の方がいいって言うならビマインさん、あんたが行った方がいいと思うんd・・・」
隣からものすごい殺気を感じ取った俺はそこで言葉を止めた。恐る恐る隣を見ると、ウィッチェが氷のような視線を俺に浴びせている。そしてブツブツと何か呪文を唱えている。
「・・・・やっぱり、ビマインさんが行ったらバレるかもしれないからな。ここは正真正銘女のウィッチェが行くべきだよな。うん。よろしく頼むな。・・・・ところで、ウィッチェ、今の呪文は何の呪文だったんだ?」
「ああ、今の? 今のはね、女が寄り付かなくなる呪文~」
少し目が優しくなったウィッチェがニヤニヤしながら言う。ちょっとまて・・・女が寄り付かなくなる呪文だと!? 女が寄り付かなくなるとか・・・それは俺にとって死に等しいぞ!? ってか、死より惨いことだぞ!?
「今すぐ解け!! その呪文は俺にとって死より惨い!!」
「大丈夫よ~大体1時間くらいで解ける程度にしといたから~。まあ、今回は途中で無礼な発言を止めたから1時間にしてあげたけど・・・。一生解けないようにすることだって可能だからね?」
うふっと肩をすくめて恐ろしいことをほざいたウィッチェ。俺の顔を冷や汗が流れ落ちる。こいつ・・・ただの甘党のアホ女だと思っていたが・・・恐ろしいやつだ・・・。気をつけよう。俺がそんなことを思っていると、今まで黙って何かを考え込んでいたビマインさんが口をひらいた。
「あの・・・ウィッチェさん。今の話を聞いて思ったのですが・・・その『女が寄り付かなくなる呪文』とやらを魔王にかけることはできないのですか? そうしたら、魔王のハーレムを作る夢は壊れ、囚われている女性たちも正気に戻ると思うのですが・・。」
「それは、私も最初に考えたわ。でもね、魔王はどうやら、自分を見た女を虜にしてしまうような魔法を自分自身にかけているの。そういう魔法が既にかけられている場合、女が寄り付かなくなる魔法をかけても打ち消されて全く効果がないのよ。」
ウィッチェがそう言うと、ビマインさんは少し落胆したような顔をしたがすぐに元に戻った。
「そうでしたか・・・。では、仕方ありませんので、当初の計画通りウィッチェさんに先に城の中に入ってもらうことにしましょう。では、お願いしますね」
そうして、俺とビマインさんは少し離れた草むらへ隠れる。ウィッチェは俺とビマインさんの方を向いて短く何かを唱えた。きっと、通信ができるとかいう魔法をかけてくれたのだろう。
そして、唱え終わると、俺たちに背を向け、魔王の城へと歩みだす。城の門を叩くと、ギーッという錆びついた音がした後、門が開いた。
「どちらさまでしょうか・・・?」
フードを頭から被った1人の女が城の中から出てきてウィッチェに声をかけた。しかしこの声・・・どこかで聞いたことがあるぞ・・?
「西のほうから来たものですが・・・こちらにとてもすてきな男性がいらっしゃると聞いてやって参りました。どうか一目でも会わせていただけないでしょうか・・。」
ウィッチェがねこなで声でフードの女に頼み込む。
「ああ・・・ストロウン様のことでございますわね・・・。どうぞお入りください」
そう言ってフードの女がウィッチェを城の中に招き入れる。よっしゃ!!第一段階成功!
心の中でガッツポーズをしたときだった。急に吹いてきた風がフードの女のフードをはらった。そしてフードの下から覗いた顔を見て驚いた。だって、その人は・・・
「サ・・・サラさん!!!」
思わず叫びながら草むらから立ち上がってしまった。フードの女の正体はサラさんだったのだ!!俺の姿を見たサラさんは「あ」と口を開いた後目を見開いて俺をみつめた。
俺は思わず駆け寄る。ウィッチェが何か言っているが。この際無視だ。
「ジョ…ジョフェーレくん? 何でここに・・・っていうか、私どうしてこんな格好でこんなお城にいるの?」
サラさんが呟くように言う。しかし・・どういうことだ・・? サラさんはなぜ自分がここにいるのかわからないのか・・? 俺が首を捻っているとウィッチェが噛みついてきた。
「ちょっと!! 作戦全部ぶち壊しじゃないの!どうすんの!」
その言葉にやっと自分の状況を理解した。後ろを振り向くと、草の陰でビマインが何とも言えない表情をしていた。
「わ・・・悪い・・・。でも、おかしくないか? サラさん、ここにいる記憶ないぞ?」
「それは、俺の魔力のせいだ。」
不意に低い男の声がした。ハッとして声がした方を見ると、1人の男が城から出てきた。青い瞳に茶色がかかった髪。鼻筋は高く、典型的な甘いマスクだ。もしや・・こいつが・・・。
「俺はこの城の主、ストロウン・ガーナ。俺はここにいる女性に俺の虜になるような魔法をかけている。ただし、その魔法は知り合いに名前を呼ばれると解けてしまう弱い魔法だ。だから、俺は城の中では別の名で呼んでいるのだがね。」
・・合点がいった。しかしこいつ・・・顔だけじゃなくて声も甘い!全てにおいてイケメン要素を持っている! ・・・ま・・・まあ、俺ほどじゃないけどな!
「いや、あんた確実に負けてるから。」
俺の思考を読んだ、ウィッチェの冷たい声が俺の胸に突き刺さった・・・・。