~勇者 ビマイン・ラブニファ~
~勇者 ビマイン・ラブニファ~
そうして、今に至った。
各々の事情は違えど、「魔王を倒す」という目的が一致した私たちは、今、魔王・ストロウンの城を目指して森の中を歩いている。
「ねぇ、ちょっと~、私疲れたんだけどー」
「いくら何も出てこないからって、気を抜いてはいけませんよ。いつ魔物が飛び出してくるかわからないんですから」
「さっきからずっと森の中あるいてるけど、足跡ひとつ見つからないじゃない。ホントに魔物なんているわけ~?」
「少しづつですが、確実に魔王の城に近づいています。侵入者に対して、魔王・ストロウンが何の対策もしない方が不自然でしょう。きっとすぐに、魔王の配下にある魔物が襲い掛かってきますよ」
「ゼッタイ気にし過ぎだって~。ホラ、クソガキもこの女装野郎になんか言ってやってよ」
けれど、クソガキと呼ばれた剣士・ジョフェーレからは何の反応もなかった。
「ちょっと~、聞いてんの? クソガキ! 聞けって!!」
それでも反応はない。ジェフェーレは胸の高さまである植物を凝視している。
それに魔女・ウィッチェは根気強く声をかける。
「アンタに言ってんのよ。聞いてます? ジ ョ フ ェ ー レ さ ん ?」
「あ! ごめん! おれ!? 全然聞いてなかったわ。 ……で、何の用?」
「はぁ、もういいわよ。それにしても、アンタは何してたの? 名前も知らない植物なんて凝視しちゃって」
「いや、おれが見てたのは、植物の奥だ。ちょっと気になることがあってさ」
気になること、ですか。この先も一緒に進む仲間として、これは詳細を確認した方がいいかもしれませんね。
「いったい何が気になるのです?」
「あぁ、ビマインさん。じつは、さっきから気配を感じるんだ」
「「気配…?」」
魔女・ウィッチェと私の首が傾く。
「あぁ。気配だ。それもただの気配じゃねぇ。おれと同じニオイがする……」
「なるほど……。では気を配っておいた方が良いかもしれませ―――」
私が言い終わるよりも先に、植物の奥の暗がりから何かが飛び出してきた。私がソイツの姿を確認するより先に、ソイツは私に飛び掛かる!
「キヒキヒ……。カワイイコ、カワイイコいた…キヒ」
そう言いながら、ソイツは私の胸へと手を伸ばしてきた。
「しまった――!!」
コイツは、爪で私を攻撃するつもりか、もしくは、長い腕で私を捉えるつもりか。どちらにしたって、今からでは対策のしようがない!
「キヒキヒヒ。カワイイコ! ムネ! オレのモノ!! キヒキヒキヒヒ!!」
そう言うと、コイツは、触った。私の胸に。
「アレ? カタイぞ? ナンデ? オンナノコなのに、ムネ、カタイぞ? キヒ…?」
許可無くレディーの胸に触るなんて……! 許しておけませんね。やってしまいましょう。
私はコイツを倒そうと腰に仕込んだ短刀に手を伸ばした。
「マ、マサカ、オマエ、オトコだったノカ…? イ、イヤだァァアアアア!!」
そう叫ぶや否や、コイツは、内側から膨張し、小規模な爆発を起こした。
ソイツは、あたりに肉片を飛ばし、跡形も無く消え去った。
「だ、大丈夫か、ビマインさん!?」
「な、なんだったのでしょう、今のは……?」
「今のは、【ディマン】ね。私の故郷で何度か見かけたことがあるわ」
ディマン、ですか……。この辺りでは聞いたこともない生き物ですね。
「ディマンは、精神の魔物よ。興奮すると、手がつけられないほど凶暴化するわ。そうならなかったのは、本当に運が良かったわね……」
「先ほどの生き物が“ディマン”というのは分かりました。では、何故ヤツは爆発したのでしょうか?」
「私、『ディマンは、精神の魔物』そう言ったわよね? アイツの弱点もそこにあるの。つまり、大きな恐怖やショックを与えると、アイツらは、あんな風に爆発して死んでしまうのよ」
なるほど……。そういう事だったのですか。
「つまり、アイツは、私の殺気に恐れを抱いて爆発した、という事ですね」
「いや、まちがいなくアンタが男だった事に対するショックね」
「な、何を言うか! 私はこんなに可愛いじゃないか!!」
「あぁ、もうダメだこの人……。ちょっと、クソガキ! アンタ、このアホになんか言ってやって」
「え~、おれかよ。やだよ、めんどくせぇ。自分でなんとかしたら?」
剣士・ジョフェーレが気だるそうに返す。
「なによその言い方! ……あ! そういえばアンタ『おれと同じニオイがする』とか言ってたわよね~? へー、アンタって、さっきのみたいな <出会いがしらに男の胸を揉みしだくヤツ> の同類なんだ~。やだぁキモーイ」
ニヤニヤしながら魔女・ウィッチェが言った。
「なっ…! ち、ちげぇ! おれはそんなヤツじゃねぇ!!」
「あら~、いまさら取り繕ったって遅いわよ~、ド変態さん?」
「て、てめぇ……! まぁ、なんとでも言えば? 女好きの獣にすら見向きもされなかった、ウィッチェさん」
「アンタね……!」
二人の間で鋭い視線が交錯する。
ここは、私が止めに入るべきでしょうね。
「まぁまぁ、喧嘩はそこまでにしておきなさいな」
「「アンタは黙ってろ!!」」
はぁ、このメンバーで魔王を倒すのですか……。
この先、とっても不安です………。