~剣士 ジョフェーレ・キャンサー~
~剣士 ジョフェーレ・キャンサー~
とある天気のいい日の昼下がり。
おれは、近所の喫茶店『ほわいとべあ~』に来ていた。おれ、お気に入りのこの店は、サラさんという美人が個人経営をしている。
「あら、ジョフェーレくん。また来てくれたのね。ありがとう」
「貴女みたいな美人に会えるのだったら、何度だって来ますよ、僕は」
――キマったな!
今のおれは、最高にカッコ良かったはずだ。あえて、普段の“サラさん”という呼び方をせずに“貴女”と呼び、 紳士さをアピールするために、自分のことを、“おれ”でなく“僕”と言う。カンペキだ……!
見ろ! おれを眺めるサラさんのうっとりした目を!
…………………あれ?
サラさん、おれのこと全っ然見てねぇし! 普通にカウンターで作業してるぞ? おかしいな…。
予定では、「ジョフェーレさんって、カッコいいですね! 素敵です!! あの…、もし良かったら……、私を……あなたの彼女に、していただけませんか………?」って頬を染めながら言われるはずだったんだけどな……。あっれぇ? おっかしいなぁ…。
首を傾げながら、空いた席に着く。
おれがこの店を好む理由――
それは、もちろんサラさんが美人だからであるが、それだけではない。
この店は、最近、女性向け週刊誌で紹介されて以降、たくさんの可愛い娘たちで賑わっているのだ!
今日はどの娘に声をかけようかな……?
お! 今日は、窓際の席でミルクティーを飲んでいるあの娘なんてどうだろう?
……かなり、好みだ!!
見たところ、高校生か大学生だな…。年齢的には、おれのストライクゾーンに入っている。
(年齢に関するおれのストライクゾーン:5歳 ~ 55歳)
短めの黒髪………ストライク!!
(髪に関するおれのストライクゾーン:ベリーショート ~ ベリーロング・黒髪、茶髪、金髪、銀髪、青髪、赤髪)
座っているから、定かではないが、身長はおそらく158cmくらいだな。
これは…………………ストライクッ!!!!!
(身長に関する俺のストライクゾーン:115cm ~ 195cm)
これは、声をかけるしかないな……。
じゃあ、いつ声をかけるのか…?
「今でしょ!!」
そう自分に言い聞かせ、彼女の席へと向かう。
「ねぇ、君、可愛いね。どう? 良かったら僕とお茶しない?」
「えっ……、え?」
彼女は、目を丸くして、おれを見上げる。長いまつげに縁取られた二重、小さめの口、筋の通った鼻……ファンタスティック(すばらしい!)!
さっそく口説こうとした時、思わぬ邪魔が入った。
「ジョフェーレくん! うちの店でそういうのは止めてっていつも言ってるでしょ!?」
怒ったサラさんがご挨拶を止めにかかる。
「そういう事ばかりしてると、うちの店出入り禁止にしますよ!?」
「サラさんがそう言うのなら仕方ない……。今日のところは止めておこう」
「<今日のところは>じゃありません! これから先もしないで下さい!!」
嫉妬しちゃうサラさんも可愛いな…。よし、今日のところは、サラさんの可愛さに免じて、ご挨拶をやめておこう。うん、今日のところは。
さて、今日はどんな娘に声をかけようか?
昨日は、サラさんに止められちゃったからな…。
そんな事を考えながら、『ほわいとべあ~』に来たおれは驚愕した。
素敵な男性に出会いました。
申し訳ありませんが、本日は私用で臨時休業とさせていただきます。
ほわいとべあ~/サラ
……………………………………。
………………………………………………………。
どこのどいつだボケェェェェエエ工工工工工!!!!!!!!!!
よく考えろ…、思い出すんだ……、昨日、サラさんは、誰に会ったのか………。
そういえば! 昨日、カウンターでサラさんと話した時、カウンターの奥に、「今日の午後、ストロウンさんから、コーヒー豆を頂く」そんなメモがあったはず……!
なるほど、<ストロウン>か…! 決めた! ストロウンとやらをブッころ―【自主規制】―!!
おれの剣の腕を見せる時がきたか…! この国では、おれに敵う剣士はいない!
おれなら―――殺れる!!!
「残念だったな! おれの記憶力と洞察力の凄さ(女の子が絡む時限定)を知らなかったのがお前の敗因だぁああああ!」
空に吼えるや否や、走り出す!
そして、ジョフェーレは思った!!
「あれ? ストロウンってどこ住んでんの……?」