~魔王 ストロウン・ガーナ~
~魔王 ストロウン・ガーナ~
なんだ・・・・。この美しい女性は・・・。白い生地に裾と胸のところについた黒いリボンがついたゴスロリ。ゴスロリとおそろいのフリフリのカチューシャ。黒と白のボーダーのハイソックスに赤いローファー。といった少々個性的で派手な服装だが、彼女はそれが嫌味にならないような端正な顔立ちをしている。パッチリ二重にくるんと上を向いた睫毛。厚すぎず薄すぎずの形の良い唇にほのかにピンク色の頬。そしてクルクルと軽く巻かれたツインテールの髪。これは・・・・。まさに俺の好みドストライクの美しい女性が俺の目の前に現れたのだ。俺は驚きのあまり手に持っていたナイフを滑り落してしまった。
カランッ・・・・。
乾いた音が辺りに響いた。目の前にいる美しい女性は私俺のことをじっと見つめている。
ドッ・・ドッ・・ドッ・・
段々と速くなっていく自分の鼓動を感じながら俺は彼女に会う前の数分前の事を思い出していた・・・・。
剣士・ジョフェーレと魔女・ウィッチェとの草むらの戦いで自分が劣勢であると認識した俺は城の中に入り、力を蓄えた。そして考える。この城内では俺7の力が最大限になるとはいえ、あの2人の戦闘においてのチームワークは最高だ。あれはまだ本気でなかっただろう。彼らがこの城内に本気をだして乗り込んで来たら・・・・。俺が負ける可能性もあるのだ。それは何としても起きてはいけない。俺の野望を壊されるわけにはいかないのだ。これはもう奥の手を使うしかない・・・・・。深く息を吸うと目を閉じ神経を集中させた。そして、先ほど戦った剣士と魔女の姿を思い出す。次の瞬間、目を見開くと俺の前に俺とと同じ姿かたちの男たち・・・・俺の分身が2体現れたのだ。この分身は俺が消そうとしない限り消滅することは無い。そして、24時間以内に俺が見た者の事を思い出しながら分身することによって、その者の性質をコピーすることができるのだ。つまりこの城内には俺と、ジョフェーレの性質を持った分身、ウィッチェの性質を持った分身の3体がいることになるのだ。仮にジョフェーレとウィッチェが1体を倒したとしても、同じくらいの強さの俺が2体いるのだ。体力の消耗もあり、彼等は苦戦し、負けるであろう。
『ストロウン様。剣士と魔女が城内に入ってきました。』
俺の配下にいる黒猫が俺の頭の中に話しかけてきた。その言葉を聞き俺は分身の方を向く。
「まずはお前があの2人のもとへ向かえ。敵のお手並拝見といこう」
「了解した。」
そう一言返事をして、ジョフェーレの性質を持った分身は扉の外へ向かっていった。
「お前は万が一あの分身が倒されたときに、剣士と魔女を倒しに行くのだ。とりあえず待機していろ。」
「わかった。」
もう一方の分身に指示するとこちらも一言答えて、扉の向こうへ消えていった。残った俺はというと、配下の黒猫や白猫、犬と連絡をとりながら、この城に女性以外が近づくことができないよう、結界を張るために外へでようとした。ここで配下の者から連絡が入った。『ストロウン様・・・。1体目の分身がジョフェーレとウィッチェによって倒されました。』「ほう・・・。早かったな。それで、剣士と魔女、2人の状態はどうだ?」
『あのお2人のタッグは素晴らしいですが、さすがに体力を消耗なさってるみたいです。心身ともに疲れが見えます。』
「そうか・・・。狙い通りだな。では、もう1体の分身が待機しているからそいつを呼べ。これでその2人は確実に倒せるだろう。」
『了解いたしました。』
そこで配下の者との連絡は切れた。俺はあまりにことがうまく進んでいることに驚きながらも、ほくそ笑んだ。そして、腰にさしてあったナイフを護身用に取り出す。
「ふっふっふ・・・。これほどまでうまくいくとは・・・。これで結界を張れば完璧だ。完璧なハーレムができる・・・。」
そう呟き城の外へ出るために扉を開けた。
そして驚いた。扉の外には・・・・俺好みの・・超ドストライクの美しい女性が立っていたのだから・・・・。
「あの・・・・。」
目の前の女性がためらいがちに口を開く。その声に我にかえる。
「な・・・なんでしょう・・・。」
しまった!!声が上ずった!!
「あの・・・。私の顔に何かついていますか?」
「いや・・・!何も。」
あまりにもじーっと見つめすぎたようで、目の前にいる女性が怪訝そうな表情をして問うてくる。しかし・・・数々の女性を虜にしてきたこの俺が、目の前の1人の女性に対してこんなに緊張するなんて・・・。なんて素晴らしいんだこの女性は!!なんて美しいのだ!!なんて魅力的なのだ!!いけない・・・。興奮している場合ではない。ここは男の俺から名乗らなければ・・・・。
「じろじろと見てしまって申し訳ない。あなたがあまりにも美しかったもので。申しおくれましたが、この城の主、ストロウンと申します。よかったら城の中に入ってお茶でも一緒に・・・。」
「ストロ・・・ウン・・?」
俺が名乗ると、目の前の女性は眉間に皺を寄せて俺のこと睨み始めた。
「そうか・・・。お前がストロウン・・・。」
「俺の事をご存じで?」
「知ってるも何も・・・先ほど、私の仲間があなたと戦ったはずですが?」
「戦った・・・?」
そう言われて思い出すのは草むらで剣士と魔女と戦ったことだけ・・・・
「もしかして、あの剣士と魔女のことでしょうか? あの2人があなたの仲間だと?」
「はい。私は彼らと旅を共にしている勇者 ビマイン・ラブニファ。あなたを倒すために彼らと旅をしてまいりました。」
目の前の女性―ビマインさんの言葉にショックをうける。せっかく心震わす女性と出会ったのに・・・・。彼女は俺を倒しに来た・・・・?敵だと・・・?
「ここで出会ってしまったということは私があなたを倒すほかはないようですね。覚悟してください。」
「待ってください!!」
俺は彼女のことが好きなのだ!この際ハーレムだとかどうでもいい!! 100人の女性よりも目の前のビマインさんだ!
「俺はあなたにひとめぼれをしました。あなたはとっても麗しい。お仲間である剣士と魔女への無礼はお詫びいたします。それに、城の中にいる女性たちは皆、解放し、それぞれの家に帰しましょう。ですから! どうか俺をあなたの仲間に・・・いや、仲間などおごかましい・・・。下僕にしていただけないでしょうか!」
「は・・・?下僕・・・?いや、そもそも私は女性じゃな・・・」
「ああ! なんて謙虚な! 『私はそんなにほめていただけるような女性ではない』そうおっしゃりたいのですね。そんな謙虚なところもすてきです! 今すぐあなたの目の前で城内の女性たちを解放いたしましょう!」
ビマインさんが何かを言い返す前に俺は彼女の腕をつかみ、城の中に入れた。
『おかえりなさいませ。ストロウン様。お早いお帰りで。』
城の中の自室に戻ると白猫が声をかけてきた。しゃべる白猫を見てビマインさんは驚いたのか、目をまるくしている。そんな表情のビマインさんもとってもかわいい。
「剣士と魔女はどうなっている?」
『さすがに苦戦しております。狙い通りです。彼らの方が劣勢であり、もうしばらくするうちに負けるでしょう。』
「そうか。間に合ってよかった。今すぐ俺の分身は消滅させよう。」
『な!! ストロウン様! 何をおっしゃっていらっしゃるのですか!?』
俺の言葉に白猫が心底驚いたというような声をだす。俺はそれに構わず続ける。
「それから、この城内にいる女性を解放しようと思う。手伝ってくれ。」
『いったい・・・どういった風の吹き回しですか? そこの女性に催眠でもかけられたのですか? しっかりなさってください! ストロウン様!』
「催眠などにはかかっていない! ただ、この美しいビマインさんが、俺が女性たちをとらえているがために俺の敵になってしまっているのだ! 俺はビマインさんにほれた! 彼女の旅のお供をしたいのだ! そのためならばハーレムの崩壊など惜しくない!」
『・・・・・。わかりました。ストロウン様のおおせのままに。』
そう言って白猫は女性たちが住んでいる部屋に向かった。女性たちには軽い催眠をかけているので、それを解いてくれるだろう。
「さあ、ビマインさん。これからあなたの仲間のもとへ参りましょう。」
「いや・・・あの・・・あんなにあっさり女性たち解放してよかったのですか?」
「あなたのためなら! あんなことお安い御用ですよ!さあさあ、ここにあなたの仲間の剣士と魔女がいますよ。」
扉を開けてビマインさんを先に部屋の中に入れる。どうだ・・・さりげないレディーファースト!! ビマインさんが中に入ると部屋の中にいた人物・・・剣士ジョフェーレと魔女ウィッチェがこちらを向いた。
「おお! ビマインさん! 俺途中からあんたのこと忘れてたわ! どこにいたんだよ?」
「・・・・・あなたたちにおいてかれてずっと草むらの陰に隠れてたんですが・・。」
「あ~そうだったの? ごめんね~。あ、でも魔王のうち1体は倒したのよ~。けどね、この城内にまだアイツがいるらしくて・・・・・。っていうか、さっきまで戦ってたやつと倒したやつがいつの間にか消えてるわよジョフェーレ!」
「え!? うわ、まじかよ・・・。どこに逃げやがった!」
「違うんですよ、お2人さん。分身は魔王本人が消してくれたのです・・・。」
そう言ってビマインさんは扉の陰に隠れていた俺を引っ張り出した。しかし、見た目の美しさに反して結構力あるな・・・。
「は? 魔王敵だろ? 何でおれたち助けちゃってんの?」
「そうよ・・・。意味が解らない・・・。」
剣士と魔女が信じられない・・・というような顔で俺の方を見る。
「ああ。分身を消したのは俺だ。しかし、君たちの為ではない。ビマインさんが美しいおかげだ! 俺はビマインさんの仲間・・・いや下僕になりたいがために仲間である君たちを助けたのだ! ビマインさんに感謝しろよ!」
しかし、俺の言葉を聞いた2人はますます俺の事を見てきた。
「もしかして・・・魔王、あんたこのクソ勇者に惚れたとか・・・」
「まさにその通りだ!俺はビマインさんに一目ぼれをしたのだ!」
俺が熱弁をすると魔女ウィッチェと剣士ジョフェーレが目を合わせため息をついた。
「あのな・・・言いにくいけど、そいつは女じゃないぞ。女装した男だ。ビマインさん・・・。あんた教えてやらなかったのかよ。」
・・・・・は? 今この女好き剣士は何て言った?
「いや・・・・。言おうとはしたんですが、聞いてくださらなくて・・・。」
ビマインさんが男・・・? え・・・男ってアノオトコ・・?イヤイヤ、ジョウダンダロ。アンナニカワイイジャナイカ。
「なんか、納得してないみたいね・・・・。しかたないわ。ほれ。」
魔女ウィッチェが呪文を唱えた瞬間、俺の体は斜めに転倒。目の前にはビマインさんの姿が! このままじゃぶつかる! そう感じた俺はとっさに体をよじった。そして・・・何かをつかんだ。何か・・・丸くて硬い物を。
「お・・・・おまえ・・・・。なんてことを!!」
頭上からビマインさんの怒りを含んだ声が聞こえる。恐る恐る顔をあげると、俺が掴んでいたのはビマインさんの胸だった・・・・。そして・・・それはなぜかとっても硬かった・・。
「あの~ビマインさん? なんかもんのすっごく硬いんですが。」
「そりゃ、当たり前だろ。っていうかさっきから言ってるだろ。そいつは男だ。」
呆然としている俺に剣士ジョフェーレが衝撃の一言を放った・・・。
たしかに・・・・これは・・・男だな。うん。こんなにかわいい子が男・・・・。いや~今のメイク技術やらなんとやらはすごいな。うん★ テヘペロ★
「なんて言うとでも思ったかぁぁぁあ!!! ふざけるなぁ!!!」
俺は力の限り怒鳴った。
「うわ! なんかこいつキレだしたんだけど!! ちょっとビマイン! どうにかしなさいよ! 」
「いや、私に言われても・・・。」
「運命だと思ったのに!? 夢のハーレムもあなたのために壊したのに!? 男でしたってオチ!? 何で先に言ってくれないんだよ!!! だましたのかよぉ!!!」
「ええい! うるさい!! 言おうとしたのに聞かなかったのはお前だろうがぁ!! 逆ギレをするなぁぁああ!!!」
ビマインさんの拳が俺の頬に当たった。それは思いのほか強い力で。ああ・・・怒った顔もやっぱりかわいいな・・・・なんて、状況が変わった今でもそんなことを思いながら、急に目の前が真っ暗になり俺は気を失った・・・・。




