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電撃お題チャレンジ作品集

ミレニアムライナー~寝ぼ助たちを乗せて~

作者: 空ノ

 過去に犯した失敗は取り消しがきかない。


 時は2010年元日。高校を出て上京したての俺には、一緒に年を越す女の子どころか、ダチすらいない。

 僅かに星の光が降り注ぐ夜道を歩き、いつものだだっ広い空き地でたそがれる。

 しかし、今日はどこか雰囲気が違った。辺りを漂う空気はなぜか生温かく、それは上空から降ってくるような……

「……って、なんだぁ!?」

 漆黒の闇を見上げたはずの俺の目は、銀色の輝きを放ちながらゆっくりと降りてくる4両の列車を捉えた。

 列車は地面に降りきる手前でふわふわと揺れる。そして目の前のドアが開く。

「ミレミアム……あ、しもた」

 ドアはすばやく閉まる。

「……」

 3秒後、ドアはまた開く。

「ミレニアムライナーへの乗車を許された幸運なる者よ、わらわが時空を超えた夢の旅へと誘ってしんぜようぞ!」

「……」

 俺を真っ直ぐに指さしながら女は声を張り上げた。

「いや、なんで仕切りなおした」

「……。さぁ、勇気を出し、白銀に輝くミレニアムライナーへ足を踏み入れるのじゃ!」

「おい無視すんな。……ってかあんた、劇団の人?」

 ストレートな銀髪にオオカミのような鋭い眼光。身の丈は170はあるだろうか。宙に浮く列車にあつらえたようにマッチするその風貌は、どこか非人間的な雰囲気を纏っている。

 しかし、着ているのはもんぺ。昭和初期に普及したあの女性用の袴だ。

 半端なくダサイ……。

「わらわはこのミレニアムライナーの社長である」

 意味が分からない。

「それを言うなら車掌じゃないのか?」

「……」

「……」

「このミレニアムライナーは1000年に一度現れ、選ばれし者に夢を与える。2000年になった今、千年ぶりに地上に降り立ったのじゃ」

 会話が成り立っていない。俺はマネキンか? それと……

「今は2010年なんだが」

「……っ!」

 お? 俺は返答に期待を込める。

「このミレニアムライナーで過去へ旅立ってみぬか?」

「……」

 端整な顔立ち。しみ一つない白い肌。吸い込まれそうな瞳。そんなすべての好印象を覆す――もんぺ。苛立ちは増すばかりだ。

「まさか寝坊でもしたのか? 10年の寝坊……ぷっ!」

 俺は自分を棚に上げて口撃してやる。

「な、なぜそれを……。まさかぬし、師匠ではあるまいな!?」

 誰だ……ってか図星かよ!

「反応はいいんだが、あんたさっきから言葉おかしいぞ」

「わらわはちょっと寝過ぎただけじゃ。気持ちがよかったのでつい10度寝をだな……」

「10年だから10度寝ってか!? そりゃ寝過ぎだろおい!」

「……」

 空き地に響く俺の声が空気を切り裂く。

 羞恥に耐えかね、俺は軽く咳払いをする。

「……か、過去に戻れるってのは本当か?」

「わらわは嘘が嫌いじゃ。あと時間にルーズなやからもな」

「……」

「さぁ、出発の時間は守らねばならぬ。乗るがいいぞ、ぬしに夢を与えるこのミレニアムライナーへ!」

 変な口調と毎回のオーバーアクションが鼻につくが、こんな体験はまずできない。女は無視し、浮いている列車へゆっくりと足を乗せる。フッと一瞬列車が沈む。そして扉が閉まると同時に列車は上方へ動き出した。


「すげぇ……空、飛んでら」

 窓の向こうに見える景色は、飛行機から見たそれそのものだった。眼下を望むと、人工的なイルミネーションが俺の意識を奪う。

「夢ではないぞ、ぬしよ」

 先ほどより近くで見た銀髪の女は、美しいという言葉以外当てはまりそうにない。2人だけの空間。心臓の音が内側で響く。

「3年前に犯した失敗。それさえ払拭できれば未来は変わるはずなんだ」

「3年前?」

「寝坊したんだよ。彼女との初デートの日にさ」

「なんだ、同類か」

「10年と一緒にするな」

「……」

「……」

「どうでもいいが、今から行くのは1000年前じゃ」

「は?」

「何をほうけておる。ミレニアムライナーと言っておろう」

 ……いやいや、ちょっと待て。

「3年前で止まってくれよ、ちゃんと」

「止まれるわけがなかろう? このミレニアムライナーは1000年単位でしか移動できん」

 ……。

「ふ……ふふ、ふざけんなボケぇ! 今すぐ降ろせぇぇ!!」

 俺が女に掴みかかろうとした瞬間……

「黙って寝ておれ」


 ◆


 目を開くと、俺は布団をかぶっていた。

「……と、とんでもねぇ夢だった……」

 大きく息を吐き出して身体を起こす。

 ――ん?

 周りを見ると、時代劇のセットのような部屋が目に入る。

「……まさか!」

 飛び起きて木造の格子の隙間から外をうかがう。

 そこに見えたのは、わらじをはいて変な帽子をかぶる男や、薄っぺらい着物姿に髪を結った女。


「そんな……う……うおおぉぉあぁあぁぁ!!」

「ひゃっ!」

 頭を抱え泣き顔のまま後ろを振り返ると、15、6歳くらいに見えるボロボロの布切れを着た少女が尻もちをついている。

「だ、大丈夫ですか? 道端に倒れていたから心配で……」

 澄み切った瞳で俺を見上げる少女。


 トクン……


 1000年の時を超えた恋の炎が今、心の奥底で燃えだした。




 ……いや大丈夫か? 俺の人生こんなで……

それにしても無言の応酬がひどい……

当時の勢いはいったいどこへやら。

今となってはもう描けない物語のひとつです。

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― 新着の感想 ―
[一言]  こんにちは。読ませていただきました。  こういうのも過去には書いていたのですね。ちょっと驚きました。  こりゃヒデェなと思いまして(ぇ  失礼を承知で言えば、ロジックやら伏線を固めて…
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