機甲ファリクサーF 第一章 「黒い月」
アルクェル帝国との戦いから一年、世界を救った甲長 輝だったが、それは人を守ることを、人との絆を迷い始めたことと同じ時期と同じであった。
それは心の隙を生み、新たな敵が動きだすには好機ともなったのであった
そして、絆の力を具現化するブラックボックスの謎が紐解かれる――!
ブラックボックスシリーズ第二弾、機甲ファリクサーの続編となります
機甲ファリクサーF
第一章 「黒い月」
「……」
いつものように起きる。早速着替えてから頭をちゃんと起すために顔に冷たい水をぶっかける。両親に毎日のように何度も言ってきた挨拶を繰り返し、ご飯を食べる。
食べ終わったあとは時間が十分に残っていることを確認し、歯磨きをして玄関へ行き、外へ。
俺たちがファリクサーに乗って戦った日々から、アルクェル帝国との戦いが終結して一年がたった。俺――甲長 輝(こうなが 輝)と原河 咲と宮木 なえかと秋日 陽樹と雹尾 志乃と坂部 豊との俺たち親友は無事に三年生となった。その過程で様々なことがあり、俺たちは生徒会に在籍している。
ちなみに比良乃 冬というとある事情から留年したために俺たちと同学年だ。
生徒会であるが故に、今日も生徒会の招集で夏休みだというのに学校へ向かっている。
「暑いな……」
思わず独り言を呟きながらTシャツをぱたぱたとして体に空気を入れる。
アスファルトが焼けて、溶けだすんじゃないかと思うほどの日差しに耐えながら、学校へと続く道を歩き、校門前に無事到着。
そこには既に人影があった。
それも二つ。一人の手は控えめに、もう一人の手は大げさに大振りに手を振ってきていた。
一人は、この学校のアイドルとして生徒に認知されている原河 咲
髪はショートカットで、少し癖毛がある。肌はこの太陽に照らされているにも関わらず真っ白で少しは焼けたほうが健康的ではないのかというほどだった。
学校のアイドルと言われていることから当然容姿もそれ相応の可愛さだ。彼女がこの学校で開かれるミスコンにでるとたちまち男子ばかりが集まることになり、文化祭で男子が可愛さのあまり機能不全に陥るということがある、らしい。
らしいというのは、この前の文化祭、俺は咲と一緒におらず、宮木 なえか(みやき なえか)と文化祭を回っていたからだ。
一年前……知り合うまでは教室で読書だけを黙々としているイメージだった彼女は、最近ではとても活発に見える。彼女はひた隠しにしたがっているけれど、実は勉強がとても苦手らしい。あと本人はかなり気にしているが少し天然である。
もう一人のクラスメイトのなえかは、幼い頃からの幼馴染。髪を高いところで結いあげているツインテールと呼ばれている髪型で、スタイルも幼馴染の贔屓目から見てもかなり良いスタイルをしていた。。
彼女は小さい頃から何でもできる完璧超人。運動はできるし、勉強も人並み以上にできる所謂天才だった。
学校でもそれなりに男子生徒の固定層がなえかのファンであるらしい。時々どこかの部活に助っ人のように参戦していることから女性人気も高い。
そんな完璧超人に見える彼女にも弱点は存在しており、幼馴染の俺はなえかが致命的に料理ができないのを知っている。
一時期、なえかが頻繁に料理を試食してくれと言わんばかりにもってきた時期は俺の人生の中でも、思いだしたくない事ベスト3ぐらいには入る。一口食べて気を失うならまだいい、しかし食べた後でも気を失わず、一日中、舌が麻痺したような感覚に陥り、腹を下すという料理をだしてきたことがある。
最近では少しマシになり、気を失うようになってきた。これを進歩と言えるのかどうかは……本当にわからない。
二人とも、俺と一緒に戦ってくれた大切な人。
一度この二人を戦いで失いかけた。だから、もうこの二人は失いたくない。
その二人に片手をあげて笑顔で走って近づく。
「輝くん、おはよう」
「おはよ!」
「なえか、咲。おはよう、早かったな」
「私が早いんじゃなくて輝が遅いの、今日はまた遅かったけど寝坊?」
「時間ピッタリに来たのに何が寝坊だ」
「五分前には来るものだよ。輝くん、まぁ狙ってこれるのも凄いとは思うけど」
「さぁきーあんまり輝を褒めると調子乗っちゃうからムチを使うぐらいが丁度いいの」
「五分前か……ま起きれたらな」
「……」
「……」
二人が微妙な顔で見つめてくる。
「なんだ……」
「明日は五分前に集合ね」
「そうだね、それでよさそうだねなえかさん」
「なえかと咲は最近俺に冷たすぎないか!? いやまあそうだよな、五分前にはくるようにするよ」
「宜しい。で、今日もどう?」
ヒヤッとしたものが背筋を駆け抜けた気がした。悪寒が襲ってくる。手の震えが止まらない。目の前がクラクラしてきたような錯覚に陥る。
なぜなかえは笑顔で笑っているんだ……何をしでかそうとしているんだ……っ!
返答しようとするも、声が震える。
「……ど、どうって何の話しですかね?」
「どうして敬語……。まっいいや、これね」
「あっ!」
言葉と同時に何かがぬるっと口の中に入ってくる。ネバーとしていて、脂っこくて、それでいて辛くてとても甘い。
そういえば辛いと甘いは感覚が違うから同時に襲ってくるらしい。口の中で悪魔と悪魔が争っている。片方が天使ではなく、どちらも悪魔だ。
なえかと咲の顔が歪む。目を開けてれらない。
ああ……意識が……とお――。
……
…
「……っ」
「あ、起きた?」
ぼんやりとした頭で鼻を使い空気を取り入れる。慣れない薬品っぽいにおいがする。
少し朦朧とする頭を左右に振り、隣に座っていた、なえかに聞く。
「なえか……ここはどこだ……」
「保健室、輝突然倒れちゃうから」
よく周囲を見てみると、薬品が入った戸棚がありなるほど、と納得。
ぼーっとしてる俺に何か気づいたのかなえかが口を開く。
「今日も倒れちゃうからビックリしたよ」
「ああ、そうか……」
なえかは嘆息を出した。
「……やっぱり、私の料理は下手、かな、どんなに頑張っても美味くいかないし……」
そこで俺ははっきりと告げた。
「間違いなく下手だ。どうしようもないくらい下手だ、」
なえかの顔に陰りが生じた。
「ハッキリ言うようになったわね……私だって――」
「でもな、努力してるのは知ってるから、まぁ、頑張ってくれ。これ以上気を失うのはごめんだが」
笑ってからまたため息をついて「輝はずるいなぁ」と呟いた。
一体何がずるいというんだ……?
「……うん!ありがとう!じゃあ、先に生徒会室行ってるから」
「ああ、すぐに俺も行く」
なえかが、少し小走りで視界から消える。
毎日こんなこと言ってるから気を失うことになるのか……まぁ、仕方ないか。なえかの料理がちゃんとしたものになるまでは付き合うとしよう。
少ししてから、起きあがり、ベッドから立ち上がる。
「んじゃ行く――!?」
紡ぐ言葉の途中に、瞬間的な、何かが背中を突き抜けた気がした。
人の憎悪がパイプを通じて物質のように全身を駆け巡る。
心を締め付けるような気持ちが悪い感情。
それとは別に体中の生気が吸い取られているような感触まである――否、いま、その感覚が消えた。
泡のように違和感が消えていく。
フィアーズ・コード・ラインが原因か……と思慮をめぐらせる。
俺と咲が支柱となり、現在人に少しだけ存在しているフィアーズ・コード、その人と人のフィアーズ・コードを繋いでいるのが、フィアーズ・コード・ラインであり、人々のストレスを存在の力へ変えている。
そのおかげで俺は……たぶん今もこの場所に存在し続けることができている。
フィアーズ・コード・ラインはアルクェル帝国との戦いで、俺がフィアーズ・コードの粒子となった時に大勢の人と人が繋がった結果できた。人と人の間を取り持つ、フィアーズ・コードを繋ぐ線だ。
フィアーズ・コード・ラインのおかげで、ブラックボックスに存在を吸収されかけて、ほぼブラックボックスと融合していた肉体を――存在の力を取り戻せた。
あれ以降、ブラックボックスが俺の存在の力を使っている感触はない。なら、さっきの生気が吸い取られるような感覚はなんだ。
以前からフィアーズ・コード・ラインを形成した時から俺の心には迷いがあった。いつまでも善意を信じ続けていた俺は、人の悪意というものを身近に、フィアーズ・コード・ラインを通じて感じていた。否応なしにそれは支柱である俺に届けらる……その感覚が俺を狂わせているのだろうか。
意識を集中してフィアーズ・コード・ラインの繋がりを調べる。人の心を見ているようなものなので罪悪感が募る。そして、善意と悪意が俺の中で混沌のように混ざり、螺旋を描く。
そして見つけた。
フィアーズ・コード・ラインが分断されている。俺を支柱に繋がれていた人との線がなくなっている。
「ぐっ……」
いままた分断された。
誰かの意思が働いている。
「平和になった世界で誰がこんなことを……」
アルクェル帝国との戦い、それは絆を信じられるように――絆を感じる、そして信じなければ勝利できない戦いだった。だからだろう、今まで人の悪意とはこんなにも辛いものなのかと感じたことがなかったのは。
誰もが持っているはずの悪意という感情、だがこの時の俺は絆に盲目的になっていた。戦いを通じて、何もかもを、絆を信じすぎていた。人の悪意というものに対してそんなものはないのだと、信じ続けていた。
俺が守った人たちは、こんな人だっただろうか。
俺の心に、僅かなシコリが生まれた瞬間だった。
……
…
地球から変わって、地球の重力圏外に停滞している、アルクェル本国である。
アルクェル本国は、アルクェル帝国から名前を変え、現在は"アルクェル"と呼ばれて、地球のテクノロジー進化に貢献している。
慢性的に地球に継続していたエネルギー問題や食料問題も次第に解決されていくだろうと目されている。
アルクェル本国と地球は軌道エレベーターと呼ばれているもので繋がれていて、自由とは行かないものの、お金もさほどかからず、観光に行けるような設備が整っている。
アルクェルには、地球が失った緑や生態系も多く、その研究で訪れる研究者たちの跡がたたないという。またアルクェルの歴史に関して学ぼうとするものも大勢いるのだとか。
そして、いま、ここにも研究をしているものが、約一名(?)
「……」
黙々と一冊の本のページをめくり続ける。
「なるほど。これが……」
何かに納得し、メモに写す。
彼はこんなことをしなくても鮮明にその画像を記憶したり、言葉をメモリに焼き付けることができるはずなのだが、そんなことはしていなかった。あくまで手を使った原始的な操作に拘っている。
どうやら人を理解するため、という行為らしいのだ。彼はあくまで実直であった。
ページをめくり、気になったものをメモする。さらにその工程を数時間繰り返す。そのうち、黙々とページをめくり続けていた手が止まった。
その顔は機械ながらも驚きに満ち満ちた表情をしていた。
「これは……もしや、ブラックボックスの起源……?それにこの内容は……輝に連絡をとって聞いてもらうべきか」
アルクェル本国の主――ヴァルセメリキウスが、早く報告したいとばかりに通信を始める。
ヴァルセメリキウスは、人間ではなくロボットである。金属生命体と言ってもいいかもしれない、なぜか彼にはフィアーズ・コードがあり、それがなぜ、どういう経緯であるのかはわからない。彼には生まれつき居場所はなく様々なところを彷徨っているところを昔のアルクェルの住人であるフィアーズ族に拾われたのだが、ある出来事をさかいにフィアーズ族を憎むようになり、まずはアルクェルを占領。
その後フィアーズ族は宇宙に逃げ、そして長い旅路の末、地球についたフィアーズ族は地球で発展をとげ、いまの地球に至る。つまるところ、地球人はフィアーズ族の子孫なのだ。
広大な銀河の中からフィアーズ族を見つけたアルクェル帝国は地球へ様々な兵士……機械を送り戦った。
最後にはアルクェル帝国も地球圏に襲来し、どうなることかと思われたがフィアーズ・コードを強く受け継ぐ子供たちや個々の人間の活躍によって地球人は滅びることはなかった。メリキウスはいままで戦って、殺してきてしまったフィアーズ族のためにいま地球に貢献……いや、罪滅ぼししようと頑張っている。最初は全て不幸な行き違いから始まったものも、全て今は過去のものとして彼は今未来に生きていた。
メリキウスは現在約170mほどの自己生成したロボットに遠距離で特殊な波長をだし操っている。部下たちとは違い、メリキウスにはAIなるものが存在しない、だからAIの移植ではなく、特殊な波長で人間 サイズのロボットを操っているのだとか。
しばらくしてやっと連絡がついた。
「輝――」
……
…
生徒会室に向かう道を進んでいると、服がブルブルと震え始めた。
服のポケットからその元凶を探し出して、通信機を耳に当てた。通信機といっても秘密の暗号回線などを使っている携帯に近いものだった。
「輝――」
「その声、メリキウス?」
「そうだ。ちょっとした用事があるのだが……。明日、時間はあるか?いや、明日でなくてもいいができるだけ早く伝えたいことだ」
「たぶん大丈夫だけど、何かあったのか?」
メリキウスからの伝達ということは何かよっぽど重要な何かが見つかったとかそんな感じだろう。
「そうだ。ブラックボックスについての文献だ。そのことを輝と原河 咲と宮木 なえかに伝えたい」
「ブラックボックスの……わかった。それじゃあ、こっちは午前で終わりだから、今日向かうようにしようと思うんだがそれでいいか?」
「そうか、こっちにこれるように手配しておく」
「了解。それじゃあまたあとで」
「またあとで」
通信機をしまう。
ブラックボックスの文献……どういうものだろう。もしかしたら、フィアーズ族がブラックボックスを入手した経緯などが書かれているのかもしれない。
メリキウスが自ら用事を伝えてくるほどだから、何か大事な話なんだろう。もしかしたらフィアーズ・コード・ラインについての情報も乗ってるかもしれないし。
咲となえかに伝えておかないとな、と思った矢先の出来事。
「……っ」
「なんだよ?」
「そっちこそなんだよ?」
目の前の男子二人が、激突して、頭突きをしていた。
ただの喧嘩にしてはあまりにも空気が険悪で、思わず言葉がでてしまった。
「そこの二人!」
「ちっ」
「……」
男子の一人が足早に去って行った。残された男子に声をかけてみる。
「どうしたんだ? 何があった」
「邪魔すんじゃねぇよ。生徒会様が」
「……」
捨てゼリフのようなものを言ってから去って行く。
この感覚、あの二人……フィアーズ・コード・ラインから分断されている。
しかも、憎しみという類のベクトルにフィアーズ・コードが向いている。それもかなりの憎しみだ。
人一人が持てるような憎しみの量ではなかったはずだが……待てよ、もしかしたらフィアーズ・コード・ラインを分断しているものが人の心に介入して悪意を増幅していたとしたら……?
フィアーズ・コード・ラインは物質でも何もない抽象的な力だ。それを分断できるならそいつは人智が及ばないような力を持っているかもしれない。でも、人の心に介入などできるはずもない、恐らく、ストレスが発散されれば戻るはずだ……。
悪意を向けられた言葉が頭を往復する。
俺のシコリは少しずつ、病魔のように大きく、密かにでも、狡猾に肥大していた。
……
…
生徒会室へ到着。
中では、咲、なえか、陽樹、志乃、冬がいた。
「輝く~ん!また気絶したんだってー?」
「ああ……」
冬が俺にキラキラした目を向けてくる。どうしてそんなに嬉しそうなんだ?
彼女の本名は比良乃 冬この学校――聖龍高校の生徒会長で、俺や咲と同じ三年ながら、留年しているため、一つ年上だ。
冬も、学校のアイドルと言われている。一体どれだけこの学校にはアイドルがいるんだろう。
この学校の生徒や先生、果てには校長までもが女好き、或いはそれに準ずる趣味をもっているため、これだけアイドルがいるんだろうか。
真相はわからないが、しかし、彼女が可愛いというのは俺にもわかるので、学校のアイドルの一人であるのは間違いないだろう。
「輝、ドンマイ」
「甲長、明日も頑張るんだな」
続いて、陽樹、志乃がねぎらいの言葉をかけてくる。
秋日 陽樹クラスメイトで、俺の親友だ。
授業などはちゃんと受けているし、黙っていればそれなりに顔も悪くないはずなんだけど、如何せ喋りだすと女の子好きでさらに変態というのがつけ加わるため、彼女は現在いない。
もう一人は、雹尾 志乃陽樹と同じクラスメイトであり、俺の親友でもある。
志乃は何かと騒ぎを起こしては、逃亡しているため、生徒会に目をつけられている……はずなんだけど、志乃は何故か生徒会に入っている。一時期でていったものの、再び戻ってきた。
いなくなったかと思えば、すぐに姿を現すという不思議な奴で、いまは目立った行動はしていないもののいつ動きだすか分からない。
「頑張るよ……。で、豊がいないみたいだけど」
陽樹が少し沈み気味に答えた。
「豊は休みだ……」
いまはいないけど、もう一人生徒会には坂部 豊という女の子がいる。彼女もクラスメイトで陽樹の幼馴染らしい。陽樹みたいなものを幼馴染にもって大変だろう。彼女は一部の男子に受けがよく、けっこうモテモテらしい。
「何かしでかしたのか?」
「いやいや!何もしてない! 俺は清廉潔白!」
「じゃあ、なんだよ?」
「つまりだなー、あー」
その時、なえかが口を開く。
「夏風邪よ、夏風邪」
「夏風邪か。なら仕方ないな。それにしてもなんで言うのをためらったんだ?」
「俺のせいだから……」
女子から突き刺さるような視線を受ける陽樹。
「おまえら待て!俺は何にもしてない!アイツが悪いだけだ!」
「矛盾が生じてるぞ……」
「とりあえず会議始めようぜ!なっ!?なっ!?」
「わかったわかった。そういえば、さっき男子通しの喧嘩があったみたいなんだが……」
全員が異口同音で発する。
『またかー!』
「またかー!ってなんだ!?」
なえかが愚痴でもこぼすように、いや、まさに愚痴を言い始めた。
「もう最近多くてね。一日五回くらい……どこでも起きるの……。知らないの輝くらいだよ」
「そうなのか……そこまで多いっていうのは聞かなかったな」
たぶん俺が気絶している間にそんなことがあったんだろう。喧嘩ぐらいはあるにしても、一日のうちに五回というのはどういうことだろう?
恐らく、フィアーズ・コード・ラインでも処理できない微量なストレスが溜まって、さらにフィアーズ・コード・ラインからの分断で爆発したというところだろう。
やはり、誰かの意思が働いている。そう感じざるを得ない状況。
もし人の心の憎しみや悲しみを増幅できる、こんなことができるものがいたとしたら――フィアーズ・コード・ラインから人の意思に関係なく分断ができるのはフィアーズ族の遺伝子を強く受け継いでいるもののはずつまり、俺たちの他に強いフィアーズ・コードを持っている人間がいるということだ。
しかし、俺はそんなに強力なフィアーズ・コードを持っている人の感覚を掴んだことはない。どうして感じられないんだろうか。
何かしらの要因があるのか――。
「輝?」
「えっ!」
「えっ!じゃないないんだけど……どうしたの?」
「なんでもない。ところで、メリキウスに今日呼ばれたんだけど、咲となえかは予定とかあるか?」
「んっ大丈夫」
「私も大丈夫だよ」
「そうか。じゃあ帰りにメリキウスのところに寄るってことで」
「うん、了解」
「わかったよ」
冬が間もあけずに話してくる。冬たちもどのような話かは分かるのだろう。質問はしてこない。
こういうのはありがたくもある。
「今年の文化祭はどうする?」
それにもっとも速く反応したのが志乃だった。学校最後の文化祭だからとてもはっちゃけるつもりかもしれない。
「今年は、サプライズを行いたい!」
こいつのサプライズと言えば……とんでもないことが起きるに違いない。
しかもそれで苦労するのは他のメンツだ。具体的なことを言わせて却下させよう。
「具体的には何をするつもりなんだ?」
「そうだな。学園はどこかの傭兵に占拠されたことに――」
「却下だ。そうだよな?冬」
「う~ん……それはちょっと予算的に厳しいね。もっと低予算のものはないの?」
却下の方向性が傭兵常々ではなく、予算なのはどういうことだろうか。もしかして本当に傭兵を雇うとでも思っているのか……。
「会長。予算はかからない。傭兵をやるのは我々だ」
「そうなんだねっ!でも却下だよっ!」
『どうしてだっ!』
陽樹までもが声をだしていた。
「なんでお前まで反論しようとしてるんだよ」
「いいだろっ!さわ――おっと、忘れてくれ」
「さわ?なんだ?」
「なにかなぁ……ねぇ、なえかちゃん」
「そうだね。なんだろうね、ね?陽樹」
咲となえかのジト目。これは精神的にキツイかもしれない。
「な、なんだよ!俺をそんな目で見るなよ!うあぁぁぁぁ!そうだよ!俺が傭兵をやればお触りできると聞いたんだよ!ダメなのかよ!?男が変態で何が悪いんだよぉ!」
一気に陽樹が捲したてる。
そして、
何故か咲となえかと冬の視線は俺へ向いた。妙な悪寒が俺を駆け抜ける。
恐る恐る声を発する。
「ど、どうしたんだ?」
女子三人が一文字も間違えず、同時に言う。
『男が変態で何が悪いってどう思う?』
「どう思うと訊かれてもな……」
「輝も男なんだからYES!だよな!」
「お前は黙ってろ!」
陽樹が肩を落胆させる。ここで変なことを言われたら俺が敵わない。
その間に、咲となえかと冬が真ん中に置いてある長机を周りこんでこっちに来ていた。
「近いからもう少し離れてくれ……」
『答えてくれたらね』
「……分かった。男はすべからく変態だ。以上」
『ふむ……じゃあ、胸が大きい人のほうが好き?それとも小さい人?』
「お前たちは何がいいたい! もうやめてくれ!」
……
…
その後も、俺に対する質問は続き、文化祭に関しては何も決まらず、日も傾き始めたころ、お開きとなった。
隣には咲となえかが歩いていて、どっちも満足そうな顔をしている。
そんなに俺を虐めて楽しかったか……?
「そういえば、メリキウスの用事ってなんなの?」
「ブラックボックスの文献が見つかったらしい。多分、大事なことだと思う」
「へぇ。でも、私は久しぶりにアルクェルに行けるほうが楽しみかな」
なえかの言葉に、咲も反応する。
「私も、文献のほうよりアルクェルに行けるほうが楽しみかも……」
「お前ら……いや、いいけど。なえかは行くたびに何かしてるよな」
「ん~釣りとか、森林浴とか色々できるんだよ。空気も美味しいし。咲はいつも何してるの?」
「私は、本読んでるかな」
「それ、家でも出来ないか……」
「わかってないなぁ、輝くんは!そよ風に揺られながら、気持ち良く本を読んで、ちょっとまどろんできたら寝て――」
「外で寝るのは危ないと思うぞ」
「危ないと思うけど」
「秘密の場所があるんだよ。今度連れてってあげるよ」
背筋に、突き刺さるような視線を感じ、振り向く。
「どうしたの?」
「気のせいだったみたいだ」
「な、何が?」
「どうしたの?」
「なんでもないから大丈夫だ」
感じたことのない、気味悪い予感がする。
少しだけ発せられた視線、そこから感じたのはとんでもない強さのフィアーズ・コードの感覚。もしかしたら、フィアーズ・コード・ラインを分断している本人かもしれない。
これだけの悪寒、気味の悪さを持つ人間だ。何があるかわからない……咲となえかを危険な目にあわせるのは極力避けたい……しかも、恐らく相手は俺に用があるはずだ。
いままでのことで大体の見当がついてきた。俺の感覚を信じるならこれをやっている人物は――。
「咲」
後ろから声が聞こえた。この声は京朗さんだ。
原河 京朗幼いころ、アルクェル帝国の先発隊に連れさられた人で、咲のお兄さんだ。
一時期は操られていて、俺たちの敵として立ちはだかったものの、いまではFDA――ファリクサーディフェンスアースで働いており、
地球とアルクェルを繋ぐ大切な仕事をしている。
「お兄ちゃん?どうしたの?」
「メリキウスに呼ばれてな。お前たちも呼ばれていると訊いたから一緒にと思ってな」
「そうなんだ。いこうっ」
「後ろからつけられている。相当危険な奴だ」
俺にだけ聞こえる小さな声で京朗さんが言う。
「咲となえかをお願いします。できるだけ素早く、アルクェルに」
「……わかった。必ず追いつくな?」
「はい。すぐに追いつきます」
「どうしたの?二人でヒソヒソ話しなんて」
「咲、なえか。すぐにアルクェルに行ってくれ」
「え?」
「どういうこと?」
「あとで説明するから今は走れ!」
「いくぞ!」
京朗さんが走り出す。最初は戸惑っていた咲となえかも走りだす。
「絶対にあとで説明してよね!」
「ああ。必ず……」
そしてあかね色に輝くうしろへ向く。
もう隠れても意味のないことが分かるのだろう。相手は姿を現していた。
俺のよく知っている人物。
「気づかれるとは思わなかったぞ」
「邪悪な気配がしたから、気づけた」
「邪悪か。その通り、だな」
「やめてくれませんか?」
相手はニッと笑う。
「なにをかな?」
「フィアーズ・コード・ラインの分断のことだ。お前はなにをする気なんだ?」
「フィアーズ・コードか……君は人と人を繋ぐ絆と言っていたな」
「それがどうした?」
「君は表面しか、見ていない。どこにでも裏は存在する。フィアーズ・コードは危険だ。何世代も受け継がれてきたフィアーズ・コードには微量なストレスが蓄積している。そして、それが一杯になった時、爆発する。私の計算ではあと1年で人のストレスは爆発する」
「……っ」
「わかるだろう?君の肉体はフィアーズ・コードそのものだ。ヴァルセメリキウスとの戦いで一度、フィアーズ・コードの粒子となった君は地球全土の人間を把握できるまでになった。そしてストレスが限界になるまでの時間も把握している」
「だから、俺はその解決する方法を探していた!」
「解決などできない。これを回避することは不可能だ」
「でも、ブラックボックスの力があれば……」
「ほう、ブラックボックスか……自分を犠牲にしてやろうとでもいうのかな?」
「……そうだ」
「周りの人はどうかな?君が犠牲になって助かるなど望むとは思えんな」
「いずれ、分かってくれる」
「わからないさ、それが人間だ。そして人間は不完全だ。君ならそれが分かるはずだろう?」
「……」
この人から流れ出る感情がフィアーズ・コードを通じて伝わる。
ドス黒く、何も期待していない。自己満足でもない。
ただ、人を殺そうとしている。それだけが伝わってくる。
「フィアーズ・コードに頼らなければストレスを解消することもできない。自分で何もやろうとしない。すべて他人任せ。人間なんて劣等種だ」
「それで――それでお前は何をするつもりなんだ?」
「この世界の人間をすべて殺す。そして私は一度すべてをやり直すんだ。すべてやり直す」
「違う……。あなたはそんな目的のために動いているんじゃない。あなたの中にあるのは人への憎しみだけだ!俺のフィアーズ・コードがそう告げてる」
「気に入らんな。人の心に干渉するなど……それで君は私を止めるのか?」
「当然だ。そんなことを許すわけにはいかない」
「止めるのは絆のため、か?」
「違う!人としてお前を止める!」
「できるなら、やってみるのだな」
「ぐっ……」
片膝をつく。全身に激痛が走り、力がでない。
何が起こったんだ……?
「君にもっとも訊くと思われる攻撃をさせてもらった。見上げてみろ」
空を見上げる。すると、空が一瞬で暗くなっていた。
先ほどまでのあかね色のように輝く空はなく、夜のように静寂が支配している。
そして、さらに濃く暗いものがでていた。
一瞬月と見間違えるほど、クレーターが多く。月と酷似していた。
「俺になにをした……!」
「あの月さ。あの月は人のフィアーズ・コードをストレスだけ残して吸い取る。それだけでもいずれ人間は滅びるだろう」
未だに激痛が続く。恐らく、俺の肉体の各所にある、フィアーズ・コードの遺伝子が吸い取られているんだろう。
一般人はこの痛みは味合わないはずだけど、俺の身体にはよく効く。
「そんな、ことは……!させ……ない!」
最後の力を振り絞って立ち上がる。
「まだ立ち上がるか……妹羨くん」
目の前に、女性の顔が現れる。それは俺のよく知っている人物で、咲をいつも追いかけていた妹羨 姫歌だった。
「なっ……!」
「……」
拳が腹にめり込み、意識が奪われた。
……
…
輝が倒れた直後。
「お疲れ、妹羨くん」
「いえ」
「原河 咲と宮木 なえかは?」
「妨害されたため取り逃がしました」
「そうか……。フェクサーとフィクサーもか?」
「はい。すでにアルクェル本国へ行っています。フォクサーも同じく」
「わかった。ここまでやれれば十分だ。あと少し……一ヶ月前から行動に移せれば高坂 貴広、高坂 なえか、アーリエス・フォン・ペースのフィアーズ・コードを手に入れられたのにな……」
「過ぎたことを悔やんでも仕方ありません」
「そうか?私たちは過ぎたことに引っ張られている人間だぞ?」
「……いまの私にあるのは憎しみだけです」
「それも、そうだな……。帰還するぞ」
「了解」
……
…
その頃、京朗、咲、なえか、メリキウスは地球の大気圏外にいた。
アルクェル本国へ行く途中、謎のロボットに攻撃された京朗、咲、なえかはフェクサー、フィクサー、フォクサーで攻撃をしていたものの、地球の真上に黒い月が現れた直後劣勢となり、メリキウスによってなんとかその場を離脱し、アルクェル本国へ向かっている。
「まさかメリキウスがくるとは思っていなかった」
「嫌な予感がしたのでな……甲長 輝は?」
「地球だ。恐らくあの黒い月を呼び寄せた本人だろう」
「遅かったか……」
「輝くんを助けにいかなきゃ……」
「待って」
「なえかちゃんは心配じゃないの!?」
「いま動いたってダメ。きっと敵に利用されるだけだから、いまはアルクェルにいくしかっ……」
「そう……だよね。ごめん」
「ううん。私も分かるからいいよ」
「地上ではFDAが動いている。でも、人間同士の暴動が起きているらしい」
「どういうこと……?」
なえかが訊くと、京朗が答えた。
「フィアーズ・コードだ。何が原因かは分からないが……フィアーズ・コードとあの黒い月が原因だろう」
「そういえば、あの月が現れた時から、全身に力が入らなくて……」
「なえかちゃんも?私も」
「……いまは急ぐぞ。ファエスリアスとファエムリアスとケッキンがすでにアルクェルについているはずだ」
その時、黒い月から地球全土に電波が発信された。それを傍受したフェクサー、フィクサー、フォクサーのコックピットに画面が映し出される。
どこかの町のようだが、どこの町か把握できないほどの酷い惨状だった。燃え盛る業火、ビルは怒号をあげて倒壊する様が映っており、さらに画面の中央に――。
「なに……これ」
「え、ファリクサー……?輝……くん?」
呆然となえかと咲は画面に釘付けにされる。
そこには――暴虐の限りを尽くす、漆黒のファリクサーが映っていた。
機甲ファリクサーF 第一章「黒い月」オワリ
機甲ファリクサーF 第二章「絆の可能性」前編へ続く




