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第二十六話 「惑星」

第二十六話 「惑星」


アルクェル帝国。その惑星が、今現在、地球に向けて進行してる。かつて、太陽系の第九惑星とされていた。冥王星のさらに深い宇宙。

人類には未だ知り得ない宇宙。無限の広がりを持つ、外宇宙から、接近している。それもかなりの高速で。

あと約23時間ほどで、この地球に到着する。

惑星がこれほどの速さで接近するなど、普通ならばあり得ないが、それがあり得た。それが現実という二文字なのだ。

地球より、小さく、月ほどの大きさのアルクェル帝国は、バリアを展開しており、恐らくこれを突き抜けることは不可能だろう。

地球は壊滅を待つしかない……。住民の皆さんはシェルターに避難をお願い致します。

……

モニターには、アルクェル帝国の詳細が書いてあった。TVに映っている情報は、既に俺も知っていることで、TV画面は真っ青な色をしていて、そこに文字だけが流れている。

地球は壊滅を待つしかない……か。京朗さんは、俺の存在が他人に見えなくなったからもっともフィアーズ・コードが強い俺が見えなくなったから……。

「皆が無意識に絆の力を否定しているのだろう」と言っていた。

目の前には、あたふたと行動している、FDA職員。TVはつけっぱなしで、職員の顔にも、不安の色が浮かんでいた。

俺は、TVの前に適当に置いてあった、ソファに座っていた。

やっぱり、俺のことを思い出す人はいなかった。

「輝くん、こんな所でどうしたの?」

いつの間にか、すぐ横に咲が立っていた。


とても不安そうだった。

手はここで見る限り、汗ばんでいて、顔色も悪い。


「俺より、咲こそ。俺より顔色悪いだろう」

「え、ううん。大丈夫。これくらい――」

咲は首を振って答えた。

でも、その体は震えていた。

「あら、咲ちゃん。誰と話してるの?」

咲は突然声をかけられてそっちを向いた。少しは親しいのであろう、FDAの職員。

俺のことは見えない。当然だ。分かってる。

「え、えーと……分かりませんか?」

FDA職員は、首を傾げて言葉を紡いだ。

「そこに誰かいるの?もしかして咲ちゃんの彼氏とか?」

そういって、咲から目を反らして探す。俺と目があった。

その目は本当に俺が見えていないんだろう。

とても純粋な目だった。

「……いえ、なんでもありません」

「……?」

消化不足のような顔をしながら、遠ざかって行く、FDA職員。

咲は今にもフラフラしていて、少しつつかれただけで、倒れてしまいそうだった。

「ごめんね……輝くん」

咲の悲痛とも言える顔。

「いや、いいんだ。大丈夫だ。それより、咲、本当に大丈夫か?」

「う……うん、だいじょう――」

咲は、前のめりになるように倒れた。

俺は、慌ててコンクリートにぶつかりそうになる咲を抱きとめた。

「はぁ……はぁ……」

「咲、お前……」

手をおでこにやるとかなり熱かった。

「……っ」

気づけなかった。傍にいたのに。

最近、咲の記憶が少し薄れてきている。これはもしかしたら、咲も存在を吸われて消えかけている。

そういうなのかもしれない。

でも、あと数時間ですべての決着がつく。それまで咲を休ませたいと思った俺は医務室へ向かうことにした。

咲を担ぎあげ、おんぶする。お……軽い。この外見で重かったら少しアレだけど……。

この重さが何か今すぐ消えそうで、はかなかった。

医務室へ通ずる道をズンズンと歩く。その道中にFDA職員にあった。

FDA職員は怪訝な顔をしていた。きっと咲だけが浮いているように見えるのかもしれない。何回が目を擦っていた。

きっと今、皆の記憶で咲の隣にいるのは大熊なんだろう。そういえば、大熊の姿を最近見ない。何処に行ったのやら…。

……

咲を医務室へ運び込んで、ベッドに寝かせる。幸い人はおらず、咲が一人で浮いているようには見えないはずだ。

未だに、咲の呼吸は荒く、しんどそうだった。

ヒエッピッタンクーと呼ばれる、風邪の時おでこに貼る物(を医務室の中から、探り当てようと聞こえが悪い物色を開始した。

そこらに薬は置いてあるのに、ヒエッピタンクーはなかった。

「ん……?机……それにこれは」

それは、元々俺の部屋に置いてあった机だった。その机には色々な思い出が詰まっている。

本当に色々な思い出が……ふと目をやると机の隅に写真立てが置いてあった。

その写真には、俺が映っていた。

「……これは」

皆が思い出してきているのかもしれない。俺とのことを少しずつ。

本当に少しずつ。

机の中身を探る。机の中には、探していたヒエッピタンクーがあった。

なんでこんな隠すように置いてあるんだろう。

そんな疑問を余所に置いて、咲を寝かしたベッドの所へ戻る。

まだ苦しそうに息をあげているものの、さっきよりマシに見えた。

とってきたヒエッピタンクーを咲のおでこに注意深く張る。これって貼る時が面倒なんだよな……。

そんなことをやっていると医務室の扉が開いた。

「む……甲長 輝」

「京朗さん、どうしたんですか?」

「いや、何もない。何をしていたんだ?」

「咲が熱を出して倒れて……ここに今寝かせました」

「そうか、ありがとう」

「いえ……アルクェル帝国はあと何時間くらいですか?」

「あと、10時間ほど、だそうだ」

「そうですか……地球を戦場にさせはしない」

「そうだな、それがブラックボックスの担い手がやるべきことだろう。あと9時間ほどで宇宙に向けて出発するが、お前はどうする?」

「どうする……というのは」

「お前はもう他人に存在を感じられることがない。次こそ完璧に誰の記憶にも残らず、お前の意思さえも消えるかもしれないぞ?」

「いきます、その覚悟は昨日……してきました」

「そうか、その目に偽りはなさそうだな」

「はい、京朗さん、絶対に帰ってきましょう」

「倒そうではなく、帰ってこよう……か」

「はい。倒すではなく、帰ってこようです」

「ふっ……分かった。必ず帰ってこよう」

「京朗さん、咲のことを頼めますか?」

「何処にいくのだ?」

「エスとエムの所へ行ってきます」

「分かった。ファリクサーは手筈通りにしてある。ファエスリアスとファエムリアスは、外で少し休憩しているはずだ。お前も少しは休憩してこい」

「はい……ありがとうございます」

俺は医務室をでて、エスとエムがいると思われる、所へ歩き出した。

皆、分かっているはずだ。倒す戦いではなく、帰ってくる戦いだ。それが、咲との約束。

だから、俺は消えれない――いや、消える訳がない。絆で繋がっているんだから。

……

「ふぅ、やっと終わったな!」

「いい加減にその口をどうにかしないか」

「なにおぅ!エムこそ、そのですます口調をやめろ!」

「だからエスと話す時はやめている」

「そういうことじゃなくてだな――」

「相変わらずだな……エス、エム」

コンテナの上に座っている、エスとエムを見上げる形になった。

夜空が広がっていた。9時間後は丁度朝日が上がる頃。そろそろ寝ないといけない。

何処で寝るべきなんだろう。

「甲長隊長。お疲れ様です」

「お疲れだぜ!」

「エスとエムこそお疲れ」

「いえ、私達は大丈夫です」

「あと9時間で決戦なんだから、休憩くらいはしておかないのか」

「今していますので大丈夫です」

「おう、大丈夫だ。甲長隊長こそ休憩は?」

「今してるから大丈夫」

「でも寝ないといけません」

「分かってる……エスとエムは明日は大丈夫そうか?」

「大丈夫?とはどういう所での意味か分かりませんが、万全です」

「おう、万全だ。あとは9時間待つ間暇つぶしをする程度だぜ」

「そうか、やっぱりエスとエムはエスとエムだ。少し寝てくる」

「?……どういうことか分かりませんが、了解です、おやすみなさい。甲長隊長」

「お休みだぜ!」

俺は、ファリクサーに向かって歩き出した。

俺の原点である、ファリクサーに向かって。

……

ファリクサーのコックピットに座って、パイロットスーツに着替える。

いつも私服で乗っていた訳ではないんだけど、服はそこら辺にしまう所があるのでそこにしまっている。

ファリクサーの操縦桿を握る。今は動かない。

「全部、俺の原点はお前なんだよな、ファリクサー。咲が屋上でピンチになっている時に助けようとした俺にアルクェル帝国の機械が攻撃してきた。それを防いだのもファリクサーあそこからすべてが始まったんだよな……本当に長い付き合いだと思う」

そう、この戦いは大体五か月続いている。普通なら何事もない五ヶ月。でもその間に色々あって、絆の力を感じた。

今も絆の力を感じる、皆との絆を……。

ファリクサーに乗って後悔したなんてことがないと言えば嘘になる。

でも、その後悔を乗り越えてここまでやってこれた。

それは、皆との絆の力のお陰だ。

脈打つような絆の流れ。

でも今はその絆が恐怖の色に染まっている。その色を絆の色に塗り替える。

絆の力を見せる。

刹那。ファリクサーのモニターに何かが移された。

「これは……フェニックス……?」

「我。すべての始祖なりて――担い手――我――助――る」

何を言っているか、それは分からなかった。その映像がすぐに消えてしまったから。

でも、そのフェニックスから、絆を感じられた。

どういうことだろう。

考えているうちに俺は暗闇に落ちていった。

……

「住民の皆さんはシェルターへ避難してください。繰り返しますシェルターへ避難してください」

「甲長 輝、準備はいいか?」

「はい、大丈夫です。咲も大丈夫か……?」

「うん!大丈夫だよ。いこう、輝くん」

「甲長隊長。俺達を忘れてもらったら困るぜ」

「忘れてた訳じゃないんだ。エスとエムもいいか?」

「おう!」

「はい!」

ファリクサー、フェクサー、フォクサー、ファエスリアス・改、ファエムリアス・改が日の出を背にして並んでいる。

空には、アルクェル帝国の本星が映っている。あの惑星は一体どういう原理でここまで接近してきたのであろうか。

そして、アルクェル帝国を統べる王。フィアーズ族は何故、ここにやってきたのか。そのすべての答えが詰まった星だ。


「いこう!みんな、これは……帰ってくる戦いだ!」


輝の掛け声に、咲、京朗、エス、エムはそれぞれ、声を発した。

いこう。

そして。

帰ってこよう。

ファリクサーの飛行システムを起動させて、宇宙に向けて、彼等は飛翔した。

……

「あれは――」

私の頬が綻んだ。

目には今、紅の機体が映っている。遥か上空に位置して燃え盛る炎のように発光している機体。

私のよく知っている機体。

「ふふ、フィクサー。いこうか!」

フェクサーそれは、かつて、自爆した機体だった。

そして、そこに乗っているのは、宮木なえか。

彼女が乗っているフィクサーも、大空へ向かって飛翔した。

アルクェル帝国本星から宇宙へ。


第二十六話 オワリ


第二十七話へ続く

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