第二十五話 「約束」
第二十五話 「約束」
それは、遠い日の約束であり、一人の男との契約であった。
ただ、悠久の時が流れる中、それは行われた。契約といってもずっとこの惑星にいるというだけの契約
――選びたかった。私が当初この惑星に流れ着いた時は、人類がそこに存在し、豊かに暮らしていた。
その人類は、我達を受け入れてくれた。この広い宇宙で、何事もなく。ただ、当たり前のように
それが嬉しかった。初めて他人を信じられた。
昔の我は、誰も信じられず、認められず。ずっと過ごしていた。この広大な宇宙で
この出来ごとをさかいに、我達はこの惑星で暮らすことにした。
ここには、あらゆる生命が満ち溢れ、そしてその生活を私はさらに便利にしていった。
とても、我には幸せだった。だが、この社会に入ってきた我を快く思わない所か、滅ぼそうとしたものがいた。
一人の男の裏切りによって。
……
…
「どうした?」
「なんでもないよ、早く位置を教えて」
「分かった。今送る。みょ~ん」
「そのみょ~んってなんとかならないの?凄く気が抜けるんだよ!」
私は、いつも一緒に行動している彼に言った。私は、今、白い機械のコックピットに乗っている。元からこれだけの数があったのにはビックリしたけど、紅の機械だけは、絶対無二の存在らしい。
動力が他のものと格段に違う、それは、ある惑星に一体だけフィアーズ族と共に送られたみたい。二千年前に。
「また、そんなツンデレを。やめてくださいよ、惚れませんよ」
彼はいつもこう。味方に位置を送る時も、果てには、敵にも送る始末。一体何処でこんな語彙を覚えたんだろうと思う時もある。
前の仲間から、彼はこう呼ばれていたらしい「欠陥品」私は彼が欠陥品とは思わない――けど変わっていると思う。
「あなたが優秀なのは分かってるけど、いい加減にしないとこっちも怒っちゃうよ?」
「サーセン。所で、このサーセンという意味はどういう意味なんでしょうか?」
「知らない!とりあえず、ちゃんと謝ってる風には聞こえない!」
「そうですか、ではごめんなさい」
「よし、それじゃあ、仕事しよう!」
「分かりました。では逝きましょう」
「うん、きっと違う意味で言ってるんだろうね。とにかく行こ!」
私は調子を見事に乱されて、戦いに向かった。
いつもこう。どうも緊張感が生まれない。
どうしてかなぁ……。
……
…
「ん?」
懐かしい
。そのような感情が一瞬、心に灯った。とても懐かしかった。俺は今でも大切だと思っている、人だった。
「どうしたの?輝くん」
咲が、少し困ったような顔で、こちらに目を向けていた。
そんな目で何故見ているんだ。
「いや……多分、気のせいだ」
「そ、そうなんだ」
「ああ」
レクイエムの駆るフェクサーもどきを撃破してから、一週間がたった。未だに、復旧のめどが立たず、街は、似つかわしくないガレキの山が広がっている。
咲、京郎さん、エス、エムは俺との記憶を思い出していた。レクエイムとの戦闘中に起きた光、それがきっと原因だったんだろう。
皆が思い出してくれて、嬉しかった。とても、やっぱり人は一人では生きていけない。
他の皆には、俺のことが解らないみたいだけど。でも……きっと思い出してくれるはずだ。
京郎さんの説明では、俺の存在をギリギリまで吸い取ったファリクサーは、次の段階として、新しい搭乗者を選んだらしい。現搭乗者の存在が吸われることによって、ファリクサーでさえも、搭乗者を判別できなくなる副作用らしい。
それにより、クラスメイトである、大熊が選ばれた。
咲、京郎さん、エス、エムの記憶は、大熊と過ごした記憶。俺と過ごした記憶の二つに分類されているらしい。俺ならそんなことになったら困惑するかも知れない。
正史は、俺との記憶。俺と過ごした記憶。らしい。咲、京郎さん、エス、エムの中では……。
皆に覚えていてもらっているのがこんなに嬉しいと感じられる。それはとても幸せなんじゃないか、と思った。
「輝くん、何処にいくの?」
「え?」
「え、じゃないよ。今からいくんでしょう?私は、何処か知らないけど……」
そうだった、そうだった。忘れてたぞ……今。危ない。
咲を呼びだしたのは俺だ。今日、やっておきたいことがあるから。
「明日にはできないから、今からいこうと思う、ファリクサーに乗って」
「え……?う、うん。明日には、来るって言ってる……」
「ああ、だから今日いかなきゃいけない。あそこに」
「あそこ?」
「そう。皆との約束の場所だ。ファリクサー」
約束の場所と言う言葉で何処か分かったのか、咲はフェクサーと呟いた。
皆との約束。その場所。一度だけ、皆でまたこようと言った場所。
大切な場所。
そこに今から向かう。その後はもう、あと戻りはできない。
今もあと戻りできないかも知れないけど、でも、本当に。
これが、最後。
……
…
「ん、どうした?――ここにくるとは珍しい。どうだ、ここは、良い所だろう」
我が、人間社会に順応し、二年が過ぎた時のことだった。我を拾ってくれた親友。
人間の友達だった。我にとって人間の中でも特に信じられる人間だった。いや……信じていた。我はこの親友を。
だから――我は、ここで聞いた親友の言葉ですべてが崩壊した。
「お前、この頃調子に乗りすぎだぜ、お前は機械なんだから身の程をわきまえろよ」
「な……に……?」
「拾ってやったら、何?いきなり人間様の社会に入ってきて、いい加減にしろよ、機械」
「わ、我は……良かれと思い……
気に入らなかったのであれば謝る
「ハッ!馬鹿みたいだな。謝る?所詮、機械如きが謝るとか一体なんだ?お前。その態度もすべて気にいらねぇ」
今にしてみれば、我はこの親友に酷いことをしたと思う。彼の居場所をすべて奪ったのだから。だが、このことがすべて水に流せると言えばそうではない。
我にとっても、親友である、彼にとっても許しがたいことだったのだろう。
我が来てからというもの、ある意味、この国に王はいなかった。だが、ある意味王であり私を拾ってくれた王。親友の彼は、我にすべてを奪われたといった。
人間という生き物は、酷く不安定であり、精神的にも幼い。論理的に行動もせず、ムカついたということがあれば、すぐに人を殴る、蹴る。殺す。
人間は愚かだ。
我は親友である、彼の役に立ちたく、ここにいた。ただ、ここにいた。
だが、言葉は、我を狂乱に追い込むには十分の言葉だ。
言葉とは人間が使うとても威力の高い兵器である。これ一つで、人間は不安定になり、他人を追いこむ。
我……。
すべてを奪ったのか?我のせいか?これは、我のせいか?我の……。
何故我が。
何故。
何故。
何故。
「何故……何故……何故……」
「おもしれぇ。同じことばっかり言ってやがる所詮。人間様の人形だな」
「許さん」
「はぁ?馬鹿言ってんじゃねぇ。許さないのは俺だっつーの」
この親友は――否。親友でない。敵だ。明確な悪意を出している敵。
我の中にある、何かが壊れた。
「――様?」
「どうした。何かあったのか、レクイエム」
「いえ、何もございませんが、どうしましたか?」
「どう、とはなんだ」
「少し声が震えておりますが」
「なんでもない」
我の遠い昔の思い出。
「もうすぐ地球に到着でございます。到着次第、部下を地球に向かわせますか?」
「いや、ブラックボックスの搭載機がくるのをここで待つ。惑星周辺で待機だ」
「ではそのように、失礼致しました」
「……ふん。これでいよいよ決着だ!フィアーズ族!この宇宙で貴様たちが生き残るか、我が生き残るか!フゥッハッハ!」
高笑いが響く。ただ、その声は悲しそうであり、復讐心に燃える声だった。
……
…
氷原に覆われた大地。その中でもっとも目立たない色であろう、白い機械がたっていた。
人間を模した機械だ。大きさは16mほどある。アニメなどにでてくる、機械。
それが、氷原に覆われた大地に君臨している。手持ち無沙汰の様で、退屈そうに、座っていた。
中には人間が座れる、コックピットと呼ばれているモノがあり、ある、女の子が操縦している。
彼女が声を発するっと、外部に声が出された。
「終わったよ!そっちはどう?」
「こちらも適切に処理しました。まいうー」
「いい加減その日本語やめて。地球人の品格が損なわれるよ」
「わっちは地球人ではないので宜しいでしょう。別に地球人の品格が失われようと関係ありません」
「そう?今ここであなたを破壊してもいいんだけど」
「どうも、誠に申し訳ございませんでした」
「うん、宜しい」
「一体私はいつ、あなたと主従関係を結んだのでしょう?」
「いや。結んだ覚えないから」
「そうですか、残念です」
「残念!?」
「残念です。ところで、救出した仲間たちはどういたしましょう?」
「いや……うん。まぁ、連れて行ってあげてよ……助けた意味ないじゃない」
「ああ……そうですね。あなたのことだからてっきり奴隷にしよう!とでもいいだすのかと思いましたが」
「そんな会話あったかな~?いい加減にしないと突っ込むよ?」
「何処に!?いやぁん」
「キモッ!」
「キモッ!とか言わないでください。では一旦合流しましょう」
「え、うん。そうね」
「といいつつもう横にいるんですけどね」
「それも分かってたよ……で、何しに来たの?」
「え?新婚さんな会話を望んでいます」
「はいあなた、お帰り、今日も一回死ぬ?」
「え。私が描いていた家庭とは違うんですが、もっと甘い甘い感じで、砂糖ぐらいに」
「それ甘すぎない?」
「いえ、これくらいないと……ところで、最近ノリがよくなってきましたね」
「あなたのせいでね……」
「喜ばしいです、さぁ、胸に飛び込んできなさい」
「嫌!そんなことしたら私潰れちゃう」
「言葉だけ聞いたらそそられますね」
「そんなの知らないから。いい加減帰ろうよ」
「えー、面白くなーい」
「駄々っ子!ってもう、いい加減にしないと本当~に~」
「……結婚してください」
「どうしてよ!?あなたでかすぎるし嫌!」
「拒絶された!いい加減、鉄のハートをそんな風に扱うのやめてくださいません?」
「鉄のハートなのは知ってるけど、そっちもいい加減、乙女のハート察して」
「あなたが乙女のハート……ぷぷ。無理です。鉄のハートですから」
「…………ねぇ、本当にもう帰ってもいい?敵くるよ!」
「ああ、ハイハイ。帰りましょうね、マイハニー」
「……」
「え?なにいきなりウィアントソード取りだして、え、え?いくら機械といえど、やってはダメでしょう?」
「――」
「なに言ってるか聞こえませんけどきっと呪詛でしょうね!って、あちょ、オマ、そんなの入らな――」
「ふふ……」
「あああぁぁぁあ!」
周囲一帯に断末魔が響いたという。
……
…
「咲。大丈夫か?」
「え?大丈夫だよ、あそこに置いてきちゃってよかったの……?」
「ファリクサーはもう秘密の存在でもないし。あそこに置いても大丈夫だ」
俺は咲を連れて、京都に来ていた。京都に、約束の場所へ。
しばらく無言で歩く。
俺は何も考えずに直進した。
「輝くん、ここ……」
「ああ……なえかとそして……咲と約束した場所だ」
「修学旅行の時だったね、ここで約束したの」
「ああ、あの時は、日の出が見れなかったから、また見にこようって約束した場所だ」
「うん。今は二人だけど……」
「俺はさ、本当は陽樹や、皆とここに来たかった。胸を張って終わったと言いたかったけど……皆もう俺のことが解らない」
「大丈夫。きっと思い出してくれるよ。全部終わったらきっと……」
「そう……だな……」
「なえかさんも笑ってる気がするんだ。この空の上で。ううん、もっと遠い場所で」
「……そう……だな……」
「どうしたの?輝くん」
「咲は、俺に戦ってほしくないとか言いだすのかと思ってたんだよ」
「あ……ごめんね。でも……これは私達の戦いだから、きっと輝くんにそんなこと言ったら怒られると思ったんだ」
「いや、俺のほうこそごめん。ここにはかんっぺきに迷いを捨てる為に来た。明日の為に」
「明日……うん、そうだね。でも、もう一つやっておきたいことがあるんだ」
「ん……?」
「明日終わったら、ここに皆でこようね。その時にはきっと皆輝くんのこと思い出してくれてるよ」
咲は、笑顔で言っていた。夕焼けに咲の笑顔が照らされている。
やっぱり彼女は強いと思った。これだけの状況下にありながら笑っているから。
きっとあの笑顔は本心だと思う。
今までのことを思う。支えてくれた皆。
幼馴染のなえか、彼女に出会えてよかった。きっと彼女がいなければこの現実を受け入れられなかった。
咲、彼女に出会えてよかった。出会わなければきっと俺はここまで生き残ってこれなかった。
陽樹、彼に出会えてよかった。俺をいつでも励ましてくれた。励ましたつもりはなかったかも知れないけど、本心をぶつけて会話できた。
「て、輝くん?ど、どうしたの?」
俺の頬を少し湿ったモノが駆け抜けた。
「大丈夫。ここには、あと戻りするためにきたんじゃない。また戻ってくる為に来たんだ」
「うん!そうだよ。だから……明日」
「絶対に帰ってこよう」
俺は咲と指きりをした。
明日が最後だ。
きっと。
すべての終わり。
そしてすべての始まり。
約束を成し遂げる。
心で堅く誓った。
第二十五話 オワリ
第二十六話へ続く