第二十三話 「咲」
第二十三話 「咲」
声が聞こえる。
誰か分からない声が……。私に呼びかけてる。でも、私にはそれが誰か分からない。
重りをつけられたように、意識が奈落の底へ落ちていくような感覚。地に足がつかないような、フワフワともしているような感触。
誰だろう、私を呼んでいるのは。
誰だろう、私の名前を知っている人は。
誰だろう……思いだせない。記憶にモヤがかかってるみたい。
何故だろう、その人のことを考えると、胸のあたりが熱くなるような、寂しくなるような。
何故だろう、何故、その人の名前が解らないんだろう。思い出したい。
思い出せない。今の私、ううん、きっと、誰も思い出せない。彼のことが。
今まで、ついさっきまで、あった記憶なのに、分からない。
彼の私を呼ぶ声が、一段と強く聞こえてきた。
声は、力強く聞こえるのに、何故か、掠れて聞こえた。
これが、お兄ちゃんが言ってたことなのかな。
今の私には、誰か分からないけど、私にとって、とても大切な人……。
……
…
「くっ!ここまで……だったなんて」
敵に回った咲がこれほどまでに強かったなんて、甘く見ていたかもしれない。
輝は、そう思いった。フェクサーの攻撃をインフェルノソードでなんとか受け止めるのが、精一杯なのだ。
剣通しの衝突により、火花が散って、外気の風で急激に冷やされ、消えた。
フェクサーの剣、ブリザードソード。氷をそのまま剣にしたようなモノである。
それが、ファリクサーに振りかぶられた。ファリクサーの剣、インフェルノソードで、受け止める。
インフェルノソードの刀身は、紅く、赤く光っており、すべてのモノを燃やしつくすかのようだった、見ているだけで溶けていきそうである。
普通なら、火花が散るということ自体がなさそうなのだが、氷の剣と紅の剣は、今もなお、剣と剣のぶつかり合いで生まれた火花は、踊るように、軌跡を描いていた。
咲の攻撃は容赦なく続く、空中での、右足蹴り、続いて、体を回転させ、左足蹴り。
ファリクサーに重い、一撃が入った。左足での蹴りだ。そのまま、体勢を崩したファリクサーの背後に回ると、フェクサーは、ブリザードソードを振りかぶった。
その攻撃をファリクサーは、インフェルノソードを上空に放り投げ、それを背面でキャッチし、フェクサーの攻撃を凌ぐ。
ファリクサーが反撃に転じれば、なんとか勝てるかもしれない。フェクサーを傷つけることがなく、咲も救出する、それが輝の目的。
咲の実力は、ほとんど輝と同等だ。もし、違いがあるとすれば、今の咲には、遠慮というモノがない。
ただ、敵を倒すだけ。それが、今の咲がやるべきことなのだから。別のことを考える必要がない。
咲の集中力は最大限に高まっていた。ある不確定要素が起きるようなことがなければ、その集中力は、さらに高まり、輝を圧倒していたかもしれない。
それは、第三者の介入によって、咲の集中力を不安定にさせるものだった。
……
…
「おやおや、ブラックボックスの偽物を持っていてもこのような力が発揮できるのですか、素晴らしい。機械だというのもまた、素晴らしい。どうです?アルクェル帝国に尽くしてみようとは思いませんか」
レクイエムの人を小馬鹿にしたような声がまた響いた。
その言葉は、ファエスリアス・改とファエムリアス・改に向けられたモノだった。
敵なのに、何故、レクイエムはそのようなことを言うのだろうか、やはりレクイエムにとっては、すべてが「ゲーム」という名の戦いなのだろう。
ファエスリアス・改が、上空からの落下速度を付加しての、右足蹴りを行う。
レクイエムがその攻撃を防いだ所に、まったくの無防備である、背後への攻撃をファエムリアス・改が開始。
後ろに目があるかのように、レクイエムは、その攻撃を巧みに避けていく。
「思わないぜ!俺は、皆の絆を信じてる!その絆を!」
「そうです!私も、同じです」
「まったく、絆、絆、絆と五月蠅い人達ですね。何故そのような不確定で、論理的ではない力に頼るのです?私達に加担すれば、あなたたちだけでも生かしてあげようと思ったのに」
まるで、感情が籠っていない声。レクイエムは、感情の欠落などではなく。本当に、このことをゲームとしてしか捉えていない。
ある意味。それは人間味に溢れているかもしれない。戦争をゲームでしか捉えていない人もこの世には居て。
絆という言葉を頑なに、否定するモノも当然いるだろう。でも……この世界に置いては、皆、絆の力を目の当たりにしている。
それが、いくら不可思議な力であり、SFのような力であろうと、今ここで起きていることがすべてなのだから。
「論理的ではないのは確かです――」
「おい、エム」
「分かっています、でも、私達は、その絆の力でここまで生き残ってきた。エス」
「おう!」
「「至宝合体!」」
ファエスリアス・改とファエムリアス・改が光に包まれると同時に、刹那的に合体が完了する。
頭部、腕などの上半身に当たる所は、紅の色である、ファエスリアス・改。そして、下半身である、足などの部分には、蒼色のファエムリアス・改が、合体している。
「絆の力!この目で見せよう!至宝合体!ファクロトアス・改!」
「頭の悪いような会話ですね、とても同じロボットとは思えない」
ファクロトアス・改。ファエスリアス・改とファエムリアス・改が合体した、モノであるが、ファクロトアスと違い、一段階ほど大きくなっている。
腕は、太くなり、足も強化されている印象を受ける。ファクロトアスが、リアルロボットかスーパーロボットか、どちらに分かれるか、微妙なラインを保っていたのに対し。
ファクロトアス・改は、スーパーロボットそのモノだった。力強い殺気が、溢れてきている。
「それはどうか試してみないと分からないぜ! です」
「お前はなんで一々ですってつけるんだよ!? 仕方ないでしょう。これが私の性分です」
一人で漫才をやっているファクロトアス・改。見た目的には、気持ち悪い感じ。
一人で突っ込みを入れている。
「
私も馬鹿にされているものですね……」
フェクサーもどきが、容赦なく、拳を叩きつけようとした瞬間。目の前にいたはずの、ファクロトアス・改が真後ろに移動し、鋭い、右足蹴りを連発。
その後、左足で、思いっきりけっ飛ばす。さながら、サッカーボールのような飛ばされ方だ。
けっ飛ばした、フェクサーもどきを追撃。さらに蹴りを加える。
さらに吹っ飛ばされるフェクサーもどきを追いかけ、正面に回ると、拳を構える。
その拳には、光がほとばしっている。この光は、絆の光、皆との絆の光。
それを、音速とも思えるような領域で、近づいてくる、フェクサーもどきへ向かって、突き出した!
フェクサーもどきの中にいる、レクイエムは、何事もなかったかのように、ただ、操縦席に座っていた。
そう、ただ座っているだけ、ただ、少し危機感を感じたのか、手を少し、握り締めていた。
ただ、レクイエムはいたって冷静。顔を少しも歪めてもいない。
「この力は……ふむ、少し認識を改める必要がありそうですね、ですが――」
レクイエムは、命じた。己が操縦する機械に。すると、操縦席後ろにある。
四角く黒いモノが音を立てて、せり出し始めた。それは、不気味な音をたてて、音を発しだした。その音は人間には聞こえない周波数で。
その特別な周波数は、あるモノを加速度的に、一時的にだが、使い物にならなくするものだった。
ファクロトアス・改とフェクサーもどきとの戦闘は、刹那の内に、終わりを迎えた。
ファクロトアス・改の拳を包んでいた光は、突如として分解され、ファクロトアス・改自体、動かなくなった。
自由落下していく、ファクロトアス・改。ただ、地面に激突するのを待つだけ。
「クシュリナ・ボックス……ブラックボックスを参考に作りだした、アンチブラックボックス。原河 京郎の時にも試験的に装着した機械を送ったりしましたが……これもそこまで安定とは言い難いほどですね……効果範囲も精々200m、もっと改良できますね、これならすぐに設置できるでしょう」
「レクイエム!」
フェクサーもどきが、後ろを振り返るとそこには、黒い機械がたっていた。
……
…
「おや、あなたは……」
「レクイエム、貴様……クシュリナ・ボックスを完成させたのか!?」
「あなたに教える義務は、ありませんが……いいでしょう、これもゲームです」
フェクサーもどきの目の前に現れたのは、原河 京郎の駆るフォクサーだった。
黒いファリクサーのような容姿。近接戦闘に特化した、ブラックボックス搭載機だ。
「
まだ、完成はしていませんが……時間の問題ですね」
「ならばここで貴様を逃す訳にはいかないな」
「そういうと思いました。ですが、いいのですか?」
「……」
「もうすぐ、彼の存在が消えますよ?」
「それは……アイツの選んだ道だ、俺の手を出す所ではない。俺は、そのために今ここでお前を倒す!」
「マスター!」
「な、咲!」
京郎が言った。
先ほどまで、離れた所で戦闘していた、咲が、第三者の介入。原河 京郎の駆る、フォクサーの介入によって、レクイエムを守る為にこちらに近づいてきたのだ。
「原河 咲……完全に洗脳したはずなのに、何故、私のほうへ、あなたは、甲長 輝を相手にしておきなさい」
つくづく、人間というのは思い通りに成らないと思う。レクエイム。
ゲームの駒なら、ゲームの駒らしくしていればいいものを……。
フェクサーの後を追い、ファリクサーが、フェクサーに背後から突撃。ファリクサーがフェクサーの両脇を腕で掴み共に地面へ、落下していく、最大限に、速度を落としながら。
「だから、甘い、原河 京郎、またの機会に」
「な!?待て!レクイエム!」
フォクサーの攻撃を刹那の領域で、回避し、撤退していく、フェクサーもどき。
「もう咲は用済みということか……」
……
…
「咲!聞こえるか!咲!」
「……」
ファリクサーは、地面に激突する際に、落下による衝撃が加わらないように、最大限に落下速度を落としていた。
だが、フェクサーは違う。ファリクサーの腕から離脱したかと思うと、自分のことなどお構いなしに、ファリクサーを掴む。
落下速度が飛躍的に早くなっていく。地面に激突するまで、あと10秒近くだろうか。
このまま突撃すれば、衝撃はとんでもないことになるだろう。
「咲……答えなくても言い、聞いてくれ……俺は、逃げていたのかも知れない。お前の気持ちに当然気づいていた。でも、踏ん切りがつかなかったのかも知れない。
だから、今言うぞ、これを逃したら俺はもう、言える自信がない……!」
「……」
「咲……お前が好きだ!俺の所へ戻ってこい!咲――!」
それは意識せずに、意図せずにでてしまった言葉の片鱗――叫んだあと輝と咲の目の前が真っ暗になった。
でも、途切れる意識の中で、二人を繋ぐ、フィアーズ・コードが力となり、ブラックボックスの力を引き出していくのを体現しているかのように、ファリクサーとフェクサーが光に包まれる。
暖かな光。それでいて、少し寂しいような光。皆をつないでいる、光。
ファリクサーとフェクサーは、落下速度を、落とし、無事地面に着陸した。
第二十三話 オワリ
第二十四話へ続く




