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第十九話 「動力」

第十九話 「動力」


寒い風が、窓から吹きつけてきた。

九月、いよいよ寒くなっていく時期であり、俺が嫌いな季節でもある。

寒いのはどうも我慢ができない、どれだけ厚着しても暑いから。俺は一生ををかけても冬を好きになれる気がしない。

八月には文化祭、修学旅行のやり直しがあったけど、それはまた別の話だ。

今日は咲のお兄さん、原河 京郎さんに会いにいくことになっている。

アルクェル帝国との宇宙での決戦後、原河 京郎さんは、一ヶ月間ほど意識を取り戻さなかったのだけれど、昨日意識が回復した、との連絡があった。

それを聞いた咲は、一刻も早くお兄さんに会いたいという顔になって、昨日にでも行くと言っていたのだが。

昨日はいくらなんでも無理だ。ということで今日いくことになっている。

俺が行く理由は一つ。原河 京郎さんに呼ばれたからだ。俺と咲に話しておきたいことがあるらしい。

一体なんだろう?ここで推測しても仕方のないことだろうけど……。

でも、俺の感が告げる。

話というのは、恐らく……ファリクサーとかの動力。「ブラックボックス」のことだ

「輝くん?」

「え?」

「え?じゃないよ、聞いてた?」

電車の中で原河 京郎さんの所へ行く間に色々考えておこうと思ってたから、聞き逃してたみたいだ。

寒いのも相まって少しボーッとしている。

「ごめん、聞いてなかった」

咲は少しムッとした顔になりそっぽを向いてしまった。最近の咲は表情豊かになってきたよな。

最初はこんな顔なんてしてくれなかったし……。

「ごめん、咲、教えてくれないか?」

咲は少し溜息をつきたいという顔になったけど、すぐに笑顔になった。忙しい奴だ。

「この本だけど、いつ返したらいいの?」

その手には文化祭で俺が買った本が乗っていた。確か0は四つぐらいついてたんだよな。

「返さなくていいんだけど、咲はもういいのか?」

「うん、もう読んだから」

「そうか、でも返されても俺は読まないから、咲がそのまま持っておいてくれたらいいかな、と思ってるんだけど」

「う、うん、分かったよ」

咲は少し首を傾げて眠り始めた。その首が俺の右肩に乗る。この状況は……。

俺は肩が乗せられていない方の手で咲の頭をなでた。まぁ……いいよな、少しだけなら。

咲が肩に頭を乗せている間、俺はずっとドキドキしっぱなしだった。

……

「失礼します」

目の前にあった、扉をスライドさせて、個室への扉を開いた。

西日が窓に当たって、反射している。

中は少し手狭で、生活感など皆無の場所だった。

なんにもない、そう表現するのが正しい場所だと思った。

「きたか……」

「お、お兄ちゃん!」

咲は京郎さんの顔を見るなり、走って抱きつきにいった。

久し振りの再開でそうなるのも仕方がないか。

「咲……心配かけたな」

「ううん……」

咲は少し泣きじゃくり、ずっと京郎さんに抱きついていた。

俺がその光景をボーッと見ていると声が届いてきた。

「……ファリクサーのパイロットか?」

俺への問いかけ。

「はい」

俺は一歩前へ出た。

「そうか、咲」

「え、うん」

久しぶりにあったはずの、京郎さんの声に咲は即座に反応して、少し後ろに下がった。

後ろに下がれ、ということだったのか。

「とりあえず、お前には礼を言わねばなるまい……感謝する」

「助れたのは……咲のおかげです、咲に言ってあげてください」

京郎さんは少し笑うと「そうか」と言って、スッと目を細め、次の話を喋り始めた。

「お前たちは……ブラックボックスの動力が何か……分かるか?」

それは俺が考えていた物でもあった。

ブラックボックスはきっとただの動力機関じゃない。それは今までの戦いでもなんとなく分かっていたこと。

すぐに浮かんだ言葉。ブラックボックスの動力だと思う言葉をすぐに発した。

「絆……いえ、フィアーズ・コードじゃないんですか?」

「フィアーズ・コードか……確かにそれもある。だが、フィアーズ・コードはただのブラックボックスを起動させる鍵の役目だ。

 ブラックボックスを最も活性化させ、性能を最大限に発揮する動力となっているもの、それは――」

京郎さんが言うことが俺には分かった気がした。

ソルヴァリアスに乗ってから感じだしていること、それなのかもしれない。

……陽樹は俺が見えていないような素振りをすることが今まで何回もあった。

もし、それが答えなら俺達は――このままブラックボックスに乗り続けていれば……。

俺が考えているのを知ってか知らずか、京郎さんは少し間を置いてから言葉を紡いだ。

「人の存在だ、それがブラックボックスの動力の根源となるモノだ、そして、ファリクサーに乗っているうちに存在をブラックボックスは吸い取り、いずれ誰にも知覚されなくなる」

「やっぱり――そうなんですか、薄々違和感はあったんです、友達に時々知覚されてないような」

俺は自分の存在を確かめるように手を――少し汗ばんでいる手を握った。

「さすが、高いフィアーズ・コードの持ち主だ、それに気づいていたか――だが、それを知ったお前達はどうする?」

「俺は……」

俺はそれを知ってどうする――決まっている、それは咲も同じなようで、目で意図を送ってきた。

間を置いてから言った。

「俺は、いや、俺達は――戦います、もしかしたら皆に知覚されなくなるかもしれない、知覚されないってことは誰にも見えず、誰にも知られずに死んでいく、それが怖くない訳じゃない

 でも、なえかが俺を守ってくれた――なえかが俺に託してくれた思い。そして皆との絆。それを守りたい、もし俺達が知覚されなくなるとしても、絶対に戦い抜いて……

 消える前に勝ってやります」

俺は今までの俺では考えられないようなことを言っていた。このきっかけになったのはやっぱりなえかの「死」というモノなのかもしれない。

皮肉だ。俺が守りたかったものがこの手から滑り落ちてから、戦う決意を固められたなんて。

「そうか――強いな、お前達は……」

「強くもなんともありません、これは……俺と皆を繋げている絆のおかげです」

「絆か……」

「はい」

それから、しばらく無言の時が流れた。時間になったので、俺と咲は帰ろうとして、病室のドアを開ける瞬間。

京郎さんは、思いだしたように語りだした。

「ファリクサーのパイロット。そろそろアルクェル帝国が侵略を再開するはずだ。お前たちが倒したのはただの先遣隊。

 アルクェル帝国の中でも下っ端に等しい存在、それが先遣隊の連中だ。

 基本アルクェル帝国は、先遣隊がダメなら、次にまた部隊を送ってくる。それに要する時間が約一ヶ月だ

 お前達が先遣隊を倒したのが――」

京郎さんの言葉、それは新たな戦いを意味していた。また、アルクェル帝国が地球を狙いにくる。

いや、正確には地球を狙いにきているんじゃない。ファリクサー――ブラックボックスを狙いにきている。

……

京郎の病室に日々之が扉を開けて、入ってきた。

「どうでしたか?」

日々之は、京郎に言った。

京郎は少し考えてから「強い子達だ」と返事をし、窓のほうを向いた。

窓の向こうには、晴れ渡った空が広がっている。

これから、また戦いが起きるようなことは微塵も考えられそうにない空。

「いえ、強くなったんですよ」

「そうか……本当に感謝せねばな」

「そうですね……私も感謝しています、彼らには」

そして、窓を見ながら京郎は呟いた。

「ファリクサーのパイロット――いや、甲長 輝なら、大丈夫かもしれんな」

……

俺が、京郎さんと話して二日後。いつものように起きて、学校に行く。

もうそれが一ヶ月近く続き、習慣化してきた。

やっぱり慣れだよなぁ……戦ってる時よりやっぱりゆとりがある。

教室の扉を開けると、すでにおおよそのメンバーは到着していた。見る限り、まだ来ていないのは5人くらいだ。

まだ授業の開始まで10分はあるぞ……?陽樹がこの時間に来ている時点でおかしい。

陽樹は、絶対に一時間目は遅刻するはずなのに今日に限っては来ていた。

「陽樹、どうしたんだ」

「かなり遅かったな……輝。そしてどうしたんだ?ってのはどういうこった」

その決意に満ちたような目はなんだ。

「この時間に陽樹が来てるのが珍しいからなぁ。今日は一体何があるのか分からないんだよ」

「はぁ!?お前、知らなかったのか、なら教えてやる」

陽樹は、手を組んで立ち上がった。鼻を鳴らしている。

なんでそんなに偉そうなんだ。

「今日はな……生徒会の会長がラジオをしてくれる日なんだぞ!」

……生徒会の会長ってことは、冬だよな。

冬がラジオをするって?なんでまた急にそんなことになってるんだ。

「冬がラジオをするのか、それだけの為に皆集まってるのか……?」

「そうだ、当たり前だろ」

さも当然のように言う陽樹。当然なのか?俺は知らなかったぞ、そんなこと。

その時、学校中の放送用機材から、声が発せられた。

「生徒の皆こんにちは~!生徒会、会長比良乃冬だよ!」

そして、周囲では、男子が「おぉー!」と声をあげていた。普段おとなしそうに見える奴も声をあげている。

会長効果、恐ろしい。

それから、数時間、学校が終わるまで、そのラジオは続けられた

そして、ラストには、何故か盆踊りが待っていた。

このラジオを最後に、この平和、たった少しの……一ヶ月という短い平和は音を立てて壊れていった。


第十九話 オワリ


第二十話へ続く

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