第十八話 「決戦」
第十八話 「決戦」
「なぁ、輝」
「なんだ」
「女の子に抱きしめられるっていいな……!」
陽樹は手を振っていて、更に興奮気味みたいだ、あの時感じた陽樹の姿は何もない。
あの決意に満ちたような目はなんだったんだろうな、何かふっきれている気もするけど。
女の子に抱きしめられる……か、まぁ、な。
「……」
俺は沈黙を保つことにした。何か話しづらいからだ。なんでだろうな?
まぁ、分かっているんだけどな、女の子に抱きしめられたなんてアレが初めてだったからなぁ。
「輝はまだ経験がないか……大人になれよ」
俺の顔を見ながら微笑むのはやめてくれ、キモイぞ。そして肩に手を置くな。顔が近い。
「そうかよ」
ちなみにここは俺の家だ。学校は未だに建てられていない。もう少しで建て終えるとのことだけど。
ソルヴァリアスに合体してから2週間がたつ。それまでアルクェル帝国は音沙汰もない。どうしてだ?
現在の技術は凄い。たった数週間で学校が建つくらいだから、それでも元通りとはいかない。
なえかとの思いでがあった校舎だからだ、それはもうない、でも……心の中にはなえかとの絆がある。
それが救いなのかもしれない。でも、俺には彼女が本当に死んだとは思えなかった。フィアーズ・コードを通じて、なえかの存在を感じるからだ。
ソルヴァリアスに合体してからだ、これほどフィアーズ・コードのことが分かるようになったのは……。
通信機が震え始めた。この感じは……アルクェル帝国か?
「はい」
「繋がったわね」
映された顔は、日々之さんだった。また慌てた様子だ。またか……。
「なんですか?」
「アルクェル帝国の母艦らしきものが月で発見されたの、そしてそれがエネルギーをため込んでいることがわかったのよ」
画像が映される。長い砲身が地球を狙っているのが見える。母艦か、地球侵略の拠点と言った所か。
エネルギーをためこんでいる……そのエネルギーで地球を狙うつもりか……!
「すぐにファリクサーを呼びます、咲にも連絡しておいてください」
「分かったわ、さすがね、これだけの情報でわかるなんて」
「……」
俺は無言で通信を切った。なんとも言い難い感じだったからだ。なんだろう。
「輝、がんばれよ」
陽樹が励ましの言葉か知らないけど話してきた。
「おう、わかってる」
俺はすぐに家からでてファリクサーを呼んだ。もう何処で呼ぼうと関係ない、皆知っているから。
ファリクサーが到着。すぐにコックピットが開かれる。俺はすぐさまコックピットに座って戦闘モードへ移行させる。
気づくと上空にはフェクサーが待機していた。
「咲、いけるか?」
「うん、いけるよ!」
ファリクサーの飛行システムを起動させ、地面から離す。
きっとこれが最後の戦いだ。
……
…
ファリクサー、フェクサ、ファエスリアス、ファエムリアスは集合すると、すぐに宇宙に上がった。
ファリクサーとフェクサー。それにファエスリアス、ファエムリアスには、元から大気圏離脱能力が備わっている為、大気圏を抜けるのは苦もないことだった。
一行が大気圏を抜けるとそこには敵がいた。今までの数とは比較にならないほどの敵。最低で見積もっても1000機はいるだろうか。
アルクェル帝国は焦っている。なぜなら、ソルヴァリアス。それが一番の原因だった。2000年前アルクェル帝国が地球侵略をした時に追い払った人類の剣。
それが今、現実として目の前にいて復活しているのだ。焦りもする。
「あれが敵の母艦……」
「大きい……!」
「あれはどうやったら壊れるんだろうな?エム」
「あれほどの質量のものだ、そう簡単には壊れないはず、やはりソルヴァリアスしか」
そのような会話をする余裕はなかった。敵はファリクサーを察知すると攻撃を仕掛けてきたのだ。
「喋ってるのにお構いなしかよ!」
「エス!戦闘中だ静かにしろ!」
ファエムリアスの怒号がファエスリアスに飛ぶ。
ファリクサー、フェクサーも現在は合体せずに戦いを始めていた。敵は雑魚ばかりがいる。
「敵が次から次へと!時間稼ぎか!」
「うん、あれを発射する時間稼ぎだと思う」
ファリクサーとフェクサーはお互いの視覚を庇うようにしながら戦っている。この二人のコンビネーションは乗り始めた当初より確実に上がっている。
「甲長隊長!行ってください!」
「そうです!私達に構わずに!」
ファエスリアスとファエムリアスは何事もなく、敵を薙ぎ倒して行っている。心配はないと輝と咲も判断した。きっと強い敵は母艦の護衛に回っているはず……と。
「エス、エム頼んだぞ!」
「輝くん、急がないと!多分もうちょっとで発射されるよ!」
「分かってる!」
ファリクサーとフェクサーは母艦を目指しながら、螺旋を描きながら近づいていく。
「「至宝合体!」」
ファリクサーとフェクサーが接触する瞬間、二機は光に包まれ合体した。
「「ソルヴァリアス!」」
合体して速度をあげたソルヴァリアスは、光の……絆のオーラでアルクェル帝国のZH-2を蹴散らしながら母艦へ向かった。
……
…
「うおぉぉぉ!」
ソルヴァリアスはフィアーズ・ソードを振り回し敵を薙ぎ倒していく。だが、敵の密度が母艦に近づくほど濃くなっていく。
一体どれほどの量を蓄えていたのだろうか?当初の見積もりである、1000機はゆうに超えていた。
敵と交戦を始めてから約1時間、疲労もかなり蓄積していた。
「はぁ……はぁ……」
「咲!」
「大丈夫、早くあの砲台を潰さないと……!」
二人とも分かっている。でも敵はやむことなく二人を追い詰める。その時。
「砲台が!」
「なっ……!」
砲台が更に伸びたのだ。もう発射間近なのか、砲身が震えている。全長約1000m。こんなものが発射されたら地球は一溜まりもないだろう。ファリクサーが、今ブラックボックスがいない惑星など生かしておくに値しない。
「っ……そうか!くそっ、俺達を宇宙におびき寄せる為にあいつらは!」
その時。二人は何かをフィアーズ・コードが教えてくれた気がした。フィアーズ・コードは2000年前からその遺伝子を変化させている。
でもその中でも残っているのが2000年前からずっと受け継がれてきた、このコード、その記憶。
「輝くん、私に任せて!」
「分かった、任せる!」
二人が唱えるその名は、2000年前、人類の剣がソルヴァリアスなら、それは人類を守る盾。その名は――。
「「至宝チェンジ!」」
ソルヴァリアスがファリクサーとフェクサーに分離。フェクサーが上半身となり、ファリクサーが下半身となる。その二つが合体。
「「ルナヴァリアァァース!」」
人類の剣がソルヴァリアスだった半面、人類の盾となったのは、ルナヴァリアス。フェクサーの防御性能を限界まで引き上げたロボット。
ソルヴァリアスを輝が操縦するものならば、ルナヴァリアスは咲が操縦を務める。
「ブリザード・オーパル・ウォール!」
ルナヴァリアスは光を発し、その瞬間、ルナヴァリアスの目の前に直径約1000mはあろうかという盾が展開される。盾は蒼く輝いており、その光が太陽に反射している。
盾に巻き込まれた敵が凍っていく。絶対零度、触れた敵は凍りつく、すべてを凍りつかせる盾。
その時、砲台から超高密度に圧縮されたビームが発射された。それはまっすぐ直進し、ブリザード・オーパル・ウォールに激突。
火花を散らしている。ルナヴァリアスが少し押され始める。
「咲……!」
「だい、じょうぶ!」
その声と共にルナヴァリアスの出力が更に上昇。刹那の時間が無限に感じられる時間、それは一瞬の出来事だった。
砲台から発射された超高密度に圧縮されたビームは拡散した。地球を一撃で破壊できるほどのものを防いだのだ。
これが2000年前人類を守る盾だったルナヴァリアスの力だった。拡散したビームの周りには小さな凍りの結晶が浮いていた。
「ふぅ、ふぅ……」
「咲、まだいけるよな?」
「うん!いけるよっ!」
その一言でルナヴァリアスからソルヴァリアスへ至宝チェンジ。再び人類の剣は母艦に向けて動きだした。
……
…
地球と月の間。様々なロボットが破壊され、それらの残骸が浮いている中、深紅の機体と深蒼の機体が存在していた。
「あらかた片付いたか……?」
「片付いた」
ファエスリアスとファエムリアスはボロボロになりながらもアルクェル帝国の量産ロボットZH-2を殲滅した。
だが――。
彼らもロボットだがAIのオーバーヒート寸前。機能停止寸前なのだ。その時、一筋の光が彼らを襲った。
あの砲台ほどではないが、高密度に圧縮されたビーム。それが二機の腕を掠める。
「っ!」
「なにもんだ!」
「よく避けましたわね」
そこに現れたのは、大型の砲台を搭載した、アルクェル帝国の上位クラスロボット。前になえかが自爆した時の敵だ。
ZE-KL-1。あの時と人工知能、機体構造は違うが根本は同じロボット。基本性能はあの時と同じかそれ以上の機体なのだ。
「データ照合……」
「何やってんだ!今すぐやる!」
「エス!」
ファエスリアスは何も参考にせず突撃。拳を握り、格闘を行うだが、それはすべて避けられた。
「笑止千万ですわ、そのような情報不足の中で戦うなど……!」
ZE-KL-1は速度を上げ、ファエスリアスの腕を高密度圧縮ビームで攻撃。
掠っただけなのに、それは脚部装甲の半分をもっていった。とんでもない出力。地球製とアルクェル帝国製の違い。
「くそっ!」
「データ確認……ZE-KL-1型と確認。先に行くなと言ったはずだ!」
「データデータってな!データじゃあ分からないこともあるんだよっ!」
ファエスリアスとファエムリアスは口げんかを勃発。敵などお構いなしだ。
「うるさい!データがなければ戦えんだろう!」
「データなんかなくても戦えるんだよ!」
「……ちょっと、私を無視しないでくださいますか?」
「「うる!さい!」」
ファエスリアスとファエムリアスは様々な軌道を描きながらZE-KL-1に接近。格闘を浴びせる。驚いたことに二人は怒っている時のほうがコンビネーションがよかった。
「このっ!ブラックボックスの複製などに!」
高密度圧縮ビームを発射。二機はそれを回避し、敵に接近。これも絆と言えるのだろうか、「AIにも存在する、フィアーズ・コード」
それは新しい力を誘発する。人類が開発したブラックボックスの複製ともいえるもの、フィアート・ボックスに本来搭載されていないはずの機能。
それを引き出したのは、二人の間に芽生えている、絆だった。
「至宝合体!ファクロトアス!」
ファエスリアスとファエムリアスが光に包みこまれた。刹那の時間に合体は完了。ここに新たな人類の剣が誕生した。
ファクロトアス。元は存在しないはずのプログラム。それを絆は可能にした。
「うぉぉぉぉ!」
二機の声が合成されたような音声と共に拳を作る。その拳が光を放つ。絆の光。
「な!そんなこけおどしの合体が!」
高密度圧縮ビームを最大出力で発射。ファクロトアスはそれを左に避け回避。ZE-KL-1が砲身の位置をずらし始めるが、その時にはもう遅かった。
ファクロトアスはZE-KL-1の後ろに回り込み、拳を装甲に叩き込む。
「はぁぁぁぁ!これで終わりだ!」
拳から光が発射され、ZE-KL-1を貫いた。拳を抜き、手を再度握る。敵は爆発。現人類が生み出したブラックボックスの複製。
フィアート・ボックスが起こした奇跡。そして二機のAIが起こした奇跡だった。
……
…
ZE-KL-1を複数相手にソルヴァリアスはそれらを苦もなく倒していく。もう彼らの敵ではない、敵母艦の間近に来た彼ら。だが――
一機が邪魔をした。フォクサー、四つのうちアルクェル帝国により原河京郎と共に連れ去られたブラックボックス。
「お兄ちゃん」
「……」
今、目の前にいる彼は何も言葉を発しなくなっていた。アルクェル帝国により精神を汚染され、無感情のただブラックボックスを動かす機械と化したのだ。
「輝くん、先に行ってて……!」
「咲、お兄さんを倒そうとするな、フィアーズ・コードがそう言ってる」
「分かってるよ、大丈夫だから」
「分かった」
ファリクサーとフェクサーは至宝合体を解除。ファリクサーは敵母艦へ、フェクサーはここでフォクサーを相手にすることになった。
「お兄ちゃん、私だよ、分かる?原河 咲……」
「……」
フォクサーは無言のまま動くとフェクサーに拳を浴びせようとする。だが、これまでの経験も合わさり、フォクサーの攻撃を回避し続けるフェクサー。
だがそんなことは長くは続かなかった。今までの疲労。そして敵、フォクサーの攻撃をずっと避け続け、こちらから攻撃を仕掛けないことなど不可能だった。
「きゃっ!お兄ちゃん!」
「……」
咲は問い続ける。だが、フォクサーは無言のまま攻撃を続行する。何も思い出す気配すらない。前までは咲が声をかければ苦しむことはあった。
だが……今はその反応すらない。もうこのまま何だろうか?このまま彼女が敗れれば、ソルヴァリアスに合体することはおろか、地球を守れない。
「それなら!」
咲は初めて反撃に移った。武器を使わずに戦う。拳だけを使って。その思いをぶつけるように。
「お兄ちゃん!お兄ちゃんは言ってたよね、お兄ちゃんのことは好きだけど、でも!私にはもっと好きな人が、守りたい人がいる!
その犠牲が必要なら……私は……!」
「ダメだ、咲、それじゃダメなんだ咲の思いをぶつけるんじゃない、彼の精神汚染をなくすことが大事なんだ」
その言葉が咲の脳に響いた。輝が思っていたことなんだろうか?それは輝の心の声に聞こえた。
「うん……そうだよね!私がお兄ちゃんを救う!私が!私の意志で包み込む!」
フェクサーが光に包まれた。その光はフォクサーを包み始める。
「うぐああああぁぁぁ!」
「お兄ちゃんちょっと我慢しててね、ちょっとだけ!」
フェクサーは更に光の密度をあげる、その光はそう、すべてを包み込んでいる光。咲の心。フィアーズ・コードの光。
この光に包まれているものは気持ちがいいのだろうか?咲はただそれを信じるしかない。絆の力。フィアーズ・コードを。
……
…
「これが、母艦の中か……!」
輝は外壁を破りアルクェル帝国の地球侵略の拠点である母艦に侵入。内部には敵の気配はなかった。ただ駆動音が聞こえるのみ。
その時。揺れが輝を襲った。その揺れはすぐに収まったが、それはこれが動き出したことを意味していた。
「まさか……砲台が防がれたから地球に特攻か!?こんなものが落ちたら地球は……!させるか!」
ファリクサーは動力室を探しながら歩き出した。その間も揺れは数回に分けておきた。大きい図体なのに、ZE-KL-1型以上のスピード。
こんなものではすぐに地球に到達してしまう。本当にすぐに。
「何処だ!こんなものを地球に落下させてたまるか!」
数分も歩いていなかっただろう。でも敵は確実に地球に接近していた。こころなしか熱い。大気圏が近づいている証拠だった。
「早く、早く!」
母艦の装甲を強引に突き破りつつ動力室を探す。そして開けた場所にでた。それはこの母艦の主。ZF-UPDS。
図体は大きく、とてもこの場から動けるような敵ではなかった。
「お前が我らの邪魔をしていたのか」
機械の音声。無感情とも言うべきものだった。その場所で対峙するファリクサー。
「こんなものを地球に落としてたまるか!スパイラルユニコーン!ウェポンコネクト!」
スパイラルユニコーンがファリクサーの中から粒子化されていたものが形を得ていく。完全な形になった瞬間。右腕に装着される。
「なぜ、お前たちは感謝されもしない戦いをする?」
「感謝なんていらない、俺達は俺達の絆を守りたいから戦うんだ!お前達アルクェル帝国と!」
「理解不能理解不能」
「分からなくてもいいさ、でも俺達は守りたい絆のために戦ってるんだぁぁぁ!」
スパイラルユニコーンのインフェルノスパイラルユニコーンアタックが母艦の主に当たる。敵は轟音を響かせ爆発。それはすべてを包み込む爆発だった。
……
…
「輝くん!」
フェクサーはフォクサーを抱えながら衛星軌道上で待機していた。外から見ていると敵の母艦はもう大気圏に突入していたのだ。
それが突如爆発。敵母艦の装甲が大気圏で燃え尽きながら落ちている。それは地球から見ているものには流星群に見えた。
「甲長隊長……」
ファクロトアスも衛星軌道上で待機中。
フェクサーとファクロトアスは母艦に侵入するのには間に合わなかったのだ。それに機体はもうボロボロだった。
爆発が収まるとそこには――。
「……甲長隊長!」
「え?輝くん?」
「俺は大丈夫だ、皆」
フェクサーはフォクサーを放り出しファリクサーの傍へ駆け寄った。慌ててファクロトプスはフォクサーを支える。
ファリクサーもボロボロだった。あの爆発を至近距離で受けて存在しているのだから大したものだと言わざる負えない。
いきなりフェクサーのコックピットハッチが開いて咲が飛び出してくる。それを見て驚いた輝はコックピットハッチを開き、咲をコックピットの中に入れる。
「さ、咲?ど、どうしたんだ?」
先ほど輝が戦っていたような高揚感はない。ただそこにあるのは咲が輝に抱きついている。それだけだった。
「よかった、輝くん、よかったよぅ……」
咲はか細い声でそう言ったように輝には聞こえた。泣いている為、そのようにしか聞こえない。輝も咲を抱きしめ、語る。
「ああ……俺も咲が無事でよかった。それにフォクサーのパイロットも、お兄さんも救えたんだな」
「うん、うん」
咲と輝はずっとそうしていた、ずっと――。
……
…
かくして地球での戦いは幕を閉じたかに思われた。あの戦いの日は7月31日。8月1日から9月1日までは学校は夏休みということになり。
彼ら、いや、輝と咲は一か月の休みを得た。次にまた戦う時まで――。
第十八話 オワリ
第十九話へ続く