表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/40

第十七話 「至宝」

第十七話 「至宝」


もう壊れるものは何もない場所で二体のロボットが戦っている。

「……はぁ……はぁ……っ」

咲の腕が痛む、前の戦いで受けた傷がまだ癒えていない。当然だ。

たった1週間で癒える傷ではない。フェクサーが歩きだすと同時に土が舞う。

もう何もない。復旧の目途が立っていない学校。そこでフェクサーとアルクェル帝国のロボットZH-Kとの戦闘を行っている。

ZH-Kはアルクェル帝国の量産型であるXH-2の数倍の能力を保有しているが、この前戦闘を行った。

ZF-KL-1型より力は弱い。それでも今のフェクサーには手に余る相手だった。

当然だ。パイロットである咲もフェクサーも傷が癒えていないのだ。動くのが不思議なほど壊れた機体。

最初はドラゴンブリザードを使って何とか戦えた。だが、相手の攻撃を受けるとドラゴンブリザードは粒子化され、フェクサーに吸収された。

ドラゴンブリザードも前の戦闘の傷が残っているのだ、まともに戦える状態ではない。

敵が土を巻き上げながら、フェクサーに近づいている。もう指一本動かせない。

「こんな所で負ける訳にはいかないのに……っ」

そうだ、彼女達はなえかから託された。この地球の人達を守ること。そして絆を……。

敵がもう目と鼻の先まで来ている。拳を振り上げ、コックピットを的確に潰す準備をしている。

何もかもが動かない。ブラックボックスも出力が上がらない。

「輝くん……ううん、私が負けたら皆が……!だから!」

拳がフェクサーのコックピットにめり込むかと思われた時。フェクサーは身をよじりなんとか回避した。

「外したか……本当に弱い、データにあるものより格段にな、次こそ外さん」

また拳を振り上げる。もう次はない。身をよじるだけであがった出力がすべてなくなってしまった。

それほどまでに皆、絶望しているのだ。動く物も動かなくなる。

「頼っちゃいけない……頼っちゃいけないけど……!輝くん!」

敵の拳が当たる刹那の時間。拳が切断された。今までには見たことが無い攻撃だ。

「咲、遅れてごめん」

「輝くん……大丈夫なの?」

「大丈夫……っだ!」

ファリクサーは地面に着地すると同時に左足で敵を蹴った。土が舞い上がりながら、派手に吹っ飛ぶ。

吹っ飛んだ敵を止めるような障害物はここにはもうなかった。

「本当にごめん、咲……」

「ううん、いいよ、来てくれたってことは分かったんでしょう?」

「ああ、分かった、なえかは皆をこの地球を守る為にそして……俺達の絆を守る為に!」

「うん、それを託された私達は戦って絶対に勝ちとって見せる」

二人には見えない絆のようなものがある気がした。いいや、二人だけのものじゃない。

この人類全体が見えない絆で繋がっている。フィアーズ・コード、人を繋ぐ絆。

「いくぞ!咲!」

「うん!」

遠くから声が二人の耳元に届いた。それは応援の声。二人はモニターを拡大して確認する。

本当に大勢の人がいる。この町、いや日本以外からも人が来ている。その中には当然なえかの母親も混ざっていた。

「……っ」

こんなに二人を応援してくれる人がいるのだ、あんな事実を公表されても尚……。

そしてその声は一つの奇跡を生んだ。

「あれは……!」

「え……!?」

応援してくれている人々から白く人間サイズの球が浮かび上がる。それがファリクサーとフェクサーの回りに集まり始めた。

その光は温かい光。ここ以外の人からも白い球が届いている。二人にはそれが分かった。

何故か。それは分からない。でもどの人々の中にもフィアーズ・コードは存在している。

それが導いた絆の光なのか、それはファリクサーとフィクサーを包み込み始めた。

ロボットを丸ごと包むほどの光。コックピットに満ちて行く光。

「分かる、これが絆なんだな」

「私にも分かる……例えフィアーズ・コードが微弱でも皆の心にフィアーズ・コードはある、皆を繋ぐコードが!」

ファリクサーとフェクサーのモニターにリミット解除の文字が浮かぶ。なえかの時のものじゃない。

自然に出力が上がっていく。それと同時にファリクサー、フェクサーの傷も回復されていく。

それは不思議な光景だった。地球にいる皆の絆という訳ではないけど、絆が導いていく奇跡。

「咲!分かるな!」

「うん!大丈夫!いけるよ!」

二人の頭にはある文字が浮かんでいた。それは2000年前、アルクェル帝国が最も恐れた力。

そして人々の絆によって解放された力。なえかの自爆のことは皆が知っている訳じゃない。

でも皆感覚として分かるのだ、一人の人が起した絆の奇跡。

そして二人は唱える。新たなる力を。

「「至宝合体!」

言葉を放つと同時にファリクサーの足が背中に折りたたまれ、フェクサーの胴が半分に割れ、足に装着される。

ファリクサーの肩から手にかけてフェクサーの装甲が装着される。ファリクサー頭部のバイザーがオープンし、二つの目が現れる。

その目が光ると同時に上半身のファリクサー、下半身のフェクサーが合体。

たった数秒ほどの出来事が何時間にも感じられる時間。

「人々の絆が導いた奇跡!」

「この力で絶対に勝ってみせる!」

2000年前、地球に進行してきたアルクェル帝国を追い払った人類の剣。

人類の絆が詰まった機体。その名は――

「「至宝合体!ソルヴァリアァァァス!」」

その声と共に光がソルヴァリアスに吸収された。ブラックボックスは絆を動力とする。

絆の力が集まれば集まるほど力が増す、それがブラックボックス、この宇宙の至宝。

「あいつは……2000年前フィアーズ族が使っていた……!だが2000年前の力がお前にあるものかぁぁぁ!」

敵は目の前で起きた出来事が信じられないのか、咆哮をあげ、突撃。

ソルヴァリアスに触れると思われた刹那。ソルヴァリアスの姿が消えた。消えたのではなく。

後ろに移動したのだ。何の前ぶれもなく。

二基のブラックボックスを搭載したソルヴァリアスは今までのファリクサー、フェクサーの10倍ほどのエネルギーが満ちている。

ソルヴァリアスが敵を上空に蹴りあげる。敵は遥か上空まで上昇。

同時にソルヴァリアスの胸から高さ50mはある、剣が現れる。インフィニット・アース・ソード。

ソルヴァリアスが柄を握ると、力が渦巻く。

「うぉぉぉ!」

「はぁぁぁ!」

燃える炎と凍える氷が剣を渦巻いている。

ソルヴァリアスは大地を蹴りあげると敵が上空から落下してきた。

ソルヴァリアスは上空へ、敵は大地へ。

敵が落下する前にソルヴァリアスは機動を変え、敵に向かって落下。

「「インフィニット・アース・ソォォドォォォ!」」

敵を一刀両断。装甲の半分が燃え、装甲の半分が凍っている。

大地に落下。ソルヴァリアスは地面を踏みしめる。

敵が地面つくと同時にソルヴァリアスは剣を放り投げる。剣はソルヴァリアスの胸に収納される。

直後。敵が後ろで爆発。土が舞い、煙がソルヴァリアスにかかる。

その中でも光る二つの目。

……

戦いが終わった後、ソルヴァリアスは分離してファリクサーとフェクサーに戻った。

傷は当然癒えていなかった。あれは絆が起した奇跡なのか?

奇跡じゃないかもしれない、人々の絆が起したものだから、当然その中にはなえかも入ってる。

俺がファリクサーから降りると咲が小走りで近づいてきた。

「……っ。輝くん……」

「ん?なんだ?」

俺はその時気づいた。俺の頬に涙が伝っていることに。

あ、あれ?涙が溢れて止まらない。どうしてだ、ずっと涙を流さなかったからか?

「っ……」

咲がいつの間にか俺を抱きしめていた。彼女は温かくて、すべてを包み込んでいる気さえした。

「泣いていいんだよ、泣いて……」

「あ、あぁ…そうだよな」

俺はやっと理解したのかもしれない。「なえかの死」ということに。

ごめんな、なえか、ちょっと時間がかかったけど、俺は……俺は戦う意味を見出したよ。

もうあんなことにはならない、いやならせない、絶対に。

俺は声をあげずに、泣いた。咲に包まれたまま。

「輝、私は大丈夫だよ?地球をちゃんと守ってね」

その時。なえかの声が聞こえた気がした。フィアーズ・コードを通じて。


第十七話 オワリ


第十八話へ続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ