表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/40

第十六話 「涙」

第十六話 「涙」



あれからどれくらいたったんだろう?分からない。分からない。分からない……。

回りの景色が歪み、なえかの記憶が消えていくような気さえした。なえかは行方不明。ということになっている。

行方不明といっても、あの爆発で生きている訳がない。人が死んだ。その事実だけでADFが動くには十分だった。すべてをTVにて打ち明けたらしい。

でも俺達の存在は公表せずだ。でも、親には俺達がパイロットだ。ということを打ち明けたらしい。

親達はこのことを「知っていた」らしい。元から知っていた。そうらしいのだ。

そしてまた一つ分かったこと。フィアーズ・コードは親から子へ受け継がれていくものだということだ。

フィアーズ・コードは親から子へ受け継がれ行き、その記憶のすべてを受け継ぐ。

それは何らかのショックで思い出すことがあり、親はファリクサーの存在を知っていた。

そいうことらしい。

このこともあり、それほどADFは攻められることもなかった。なえかのお葬式というものもあった。

幼馴染の葬式なんて出たいもんじゃない。俺はその席でも「涙」は流せなかった。

学校もすべてが崩れ、焼け野原になった町は、復旧の目途が立たないままただ時間だけが過ぎて行く。

それは俺が涙を流せない時間でもある。あの一件以来から俺は部屋に閉じこもっている。

何を考えているのかもわからない、ただご飯を食べ、寝て食べ寝て食べ寝てを繰り返すだけ。

生きているとも思えない時間。学校は復旧中で何もない、あの一件以来敵も姿を表していない。

俺が部屋に引きこもってから三日、咲がやってきた。

扉を開けて部屋に入ってくる咲。その顔がどんな表情をしているのか、俺は分からない。

なぜなら、俺は俯いて咲と顔を合わせていないからだ。もう誰とも会いたくないって言ったのに。

「輝くん、いつまでもそんなところにいちゃダメだよ……」

「……」

「そんな所にいつまでもいたら……なえかさんは何のためにそうしたの?」

「……うるさい」

「うるさいじゃないよ、私もなえかさんのことは辛いでも、輝くんがそうしている間にこの前と同じ敵がきたら?

 次はもっと多くの人が死ぬかもしれないんだよ?それを守る為に――」

「うるさいって言ってるだろ!俺に構うなよ!」

「……っ、うるさいって何よ!」

「お前に何が分かる!?俺とお前の過ごした時間となえかと過ごした時間。比べられると思うか!?

 咲は、いやお前は何も分かってない……!」

「っ……でも、輝くんがそこにいるだけで死ぬ人がいるんだよ。ならそれを助けようとしないの!?

「そんなこと関係ないっ……目の前で人が死ぬくらいなら、ここにずっといるほうがマシだ」

咲はこっちに少しずつ近づいてきた。近づいてくるな、くるな、くるな。

「輝くん、そんな輝くん、私の好きになった輝くんじゃないよっ!」

俺の頬が痛い。咲の手が頬を思いっきり叩いたのだ。

「……」

「もうずっとそこにいたらいいよ、私がなんとかするから……!」

咲が部屋の扉を乱暴に開け、でていく。誰とも話したくない。誰とも接点を持ちたくない。

なんで女って奴はいつも心配してくるんだ、いっつもそうだ、いっつもいっつも。

女じゃない、親友だ、親友がいつもそうやってやってくる。

もう誰も失いたくない。俺は本当の所、実際に人が死ぬとは思ってなかった、だってそう思うだろ?

いくら命が掛かっていると言っても、それは口先だけのことだと思っていたことだ。

俺が先延ばしにしてきた戦う。ということ、そのお返しにこんな風に返ってきた。

俺のせいなのか?俺の……俺の……

……

「司令」

「なんだ、日々之くんか」

「はい、敵がこっちに接近してくるのは時間の問題です、もう」

「そうか……あの子たちはこのことを乗り切れると思うか?」

「きっと乗り切れます、彼らにはそれだけの絆の力があります」

「絆の力……か、大人がこんな抽象的な言葉をもってくるかね?」

「それでも、今はそれに頼るしかありません」

「そうだな……」

……

扉を叩くノック音がまた聞こえる、うるさい。俺は布団の毛布をさらに深く被った。

しばらく鳴ったかと思うと突然止んだ。諦めたのか……。

その時。陽樹が扉を破って入ってきた。

「てぇぇるぅぅぅ!何故呼んでいるのに出てこない!?」

「……」

「分かってる、分かってるが、お前がこんなんじゃダメだ、ついてこい」

「……」

「ついてこいって言ってるんだ、早くしろ」

陽樹はこれ以上のないくらい真面目な顔。こんな顔は見たことがなかった。

これだけ長くいてもなお見たことがない。決意に満ちた顔。

俺はその迫力に押されしぶしぶ頷く。

「よし、早くこい!」

陽樹のあとをついていく俺。向かった先は川。

ここいら一体に流れる川だ。

……

輝と陽樹が川を背にして立っている。川は夕焼けで染まっている。

まるですべてを飲み込むかのような夕焼け。

回りではカラスが鳴いていて、草木が風でなびいている。

「なぁ、輝、なえかが死んで悲しいか」

「当たり前だろ」

「そうだよな、お前も悲しいよな、でもな――そんな自分が全てで絶望したような顔してんじゃねぇよ!」

陽樹がいきなり輝に近づき拳を頬に浴びせる。輝は無防備だった為その場に倒れる。

もう立つ気力もないらしい。陽樹は服の襟首をつかみ、輝を同じ頭まであげる。

「お前な、お前だけが辛いんじゃないんだぞ!?それに死んだなえかのことを考えてるか!?」

「知ったような口聞くんじゃねぇよ!」

輝が反撃とばかりに拳を陽樹の頬に向けるがすぐに避けられる。

「お前みたいな奴の拳なんて食らうかよ!なえかがなんで自爆したか分かるか!?」

「俺を守る為……だ」

「違う!なえかはこの地球の人達を守りたかったんだ、当然守る中にはお前も入ってる!でもな、あのまま勝てなかってお前達が死んでみろ、誰がこの地球を守る!?

 守る奴がいないだろ!?なえかはだから……だから!」

「っ……分かってる!それくらい!でもな……そんな言葉で片づけられる問題じゃないんだよ!」

二人とも口論を繰り広げながら拳をぶつけて行った。

本当は輝にも分かっている、でも言葉では伝えられないこともある。

一時間後。二人とも地面に転がって空を見上げていた。

「陽樹、ありがとう」

「はっさっきまで死んだ魚のような目してたのに活気づいてんな!」

「ああ……なえかは地球の人達の笑顔、そして絆を守りたかったんだよな、そのことを託されたのは俺だ……」

「お前だけじゃない、俺達も、だぜ?」

「……ああ!」

空にフェクサーが飛んでいた。ほぼ応急処置、動くのがやっとの機体だ。

「輝、行って来い!そしてお姫様を助けてこいよ!」

「おう!」

輝はファリクサーを呼び、フェクサーを追いかけて行った。

「陽樹?」

川に日陰ができていた。その人物は――。

「なんだ、豊か」

「なんだとは何よっ」

豊は陽樹の隣に座り、ただ空を見上げるだけだった。

「何しにきたんだ?」

「んー……ねぇ、陽樹無理しなくていいんだよ?」

「無理なんてして――」

陽樹は言葉を最後まで紡げない。豊が陽樹を抱きしめていたからだ。

「泣いてもいいんだよ?分かってるよ?一体何年陽樹の隣にいると思ってるのかな?」

「うっう……うあぁぁ……あっぁぁぁ」

陽樹は泣いた。ただ子供のように、涙が枯れるまで。ずっと、ずっと――。

……

「咲は……何処だ」

輝の感が告げる、咲が危ない。

「咲!今行くぞ、もう失うもんか!絶対に!」

更に速度をあげたファリクサー。それは今までとは比べ物にならない速度だった。

まるで2000年前のファリクサーその物だった。


第十六話 終わり


第十七話へ続く



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ