第十五話 「幼馴染」
第十五話 「幼馴染」
「今日の文化祭楽しみだね~!」
「なえかはこういうイベント好きだもんな……」
「輝もテンションあげていかないともたないよ!」
逆にそのテンションを維持していくのが難しいと思う次第なんだけれども。
「そ、そうだな!やるか!」
何をやるか?なんて野暮なことを聞くなよ、聞いてもらってもこっちが困る。
「うんうん、よし、いこ!」
「おう!」
「うん!」
「了解した」
「おおう~!」
「う~ん」
上からなえか、俺、咲、志乃、陽樹、豊のメンバーだ。
なえかは意気揚々としていて、俺はというと一応テンションをあげてる途中だ。
今日は待ちに待った文化祭。灼熱の太陽が照りつける中、行われる。
正面ゲートは豪勢に飾られ、中には人が犇めいている。あれだ、有名なとあるアニメのこんなセリフがあっただろう?
「人がゴミようだ……」
「何か言った?」
俺は思わず呟いていたらしい。誤魔化そう。
「なんでも」
「そう?」
皆もう乗り込む気でいるのだが……まだ始まっていない。何故こんな早くに集まっているかというと。
なえかが携帯で呼び出したから、らしい。俺は携帯ってものを持ってないので、なえかが俺を起しに来たけど。
しかも起された時間が午前5時丁度で、本当はすんごく眠い。あー、眠い。五時半なのにこんなに人がいるのは初めてみた。
「始まるまで何してよう」
「お前が呼んだんだろ……」
「むー、だって!待ちきれなくて!」
志乃が口をはさむ。
「子供かお前は」
「志乃だって待ちきれないんでしょ!私が来る前にきてたじゃない!」
何!?俺となえかがきたのが午前5時半ということは、志乃はそれ以前に来てたのか……。
どれだけ祭りが好きなんだ、この二人は。
「ふ、俺には用事があったからな、文化祭が開幕するまでサラバ!」
志乃は次の瞬間にはもう目の前から消えていた。今回は何をやる気なんだろうな。
中学の時も志乃は文化祭を派手に滅茶苦茶にしたらしい。らしいというのは俺と志乃が知り合ったのは高校の時だからだ。
なんでも、学校を爆発させたり、文化祭中に放送室を占拠して、盆踊りに使うような歌を流したりしたらしい。
本人はこういうそうだ。「このほうが楽しいからに決まっているじゃないか」っと……俺はどっちでもいいんだけれども。
余談はこれくらいにしておいて、俺達が文化祭で何をするか。
それは喫茶店だ。いつの間にか喫茶店に決まっていたから仕方がない。
それに制服は学校の制服を使うらしい。いわゆるセーラー服とかいう奴だ。
冬がこのクラスは制服喫茶店にしなさい!とでも言ったらしい、そんなこんなで、制服な訳なんだけれど。
俺には納得できないことがある。何故俺まで女子の制服を着てやらなければならないんだ?
憂鬱だ。なえかと咲が言うには、似あってるから、らしい。俺は男だぞ!?似あってたまるか!
そしてシフト。俺達の予定は、午前だけ自由行動。午後は喫茶店ということになっている。
午後まで時間がある、それまでに楽しんでおくか……。
それから約三時間。俺達は他愛のない会話をしながら、文化祭の開幕を待った。
……
…
三時間後、開幕した。さっきより一層人が多くなり、人の熱気で、計器が故障するんじゃないか、というほど熱くなっている。
「暑いぞ……」
「うん、暑い……」
「ほ、ほら!元気だして!今から回るのに元気ないじゃない!」
「お、俺も暑くてもう無理」
「わ、私もこれはさすがに」
なえかを残して俺達はダウン寸前。なえかはなんで元気なんだ?
無尽蔵のクーラーでも服の中に内蔵してるのか?
「だったら~……ほら!アイス食べよ、アイス!」
「お、おうー……」
叫ぶ気力すらでてこない。この暑さは本当に異常だ。
「わ、私が買ってくるから皆ここで待ってて!」
なえかはすぐにアイスが売っている売り場まで走り出した。
よくこの暑さの中走れるよなぁ……。クーラーは現代科学が生みだした最高の機器だよな。
皆もそう思うよな?
この暑さの中でそう思わない奴がいない訳がない……。
俺達は一度木の影に避難して、なえかを待つことにした。
「あ~暑かった」
「本当にな、暑すぎだ」
「俺はもう動けない、誰かおんぶ」
陽樹はおんぶとか言い出すし、皆勝手だ、まぁこれが文化祭の醍醐味なんだろうけど、皆と回れるそれだけが今なお危機がある地球での救いだ。
少し大げさだけどこんな風に皆と回れる。こんな日常楽しくない訳がない。ずっと皆で回れるきっと。
これからもずっと皆一緒だ。
「皆~買ってきたよっ!」
なえかが小走りでやってきた。
「おつかれ」
「あとでお金請求するからね、はいっ」
アイスを渡してくる俺はそれを受け取る。
ちょっと食べると甘さと冷たさが口の中に広がる。結構マシになってきた。
「あれ?俺の分は?」
「陽樹の分って?何も言ってなかったじゃん」
そう、陽樹は何も言っていなかった。
俺も何一つ言ってなかったんだけれども。
「えぇー!ふざけるのもたいがいにしやがれ!」
「ふざけてないよ、だってないもん」
陽樹が泣きっ面になって女走りで走っていった。キモイぞ……。
どれくらいキモイかと言うとネコがゴ○ブリを食べるくらいだ。よくわからないと思うが……。
「ねー輝」
「どうした、なえか」
「えーとね、うーん……」
なえかは何か喋れないみたいだ。俺、何かやったか?
「夜のキャンプファイヤーで私と踊ってくれないかなーって……」
夜はキャンプファイヤーで踊るということがある。男子はこの日の為に色々準備をして女の子を誘うらしい。
らしいというのは俺はこの手のイベントをしたことがないからだ。なえかと咲と豊はそれなりの男子から誘いを受けているはずなんだけど……。
どうして俺なんだろうな?分からない……。
「断る理由はないけど……」
なえかが驚いた顔になって、ついで嬉しそうな顔になる。
こんな笑顔みたの久しぶりだな。
「ほ、ほんと?じゃあ夜ちゃんとここにきてね!」
「お、おう」
話しを聞いていたのか咲は不機嫌な顔で言い放った。
「じゃあ私喫茶店のほう手伝いにいくから……」
「ん、頑張れよ、咲」
プイっと明後日の方向を向いて去っていく咲。何怒ってるんだ?
ていうか俺もいかないといけないんだけれど。
「じゃあいくか、喫茶店の手伝い」
「おー!」
なえかと豊を伴って、俺は喫茶店に向かった。
咲も一緒にくればよかったのにな、行く場所は変わらないのに。
この時、俺はまだ本当に思っていなかったんだ。
何をかって?言いたくもない。思い出したくもない出来事――。
……
…
さて、本当に嫌だ……逃げたい、でも逃げれない。
「水足りないよー!」
「は、はいはい~」
何で俺がこんなことをしないといけないんだ!こんなことは初めてだ。
女装なんて、しかも喫茶店にいるのは男ばかり、この学校大丈夫か!?
何か見られてる気がするが無視だ、無視。
俺は今極限の状態に立たされている。この人生初の出来事だ。
さぞかし引きつっている笑顔に見えることだろう。
皆笑っているからな!きっと分かってるのにやらせてるんだろ!?
勘弁してくれ!
なえかが近づいてきて、小声で話しかけてきた。
「似あってるじゃん、注目の的だよ?」
「なーにが似合ってるだ……これのどこが……」
「あはは、こんな体験なかなかできないよ!頑張ってね!」
こんな体験したかねぇよ……。
その時、長蛇の列の中からでてきたのがいた、良く知る親友の顔。
陽樹だ。しかもなんかこっち見てるぞ……。どんどん近付いてきてるし。
「お嬢さん」
何がお嬢さんだ!?
「この学校では見ない人ですね、私と付き合って頂けませんか」
こいつ……気づいてないな?しかも敬語。普通気づくんじゃないのか!?
「あはは、今は仕事中ですので……」
早く帰りたい、もう嫌だ、トラウマになりそうだ。
「いいじゃ~ん、お近づきになりましょーよ」
いきなり表情を崩して下心丸出しの顔になる陽樹。
俺が言うのもなんだがこりゃモテないわ……。
「い、いえ、ご、ごゆっくり~」
そそくさと俺は撤退することにした。その後陽樹は喫茶店でナンパしてつまみ出されたらしい。
そういえば志乃をみないな、何をしてるんだ。
俺はもう嫌になって、女装しているカツラ、服を脱ぎ捨て、制服に着替えて外にでた。
「やっと解放された……もう嫌だ」
「何が嫌なんだ?甲長」
後ろからノキっと志乃が現れる。噂をすればなんとやらだ。
「またいきなり現れて……今まで何してたんだ?」
「ちょっと準備をな、今日の夜は楽しいことになるから期待しておけ!」
俺が言葉を返す暇もなく、志乃はいつの間にか消えていた。
適当に見て回るか……。
そう考えている時だった。ポケットにしまっていた通信機が鳴り始めた。
俺は人が比較的少ない屋上へ行き、通信にでた。
「甲長くん!?またアルクェル帝国よ!今回は今までとは比較にならない質量があるわ、気をつけて!」
それだけ言うと日々之さんは通信を切った。忙しい人だ。でもこれだけの人だ、何処に呼ぶ……?
その時。警報が鳴り始めた。人々は慌てた様子で逃げ惑っていた。それを学校の先生が誘導しているのが見えた。
俺は人が丁度いなくなったのを見て、念じる。
ファリクサー!
豪快な音を立てて、ファリクサーが現れた。少し視点をずらすと校舎裏にフェクサーもきていた。
咲か、日々之さんは咲に連絡してたんだな、なえかもすぐにくるはずだ……。
すぐにコックピットに乗り込む。すべての手順を行い、戦闘モードへ移行。
落下予想地点は……商店街。商店街なんていつ以来だ。人があんなに多い所でまた……!
ファリクサーを飛翔させ、落下予想地点へ急ぐ、フェクサーも追随してきている。
……
…
ファリクサーとフェクサーは落下予想地点に到達した。ここでは被害が大きいということで
輝はスパイラルユニコーンをウェポンコネクトした。
「ディメンションブレイク!」
先端を突き刺すと空間が歪み圧縮されていく。敵の落下とそれは同時だった。
激しい轟音をたてて空から敵が落ちてきた。
これまでの敵とはケタ違いの大きさだった。ファリクサーを三倍ほどすればこうなるのだろうかというほどの大きさだ。
「ふん、私自ら行かねばならんと……な。つまらん、すぐに終わらせて帰ってやるか」
「咲、いくぞ!」
「うん!任せて!ウェポンコネクト!」
ドラゴンブリザードがフェクサーの中で粒子化されていたのが実体を持ち、左足に装着される。
輝と咲は最初から全開。
「インフェルノスパイラルユニコーン!アタァァァック!」
「ドラゴンブリザード!アタック!」
ドラゴンブリザードが氷の嵐を作り、それを押し出すと、氷の嵐は敵を巻き込み始める。
それと同時にファリクサーは敵に突撃。
「ディメンションブレイク!」
氷の嵐とインフェルノすなわち炎を空間に閉じ込め、敵に発射。敵に当たると同時にそれは、周囲に轟音を響かせ、爆発。
人間なら、近くにいると鼓膜が破れると思うほどの轟音。
「やったか!?」
「た、多分」
敵はまだそこに存在していた。今現在彼らが出せる最高の攻撃を受けても敵はまだ立っていた。
無傷で。装甲に何一つ傷がない。
「この程度か……なら最初から私がでていればよかったのだな!」
敵がワープしたように輝達には見えた。ワープしたのではない、動きが素早いのだ。
あの巨体でこのスピード。尋常ではないエネルギーを持つ。アルクェル帝国でも量産兵器であるXH-2型。
その遥か上に君臨する。ZF-KL-1というロボット。輝達はそれを今現在相手にしているのだ。
相手の拳がファリクサーに直撃する。派手にファリクサーは吹っ飛び、回りにあった山に激突する。
「輝くん!?だいじょ――」
咲は最後まで言葉を紡げない。敵は後ろに回りこみ、フェクサーを蹴りでふっ飛ばす。ファリクサーの上にフェクサーが乗る。
「くっ……なんだあいつは……」
「か、勝てないよ……あんなの……」
「こんな早くに諦めるかよ!」
ファリクサーは急速に飛行システムを起動。スパイラルユニコーンを前に突き出し最大速力で突っ込む。
「うぉぉ!いっけぇぇ!」
それは敵を貫いたと思われたが、敵の装甲を貫通させることすらできず。敵の目の前で止まっていた。
装甲で確実に弾かれたのだ。
「無駄だ、貴様らは2000年前よりも弱い。格段に、フィアーズ族!こんなものかぁぁぁ!」
敵はファリクサーの足を手で掴むとファリクサーを地面に何往復もぶつけ始めた。その衝撃でディメンションブレイクで圧縮された空間が解除される。
ファリクサーは地面に叩きつけられるたびに、あらゆるパーツが飛び、弾ける。
「あ、ああ、やめてぇぇ!」
フェクサーも最大加速し、ジグザグに移動。敵の真横を狙うが、敵はその行動を読み。
僅かコンマ0.5秒の差で敵の拳がフェクサーのコックピットにめり込む。そのまま敵は肘の関節部分を伸ばし。
フェクサーを遠くに飛ばす。フェクサーが地面に何回もボールのようにはね、いくつもの物を巻き込み停止する。
「さ、咲……ぐっあっ……」
「ふっははは!あと一機いるはずだ!でてこい!早くしないとこいつらは死んでしまうぞ!」
更にファリクサーを叩きつける速度をあげる敵。
「輝!」
「な、なえか……近づくな……」
なえかの目に映ったのは、もう大破寸前のファリクサー、そしてコックピットがギリギリまで潰されたフェクサー。
「咲……っはぁぁぁぁぁ!」
飛行システム最大出力。ファリクサーにも出せない機動で近づくフィクサー。
だが、それでも敵には――。
「きゃああ!」
フィクサーが派手に飛ばされ、学校の校舎に激突する。幸い人はもう地下シェルターに避難したあとのようだ。
「なえか!ぐあっ!」
敵がファリクサーを思いっきり放りなげ、また山に激突する。
「我らが欲しいのは動力だけだ、人間は、死ね!」
敵がファリクサーに少しずつ近づいていく。
「私は……今度こそ……輝を守るんだ!」
なえかが複雑な動作をしていく。モニターを呼び出し、あるシステムを起動。
カウント開始。フィクサーは不気味な音をたてて飛行システム、それにあらゆるシステムを全開。
モニターにはリミット解除の文字。
「な、なえか!何を……する気だ!」
「今度こそ私が……私が!」
敵を上回るスピードでフィクサーは敵に接近。敵の胴をきっちり抑えた。
輝の耳に聞こえる言葉は一つ。カウントを刻む声だった。
「あと……30秒……29秒……28秒……」
そして輝が導きだした答えは一つ。「自爆」
「なえか!やめろ!そのままだったらブラックボックスが暴走して自爆するぞ!」
「いいんだよ」
フィクサーは出力を更にあげ、敵を校舎に激突させる。
不気味な音をたて、震え始めるフィクサー。敵もそれに気づいたのか逃げようとする。
「自爆だと!離れろ!離れろぉぉぉ!」
「はな……さない!絶対に!」
その間にもカウントは刻々と刻まれる。
「やめろ!やめろって言ってるだろ!早く!」
「ねぇ、輝……私ね」
「なんだよ!早くやめろ!そんなことをするな!俺の為だとしても嫌だぞ!やめろって言ってるのが聞こえないのか!」
あと……5秒……4秒……3秒……。その言葉が輝の耳に届く。
「私ね、輝のこと――」
その瞬間……フィクサーは爆発。校舎を、すべてを巻き込みつつ、敵もその中で爆発。
ファリクサーに突風が届く。その閃光は、この世の終わり、そして時間が止まったように輝には感じられた。
「なえか……おい!なえか!なえか!ふざけるなよ!人が死ぬなんてしかも幼馴染がなんてふざけるなよ!」
でも時間は過ぎ去っていく。爆発のあとそこに残っていたものは何もなかった。もう誰もいない。
ただの焼け野原。
「なえか……!なえかあぁぁぁぁぁぁぁ!」
すべて潰れた。人もロボットも町もそして幼馴染も。
第十五話 オワリ
第十六話へ続く