第十四話 「凍てつく龍」
第十四話 「凍てつく龍」
学校での面倒な授業が終了してから、なえかは俺の所にくると、いきなり話しはじめた。
「輝って最近変わったよね?」
「え、そうか?」
「なんていうのかな、なんとなく素になってる気がする」
「素ってなんだよ……」
「今までは人とある程度距離をとってたでしょ?それが今はなくなってきてる気がするんだっ」
「俺には分からないけどそうなのか?」
「うんうん、絶対そうだと思う」
俺はなんとなく変わっているらしい。前は人と付き合うのが苦手。ということからある程度の距離を置いてきた。
でも人と付き合うのが苦手……と俺は思い込んでいただけかもしれない。
今はどんな人とでも、すぐに話せるようになったから。それがファリクサーに乗ってからの変化だった。
ファリクサーに乗って戦う、というのは、俺の心情にも変化をもたらしていた、前は元気だ。というのを装って、心情でもそんな風に振る舞うのが当たり前だった。
でも、最近は違う、暗くなった。とも言うな。
ファリクサーに乗ると無駄に熱くなるんだけど、それがまたたまらなく嫌だった。
まるで俺が、俺じゃないみたいだからな。
なえかとの話を終えた後、陽樹に話しかけた。
「陽樹、今日は何処にもいかないのか?」
「へ、お前、誰――」
「何言ってるんだよ」
陽樹はハッとした顔で、今まで本当に俺だと気づいてなかったみたいだ。酷い奴だ、とも言えるが、これもファリクサーに乗ってからの変化だ。
時々、お前誰だ?と言われることがある。その顔は、本当に俺のことが分かっていないような顔で、孤独になっていっているような気がする。
ファリクサーに乗ってからこんなことが起き始めていて。しかも乗るたびに酷くなっている。
一体これはなんなんだ?分からない。誰か教えてくれ。
「!……輝か、俺はなんで」
「疲れてるんだろ、もう家に帰るか?」
「あ、ああ、今日は一人で帰るわ」
陽樹は乱暴に教科書の入ったカバンをとると、教室の扉を開け、帰っていった。
「輝くん、帰ろ?」
「輝ー!早くしないと置いてっちゃうぞー!]
咲の声となえかの元気な声が聞こえてきた。
いつの間にか教室には三人しかいなかった。皆帰るの早いな。
そんな急いで帰らなくてもいいだろうに。
「お、おう、今行く」
俺は咲となえかをこの場合はなんだ、エスコートっていうのか?
とにかく三人で帰路についた。
……
…
咲、なえかと分かれて俺は家に帰り、帰ってくるなり自室に籠った。
籠った理由は……やることがないからだ。
特にやることもなく前から過ごしているから、別に何にも特別なことはなかったんだが、なんとなくそんな気分だ。
皆もあるだろう?こんな気分の時が、多分。
ファリクサーに乗ってからというもの、あらゆる出来事に巻き込まれる。
冬が聖龍高校にいることが明らかになるし、ファリクサーに乗ることによって「認知」をされなくなってきていることも。
確かにあれだけの強力な力を保有しているファリクサー。いや、動力のブラックボックスほどの強力なものを搭載していて、リスクがないわけがない。
これは何かの前触れなのかもしれないでも今の俺にはそんなことは分からない。なんとなく思うだけだ。
でも俺の存在が認知されなくなる……ということは死んでいるのと同じじゃあないのか?
認知されない、恐ろしいことだと思う。そいつがそこにいるのに他の人は気付かないし、話しかけても分からない。
もしかしたらファリクサーは人の魂を動力にしているんじゃないだろうか?いや、そんな兵器なら……。
フィアーズ・コードの意味がなくなる。
あのコードの意味はなんなんだ?俺は絆の力だと感じた。でも違うのか?
俺には分からない。
ただ……絆の力だと俺は信じるしかない。
……
…
朝、目覚ましを止め、歯を磨き、家を出る。
なんら変わらない日常。ただ、その中に潜んでいるのがいる。
アルクェル帝国。
あいつらがいつ来るかわからないけど、きっと人が死ぬことなんてないんだろう。きっと……。
俺は俯いていたのが悪いのか、近づいてきていた人の存在に気がつかなかった。
「て~る!」
なえかは俺に近づくと、勢いよく押してきた。
「何すんだよ……」
「元気ないじゃん?どうしたのっ」
俺は昨日考えていたことを思い出す。
元気がないと見えるのも仕方ないかもなぁ。
「なんでもない、心配しなくても大丈夫だ」
「し、心配なんてしてないけど!」
なんでそこで声をあげるんだ!?
「ほらッ輝いくよ!」
なえかが俺の手を引き、走り出した。
「お、おい!?」
「あははっ!」
引かれている手は何故か強く握られていた。
少し痛いくらい。
そのまま学校まで走ることになってしまったけど。
……
…
「そういえばさーそろそろ文化祭だよねっ!」
「あ……そういえばそうだったなぁ」
時の流れとは早いもので、あっという間に時間は過ぎていき、明日は文化祭。
楽しい文化祭になるといいな、俺はそう思うのみだった。
「あっ!」
ボーっとしているのが悪かったのか、いつの間にか通信機が震えていた。
ちなみに今は授業中だ。こんな話をしているのに授業中ってのもアレかもしれないけど、こんな時に震えるってことは……。
俺はいきなり席を立つ、回りの生徒が驚いたような顔で俺を見ている。
「先生、少しトイレに」
「あー、遅刻になるけどいいのか」
「はい」
遅刻どころの騒ぎじゃないから。
俺はすぐに教室を出て、昇降口へ
遅れて咲となえかがきた。
「遅れました……」
「ごめんごめん」
「いや、そこまで待ってないけどな」
「遅いわよ、遅い」
日々之さんが通信端末から呪詛のような声で言ってきた。
「敵はもうすぐそこに来てるのよ!?早く呼びなさい!」
切羽詰まったような声だ、分かってますとも、早く呼びますとも……。
俺達は屋上へ行き、念じる。
ファリクサーが約2秒ほどで到着。
屋上に着地すると同時に、校舎全体が揺れる、大丈夫なのか、この学校。
素早くファリクサーに搭乗して、すぐに戦闘モードへ移行。
飛行システムを起動、敵の落下予測地点の確認。
ここら辺の手順はもう慣れた。
今回の落下予想地点はまた古くからある遺跡。
俺の感が告げる、きっとあそこにはウェポンボックスがある。
ファリクサーを飛翔させ、軌跡を描きつつ、落下予想地点に向かう。
後ろから、フェクサー、フィクサーもついてきている。
次のウェポンボックスはきっと……。
……
…
ファリクサー、フェクサー、フィクサーは目的地に到着。
「ここは……まただ、またディメンションブレイクが効かない」
「え!?っていうことは」
「ああ、きっとウェポンボックスがある」
「あと残っているのは二つだもんね……」
「ああ、そしてウェポンボックスを手に入れてないのは咲だけだ」
「う……そこまでして手に入れたい訳じゃないんだけど……」
「でもフォクサーに取られたら厄介なことになると思うけども」
ファリクサーのモニターに映っている咲の顔が曇る。
「お兄ちゃんっ……」
「ご、ごめん」
「ううん、いいの、分かってるから……」
その時、敵が大気圏から突入してきた。
敵は二機だ。だが、一機は違う所へ落ちようとしている。
いつの間にか通信を繋げた輝は、日々之さんへの問いを放っていた。
「日々之さん!敵が一機違う所へいきましたよ!?」
「あそこにはファエスリアスとファエムリアスを向かわせてあるわ、大丈夫心配しないで」
「分かりました、エスとエムに頑張れと伝えてやってください」
「おっけ~、そっちも頑張りなさいよ」
「はい!」
ファリクサーは顔をあげ、戦闘体勢に入る。
「咲、なえかいくぞ!」
「うん!」
「はい!」
敵が轟音を立てて、地面に激突。回りの地面がヒビで割れている。
「あたた、フッハハハここが地球か!寒いな!」
「妙に喋る奴だな……」
「うん、妙に喋るね」
「こんなロボット初めてかも」
敵のロボットがファリクサーに手を向けた。
「お、お前がファリクサーだな!俺と同じ炎が得意なんだろ!いっちょやろうぜ!」
直後。敵から膨大な熱量が放出された。装甲のいたるところから炎が噴出される。
「近づいたら溶けるぜ…フハハハ!」
「ウェポンコネクト!」
「おっと、やらせるか!」
敵が炎をファリクサーに向ける。炎がファリクサーに纏わりつく。
「くっ装甲が熱に耐えきれない!?」
「そのまま焼かれるがいい!」
更に炎の出力をあげる敵。そしてファリクサーに纏わりつく炎は密度をあげ、まるで炎の竜巻だ。
「輝!ウィアントソード!」
フィクサーはウィアントソードを取り出し、振る、風の竜巻をファリクサーに纏わりつく炎の竜巻にぶつからせるが、先ほどより炎は密度を増すばかり。
「馬鹿め!お前もくらえ!」
敵がフィクサーにも炎を向ける。なえかは避けようと試みるが、四方八方から炎が出現し、炎の竜巻に捕えられてしまう。
「きゃ!?熱い!」
コックピットの中が熱によって加熱されていく、オーブンの中ような感じだ。
「こ、このままじゃ、二人とも……!」
フェクサーはブリザードソードを取り出し、それを振る、氷の刃がソードが振られた後から出現する。相手の熱は予想以上で、それを打ち消してしまう。
「目ざわりだな!お前も丸焼けになれ!」
炎をフェクサーに向ける敵。
「ダメだ、私なんかじゃ守れない……私……なんかじゃ……」
「咲!諦めるな!俺達は諦めることなく戦ってきただろ!?今までの戦いで学んだことはそんなことか!?」
「輝くん……」
「そ、そうだよ!咲!諦めちゃダメだよ!これからもずっとずっと、皆一緒にいる為に戦ってるのに咲だけ諦めてどうするの!?私達はまだ諦めてないよっ!」
「なえかさん……うん、そうだよね、諦めない、諦めない、絶対に!」
それと呼応するかのように、大地を揺るがす地響きが起きた。
そして姿を現す。二つのうちの一つのウェポンボックスが。
「ドラゴンブリザード……」
ドラゴンブリザードがフェクサーの前に止まり、唸り声をあげる。
その声はまるで、契約を求めているような声。咲にはそう感じられた。
ドラゴンブリザードの契約条件は「守る心」これほど抽象的な言葉もない、が咲の守る心に反応したドラゴンブリザード。
「ドラゴンブリザード!ウェポンコネクト!」
ドラゴンブリザードが先ほどよりより大きな、唸り声をあげ、形を変形させていく。
左足に装着されるドラゴンブリザード。
それは神々しいほどに蒼く深い色のフェクサーと同じ色のウェポンボックスだからこそ、似あうウェポンボックス。
「はぁぁぁ!」
左足を振ると、フェクサーに近づいていた、炎は一掃され、さらに周囲に凍結をもたらした。
その影響で、ファリクサーとフィクサーを包んでいた炎の竜巻も解除された。
「咲!いけ!」
「うん!」
「馬鹿にしやがってぇぇぇ!人前じゃないけどずっと喋ってんじゃねぇぞぉぉ!」
敵は炎を最大出力で展開。敵がこれまでとは比べ物にならないほどの炎に包まる。
「ドラゴンブリザード!アタック!」
フェクサーの回りに結晶が生まれ、弾ける。
近づきつつある、敵の炎が進むにつれて、止んでいく。
まるですべてが凍てつくかのような氷の竜巻が生まれ、それをフェクサーが蹴ると、竜巻はゆっくり進んだ。
敵が避けるには十分の速度だが、近づくにつれ、敵は行動の自由を奪われていく。
足が固まり、胴体が固まる。
氷の竜巻が敵を飲み込むと同時に、フェクサーはブリザードソードを装備し飛行システムの出力を最大にして、敵に突撃!
「はぁぁぁ!」
ブリザードソードの先端部分が触れると同時に、敵は音を立てて崩壊。
「ウェポンアウト」
ドラゴンブリザードが弾け飛ぶ、ドラゴンブリザードが粒子変換され、フェクサーの中に吸収されていく。
「さ、咲……勝ったのはいいけど寒い、助けてくれ……」
「わ、私も同じく……」
回りには凍りついた景色。そして凍りついたファリクサーとフィクサーが残った。
「うわわ、今すぐ溶かすよ!」
第十四話 オワリ
第十五話へ続く