第十二話 「フィアート・ボックス」
第十二話 「フィアート・ボックス」
「冬……」
「ん?どうしたのっ」
冬は、手で髪を弄っている、しかも、ファリクサーから俺が降りてきたのに、驚きもしていない。
逆に、私はなんでも知っているよっ、という顔だ。
「驚かないのか……?」
「驚くって何にかなっ」
何にって、当たり前のように言ってのけるなぁ。
俺は、言葉を紡ぎながら、ファリクサーに指を向ける。
「これに、だ」
「あぁ、これねっ、私は、知っているから、驚かないのだよっ、ワトソン君」
ワトソン君って誰だ?また今度、咲に聞いてみよう。その前に気になる単語があった。
「知っている?なんで知ってるんだ……?」
「加萬って人。知ってるでしょ?」
加萬司令か、何か関係があるのか?
「知ってるよ、加萬司令と冬が何か関係あるのか?」
「あるよん、だって私あの人のお孫さんだもんッ」
「孫!?」
「うん」
孫、孫だって?どういうこった。
「それじゃあね、バイバーイッ」
俺は待て!と言いかけたが、途中で言葉を紡げなかった。
彼女はもう風の速さとも言うべき速さで、いなくなっていたからだ。
一体どういうことなんだ……?
俺はそんなことを思いつつ、家に帰宅した。
もちろん、ファリクサーをFDA本部に帰らすことも忘れずに、そして加萬司令の孫が冬だということが本当だ。ということも分かった。
……
…
俺は、今まで意図的に話してなかったことがある。
修羅場。人生の修羅場。いや、学生の修羅場かな……。
赤点をとった人には、追試がある、多分追試をする人は、俺の回りにはいないだろうけど。
そう、中間テストだ。今日から六月だから、一学期の中間テストがある。テストは、三日間。今日はテスト最終日だ。
しかもテストは、その日のうちに返ってくる。一年通ったあとだけど、とんでもない学校だ、と今更思い知らされる。
俺は、ファリクサーのこと。そして、冬のこともあり、ほとんど勉強できなかった。激しく不安だ。
テストの終わりを告げるチャイムが学校中に鳴り響く。
「ふぃー、終わったなぁ」
「……」
陽樹がこの世のすべてに絶望しているような顔をしている。そっとしておくか。
なえかはどうだったのだろう。
「輝~、どうだった?」
「まぁまぁ……かなぁ」
「私は自信満々だよ!」
なえかは、料理は壊滅的だけど、頭脳明晰。スポーツ万能なのだ。くそう……。
「何か言った?」
心の声が聞こえるのか!?
「なんでもない」
なえかは納得していない、顔だ。まぁいいか、咲はどうなのだろう。
「咲、どうだった?」
「うぅ……」
咲は頭を抱え込んで唸っていた。これはダメだったのかな。いや、学園のアイドルってのは、頭脳明晰。スポーツ万能のなんでもござれの無敵超人……。
きっと大丈夫なんだろうなぁ。そんなこんなで、一時間ほど待つと、先生がやってきた。
「あー、テストを返すぞー」
次々にテストを返されていく、生徒達。その顔は、浮かない表情ばかりだ。
俺もテストが返ってきたが……。まぁ、あれだ。気にしないでくれ。
「咲、どうだった?」
未だに咲は、頭を抱えている。
「これ……」
テストを指差す咲。そこには。驚きの数字が記されていた。まるで、この世が止まったような感覚に陥る。
「これは……」
咲の点数は。「20点」だった。
「赤点じゃないか!」
「あわ、大きい声ださないで!」
「ごめん」
「うぅ……」
また頭を抱え始める、咲。
「輝~って、うわ……」
なえかの目線は、咲のテスト用紙に向いている。なえかは、この世の終わりのような顔を一瞬した。すぐに普段の表情に戻ったけど。
「酷いね」
「ぅぅ……」
咲はもうボロボロだ。今にも泣きそうだ。
「追試なんてできないよぅ……輝くん!」
咲がいきなり顔を近づけてくる。俺はビックリして、仰け反りそうになる。
「な、なんだ」
「勉強教えて!」
俺に言うな。なえかに言ってくれ、俺だって点数が良くない。赤点ギリギリだ。
「なえかに聞いたほうがいいぞ……」
「ぅ、じゃあなえかさん!」
次は、なえかに顔を近づけている。なえかも仰け反りそうになっている。
「な、なに?」
「勉強教えて!」
「うん、いいよー」
なえかは、即答。咲は感極まったような表情をしている。
「ついでに、輝も、ね?」
「なんで」
「いや、ほら、輝も赤点ギリギリなんでしょ?」
なんで料理が出来ない奴の頭脳がここまで明晰なんだ。いや、関係ないんだけどさ。
「何かいった?」
またか!心の声が聞こえるのか!?
「な、なんでもない」
その後。俺の家に集合することになった。陽樹は用事があるとかでこないようだった。
帰り道。俺は一人で帰宅。咲となえかは一時間後くらいにくるらしい。
しかし、咲が勉強できないなんて思いもしなかったな……。頭脳明晰。スポーツ万能。容姿端麗。料理もできて完璧超人。なんてものはこの世にはいないのだろうか。
いたとしても、あんまりいいものじゃなさそうだなぁ。なんせ、ずっと期待され続けるんだからな。
この時。俺は、なんとなくだが、気づいていた。なんとなく、ブラックボックスに近い感覚の動力があることに。
……
…
「こんにちはー」
「こ、こんにちは」
俺が帰宅してから、一時間後に、丁度。咲となえかが到着。これから俺の部屋で勉強会だ。っていっても咲の追試を無事に終わらせる為だけど。
「よし、じゃあやりますか!」
「はい!」
咲は意気込んでるが、俺はあんまり乗り気じゃない。だって、俺は、勉強する意味がない。毎回テストは赤点ギリギリだけどさ。
「ほら、輝も早く!」
「お、おう……」
咲は俺の表情なぞ気にしていないようで、今は追試の勉強で手いっぱいみたいだ。早速なえかに教えてもらっている。
はぁ、今日は折角テスト最終日だったのになぁ……。漫画が読みたかった。
「ほら、輝もこのプリントやって」
「はいはい」
俺はシャープペンシルを取り出して、必死に問題を解く。分からない所ばっかりだ。
そのたびになえかは、見事。というほど丁寧に教えてくれる。すぐに頭に入ってくる感じだ。これなら咲も大丈夫だろう。と思い咲を見ると。
頭を抱えていた。もしかして、これで分からないのか……。
「あー、違う違う、そこはこうして――」
「う、うん、こうだよね」
「だから違うって!」
「うぅ、ごめん」
こんな会話がさっきからずっと繰り広げられている。これは、今日中に終わるかなぁ……。
……
…
「これが、フィアート・ボックス……」
「そうだ、ブラックボックスを解析し、造られた者だ」
日々之と、加萬の会話が一室に響く。一室といっても、とても広く、音が反響しやすい場所のようだ。
「これには誰が?」
「もう決まっている、アレだ」
「アレ、ですか……大丈夫ですかね?」
「恐らく大丈夫だよ、あの頃の記憶はないはずだ」
「そうですか、賭けるしかありませんね、アレで動くかどうか……」
「動くさ、アレも意思を持っている――」
とある一室の会話。それは二つのロボットの前で繰り広げられた会話。
……
…
「はい、これで終わりっと……」
「あ、ありがとう……」
咲は勉強終了と同時に潰れ落ちた。現在時刻は8時過ぎ。咲が分からない所を的確になえかは教えていき、なんとかこの時間に終わった。
なえかが教えてなかったら、きっと明日までかかっていたに違いない。
「輝も結構できてたよね」
「ん、ああ、なえかの教え方がうまかったからだよ」
「うんうん、なえかさんの教え方は上手かったよね」
なえかは、俺の背中を力強く叩きながら。
「いやー、そんなことないよー!」
かなり上機嫌だ。もう何しても許されるんじゃないのか?ってくらいに。
「こんな時間だし、二人とも送って帰るよ」
「ん、ありがと」
俺。なえか、咲を送ることにした俺は、玄関へ行き、靴を履いて、扉を開けて、外にでた。
「うお!」
いきなり通信機が震え始めた、ビックリするじゃないか……。
「甲長くん、原川さん、宮木さんの三人はそこにいるわね?」
何も確認しないまま話し始める、日々之さん。いつものことだけど。
「います、どうかしたんですか?」
日々之さんのこの口調だと……多分、アルクェル帝国だ。
「敵が現在大気圏を降下中よ、急いでファリクサーを呼んで!それと敵の数が今までとは全然違うから、注意して」
「はい!」
くそ、もう夜なのにアルクェル帝国がくるのか!いつものことだけど、こっちの事情なんてお構いなしか!
ファリクサー!
俺が念じるとファリクサーは頭上に現れた。続いて、フェクサー、フィクサーが音を立てて、地面に着地した。
いつものことながら、なんで皆にばれないんだろう?こんな轟音をたてているのに。
まぁ、いいか……。
俺はファリクサーのコックピットに座り、飛行システムを起動。すぐさま、落下予想地点へ移動。
やっぱり何か違和感というか、それに近いものがある。本当にこの感覚はなんなのだろう。
……
…
ファリクサーが落下予想地点に到着した。そこは木が生い茂っていて、相手の数が多ければ、多いほど相手が有利な場所だった。
「ウェポンコネクト!」
ファリクサーの中で、粒子化されていた、スパイラルユニコーンが実体化し、ファリクサーの右腕にスパイラルユニコーンが装着される。
「ディメンションブレイク!」
生い茂っている木が、ディメンションブレイクにより、空間ごと圧縮される。
そこに、フィクサーとフェクサーが到着した。同時に、敵が、大気圏を突破し、降下してくる。
それは今まではとは比にならない大部隊だった。敵の数は数えただけでも、総勢500機以上。
とんでもない物量である。なえかは、呟いた。
「ウェポンコネクト、ドリルウィンドウレオ!」
ドリルウィンドウレオが、実体化。すぐに、フィクサーの右腕に装備される。
「いくぞ、相手が多いから、分散されないように、密集して戦う」
「うん、分かった」
「うん」
それぞれの言葉を返し、分散されないように、敵を撃ち落としていく。
敵の中には、これまで戦った、敵も幾分見受けされた。ほとんど量産機なのだが、10機に一機程度の割合で、前に、苦労して倒した敵が混ざっていた。
「くっ敵の数が多い……」
「前に倒したのもいるみたいだし……キツイねっ」
「はぁ……はぁ」
咲は息をあげ始めている。こちらは人間だ。消耗もするし、疲れもたまる。やはり物量での作戦は、人間に対しては効果があるのだ。
それぞれ機体が被弾し始める。
「きゃあっ!」
「咲!くそっ!」
スパイラルユニコーンで、輝は敵を貫く。爆発。だが、次から次へと敵がやってきてキリがない。
「ぐっ、本当に多すぎるぞ!」
「ほ、本当に、いい加減に!」
全員疲れが見え始めている。当然だ。戦い初めてから、1時間は経過している。その間も、敵が止むことなく攻撃をしてくる。
ファリクサーの足に、弾が被弾。体勢を乱されたファリクサーは、地面に倒される、衝撃でスパイラルユニコーンのウェポンコネクトが解除され。敵がそこに集結しだした。
長い戦いで、全員が孤立している中だったので、誰も助けにこれない。敵がファリクサーの前に現れる。
約50機。これだけの数の直撃を受けたら、いくらファリクサーとはいえ、もたない。
敵が、ライフルを発射しようと、銃口をこちらに向ける。
「はぁ……はぁ、こんな所で終われるかよ……」
輝は、ファリクサーを動かそうとするが、もう手の感覚がない。動くことができない。
「おらぁ!」
上から声が聞こえたかと思ったら、疾風とも言うべき速度で、何かが降ってきた。
敵を巻き込みながら倒していく。深紅のロボット。そして――。
「いきますよ!」
直後。ファリクサーの目の前を広範囲に及ぶビームとおぼしき物が、敵を次々と撃墜していく。
深い蒼のカラーリング。
まるでファリクサーとフェクサーのような、カラーリングで現れたロボット。
「大丈夫か!隊長殿!」
「大丈夫ですか?隊長」
「たい…ちょう?はぁ、はぁ……」
「ここは我々に任せてください、エス!」
「おう!いくぜ!エム」
二体のロボットは、圧倒的ともいえる速度で、敵を殲滅。30分後には、敵は全滅。
輝、なえか、咲は、その時にはもう気を失っていた。あれほど戦ったのだ、仕方がない。
それを守りながら戦った、二体のロボット。
まるで、疲れを知らないように、戦い抜いた、二機のロボットは、ファリクサー、フェクサー、フィクサーを背負うと。
ADF本部へ、帰還した。
第十二話 オワリ
第十三話へ続く