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鬼人伝  作者: 牧原のどか
外伝 蜘蛛草子 社の盟友
47/54

後日談

 杜に入り込んでいた刺客達は気がつくと杜の外に立っていた。自分が何者で、どうしてこんな所に居るのかもあやふやで──ただ選択をしなければならなかった。二つの道のいずれかを。

 そして彼らは自ら選んだ道を進んだ。

 ひとつの道を選んだものは、自分が天童教という教えに従っていたことを覚えていた。そして、その教祖が死んだということを知っていた。彼らは自ら出頭し、縛をうけた。

 ひとつの道を選んだものは、なぜここに自分がいるのか分からなかった。すっぽりと、数年分の記憶が抜け落ちていた。ただ、生まれ故郷に帰らなければならないと、帰路に着いた。


「それで、どう始末がついたんだ?」

「柿崎様は自害なされました。お家は断絶とか。天道教は教祖が信者を道連れに殉教。残った信者はどこにもおりませぬ。もしかしたら、物忘れにかかった家出人が故郷に帰ってくるやもしれませぬ」

「──という事にしたわけか。ご苦労だったな。まあ、それはそれでいいとして──」

 槌也はちらりと風丸の横に視線を走らせた。

「なんで、そいつがここにいる」

「わたくしは知りません。槌也様の新しい下働きだそうです」

 珍しく不機嫌に風丸がそっぽを向く。

 両手に抱えられるだけの荷物を持った柚月は殊勝に頭を下げた。

 夏姫の一連の出来事は、守之の裁量で柿崎を断罪し、すでに教祖を失った天道教は、残った信者は見つかり次第、風丸が記憶の差し替え、洗脳などを駆使し、散会させた。

 残ったのは、〝楽人〟の力の及ばぬ柚月だが、これは貴重な超常能力者ということで、小角が取り込むか、北の御隠居の裏組織に組み込まれるものと思っていたが、意外にも槌也の預かりとなったのである。

 〝心話〟を使える小角を介し、皇都の皇帝、西州の当主、北張のご隠居と、土御門の守之の極秘の会議での決定だ。

「本人も皇都に行きたくないというし、事情を知っている者を野放しにはできんだろう」

 口ぞえしたのは、今日皇都に立つ予定の五藤だ。

「北の隠居がよく承知したな」

「──北のご隠居の肝いりだ」

「はあ?──一番文句を言いそうな相手じゃねえか。なんでまた」

「──当て推量で、かまわぬか?」

「ああ」

 五藤は心なしか頬を染め、視線をはずした。

「聞いたことがある。名馬の産地では、かけ合わせたい馬同士が中々その気にならぬ時にだな──別の馬でその気にさせておいて、目当ての馬とかけ合わせるという──」

 槌也が抜刀した。刃と刃が打ち合う、澄んだ音がした。

「──柚月が当て馬で、かけ合わせるのが、夏姫だってのか──俺は種馬か!」

「俺に当たるな。なにせ、我らの若に春画の束を送りつけるお人だぞ」

 鍔迫り合いの形のまま、五藤がぼやいた。

「なんだ、そりゃ?」

「最初はその、その道の指南役をだな、派遣するおつもりだったようだが、西州様がご意見なされて春画に妥協なされたそうだ」

「────」

 槌也は毒気を抜かれて刀を引いた。

「小角の若の相手って、実の孫だろうが。まだ十……三か四だろう。そうまでして煽りてえかよ、血も涙もねえな」

「───あまり……多くを言いたくはないが」

 五藤は刃を鞘に収めた。

「よく西州様は意見できるな」

「豪気な方だからな。それに西州様は、ご隠居の義理の甥に当たられる。ご隠居の亡き奥方が、西州様の叔母君だ」

 冷徹といわれる北張と、剛毅で知られる西州の姫。いったいどんな夫婦だったのか、無駄に興味はあるが、槌也には想像もできなかった。

 意外にも夫婦仲は悪かったという評判は聞かない。北張のご隠居には当主を継いだ長男に、他家へ養子にやった二男がいる。すべてとうに嫁いだ三女もいるが、すべて正室腹であるという。

「……北血筋か……夏姫もそうだけどよ、おめえの所の姫さんも冷徹なのか?」

「─────は?」

「あれで十五だってんだから、恐れ入るぜ。命狙われようが、不義密通を命じられようが、びくともしねえ。北血筋ってのは、みなああなのかねえ」

 五藤の顔が引きつった。

「───いや、葉月姫は冷徹とは──(うじ)より育ちというし──」

 五藤は自分自身の言葉に深く傷ついた。

(小角のせいかー! 我らが姫が、ああまで雄々しく豪気なのは、小角のせいかー! 我らはどこで姫の教育を間違ったのだー!)

 小角猛流の許嫁、葉月姫は間違っても冷徹と呼べる性格ではない。頻繁に許婚の猛流を引きつれ屋敷を抜け出そうとし、隙あらば武術を学ぼうとする、むしろ豪気な姫だ。

 気品の南戸の姫を母とする皇帝と、まさに北張の姫といわれる御台所のどこから葉月の性格が生まれたものか。

「どうしたい?」

「な──なんでもない。気にするな」

 主家のことを外に漏らすわけにはいかないのであった。

「では、槌也殿、これで。また夏姫様が皇都に向かわれるさい、代役にまいります」

「嫌な事を思い出させるなよ」

 夏姫は土御門にいる。この三年、様々なことがありそうだった。特に、帰るさい皇都に送ってゆくのは、やはり槌也だろう。

「──先が思いやられるぜ」

「槌也殿、たとえどんなことでも、己が後悔しない道を行くが、正しき道と存じまする。己が信じる道を行きなされ」

 金剛の鬼は爽やかな笑顔を残して帰路についた。その後姿が妙に清々しく感じたのは、槌也だけではないだろう。

「後悔しない道……ねえ」

 槌也は柚月を振り返った。

「なんで小角についていかなかった? ここは、妖怪の棲家だぞ」

 槌也(くも)風丸(おに)もそうだが、土御門の杜は、邦を被う結界の結び目、魑魅魍魎の世界との門のようなものだ。

 庵にはさらに結界を張ってはいるが、危険であることには変わりない。

「小角だって、鬼じゃない」

「違いない──だが、命の危険はない。ここと違ってな」

「自分の命くらい守れる」

「そうか」

 土御門に残るのなら、その力の効かない槌也の元に預けるしかないと、釘を刺されている。

「好きにしろよ。後悔しない道が、正しい道だとさ」

「うん」

 柚月は頷いた。風丸が非難を込めた目で槌也を見る。

 槌也は溜息をついた。

 夏姫はあきらめたわけではない。守之も加担しているとなれば、どんな手を使ってくるか知れたものではない。

 苦難の三年は始まったばかりである。

 そうして土御門の結界の杜は新しい住人を迎え入れた。

忘れておりましたが、この話は血の誓約から二年後ぐらいです。

猛流と葉月は十四になってます。春画(エロ絵)は千騎が預かっています。

「若にはまだ早い! もっと基本的なものから始めませぬとな」

「問題はそこかー!!」

………………かなりマニアックな物をおくったもよう……


五藤……自分で自分の言葉にダメージくらってます(涙)

「小角のせいかー! 我らが姫が、ああまで雄々しく豪気なのは、小角のせいかー! 我らはどこで姫の教育を間違ったのだー!」

どこだろうね?


次回からまた主人公が変わる予定です。

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