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鬼人伝  作者: 牧原のどか
血の誓約
23/54

顛末

 上のかたがたの論議など知らず、小角では葉月の床払いが行われていた。

「ようございました。姫様がお倒れになったときは、この小春、どうしたものかと……ああ、水芝などの招待を受けるのではございませんでした。まさか、姫様の身に、このような事が起きようとは」

 涙ながらに、小春が訴えた。

「うーん、なーんか、患っていた気がしないのよね。記憶がはっきりしないから、そうだったのかも知れないと思うけど」

「快癒されて、よろしゅうございました。水芝などは、疫神が暴れまわった由。人死にや、気の触れた者もいるとか」

 いけしゃあしゃあと、その疫神本人の一人が言う。

「……さよう……」

 難しい顔で、やはり疫神その二が言う。こういうときほど、千騎の面の皮を羨ましいと思うことはない。

「そ、そうですね」

 ご本尊(ほんぞん)は視線を泳がせた。

「もう、全然、なんともないのよ。ああそうね、夢を……見たような気がするわ」

「どのような?」

「奇麗な女の人が出てきたわ。顔は……思い出せないんだけど……そのとき、猛流にそっくりだって思ったの」

「ぼくに……ですか」

 葉月はしみじみと猛流の顔を眺めた。

「うん。前々から思ってたけど、猛流が女の人なら、すっごく奇麗でしょうね」

「……うれしくありません……」

 ちょっと、悲しい猛流だった。たとえそれが褒め言葉でも罵りでもなく、ただの真実だったとしても。

 許婚に、女にしたら奇麗だと言われて、喜ぶ男がどこにいるというのだ。

 千騎が苦笑した。

「奇麗でしょう。若は母君にそっくりですから、若を女の人にしたら母君ですよ」

 猛流の母である華菜の噂は、葉月も聞いていた。美男美女ぞろいの小角の中でも、絶世の美女だそうだ。猛流をみれば、誰でも納得するだろう。

「猛流の母君? 一度会って見たいものね。ああ、それで、あんな夢を見たのかしら」

「夢でしょう。熱にうなされたのですな」

 ここで葉月は首をかしげた。

「どんな病だったのかしら」

「さ、さあ? それよりも、なにかして欲しいことなど、ございませぬか? 多少のことなら、五藤も許します」

 五藤は話をそらそうとした。

「そうだ、五藤、前に投げ技のこつを教えてくれたでしょ。今度は止めのさしかたまで教えて」

「はあ、よろしゅうございますが?」

「おやめください! 姫に何を教えるのですか! ああ、そのようなことを教えるから!」

 小春が絶叫した。

 あっさりと了承した五藤に、めずらしく千騎が食ってかかった。

「『(ひめ)』に、『無手(むて)』の『組み打ち(くみうち)』を教えるな! それくらいなら、舞いでも教えろ!」

「なにを言う! 姫に、男舞など、教えられるか!」

 千騎と五藤は、互いを常識を知らないと、言い争った。千騎が五藤を、常識がないと罵る日がこようとは。

「組み打ちはよくて、男舞はよくないと言うのか? 組み打ちを教えるくらいなら、懐剣(かいけん)の使い方の方がましよ」

「できるか! 小太刀(こだち)ならまだしも、懐剣なんぞ、使わんわっ! それに、組み打ちは無手になったとき、非常に有効なのだぞ」

「そういう問題ではない!」

「なにが、問題だというのだ!」

 猛流は首をかしげた。

「どうして教えて欲しいんですか?」

「んっと、止め差したいくらいの、馬鹿にあったの」

 うっと、千騎と五藤は唸って、一時喧嘩を中断した。二人と小春は同時に同じことを考えた。我らが姫は、なにゆえここまで雄々しいのだろうかと。

「……誰に止めをさすんですか?」

「えっと、誰だったかしら……」

「小角の者ではないでしょうね」

「違う……と、思う。誰だったかしら、思い出せないわ。変ねえ」

 葉月はしきりに首をかしげた。どうも、記憶があいまいだ。

「でも、駄目ですよ」

 めずらしくきっぱりと言い切る猛流だった。猛流が葉月を諌めるなど、なかったことである。千騎と五藤は我が耳を疑った。

「どうしてよ」

 葉月はむくれた。

「鬼神流は血統お止め流ですから。姫に教えるわけにはまいりません」

「おお」

 ぽんっと五藤が手を打った。

「そうでございました。よくぞ、言ってくださいました」

「ずっるーい。いいじゃない、教えてよ」

「姫、これはこの五藤が、悪うございました。鬼神流は教えられません」

「ああっ酷いっっ! ずるい! あたしが不埒者に襲われたら、どうするのよ!」

「姫、生兵法はケガのもとですぞ」

「だから、ちゃんと極めるまで、教えて欲しいの!」

「血統お止め流ゆえ、ご容赦ください」

「姫様! 良家の姫が組み打ちなどをぉぉ!」

 小春が、多いに嘆いた。

「大丈夫ですよ」

 猛流がにっこり笑った。

「どうしてよ」

 おおいにむくれて、葉月がたずねた。

「葉月さんは、ぼくがお守りいたします。そのような輩は、ぼくが成敗(せいばい)いたしましょう。指一本、葉月さんには触れさせません」

 猛流があまり晴れやかに言うので、葉月は頬に血を上らせた。その顔を見られたくなくて、思わず背を向けた。

「期待してないけど、そうしてね」

「はい」

 猛流は晴れやかにほほ笑んだ。もちろん、生涯誓いを守り続けるつもりだった。

ツンツンデレデレ、ツンデ~レ(違


一応口説いてます。でも無意識です。次は意識して口説こうな猛流。


次からは主人公が変わります。

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