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鬼人伝  作者: 牧原のどか
血の誓約
21/54

夢幻

 琴の音で目が覚めた。

 きれいな音曲(きょく)……誰かしら。

 起こしてしまいましたか、と誰かが言った。

 直接頭に聞こえるような、不思議な声音だった。誰だろう、と葉月は思った。

 お初にお目にかかります。猛流の母、華菜と申します、とその人は言った。

 ふいに姿が見えた。霧の中に、自分とその人だけが浮かんでいるような、不思議な感覚だった。

 奇麗な人、猛流にそっくり、と葉月は思った。

 それにしても、ここはどこだろう。

 小角の屋敷にございます、とその人は言った。

 姫様は、水芝の家でお倒れになったのでございます。

 そうだったかしら……なにか、べつのことがあったような気がするのに、思い出せない。

 姫様は強運にございます。水芝は疫神(えきしん)に入り込まれ、幾人も人死にが出ました(よし)。聞くところによれば、嫡男の若君まで疫神にやられ、大殿のご隠居が、失意のあまり自害なされましたとか。姫様はお会いになったこともない者共でありますが。

 そうなの。あったこともない人達だけど、可哀想だわ。

 そうかしら……本当に、会ったこともなかったかしら……

 どうかなされました?

 なんだか、とても嫌なことがあったような気がするの。

 夢でございます。

 夢?

 もう一眠りなさいませ。起きたときには、悪夢など、きれいさっぱり忘れておりまする。

 そうね、そうするわ。ああ、そういえば。

 なにか?

 疫神って、鬼よね。

 はい。そのとおりにございます。

 鬼を見たわ。あれは猛流だった。

 ……恐ろしゅう、ございましたか?

 ううん、全然。だって、猛流だもの。

 食われるとは、思いませなんだか?

 食べられちゃうと思ったわ。

 それでも恐ろしゅうないと?

 汚く食い荒らされるのは嫌、食べるんなら、奇麗に食べて欲しいと、思ったわ。

 答えはなく、その人が笑っている気配がした。

 気丈な姫とは聞いておりましたが、ここまでとは思ってもおりませなんだ。猛流のことはお嫌いですか?

 嫌いじゃないわ。

 小角の家は?

 嫌いじゃないわ。結婚は嫌だけど。小角の家も、猛流も、嫌いじゃないの。

 それを聞いて安堵致しました。猛流をよろしくお願い致します。

 うん、任せといて。

 葉月が晴れやかに答えると、その人は頭を下げ、その姿は霧の中に飲まれていった。

 後はもう、夢も見ない眠りの中。


 琴を抱えた妖艶な美女が離れを出ると、千騎が待っていた。

「終わりましたか?」

「はい。わたくしの力が要るときには、いつでもお呼びください」

「……殿と若には、お会いになられぬのですか?」

「……あの子をあのように産んだは、わたくしの(とが)。会わせる顔がありませぬ。わたくしは松江様の菩提を弔っていきたいと思います」

「……あの方は、あなたを、殺そうとなさったのですよ」

「それでも、猛流を戻してくださいました」

「華菜様」

「嫌ですわ。昔のように、()()従姉(ねえ)と呼んでくださいませ。春ちゃん」

 華菜は千騎の、母方の従姉にあたる。猛之に見初められるまでは、姉弟のように育ったのだ。猛流は千騎の、父方でいえば従兄弟だが、母方でいえば従姉の子という事になる。

「春ちゃん、は、やめてください。もう、元服もすませたのですよ」

「そうでしたわね。叔母様がいつまでも身を固めないと、嘆いておりましたわ。わたくしにとっては、いつまでも小さな男の子でありますのに」

「何年前の話ですか」

 華菜はしばらく笑い、千騎に頭を下げた。

「猛流のこと、よろしくお願いします」

「お任せください」

 琴を抱えた華菜は、千騎に背を向けて静かに立ち去った。

 千騎はその背に頭を下げた。

猛流ママン登場。もちろん神通力の欠片を持ってます。かなり強力な能力ではあります。

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