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災難の始まり

スタンドのエントランスから見渡す景色は、想像を超えていた。


広がるダークグリーンの海原に、双子の小さな太陽が昇り始める。


真っ赤な朝焼けは禍々しいほどで、メトロ育ちのおれにとって斬新で驚愕で、かつての傭兵時代のころにも味わったことのないセンスに珍しく言葉も出なかった。


外縁の銀河に位置する惑星ペローダ アクアは、かつてのミッションでMSクルーザーでの通過時に眺めただけである。


暗黒の空に浮かぶ二連の恒星に照らされた水の珠へと降り立った風景など、その頃は思いもつかなかったものだ。


もっともあの時はいつものように、それどころじゃなかったが。


「早いのね、ファング。」もと7thのガーディが声をかけてきた。


本日の彼(彼女?)の声は、透き通るようなソプラノだ。


エルフィーである彼女?は、周期的にセクシャルトランスフォーメーションを繰り返す。


休暇中の俺にとって、美女の連れは歓迎だ。


例え、他の時期には、いかついマッチョだとしても(しかも、オネエ的なのが なお更溜なのだが)。


とにかく今日の彼女はプラチナブロンドのショートとマリングリーンの瞳が、この星の情景にあっている感じだ。


「なんか、凄い光景ね。怖いくらい。」ふくよかな胸を押し付けながらガーディが寄り添う。


…年中 この姿なら飽きねぇけどな

おれは思わずつぶやいた。


<あら無理よ ファン 私達は繰り返す事でミスティカルパワーを保っているから>


<ふっ つぶやきぐらいさせてくれよ>


<この姿なら 貴方に抱かれてもかまわないけど>


「ノーサンクス、勘弁してくれよ。」


「それも、そうね。」ころころと可愛い声で笑いが返る。


「それにしても、素敵な休暇になりそうだわ。長官に感謝しなきゃ。」


「あのジーさんのことだから、裏があるかもしれないけどな。」


「そんなことより、何かお腹にいれない?私はもうぺこぺこだから。」


「じゃ、そうするか。」ホテルのスタンドのフードコーナーボックスに向かいながら、少しばかり気がかりなこの間の夜の事を、ふと思い出していた。



|Three weeks ago METRO《三週間前 コロニー メトロ》


「そこの者 またれよ」おれを呼ぶ声がする。


立ち止まると路地裏の片隅のドアが開かれている。


いかにも胡散臭い雰囲気の小部屋の中に、とってつけたような怪しげな婆さん。


おれは再び歩き始めようとしていた。


「お前さんの行く末には 暗雲が立ち込めておるぞ」


「おれには、幸運なんて縁がねぇけどな婆さん。」そのまま歩き続ける。


「黒き竜よ お主の纏っている 血なまぐさいサガの事ではない」その言葉におれは立ち止まっちまった。


「じゃあ、なんだい?」


「竜が羽を休めしとき災いが湧き上がる 水とおなごに注意するのじゃ 竜の涙を見ることになろうぞ。」


「水難と女難て訳かい。せいぜい気をつけるようにするぜ。サンクス婆さん、御代は幾らなんだ?」


「礼には及ばぬ くれぐれも気をつけるのじゃ」



それっきり、今の今まで忘れちまっていたが


海と美女?まずい並びだな。泣きを見ないよう注意しねぇと。


…やれやれだぜ まったく

どうやら、今回は見逃してくれたらしい。


それともそれほど腹がへっているのか。


先に席に着いた絶世の美女は、広がる海をバックにして無邪気におれに手を振るばかりだった。



ボックスのテーブルに腰を落ち着けると、メニューパネルが浮かんでくる。


ガーディのお勧めで、産直らしいシーフードから適当に選ぶ。


「この、シーモンスターのリゾットは美味いのか?」


「絶品よ!まだ若いシーモンスターの柔らかい部分だけを使った料理なの。フリットもイケルわ、とくに目玉のね。」


「…昔メトロでガキの頃、シーモンスターって名前の怪しいメイルオーダーのペットがはやったんだが。」


「それよ、それ。同じ物。」


「うへぇっ、赤い目玉で白い首長の亀の小さい奴。」

…思い出しちまった。


「それの成獣が、美味なのよ。」


「仲間うちでみんなして飼っていたが、誰の奴も喰えるほどデカクなんなかったぜ。」


「多分、環境が合わなかったのね。」


「そうゆうもんかい、で、この辺じゃどの位デカクなるんだい?」


「大きい子で、20ヤード位かしら。」


「ちょっと、でかいな。」


「だから海の怪物ね。毎年のように産卵期とかは、漁の最中なんかに事故とかあるらしいから。」


不意にテーブル脇にフロートウインドが展開をした。


モニタリングされてるのは、長官である。


<やぁ ファングにミス・ガーディ 早い朝飯だな>


…なんだ?休暇の取り消しか?

思わずつぶやいた。


<他でもない ミス・ガーディ>


<何か?>

…どうやら仕事じゃないらしい。


<そのぉ 家内が モニカの奴がシーフードに目がなくてな…>


<あぁ それでね 長官がこんな外縁のペローダアクアを薦めたわけですね>

おれには、意味がわからない。それと、家内?モニカだと?


<さすがは ガーディ君 いやミス・ガーディ>


<じゃあ ご自宅宛に 見繕ってお送りしますね>


<助かるよ 緊急転送システムのコードはD328C1964で頼む>


<承知しましたわ モニカによろしく>


<ああ>ウインドは閉じてゆく。


「おいおい、緊急転送システムなんて軍用だろ?それに家内とかモニカとか一体。」


「相変わらず、IMCB(生体用個人記憶チップ)をちゃんと確認してないのね。」


「先だって長官は、御結婚なされたのよ。しかも30も年下の美人と。」


「インポータント以外はアクセスしないからな。」


「『ドラゴンは忘れない』なんて言われていても、それじゃあね。」


「忘れる事ができねぇから、余計な事は覚えないのさ。」


「はいはい。冷めないうちに食べましょ。」


おれは頷いて、亀野郎のリゾットを口にほおりこむ事にした。あのジーさんに若い嫁か、EE(帝国も衰退だ 世も末だの意)。


「意外と美味いな。あんときデカクなりゃ喰っとけばよかったぜ。」


「それはいただけないですね。」横から口を挟んだ奴がいる。どうやら店の奴らしい。


「突然口を挟みまして失礼しました。わたくしは、当スタンドのオーナーをしているものです。楽しそうな会話につい口を挟んでしまいまして。」そう告げて初老の男は丁寧に詫びを入れIDを示してきた。


「構いませんわ。それで『いただけない』とは、なんですの?」ガーディが問いただす。このオヤジの話にどうやら興味を持ったようだ。


「その、昔に通販で売られていたモンスターですが、生まれたては苦味があって食用に適しません。体長が12ヤード位にならないとうまみが乗ってこないので。」


「やれやれ、喰わなくて良かったわけだ。」


「この惑星の環境に近いモノを用意なされないと育ちが悪いのですよ。しかも地元でも未だ養殖に成功していないのです。本来は臆病な性格ですが、この時期だけ繁殖の為に気が高ぶっておりますがそのことで反面、油がのっているのですよ。」


「それで、こんなに美味なのね。」


「そうです、マダム。」

…おいおい、いつからマダムなんだよ


「別に、構わないでしょ」ガーディは笑いながら応えた。


「なにか?」怪訝そうな顔で、オヤジが問いかける。


「こちらの事ですから。」ガーディは否定もせずに話を続ける。おれを無視して。


「マダムどうでしょう、クルージングなど。御心配には及びません。大型クルーザーにはさすがに向かっては来ないですから、自分より大きなものには手を出さないと言う事です。もちろん御主人も御一緒に。」


「それは、楽しみですわ。それと、船内ではお買い物ができますかしら?」


「それはもちろん。土産物から、新鮮な食材まで当惑星の産物がずらりと。」


「まあ、素敵。是非お願いしたいわ。いいでしょアナタ。」


「あぁ。」もう好きにしてくれとばかりに、おれは返事をした。


商売がうまくいったせいか、ニコニコ顔でオーナーとやらのオヤジが去っていく。


…やれやれだぜ

おれは得意顔で笑みを浮かべる、おれの女房らしい女の顔を見ながら呟いた。

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