第12話「突破」
『虚実の狭間に立つ者』
第12話「突破」
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五人の男たちが、一斉に襲いかかってきた。
僕は刀を抜き、最初の一人を迎え撃った。
斬撃。しかし、男は怯まない。
腕を斬り裂いたはずなのに、痛みを感じていないかのように突進してくる。
「妖に憑かれた人間は、痛覚が麻痺している——」
「厄介だな!」
凛太郎が炎を纏った拳で、別の男を殴り飛ばした。
橘家の異能——炎を操る力。凛太郎は、それを戦闘に応用している。
「真夜、こいつら人間だ! 殺していいのか!」
「妖に完全に憑依されています! もう、元には戻りません!」
僕は判断を下した。
妖に完全に支配された人間は、もはや人間ではない。祓うべき対象だ。
「——祓」
霊刀「氷月」に力を込め、男の胸を貫いた。
男の体から、黒い霧が噴き出す。妖が抜けていく。
同時に、男の体が崩れ落ちた。
死んでいる。妖が抜けた瞬間、肉体が限界を迎えたのだ。
「くそっ——」
凛太郎も、二人目を倒した。
残り三人。しかし、影山が新たな妖を召喚している。
「まだまだ、いくらでもいるぞ」
影山が笑った。
彼の周囲に、黒い霧が渦巻いている。その中から、低級の妖が次々と現れる。
「きりがない——」
「真夜、援護しろ! 俺が道を開く!」
凛太郎が叫んだ。
「突破して、葵を救出する!」
「了解!」
凛太郎が突進した。
炎を纏った全身で、敵の群れに突っ込んでいく。
僕は後方から、凛太郎に迫る敵を斬り伏せた。
「影山を倒せば、妖の供給は止まる——」
僕は影山に向かって走った。
影山は余裕の表情で、手を振った。
「無駄だ」
僕の前に、巨大な妖が現れた。
中級の妖だ。低級とは、比べ物にならない威圧感。
「こいつを相手にしている間に、君の仲間は死ぬぞ」
振り返ると、凛太郎が苦戦していた。
数の暴力に押されている。
どうする——
その時、空から光が降り注いだ。
「——結界展開」
聞き覚えのある声。
紬だった。
彼女が張った結界が、妖たちの動きを封じた。
「紬さん!」
「遅くなってごめんなさい。葵さんから緊急連絡を受けて、駆けつけたわ」
紬は空中に浮かんでいた。結界術の応用で、自身を浮遊させている。
「葵さんは!?」
「無事よ。今、脱出中。私たちも早く離脱しましょう」
「了解——」
「させると思うか」
影山が手を振った。
中級の妖が、紬に向かって跳躍する。
「紬さん、危ない!」
僕は跳んだ。
空中で、妖を斬りつける。
手応え——あった。
中級の妖の腕が、斬り落とされた。
「真夜くん!」
「今のうちに、結界を強化してください!」
「わかったわ!」
紬が詠唱を始めた。
結界が、さらに強固になっていく。
妖たちの動きが、完全に止まった。
「これは——」
影山が驚愕の表情を浮かべた。
「神楽坂家の結界術か。厄介な」
「今です、凛太郎!」
「おう!」
凛太郎が、最大火力の炎を放った。
炎が、妖の群れを焼き尽くしていく。
同時に、僕は影山に斬りかかった。
「——っ!」
影山が後ろに跳んだ。
僕の刀が、彼の頬を掠める。
「小僧——」
「逃がしません」
追撃しようとした瞬間、黒田が割って入った。
「影山、撤退だ」
「しかし——」
「ここは引く。彼らの実力を見誤った」
黒田の目が、僕を捉えた。
冷たい、爬虫類のような目。
「柊真夜——覚えておこう。次は、必ず殺す」
黒田と影山が、闇の中に消えていった。
洋館からも、人の気配が消えていく。
逃げられた——しかし、今は追う余裕がない。
「凛太郎、紬さん、撤退します」
「ああ」
「了解」
僕たちは、その場を離脱した。
◇
合流地点で、葵と再会した。
「無事でしたか」
「ええ、なんとか。あなたたちこそ、大丈夫?」
「怪我はありません」
葵の顔には、擦り傷があった。脱出する際に、何かあったのだろう。
「申し訳ありません。罠にかかるなんて——」
「あなたのせいじゃない。向こうの方が、一枚上手だっただけです」
「でも——」
「それより、何かわかったことはありますか」
葵は頷いた。
「『黄泉返りの会』という組織の存在。彼らは、妖を利用して何かを企んでいます」
「何を?」
「詳しくはわかりませんでしたが——『先生』と呼ばれる人物がいるようです。その人物が、全ての黒幕だと」
「先生——」
影山も、その名前を口にしていた。
「黒田誠一は、単なる駒に過ぎないのかもしれません。本当の敵は、もっと上にいる」
凛太郎が舌打ちした。
「厄介だな。思ったより、根が深い」
「ええ。しかし、収穫もありました」
僕は言った。
「敵の存在を確認できた。そして、彼らが何をしているかも、ある程度わかった」
「次は、『先生』とやらの正体を突き止める必要があるわね」
紬が言った。
「鎮守院のデータベースで、『黄泉返りの会』について調べてみましょう。何か、記録が残っているかもしれない」
「お願いします」
僕たちは、支部に帰還することにした。
今夜の任務は、失敗に終わった。
しかし、新たな敵の存在が明らかになった。
『黄泉返りの会』——そして、『先生』。
この戦いは、まだ始まったばかりだ。
——第12話「突破」完——




