第11話「内部の闘」
『虚実の狭間に立つ者』
第11話「内部の闇」
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葵が『ブラックボックス』に潜入して、五日が経過した。
毎日の定時連絡で、少しずつ情報が集まってきていた。
「黒田のスケジュール、だいたい把握しました」
葵の声が、通信機から聞こえる。
「毎週水曜日の夜、必ず外出します。行き先は不明ですが、深夜まで戻らない」
「水曜日——明後日ですね」
「ええ。それと、もう一つ気になることが」
「何ですか」
「黒田の側近に、怪しい男がいます。名前は『影山』。表向きは秘書ですが、明らかに普通の人間じゃない」
「妖の気配がありますか」
「いいえ。でも、術者の気配を感じます。おそらく、黒田に妖を使役させている張本人はこの男です」
影山——
僕たちが初日に見た、黒いコートの男かもしれない。
「影山について、もう少し詳しく調べられますか」
「やってみます。ただ、あまり深入りすると怪しまれる可能性があります」
「無理はしないでください。危険を感じたら、即座に撤退を」
「わかってます」
通信が切れた。
凛太郎が腕を組んで言った。
「影山、か。そいつが黒幕の可能性が高いな」
「ええ。しかし、まだ確証がない」
「水曜日の外出を尾行するか?」
「そうですね。黒田の行き先を突き止めれば、何かわかるかもしれません」
◇
水曜日の夜。
僕と凛太郎は、『ブラックボックス』本社ビルの近くで待機していた。
午後九時、黒田が黒塗りの車で出発した。
「行くぞ」
「ええ」
僕たちは、バイクで尾行を開始した。
黒田の車は、渋谷から首都高に乗り、東に向かった。
一時間ほど走り、車は千葉県の山中に入っていった。
「こんな場所に、何があるんだ」
凛太郎が呟いた。
「わかりません。しかし、人目を避けているのは確かです」
やがて、車は古い洋館の前で停車した。
周囲には何もない、森の中の一軒家。
異様な雰囲気を纏った建物だった。
「あれは——」
僕は目を凝らした。
洋館の周囲に、結界が張られている。一般人には見えないが、術者の目には明らかだ。
「結界がありますね。かなり強力なものです」
「誰が張った?」
「わかりません。しかし、この結界は——妖を『呼び寄せる』タイプです」
「呼び寄せる?」
「ええ。普通の結界は妖を『遠ざける』ためのものですが、これは逆。周囲の妖を引き寄せ、この場所に集めている」
凛太郎の顔が険しくなった。
「何のために」
「おそらく——妖を捕獲し、使役するためでしょう」
黒田が洋館に入っていった。
僕たちは、近くの茂みに身を潜めて様子を窺った。
しばらくすると、洋館の中から——声が聞こえてきた。
複数の人間の声。そして、異様な詠唱。
「儀式をやってるのか」
「そのようです」
僕は耳を澄ませた。
詠唱の内容は聞き取れないが、妖を呼び出す類の術だということはわかった。
「凛太郎、あそこを見てください」
「どこだ」
「洋館の裏手。何かいます」
凛太郎が目を凝らした。
洋館の裏には、檻のようなものが並んでいた。
その中に——何かが蠢いている。
「あれは——」
「捕獲された妖です。低級のものから、中級のものまで——かなりの数がいます」
「妖の養殖場、ってわけか。とんでもねえな」
その時、洋館の扉が開いた。
出てきたのは、黒田——と、黒いコートの男。
影山だ。
「——今夜の収穫は上々だ」
影山の声が聞こえた。
「新しく三体、捕獲できた。これで、先生の計画も順調に進む」
「先生は満足されるだろう」
黒田が答えた。
「しかし、鎮守院の動きが気になる。最近、我々を嗅ぎ回っている者がいるようだ」
「心配はいらない。すでに対策は打ってある」
対策——?
嫌な予感がした。
その時、僕のスマホが振動した。
葵からの緊急連絡だ。
『柊さん、逃げて——罠です——』
通信が途切れた。
「葵さん!」
僕は立ち上がりかけた。
その瞬間——
「——動くな」
背後から、声がした。
振り返ると、五人の男たちに囲まれていた。
全員、黒いスーツを着ている。そして、その目は——人間のものではなかった。
「妖に憑かれた人間——」
「ご名答」
影山が、ゆっくりと近づいてきた。
「鎮守院の祓い師が、わざわざ来てくれるとはね。歓迎しよう」
「あなたが、黒田に妖を使役させている術者ですか」
「半分正解だ。私は『仲介者』に過ぎない。本当の術者は、別にいる」
「本当の術者?」
「知りたいかね? まあ、いいだろう。どうせ、君たちはここから出られないのだから」
影山は笑った。
「我々の組織は『黄泉返りの会』という。妖の力を使って、この世界を変革しようとする者たちの集まりだ」
「黄泉返りの会——」
聞いたことのない名前だった。
「君たちには、実験台になってもらおう。祓い師の体に妖を憑依させると、どうなるか——興味深いデータが取れるだろう」
影山が手を振ると、妖に憑かれた男たちが襲いかかってきた。
——第11話「内部の闘」完——




