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バレンタインの結末

作者: ピーナッツ
掲載日:2026/01/18

10カ月前に投稿しようと思って断念した作品です。今度こそとログインして、久しぶりに読んだら、このお話好きかもと思って最後まで書き上げました。

高校2年生の2月12日、私、伊藤陽葵は、学校近くのスーパーマーケットに訪れていた。友チョコの材料を買うためだった。ミルクチョコを手に取ったとき、1人の幼い女の子が目に入った。迷子なのだろうか、辺りをきょろきょろしている。

私は「お母さんはどこだろう」と心配しつつも、声をかけられずにいた。その時、私と同じ高校の制服を着た男子生徒が現れた。優しい笑顔を浮かべ「どうしたの。お父さんお母さんは?」と聞いていた。

私はなんて勇気のある人だろうと思った。その優し気な横顔が脳に焼き付いた。


4月になり、私は3年1組になった。友人と一緒に教室へ入ると、ある男の子が目に入った。その瞬間、運命ってあるのかもしれないと私は思った。彼がいたのだ。窓際の前から2番目の席で、彼は本を読んでいた。

私の席は廊下側の後ろから2番目で、彼の席とは遠かったので残念だったが、彼の名前は山本学ということが分かって、少し嬉しくなった。


5月になった。1カ月、彼を観察してみて分かったことがある。それは、あの笑顔は幻なんじゃないかと思うほど不愛想なのだ。声は小さく、トーンも暗い。おまけに人と話すときは、相手の目ではなく首を見ている。友人にそのことを話すと「よく見てるねぇ」とからかわれてしまった。


6月になり、席替えをすることになった。4月には「山本くんと隣になれたらな」なんて考えていたが、今では「クーラーの風が当たる席になれますように」と思っていた。くじ引きで狙うは15か、16。「15、16……来い」と念じて引いたが、思いは届かず29番だった。しぶしぶ、荷物を持って移動すると、隣はなんと山本くんだった。「伊藤陽葵です。よろしくね」と声をかけると、「山本です。よろしくお願いします」と返された。「敬語じゃなくていいのに」と言うと、「分かりました」と言われ、「いや、敬語!」と内心ツッコミを入れたが、「じゃあまた明日」といって私は教室を出た。


山本くんを隣で見ていて、気づいたことがある。それは、不愛想ではなく人見知りなのかもしれないということ。相変わらず声は小さいし、トーンは暗いし、目は合わないけれど、話しかけられる度に、耳が真っ赤になっていた。もう一つは、とても気遣いが出来るということ。私が山本くんの方に消しゴムを飛ばしてしまったとき、ただ拾ってくれるだけでなく、渡す前に床についた面を払ってくれた。


それから私は、何とかきっかけを見つけて山本くんに話しかけた。


「おはよう。今日は何の本読んでるの?」

「おはようございます。これは〇〇〇〇の『□□□□』です」

「〇〇〇〇……難しそう」

「『□□□□』は読みやすいと思いますよ」

「私も読んでみようかな」

「ぜひ」


「おはよう。『□□□□』買っちゃった」

「おはようございます。読みましたか?」

「えっと……9ページまで」

「そうですか」


「おはよう。音楽聴いてるの?珍しいね」

「おはようございます。音楽じゃなくて英単語を」

「英単語……意識高いね。受験生だもんね。私も見習わなきゃ」

「……伊藤さんはよく音楽聴いてますよね」

「うん、音楽聴くの好きなの」

「好きなアーティストさんがいるんですか」

「え、ああえっと、〇〇〇が好き」

「そうなんですね」

今日ははじめて質問してくれた。


「おはよう」

「おはようございます。聴きました、〇〇〇さん」

「ほんと!嬉しい」

「『□□□□□□』良かったです」

「私もその曲好き」

まさか聴いてきてくれるなんて。


「おはよう」

「おはようございます」

私は思い切って言ってみた。

「山本くんって敬語のままだよね。壁感じるなぁ」

「すみません」

「これからはため口で」

「分かりました。あ、いや分かった」

やっとため口で話してもらうことに成功した。


それから私たちは昼休みにも話すようになった。そこで知ったのだが、山本くんは料理が得意らしい。両親が共働きなため、お弁当や夕食をよく作っているそうだ。「食べてみたい」と冗談っぽくいうと「今度ね」と言ってくれた。

食べてみたい気持ちは山々だったが、期待しないでいると、数日後チャーハンを作ってきてくれた。練習もしてくれたらしい。時間がたっていてご飯はパラパラではなかったけれど、味はお店に出でいそうなくらい美味しかった。「めっちゃ美味しい!」と興奮気味に伝えると、「大げさ」と言いながらも、照れくさそうに笑っていた。


そんな彼の様子をみて、クラスメート達の山本くんへの印象も変わったらしい。次第に、他のクラスメート達も山本くんに話しかけるようになった。それでも私は、私が一番彼のことを知っているという自信があった。だから、クラスメート達が彼の魅力に気づいていくことが嬉かった。


あっという間に日々は過ぎていき、あと3日で夏休みに入ろうとしていた。受験生にとっては勝負の夏だ。夏祭りや花火大会には誘えそうにない。どうにかして夏休み中も山本くんに会えないだろうかと考えている自分がいた。私は期待を込めて聞いてみた。

「夏休み中、山本くんはどこで勉強するの?自習室?図書室とか」

「ああ、学校の近くに高橋塾ってあるのわかる?そこに通ってるんだ」

「見たことある。そっかぁ、じゃあ次会えるのは始業式か」

「いや、明日明後日は会えるって」

「そういえばそっか。じゃあまた明日」

あっさり撃沈してしまった。勉強に集中しろってことなのかな。


諦めの悪い私は、自宅近くの予備校ではなく、学校の教室で勉強した。帰り道、もしかしたら山本くんに会えるかもしれないと思ったからだ。でも、そううまくはいかないもので、私は閉校時間まで学校で勉強し、単語帳を眺めながら電車に乗り、予備校で自習をして帰るという受験生らしい毎日を送った。何度も連絡してみようと思ったけれど、うっとおしいと思われるのが怖かった。


長い夏休みが終わり、やっと山本くんに会える日が来た。なんて声をかけようが悩んだけれど、結局「久しぶり」と声をかけた。髪を切ったようで少し幼く見えた。久しぶりに会えて喜んでいたのもつかの間、席替えをすることになった。正直嫌だった。山本くんと離れてしまうことも、山本くんが次に隣になった人と仲良くなるのも、全部嫌だった。「ああ、好きになっちゃったんだ」と思った。


「神様どうか……山本くんの近くにしてください」息をとめてくじを引いた。私の番号は17だった。山本君が11か23だったら隣だ。山本君もくじを引き終わり、席に戻ってきた。私は横目で紙を見る。十の位は2だ。見えたのはそれだけで、先生が急かすから、何も言えず席を移動した。


私の隣は、クラスのムードメーカー佐藤碧。夏休み金髪にしていたらしく、黒染めスプレーでごまかそうとしていたが、生徒指導の先生の目は欺けなかったようで、朝から説教を食らっていた。

「佐藤かよ~」とわざと落胆したように言うと、「こんなイケメンと隣になれて光栄に思えよ」とドヤ顔をされた。

私の前の席は鈴木凛ちゃん。小柄で、おとなしい子だ。「凛ちゃん、よろしくね!」と笑顔を向けると、「陽葵ちゃん、話しやすいから近くになれて嬉しい!」と言ってくれた。なんてかわいい子なんだ。そして斜め前は……山本くんだった。「また近くだね」気持ちがばれないように、ちょっとおどけて言ってみる。山本くんは「そうだね」と笑顔を返してくれた。


斜め前というのは案外遠くて、昼休みは山本くんと凛ちゃんと一緒にお弁当を食べるのだが、2人の会話を聞いている時間が多かった。2人とも読書家で、山本くんは料理が得意、凛ちゃんはお菓子作りが得意ということもあって話が合うらしい。山本くんが私に笑顔を向けてくれるまでは時間がかかったのに、隣になってすぐの凛ちゃんにはもう笑みを浮かべていた。


9月の末に体育祭があった。少女マンガの主人公とヒロインなら、ここで進展があるのだろうが、私と山本くんの間には何もなかった。ただ、山本くんと凛ちゃんはラインを交換したようだ。凛ちゃんのスマートフォンで私と凛ちゃんと山本くんと佐藤で写真を撮ったからだった。


10月、最後の席替えがあるかなと思ったけれど、受験も近いから試験も近いからということで、しないことになった。私としては、山本くんと凛ちゃんがもっと仲良くなってしまう前に離れてほしかったのに。目の前で仲良くなっていく様子をこれ以上見ていたくなくて、私は「模試の判定が悪かった」と言って、昼休みは図書館に行くようになった。

そうやって過ごしていると、思っていた以上に山本くんと話す機会もなくなった。


11月、12月もあっという間に過ぎていく。受験生にはクリスマスにパーティーをしている暇などない。帰り道、駅近くのショッピングモールがLEDで装飾されているのを見て、山本くんとイルミネーションを見ることなんてないんだろうなとふと思ってしまった。


12月いっぱいで授業は終わり、学校で自習をしたい人だけが登校する期間になった。

山本くんに会えることを期待しないで行ってみたが、案の定山本くんはいなかった。おそらく高橋塾へ行っているのだろう。閉校の2時間前まで学校で過去問を解き、予備校で自習をする生活を送った。


2月9日、自分の部屋で勉強をしていた時、ふとカレンダーを見た。今日で山本くんの受験は終わるはずだ。ラインで「お疲れ様」と送ろうか迷ったけれど、やめておいた。私の受験が終わるのは12日。そういえば山本くんを初めて見かけた日だなと思った。物思いにふけりそうになったけれど、気を引き締めてもう一度机に向かった。


2月13日、私はスーパーマーケットに訪れた。それも、初めて山本くんに会った学校近くのスーパーマーケットだ。ミルクチョコを手に取って、そういえば山本くんはビターチョコの方が好きなのかなと思った。わからなかったから両方かごに入れた。ちょうどその時、凛ちゃんからラインがきた。

「陽葵ちゃんって、チョコ甘いのと、苦いのどっちが好き?」

「私は甘いのかな…!」

「了解!明日学校来れる?渡せたらなって思うんだけど…」

「え!嬉しい!午後に行こうかな?」

「じゃあ、15時ごろ教室で会わない?」

「賛成!私も持っていくね!凛ちゃんは甘いチョコ派だったよね?」

「そう!覚えててくれたんだ!じゃあまた明日ね!」

私はミルクチョコをもう一枚かごに入れ、レジに行った。山本くんがいるかもしれないと思って無駄にフロアをうろうろしてけど、やっぱり会うことはできなかった。


凛ちゃんへの友チョコと、山本くんへのぎりぎり義理チョコだと主張できそうな本命チョコを持って教室へ向かう。


「凛ちゃーーー」

声が出なかった。山本くんが凛ちゃんにチョコを渡している。


「山本くん、逆チョコなんてできたんだ」

無駄にはできないよなーなんて自嘲気味に笑いながら、ビターチョコで作ったブラウニーを頬張る。苦い、苦いなあ。涙でうまく画面が見えないけど、凛ちゃんには「ごめん、急に体調が悪くなった」と伝えた。


目を真っ赤に腫らしながら電車に乗るわけにもいかず、とぼとぼ歩いて家へ向かう。


「え!!大丈夫??」疑いもなく心配してくれる凛ちゃん。メッセージを見て自己嫌悪に陥っていると、


「山本くんがお見舞いに行ったよ!」


なんで?どうして?と疑問符ばかり頭に浮かんだが、嘘をついているのがバレてしまわないよう、急いで駅に向かい、ちょうど到着した電車に飛び乗った。


「あ……」

「体調大丈夫?」

「あ、うん……ごめん、体調悪いわけじゃなくて。凛ちゃんと山本くん、いい雰囲気だったからさ。邪魔しちゃいけないかなって」

「いい雰囲気?」

「ほら、逆チョコ渡してたじゃん。凛ちゃんもにこにこしてたし、告白成功したんでしょ?」

「あれは味見してもらってただけ」

「味見?」

「あ……このあと時間ある?」

「う、うん」


私と山本くんは△△駅で降りると、ホームのベンチに座った。予想以上に近くてどぎまぎしてしまう。


「これ、陽葵さんに」

「私に?手作り?」

「うん、お菓子作りは慣れなくて。練習したんだけど、上手くできなかった」

「食べてもいい?」

「どうぞ」

「いただきます……甘い!とろける!美味しい!」

「よかった」

「陽葵さんには美味しいものを食べてほしくて。凛さんには協力してもらったんだ」

「そうだったんだ。ラインつながってるんだし、私に直接渡すよって言ってくれたらよかったのに」

「ごめん。勇気が出なくて、それも凛さんに協力してもらった」

「そっか。凛ちゃんには悪いことしちゃったな」

「僕も一緒に謝るよ」


「ねえ、これって何チョコ?」

「ほ、ほ、本命チョコ」

「顔真っ赤だよ」

「寒いからだよ」

「照れちゃって」

「ありがとう」


「私も山本くんに渡そうと思ってブラウニー作ったんだけど、振られたって思ってさっき食べちゃった」

「振られた?振られたって陽葵さん僕のこと好きなの?」

今度は私が真っ赤になる番だ。

「顔真っ赤だよ」

「さ、寒いから!」

「ふふっ照れてる」

「う、うるさい!」 


3月14日。私はマカロンを手に山本くんに会いに行く。

凛ちゃんに美味しくないって言われた時用に、山本くんはデパートでチョコレートやマカロン、マフィンやマドレーヌを買い込んだようです。陽葵にプレゼントするためだけに登校したのにバックはパンパンだったとか。

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