表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
繊維メーカー異世界転生_織りなす者は世界を繋ぐ ~ブラック工場長、異世界で産業革命を起こして伝説の賢者となる~  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/24

第22章 グローバルスタンダード


産業革命は、必ず「公害」という影を生む。 魔王という巨大な産業廃棄物を処理した私にとって、それは痛いほど分かりきった未来だった。 だからこそ、先手を打つ必要があった。


王都の迎賓館には、各国の代表者が集まっていた。 北の軍事大国、南の海洋国家、そして西の魔法都市。 彼らの目は、我が国が独占している「魔導繊維技術」に釘付けだった。


「アルカス殿、単刀直入に言おう。我が国にも技術供与を願いたい。金なら出す」 「こちらの国では、水車動力を無償で提供していただきたい」


彼らは技術(果実)だけを欲しがっている。 その裏にあるリスク管理(根っこ)には無関心だ。 私は分厚いバインダーを、ドン! とテーブルに叩きつけた。 会場が静まり返る。


「技術供与は可能です。ただし、この『アルカス工業規格(AIS)』に批准し、遵守することが絶対条件です」


「き、規格だと?」


「第一条、排水処理の義務化。工場からの排水は、生物濾過を経て無害化すること。 第二条、労働環境の適正化。児童労働の禁止および、週休二日制の導入。 第三条、品質の均一化。……」


私は数百ページに及ぶ条文を突きつけた。 それは、現代日本のJIS規格と、ISO(国際標準化機構)の基準、そして労働基準法をミックスした、異世界史上最も厳しい「縛り」だった。


「馬鹿な! こんな面倒なことをしていては、利益が出ん!」 「排水処理施設だけで、どれだけのコストがかかると思っているんだ!」


各国の代表が猛反発する。 私は冷ややかな目で彼らを見回した。


「コスト? 高いに決まっているでしょう。ですが、『魔王』が再来するコストに比べれば安いものです」


その言葉に、全員が口をつぐんだ。 あの腐敗の霧の恐怖は、まだ記憶に新しい。


「あなた方が欲しがっているのは、ただの便利な技術ではない。世界を滅ぼしかけた『力』そのものです。それを扱う資格があるのは、その『責任』を負える者だけだ」


私は、魔王を濾過した際に採取した、黒い結晶の小瓶をテーブルに置いた。 微かな瘴気が漏れ出し、代表者たちが青ざめてのけぞる。


「もし、AISに違反し、無秩序な乱開発を行えば……私が直接、工場を『監査』しに行きます。その時は、供給ラインを止めるだけでなく、あなた方の国を経済的に封鎖ブロックしますよ」


これは脅迫ではない。 サプライチェーンを支配する者による、正当なガバナンスだ。 兵站総監としての私の力は、軍事力以上に、各国の経済の首根っこを押さえている。


「……分かった。批准しよう」


渋々ながら、彼らはサインをした。 それは、この世界に初めて「国際法」と「環境倫理」が生まれた瞬間だった。


会議の後、ソフィアが呆れたように私に言った。


「あなたって、本当に魔王よりもタチが悪いわね。世界中の工場長を敵に回したわよ」 「構わないさ。その代わり、世界中の川と、労働者たちを味方につけた」


私はネクタイ(これも新商品だ)を緩めた。 グローバルスタンダード。 それは、誰もが同じルールの上で、公正に競争するための土台だ。 これでようやく、私は安心して眠れる……かもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ