9.「弟子にしてください!」【ざまぁ】
誤解されたままでは、気持ち良くありません。
わたくしはダンジョンの前まで彼を連れて行き、例のカエルの残骸を見せることにしました。
「これを、リリアナ様が……!」
エドワード様は顔面蒼白でした。
彼の前には、半分ほどバーベキューにしたカエル肉が横たわっています。
エドワード様は吐息し、眉間を指で触りながら続けました。
「凄いなんてものじゃないです! これはSSS級モンスターです。三百年間、どのパーティーも討伐できなかった相手ですよ! それをリリアナ様が一瞬で……?」
マズイ気がいたしました。
エドワード様を納得させようと思うあまり、率直に伝え過ぎたでしょうか。
これでは「筋肉お化け」だの「怪力女」だの、不名誉なあだ名をいただき、愛想をつかされてしまうかもしれません!
「あの、これは、その……」
彼は再び吐息し、やや残念な様子で、首を回してわたくしと視線を外します。
それから、視線を戻して真剣な表情。
エドワード様は、わたくしの前で跪かれました。
片手をわたくしの前に差し向け、まるで結婚指輪をくださるようなポーズで──
「リリアナ様。私めを……、私めを、弟子にしてください!」
はい?
丁度そのとき、お仲間の方が馬に乗って現れました。グリゲン様が捕まったのでしょう。
エドワード様はわたくしに向かって言い放ちます。
「リリアナ様。弟子はともかく、護衛は必要です。あなたのスキル『染滅』にも興味があります。訓練の名目で、私は森へ頻繁に参りますので、リリアナ様さえ良ければ、またお会いしましょう!」
エドワード様と密会!
わたくしはニヘラと、だらしなく頬が緩んでしまいました。
「それは願ってもないことです!」
「決まりですね! ではまた明日!」
エドワード様は馬にまたがり、お仲間と一緒に森の奥へ消えていくのでした。
♢ ♢ ♢
グリゲンは緊張で、喉をひゅうひゅうと鳴らしていた。
エドワードは汚物を見るように自分を見てくる。
「貴様はなぜ下着を履いているのだ」
「へっ?」
エドワードは彼のパンツを指差していた。
「下着一枚も、貴様には似つかわしくない!」
こうしてグリゲンは、なけなしの下着をはがれ、素っ裸になった。
エドワードの部下がクスクス笑ってくる。
グリゲンは水浴びしたての子どものように震えた。
「貴様、自分を動物より格下だと言ったな? 聞こえていたぞ。リリアナ嬢に確かにそう言った」
「あれは比喩みたいなもので……」
「なぜ馬に乗っている! 降りろ!」
厳しい言葉が降り注ぐ。
グリゲンはおずおずと下馬した。
(このままでは、殺されてしまうかもしれない)
グリゲンは唾を呑み込み、咄嗟にエドワードから距離を置く。悲鳴を上げて走り去る。岩につまずいて、一度こけて、膝に大きな傷ができ、血がどろりと出た。それでも命からがら森の奥へ逃げていく。
「追いましょうか」
エドワードの部下が訊く。
耳をそばだてていたエドワードは首を横に振った。
「必要ない。夕方はハイエナとオオカイの時間だ。血の臭いがすれば、すぐにでもやってくるだろう」
部下はその意味を理解し、グリゲンに向かって合掌するのだった。
エドワードは来た道を振り返る。
(リリアナ様。あなたに恥をかかせる者を、私は容赦いたしません)
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