8.武術の心得はありません【ざまぁ】
わたくしは困惑しておりました。
グリゲン様はなぜ正座していらっしゃるのでしょう?
「ほんっとうに、申し訳ありませんでしたあ!」
グリゲン様は涙目です。
「リリアナ様、どうかお許しください! 私めは動物以下です。あなた様がこんなにお強い方だとは、まったく存じ上げませんでした!」
あの傲慢で下品だった男が、まるで子犬のように震え声で謝罪を繰り返しております。
はて?
その時でした。
颯爽とした馬蹄の音が響き、一人の騎士が丘の上に現れました。
清潔に整えられた短髪。凛々しい目鼻立ち。
「エドワード様!」
わたくしの心は、暗闇で一条の光を見つけた時のように、温かな安堵で満たされました。
彼の瞳がわたくしを捉えた瞬間、全身の力がふっと抜けて、その場にへたり込んでしまいました。
「リリアナ様!」
エドワード様は馬から飛び降りると、素早くわたくしのもとへ駆け寄ってくださいます。
「エ、エドワード! オレは……ただ陛下の命令で……来ただけで」
エドワード様の禍々しい雰囲気を感じ取ったのか、グリゲン様はたじたじです。
「グリゲン!」
エドワード様の怒声が空気を裂きました。ひっとグリゲン様の肩が跳ねます。
「陛下の命令に、リリアナ嬢をもてあそぶことが含まれていたのか? 恥を知れ!」
エドワード様の部下の方が、グリゲン様の側にいる動物を指差して叫びました。
「オレ、このモンスター知ってますよ! オレのキツネは、こいつにやられて重傷ッス!」
見ると、グリゲン様の近くには、虎のような猫のようなモンスターがいらっしゃるではありませんか。グリゲン様の使役している動物でしょうか?
「ほう」
エドワード様の低い声が、鋭い矢のようにグリゲン様に向かいます。
「リリアナ嬢を蹴り飛ばし、私欲に走って襲おうとし、越権行為に飽き足らず、あまつさえ私の部下を傷つけたというのか」
「ひえっ! もういたしません! もういたしませんー!」
グリゲン様とそのお仲間は、下着姿のまま馬に飛び乗り、逃げるように丘をくだっていきます。
「追え」
エドワード様が部下のお二人に命令をされました。
♢ ♢ ♢
「怖かったですね。もう安心ですよ」
エドワード様はそっと抱きしめてくださいました。
春風のようなお声が、優しくわたくしの心を包み込んでくれます。
「それにしても、リリアナ様は本当にたくましいお方です」
「といいますと?」
「あの獣、オーヴィンはA級指定モンスターです。使役すると強くて頼りがいがあるのですが、敵に回すと厄介だ。リリアナ様には武術の心得があったのですね!」
エドワード様は盛大に誤解をされているようでした。
「いえ、あの……」
「謙遜されませんよう。きっと長時間の死闘を制し、やっとの思いで獣を屈服させ、グリゲンを閉口させたのでしょう。本当にお見事でございます!」
エドワード様はうんうん頷き、拍手をくださいました。
話を聞くと、グリゲン様は強そうなのは見た目だけで、腕っぷしは立たないそうです。相手が怖れをなして目を閉じた瞬間を見計らい、モンスターを召喚していたぶるらしく、今回もそのような計画だったのだろうと。
なるほど、モンスターの謎は解けました。
わたくしはポリポリと頬をかきました。
「違うのです。わたくしは武術はしておりません。『染滅』と叫び、気が付くと一瞬で相手がひるんでしまって……」
※※次ページ 素っ裸注意※※
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