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7.最悪の男がやってきましたわ【ざまぁ】

「今日の作業ですが——」


 わたくしは動物たちを前に笑顔を浮かべました。


「ダンジョン内に居住スペースを作りましょう! 家具がないと不便ですからね。もちろん、みなさんのエサ箱もこしらえますわよ!」


 動物たちは、それぞれに喜んでいます。





 平たい木切れを集めて打ち付け、テーブル、収納箱、エサ箱などを作ります。


 初めての大工仕事は腰に来ましたが、いい感じの木切れをシカさんやリスさんが運んできてくれましたので、作業はスムーズに進みました。


 汗をかくのは新しい楽しみです。


 川水を汲んで花をいけ、テーブルの真ん中に置きますと、





 ぺっかー。


「ご覧くださいまし。無骨な洞窟がキラキラ輝いて見えますわ!」


 わたくしはリニューアルされた洞窟の中をぐるりと見回しました。





 ただ一つ、


「……何か、決定的に足りないものが」


 直感がそう告げていました。


 わたくしが首を傾げると、動物たちも一緒に首を傾げました。


 それを見たウリちゃんが寝転んで目を閉じます。何の合図でしょうか?


 わたくしは手をポンと叩きました。


「そうです! ベッドがありません!」


 この森には一つ特徴があります。


 イノシシ、シカ、リスなど、毛の短い動物はいますが、そうでない動物は暮らしていません。


「お布団には枯草を詰めるしかありませんわ……」


 実際に暮らしてみて、初めてわかることは多いですわね。


 わたくしは丘で枯草を集めながら、遠くの城壁を見つめました。西の方角にある王国です。


(確か名前は、ルーバリア。大きな都だと聞いたことがありますわ。足りないものを買いにいきたいですわね……)


「って、お金がありません!」


 わたくしは頭をいて叫びました。


(次の課題は金貨ですか……)



 ♢ ♢ ♢



 ガサガサッ!


 わたくしがぼうっと城壁の方を眺めておりますと、背後のくさむらがざわめき始めました。


 振り返ると、五頭の立派な軍馬が姿を現したのです。


 馬にまたがっているのは、いかにも兵士(ぜん)とした格好の男たち。先頭の男は特に重厚なよろいに身を包んでおりました。


「あ、あなたはグリゲン様!」


 衛兵の中で、それなりに位の高い人です。


「リリアナ! ……ついに見つけたぞ!」


 わたくしの心臓が、嫌な予感とともにドクンと跳ね上がりました。


 追放の日、わたくしの尻と背中を、まるで家畜をなぶるかのように喜んで蹴り上げ、何のちゅうちょもなく水をあびせてきたのは、まさにこの男でした。


 わたくしは反射的に胸を両手で隠しました。


「どうして……どうしてここが分かったのですか!」


「さーて、どうしてだろうな」


 グリゲン様は下卑げびた表情を浮かべながら、ゆっくりと馬から降りてまいります。彼の瞳が細くなりました。


 わたくしの身体をめるように見回します。特に胸元のはだけた部分に視線を這わせ、ねっとりと舌なめずりをしているようでした。


「や、やめてください……」


 わたくしは後退あとずさりいたしました。けれども、背後には切り立った崖が口を開けております。


「いいじゃねえか。これからお前は、この俺に八つ裂きにされて死ぬんだ。何をされたって文句ねえだろう」


 なんてことでしょう。


 陛下はわたくしを殺すため、城内でも最悪のうわさを持つ男を送り付けてきたのです。


 グリゲン様は両手をわたくしの上半身に向けて、ゆっくりと伸ばしてまいります。その指は汚れ、爪の間には黒いあかが詰まっておりました。


「イッヒッヒ! お楽しみタイムだぜえ! 豊満な美女、たまんねえ!」


「いや! やめてください!」


「抵抗すんじゃねぇ! 赤いも青いも分からない色盲女が!」



 ♢ ♢ ♢



「見失うな! 追え!」


 早馬に乗り、颯爽さっそうと森を駆けるのは、一人の青年。


 肩掛けの赤いマントをし、銀と金のよろいで身を固め、腰に大振りの剣をさげる。


 彼の横顔を、木々の緑と赤が、早回し映像のように流れていた。


 すいの瞳の向かう先は、今しがたグリゲンが上った丘。


 軍の最高指揮官の一人エドワード・ミルトンは、部下の二人と、リリアナ嬢を追って森へ入っていた。


 グリゲンが暗殺の銘を受けたと聞いたからだ。グリゲンは虎型モンスター、A級のオーヴィンを使役する。女癖も悪い。


 エドワードは居ても立ってもいられなかった。


 奴を追えば、リリアナ嬢の場所が分かる。そう思う気持ちもあった。


 部下の一人が、


「グリゲン様といえば、リリアナ嬢の尻を蹴った人ッスよね」


 軽い気持ちで、嬉々とした顔で話す。


 世間話のつもりだった。


 エドワードの表情が険しくなった。


「グリゲンめ! 許さぬ!」


 吐き捨てるように叫ぶと、馬の速度を上げる。


 丘の頂上が見えてきた。


 金髪の女性と、男たちの姿がある。


 エドワードの顔が明らんだ。


「リリアナ様! 今お助けいたしま……」





「ほんっとうに、申し訳ありませんでしたあ!」





 腹の底から声を絞り出し、パンツ一丁で正座をさせられていたのは、


 なんとグリゲンであった。


 エドワードは目を点にして、首を傾げた。

お読みくださりありがとうございます。

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率直な気持ちで構いません。

何卒よろしくお願いいたします。

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